好き、しよ!

狭雲月

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2.彼女がオレに惚れた(?)理由。

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 兵梨のことは、噂では知っていた。
 誰とでもエッチなことするビッチ……それが彼女の評判だった。

 初めての接触は、廊下ですれ違った時。
 小さい背、ゆるいパーマがかかった、色素の薄いいい匂いのする長い髪。
 まつ毛が長くて、大きくてくりっとした茶色い目に、高校生にしてはバッチリとされた化粧。
 化粧しているからじゃなく、首元も布地からはみ出る肌の色は真っ白でほのかにピンク色。
 校則をはるかに破る短い制服のスカートから、すらりと伸びた足。
 色素薄めなハーフっぽい。そこら辺のアイドルよりも可愛くてスタイルもよく、理一と並んでも遜色ない高レベル女子。

 かわいい子だなぁ。
 ま、あんなカースト上位女子、オレには関係ないだろうけど……。

 それが第一印象。
 でもオレも男なのでつい目で追っていたら、他のクラスの奴に「アイツはやめとけよ」と言われた。
 いわゆる誰にでもさせる子だって有名らしい。

 信じられなかった。
 見た目そんないかにも軽いギャルって感じではない。
 むしろ守ってあげたい妹女子系にしか見えない。

 噂とは、いい加減で、曖昧で。
 ……まぁ、時折真実も混ざってるけど。
 そんなことは理一を友人に持った時に、よくわかっている。

 兵梨のクラスとは離れたていたので、それきりだったが、ある日の買い物帰り。
 理一に「一緒にナンパしにいこうぜ」と誘われた。が、しかし。ナンパしてもお邪魔なのはオレになるわけで……適当に振り切り、いつもは通らない裏通りに入った。
 そこはうらぶれたラブホとかが、ぽつぽつとある場所で。
 こんな縁のない場所では、小心者のオレは何だか悪いことをしている気になる。通り心地も悪くて足早に通り過ぎようとしてたら、突然言い争う声が聞こえてきた。
 女の子と、複数の男の声。
 どうやら男数人で、無理やりラブホに女の子を連れ込もうとしていた感じで。
 オレは反射的に、「やばい」と思って、見て見ぬふりをしようと思った。
 だって普通そうだろう? ここでマンガのように実は俺が格闘系の段位もちでしたとかだったら……颯爽と助けられるんだろうけど。
 現実は非力な一般市民。
 女の子を数人で無理やり、ラブホに連れ込もうとするヤバイ世紀末な奴らなんか、相手にできるはずもない。
 一度、通り過ぎようとして…………。
 ここできっと通り過ぎたらオレ無事ですむだろう、けど心のどっかで引っかかるだろう。見て見ぬふりなんてできないというジレンマで足が止まる。

 オレは仕方なく、女の子を助けることにした。
 国家権力に頼って。

 携帯って、便利だな。
 携帯を振りかざして、「警察に電話しました!」と大声で叫んだら……本物さんではなかったのか。
 「ヤベェ」とかいう小物っぽい捨て台詞を吐いて、男たちは女の子を離して、蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。男たちが完全に視界から消えたことで、やっとオレの緊張の糸が切れ、放置され道路にへたり込む女の子を見る。その顔を見て驚いた。

兵梨ひょうり……さん?」
「……滝口たきぐちくん?」
「え、あ? なんでオレの名前!?」

 いや、問題はそこじゃない。
 でも知り合いでもなんでもない彼女が、オレの名前を知っているのかということに、またまた驚いた。

 
滝口漣たきぐち・れんくんでしょ?理一くんとよく一緒いるよね?」
「あ、うん」

 淡い期待は、あっさりと裏切られた。
 まぁ、そうだよな、それが普通の反応だよな。
 やっぱり理一関係か。
 少し期待してしまっただけに、オレはがっくりと来た。

「あ、それにしても本当にありがとう」
「ん、あ、別に……オレ何にもしてないし。そうだ、警察!本当に行かなくていいのか?」
「ううん、いいの、あの人達元カレだから」

「へ、元彼……?」

 少なくとも四人は、いたよな? と言いかけて、あの噂がよぎってやめた。
 いや、人をうわさで判断するのはよくない。

「久しぶりに、したいって言われて来たら、四人でいるんだもん。
 3Pならともかく、無理だって言ったのに無理やりホテルに行きそうになったから助かったよー」
「…………」

 三人ならいいのか。

 オレの常識の範囲外のセリフに、一瞬思考が止まった。
 やっぱり、兵梨って。と深く考えるのは怖かったんで、関わり合いになる前にオレの理性は『逃げる』事を選択する。

「じゃ、じゃあ……オレはこれで!」
「ま、待って。滝口君」
「きょ、今日の事なら、誰にも言わないから! じゃ!」
「ち、違うの……その、服破られちゃって」
「!」
「さすがに私もこの格好で帰れないから、服貸してもらえないかなぁ?」

