俺らは多兄弟!

春之介

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1.日常生活

次男が見た異変

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「あーあ、やんなっちまうね、本当」
自分を照らす太陽に目を細めながら睨みつけた。

辺りを見回しながら、どこかパトロールをしている風だった。
浮「速敬兄貴!悪いやつはいましたかっ」
周りをパタパタと走り回る浮羽、その中心を平然と歩く兄、速敬。
速敬「こら、俺の周りを走り回るんじゃない…」
思わずチラチラと視界に入ってくる弟の姿に、メガネのブリッジを押し上げながら指摘をする。
浮「兄貴…かっけえっ、さすが風紀委員!」
きゃいきゃいと犬みたく騒ぎ立てる。
今にも耳と尻尾が見えそうな勢いだった。
速敬「……」
苦笑いをしていたものの、ふと視線にフラついていた長男、威一郎の姿を見つけた。
不機嫌そうに歩いていたのが遠くからでもわかった。一点を見ていたせいか、浮羽に声をかけられ思わずそっちを向いた。
浮「どうかしたのか…?」
キョトンと首を横に傾ける様子は、速敬が見ていたものがわからなかったようで。
速敬「いや、今威一郎の姿が見えたんだ」
見えた方を指差して教える、が既に姿はなかった。なんというか、実体を見ているような気がしなかったのも確かだった。
浮「威一郎兄さんか?」
尊敬する兄の言う先を見つめるも、名前が挙げられた人物の姿はなかった。
はて、とこてりと首を傾けると浮羽は「見間違え…だったのだろうか?」と呟いた。
速敬「…いや、見間違えなんかじゃない。悪い解散だ、見回りは終わりだ」
いつもの癖なのか、眼鏡のブリッジを押し上げると弟を置いて威一郎を見かけた方面へと走って行った。
浮羽「ちょ、兄貴っ、町内巡回は…って…速…っ…」
置いていかれ、追いかける間もなく既に尊敬する兄の姿も消え、ぽかんと口を開けた浮羽が残された。

雲ひとつない空、ジリジリと照りつける太陽はキチンとした服装の速敬にとっては天敵もいいところだった。
ハァハァとすぐに息が切れ、額に汗が滲む。
(普段と…様子が違った、気がする…確信はないが心配だ…)
口には出さないものの、心配な気持ちは大いにあった。数分くらい走り回ったが一向に兄の姿は見えない、追いかけるのが遅すぎたかと後悔する。
しばらく走っていると、視界に正臆と速人の姿が目に飛び込んできた。
速人「あ、速敬兄さんどうかしたの」
すぐに気がついたのは七男の速人だった。
こちらに来ていれば二人に会っているはずだろうと足を止め、二人へ歩み寄る。
正「速敬じゃん、どうかした?」
汗を掻きながら走っていた相手にそう聞くなという方が無理があった。
速敬「兄さんを見かけなかったか」
二人は顔を見合わせると、眉を寄せる。
先に正臆が口を開いた。
正「いや、さっきね。速人の秘蔵コレクションをあいつブチまけたんだよ。その後片付けに二階に上がったからどうしたか知らないけど、出かけたみたいだよね」
三男はそこまでしか知らなかったようだった。
速敬「…そうか、見かけたら連絡頼む」
きっと二人と気に入らないやり取りがあって、先に見かけた威一郎はどこか裏道から抜けて行ったのだと察した。
兄弟だから、と言うわけではないが、似たような思考はしているみたいでたまに合致する時がある。
もしそうだとしたら、小学の頃よく遊びに行っていた小さな山がある広地にいるだろう、と思った。
(少しくらい同じ歳の俺らに言えよ…)
幼き頃の思い出の場所へと足を進めた。

小さな山のある広地に着くと、見たことのある背中が頂点へと腰をかけ空を見上げていた。
弟に何かあれば長男が、長男に何かあれば次男が、多兄弟だとこうなるのも仕方ないと感じるがこれでうまく回っているのも確かだ。厄介な役回りに立たされた、と速敬は心底思っていた。
速敬「何しているんだ、こんなところで。もうそこでそうしているほど子供じゃないだろう、俺たちは」
緩やかな上り坂を登り兄の元へと寄る。
威「…あ、速敬か。なになに日光浴でもしに来た?珍しいじゃん。パトロールはどうしたんだよ、風紀委員マン」
芝へと手をつき、振り返ることはせず上体を後ろに傾けると速敬の顔を見上げて笑う。
速敬「お前はストレスの発散方法が下手くそだな」
ぽつりとつぶやき、芝生に座り込む。
威「いやー、最近……」
次男の発した言葉に返そうとするも、普段らしからぬ様子で口ごもった。
何やらとても言いづらそうな顔をする。
速敬「…どうした?」
一人考え込み始めていたのか、ハッとした表情をしては「なんでもね~のよ」と口から発した。
威「まぁ、なんだ…最近なぁ…オレの好きなエロ本がないんだわ」
公の場で話すべき内容がどうなのか、微妙な話を振り出す。
凛々しい次男の眉が悩みを聞いた直後にすぐひん曲がった。
速敬「本当にそれか」
あまりのくだらなさから、本心なのかと疑う視線と共に率直に聞かれる。長男はわっかんねぇかな~…と言わんばかりの顔をして頭を掻く。その後にポツリと言葉が聞こえた。
威「最近、周りのリア充腹立つんだわ…爆発しろ…」
速敬「よし、俺は戻るぞ、威一郎」
ポツリといった言葉を聞くと、すくっと立ち上がり相手を見下ろす。
ふん、と鼻をひと鳴らしすると「言うことはないか」と眼を細める。
威「ごめんごめん、感謝してんよ、にーちゃん」
速敬「兄はどっちだ、まったく…」
緩やかな坂を下りるときに、少し躓きながら速敬は降りていった。

速敬「いつまでも一番上は威一郎だろうが」

走り回ったためもあり、疲労した体を休めるべく、速敬はそのまま家に足を進める。
何かしら幾つか思い浮かぶ節はあったとしても、本人が話す気がなければ聞かない。いつもそうしてきたからもあり、今回もそのつもりだったからもあり、すぐに引き返した。
とはいえ、くだらない発言をしたあの悩みも、兄の本心なようなものでなんとも言えなかった。

最近、なんだか俺の頭が冴えているみたいだ。
冴えているといえば、兄の察し、まるで見透かしているようなその様は、以前にも増して更に確信できるほど見透かされている気がした。
内心を読まれているような…。
「…そういえば、以前、強盗をするかもしれない奴がいるから見張ってろって言われたな」
思わず速敬が口にする時には、家にあと数十歩という距離で足が止まった。
「……たまたま、だな」
首を横に振ると玄関へと足を進め、鍵を開け家の中へと入っていった。

次男が立ち去り時間が数時間過ぎただろうか。
陽は傾き、オレンジ色の空が広がっていた。
「…あ、もうこんな時間か」
タッチパネル式の携帯に電源を入れると、画面上に映し出された時間を見て小さくボヤく。やっと、随分とここに居座っていたなと感じた。
ポリポリと頭を掻けば「弟たちが心配すっかなー」や、「多い兄弟は大変だわー、オレいないと寂しそうだかんな」大きく欠伸をすると芝から立ち上がり、丘から降りて行った。
「かーっ、夕方は冷えんなぁ」
その足取りはペタペタと、地面から離れるのは遅かった。
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