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5.大馬鹿者は誰だ、我がままに振り回してしまうのは
しおりを挟む「お前アホだろ……」
「理一?」
焦点が定まって、声を掛けてきたのは、寝ていたベッドの横の椅子に座っていた理一。
「頭四針縫ったけど、脳の方には異常はないってさ。頑丈に生んでくれたお母様に感謝しろよ?」
「兵梨はっ!? 無事なのか!?」
「……だから、お前アホだろ」
いつものチャラさはどこに行ったのか。
理一は自分の容態よりも、兵梨を心配するオレに真面目に呆れていた。
「結亜ちゃんは無事だよ。倒れたお前見て田丸はヤバイと思って逃げたらしい。その後で俺の携帯にかけてきて、俺ん家に連れて来たってわけ」
お前が検査してるうちに、タクシーで自宅に送り届けてきた。
そう説明する理一を見て、そうかここは理一ん家の病院かと、兵梨が無事だとわかるとだんだんと頭がはっきりして来る。
でも「無事」の一言だけでは、やっぱり心配だったオレは理一に尋ねた。
「で、兵梨はどんな感じだった?」
「……あのさ、俺が言えることじゃないけど。お前の面倒見のいいところは俺もよく知ってるし、"そこ"がお前のいいところだってわかってる」
「なんだよいきなり」
「でも、本気じゃないなら。これ以上彼女に関わらないほうがいい」
「なんでだよ!?オレがほっといたら兵梨は……」
「あのさ、お前が本気なら、死にかけようが俺は止めないさ。お前がやってる事は、野良猫にただ餌やってんのとかわらないから言ってんだ」
――――おいしいところだけ持っていって、肝心の飼い主にはならない狡い行為。
これからもああいうことは起こるだろう。
そこまでして兵梨を庇って……オレと兵梨の関係は?と言っても……何だろう。
そんなあやふやな関係を続けるのは、今回の件で理一は「はっきりしろ無責任だ」と言いたいようだ。
女の子を取っ替え引っ替えしている理一のほうが「無責任」じゃないかと、普通の人間なら思うだろう。
でも理一をよく知るとそうじゃない。
理一は始めから線引きをしていて、そこを踏み越えるのを絶対に許さない。割り切っているからぶれることが無い。
中途半端に手を出して、相手に期待させる事は一切しない。
理一がオレに親切なのは、オレに「親友」というラインまで許してくれているからだった。
そんな理一だからこそ……先伸ばしにしていた現実を、オレに突き付ける。
「兵梨はオレに……本気じゃないよ」
「お前は、まだそんなこと言うのかな」
「ただ。誘惑が効かないから、その興味を恋に履き違えてるだけだ」
「本気で言ってんのか?」
いつになく真剣で、少し怖い声に、オレは理一の目が見れない。下を向く。
やっとのことで顔をあげた時、理一は意地の悪い笑顔でこう言った。
「だったら、結亜ちゃんの事オレが試してやるよ」
試してやるよとは、一体なんなんだ。
いきなりの言葉に、頭が上手く反応できずにいると。理一は携帯を取り出すとメールを打ち出す……。
その姿に違和感を感じると、理一がメールを打ち終わった頃に気づく。
違和感の正体。
――それはオレの携帯だ!!
奪い返そうとすると、あっさりと渡された。慌てて何をしたのか確かめると、明日の朝早い時間に学校のあまり人気のない資料室に、兵梨を呼び出すメールが送られていたのだった……オレの名前で。
今のは理一が打ったメールだと、訂正の電話をかけようとすると、「病院内での携帯電話の使用はおひかえください~」と理一はいつもの調子でからかうようにひょいっと携帯をうばう。
そして「結亜ちゃんの気持ち、知りたかったら来いよ」と言って病室から出ていった。
オレは急いでベッドから飛び起きると、急に起きたせいで少しめまいでふらつく。
理一を追い掛けたが、もたもたしていたせいですでに廊下には誰もいない。ここは理一のホームで今更探したって無駄だろう。
「……あいつは、一体何がしたいんだ」
携帯がなければ兵梨の連絡先は知らずなにもできなくて。
番号を思い出そうと記憶を呼び起こそうとしても、全く思い出せない、役立たずの記憶力。こういう時、文明の利器に頼りっぱなしなオレに嫌気がさす。
オレはその後。理一からオレが階段から落ちたと、連絡を受けたと言って迎えにきた母さんに、こってりと絞られた。
母さんに本当の事は言わずに、ごまかしてくれた事には感謝だ、けど。
次の日の朝。
理一が兵梨に何をしでかすのか心配で、メールで読んだ約束の時間より少し早くその場所に行ってみる事にした。
人気が全くない、廊下の先にある資料室。
しんとしたその場所にあるからこそ、ドアの前に立つとはっきりと漏れ聞こえてくる二人の声。
「本当に……漣くんがそんなこと言った、の?」
オレが何を言ったって言うんだよ。
兵梨のショックを受けたような声に、それが何か確かめようとして、ノブに手をかけかけたオレに聞こえてきたのは。
「あぁ。アイツ俺に結亜ちゃんとヤっていいって言ったんだ」
オレは急にドアを開けたくない気持ちに襲われる。
既視感……。
二人の話す声だけが、頭に響く。
「嘘っ!……漣くんが……そんな、ことっ」
「でも漣からメールきただろ?」
「きた……けど……」
「俺とヤった後なら、結亜ちゃんとヤル事考えてもいいって言ってたぜ? 漣。俺の言うこと何でも聞いてくれる親友だからさ」
――――なんだそれ。
それを聞いたオレはその場に怒鳴り込んで、理一を殴ってもよかった。それほどの……冗談でも笑えないセリフだった。
そうしてもよかったはずなのに、足が吸い付いたように床から離れないし、ノブもまわせない。
理一が兵梨と……そう考えただけで、オレの何もかもが止まった。
「昨日の入院代かなりかかったんだよ? 知ってる? 頭の検査ってびっくりするほど高いんだ。それ俺がたてかえたし。原因って結亜ちゃんだよね?」
「……私、が払うからっ」
「高校生のお小遣で簡単に払えると思ってる? 俺みたいに金持ちならともかく」
「……ごめんなさ……い。私が絶対お金貯めて払うから」
「漣も無事だったけどさ、流石に結亜ちゃんの事怒ってたよ」
理一の声は冷たい。
オレにはそんな喋り方しないけど、線引きの外にいる人間には容赦なく使う声だ。
「俺、気が短いんだけど。さっさと決めてくれる?」
嫌だ嫌だ
イヤダ
「うん、わかっ……た」
かなりの時間が経って兵梨は決心したようにこう言った。
オレは声を失ったように、口を開けたまま。
酸素がうまく吸えない。
のども嫌に乾いている。
「あの時」と同じようにいや「あの時」よりも酷くショックを受けた。
ショックを受けるのは……何故だ。
きっと断ると思ったからで。
断ると思ったのは何故だ。
嫌だと思うのは……。
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