 「この格好」につい反応してオレは視線を向けてしまいそうになるが、あわててそらした。

「え、あ……じゃあとりあえずオレのうわぎ貸すから、うち来る? ちゃんと服かすから」
「いいの?」
「まぁ、仕方ないだろ」
「ありがとう!」

 そう笑う兵梨は、さっきまでホテルに連れ込まれそうになっていた事は忘れたのか……すごい可愛かった。



 ……下心的な意味ではなく。幸いにも、家には誰もいなかった。

 何にしてもこの状況、説明するにはめんどくさすぎる。
 いつもならこの時間いるはずの母さんは、買い物かきっと奥様友達連中の誰かの家に遊びに行ってるんだろう。
 兵梨をオレの部屋に入れると、オレはクローゼットの中を適当に物色する。

「もうテキトーにジャージでいいか?」
「うん、お礼しなきゃね」
「いや、別にいいよ、これくら……」

 ちょうどよさそうな洗濯済みのジャージを引きずり出し、兵梨に振り返ると……。
 そこには上を脱ぎ、ブラのみ。下はスカートという兵梨の姿が見えた。

「ちょ! 脱ぐの早い!
 オレでで出ていくから、そ、それから着替えろよっ!」

 初めてまじかで見る、同年代の女の子の下着姿に、どもるオレかっこ悪い。
 すぐにまたクローゼットのほうに向きなおるが、一瞬で、目に焼き付く。
 白い肌に……薄いピンクのレースで黒のフリルが付いたブラ。
 胸は大きくもなく小さくもなく……ちょうど揉み心地のよさそうな肉が、下着で隠され切れていない。

「違うよ、お礼だよ?」
「え?」

 からかうように、笑うように兵梨はそう言う。
 あわてて後ろを向いたオレの背中越しにあたるのは、柔らかい感触。
 もしかして、もしかしなくてもこの感触はおっぱ……。

 

「この下着、お気に入りなんだぁ~どう?」
「どう……って」
 瞬間的に血が沸騰するような……。
 ためらいなく兵梨はオレに後ろから抱きつき、手をズボンのチャックに……。

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
 オレは勃ちあがりかけた自身に喝を入れると、前かがみになって耐える。
「ちょ、兵梨っ……冗談きついよ」
「冗談じゃないよ、しよ?」
「なんでそうなるんだよっ……!」
「だって、私これぐらいしかお礼できないよ? 大丈夫、みんな気持ちいいねってほめてくれるよ?」

 確かに、慣れてるみたいで。
 力を入れられず抵抗するオレの体を、まさぐっていく兵梨の手は、よどみなくオレの熱をあおっていく。

「滝口くんも、知ってるんでしょ? 私のウワサ」
「そ、そりゃあ知ってるけど。こんなの違うだろっ!」
「私、誰とでもするんじゃないよ、いいなって思う男の子としかしないよ?」
「え……?」

 兵梨が選ぶ相手には、兵梨なりの流儀があるようだ。
 まぁその「」の範囲が普通の人よりも「」だけであって。ある意味一途なのだろう。
 と、言うことは。
 オレはかっと血が上る。
 オレの事、少しは……イイって思ってくれてることで。
 生まれてから今までに女子にそんなこと言われたことがない……しかもこんな美少女に……なオレは衝動的になりそうな気持ちをぐっとこらえて、言う。

「ちょっといいな?と思ったぐらいでオレはできねーよ」

 兵梨の腕の中で、ぐるりと回ると、向き合う形になり。肩をつかんで体を引き離す。
 瞳をそらさず、まるで動物に言い聞かせるようにオレは兵梨に言った。

「ほかの奴とはしたくなくなるほど……一番いいな、って思う男としろ」

 目をそらしたら、ダメだと思った。
 理屈じゃなく本能で。
 大きな目を瞬きの音が聞こえそうなほどぱちくりとさせて、呆気に取られた顔をした兵梨に見つめられる。
 相手が下着姿だとか関係なく、人と見つめあうのは勇気がいる。
 思考が違う相手に、通じるとは思わないけど。
 本気だった。

「……うん、わかった」
 兵梨は意外にも素直に、こくりと頷いた。
 わかってくれたか……と、ほっとした瞬間。

「じゃあ、滝口くん、しよ?」
「はぁ?!」

 だぁぁぁぁぁ!!!
 わかってないっ、わかってない!!!
 何がどうなって「じゃあ」なのか、お前の思考回路はどうなってんだ!

 オレは兵梨を引きはがそうとする。
 それを無視して、向こうは抱き着こうと手を伸ばしてくる。
 そのしぐさが、胸を寄せた感じになってオレはうろたえた。

 マンガやグラビアで見るポーズが至近距離で現実に……いや、深く考えたらだめだ。
 こいつの思うつぼだ。

「ゆうあ、滝口くんの事、ずどんって胸にきちゃった!……こんなの初めてだょ」
 そう言う兵梨の声はさっきよりも甘える口調で、ってしかも自分の事名前で呼び出したよこの

「兵梨……」
「ゆうあ、って呼んで?」

 オレは深く深く息を吸い込んでから、こう言った。

「もう、お前ジャージ貸すから帰れ」

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