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4.風雲急な心模様とその信頼に応える覚悟
しおりを挟むそんなこんなで、軽い女から一転。
オレに一途になった兵梨。
そしてその相手のオレが、冴えない草食男子で、しかも人目もはばからない猛烈なエロアタックを、必死というか情けない程かわしている……うちに周囲の偏見は緩やかになり。
最終的には、生暖かい目でバカップルを見るような、そんな雰囲気になってきた。
オレとしては更正させている保護司のような心境なんで、「カップル」とは不本意だが。兵梨にとってはいい傾向な気がする。
それにこんな茶番が長く続く訳もない。
兵梨がオレに飽きれば噂も消えるだろう。
……オレには誤解されて困るやつもいないし、それまでは仕方ない。
「あー嫁さんやばくね?」
廊下を歩いていたら他クラスの、顔と名前が一致しないレベルのやつから、いきなり声をかけられた。最近こんな事がよくあるし、いつものオレなら「嫁って何だよ」とつっかかるけど。それよりも「ヤバイ」と言う単語の方が気にかかる。
「んーなんか、D組の田丸とさ、体育館倉庫のほう歩いて行ったから。一応旦那に報告……」
オレは嫌な予感がして、そいつの言葉を最後まで聞かないうちに走り出していた。田丸ってよくオレに兵梨の事でつっかかってきたやつだったからだ。
「前と同じで、楽しくやろうっていってんだろ!」
「やっ!」
「オレの一番おっきくて凄いイイっていってたじゃん。滝口程度の男なんて満足できねーだろ」
「やだってば!もう私は漣くんだけだもん……きゃ! やだぁやめてよそんなの押し付けないで!」
「うれしいくせに、何言ってんだ」
なけなしの体力をふりしぼって、その場所につくと、案の定。言い争う二人の声が聞こえてくる。
「テメーはっ……時代劇の、悪代官かよっ……」
オレがそう言うと、二人が振り返る。
しかし、オレの息は整ってなくて、カッコ悪い登場の仕方だった。
「オレの下半身事情なんか、お前に心配してもらいたくねーわ。兵梨をはなせよ!」
「漣くんっ!」
田丸に壁際に追いやられて、スカートをめくりあげられ。
いわゆる股ドンという体勢。
立ちながら犯されそうになっているという状態にもかかわらず……兵梨はオレの顔を見るなり笑顔になった。
絶対的なオレへの信頼。
「滝口、何だよ。コイツはこうやってつかうバカ女なんだよ」
「つかうって何だよ、今も昔もそんな女じゃねーよ!」
オレは田丸の肩を掴んだ。
オレよりも背も高くガタイのいい奴だろうと、ひるまずに睨み付ける。
そうやって反抗してくるとは思ってもいなかったのか、田丸はひるんだ顔を見せた。
兵梨と長い間一緒にいて、分かったことがある。
それは……。
彼女は本当に相手が喜んでくれると思って、エロいことを仕掛けてくるってことだ。
オレには「それ」が通用しなくて戸惑っていたようだが。
「兵梨はな、好きな奴から求められたいから、好きだからエロいこと喜んでやってるんだよ。お前も好かれてたんだから、分かってるだろ! そんな事いうなっ」
馬鹿…を言い換えれば純粋。
好かれたいから。
喜んでほしいから。
それで何故エロ方面なのかは……きっと歴代の彼氏達は肉食系男子。エロを喜ぶ奴が大半だったんだろう。
オレも……あんなことがなければ。もしかしたらぐらりと来て流されていたかもしれない。
一瞬、過去のトラウマを思い出しかけて、田丸の肩に置いた手の力が緩む。
「何、カッコつけてんだよ、腑抜けが」
「!!」
油断した。
オレはあっさりと殴られて、地面にしりもちをつく。
口の中に広がる鉄の味。
「コイツはな、ただの淫乱なんだよ、ほら何人の男咥えこんできたんだよ、言ってみろよ。こんな奴と本気で付き合ってた男なんかいるか、ただ体の上を通り過ぎるだけの関係だろ」
「……っ、漣くんっ……!」
ぐらぐらと揺れる視界の中で、兵梨が泣いてるのが見えた。
ああ、そんな顔するなよ。
「コイツなんてすぐやらせてくれるぐらいしか価値ねーよ。お前だってヤッてんだろ? こんな女と本気で付き合うなら、お前もそういうプレイが好きってか?その レベルの男って見られるぞ」
ぱしん。
「れ、漣くんの事、悪く言わないでっ。た、田丸君なんか、大嫌いっ!!」
「! この女っ……!」
自分の事は何を言われても怒らなかったのに、兵梨は田丸を平手で叩いた。
田丸が激高して、兵梨に殴りかかろうとする腕をオレは抱きつくように止める。
強い力で振り切られて、オレはまた、壁に叩きつけられた。
ごんっと強く頭を打つ、鈍い音が響き渡る。
「れ、漣くんっ……!!」
「お、俺が悪いんじゃないんだからなっ!!」
「漣くんっ、大丈夫!?漣くんっ……」
ああ、オレかっこわりぃわ。
悪い、兵梨。
偉そうな事言ってて、何も出来ないよ。
薄れゆく意識の中、オレは兵梨が無事なのか……それだけ考えていた。
何だか気持ち悪い……あれ?
何だかあったかい……気持ちいい?
オレは無意識に、暖かくて、柔らかくて……気持ちいいモノに縋り付く。
それはいい香りがする……どこかで嗅いだよう、な?
――あれ、何でオレ寝てるんだ?
目開けて急速に現実に引き戻されると、その気持ちいい感覚は急に霧が晴れたように消えていった。
視界に写ったのは……見慣れない白い天井。
ここは?
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