背中合わせの

狭雲月

文字の大きさ
1 / 8

リエル編 1

しおりを挟む
 

 本当は今すぐにでも死んでしまいたい。
 でも死ねないのは……。

 今日も悪夢の続きなのか。
 朝が来て、服の下に隠していた痣が消えても、あの出来事が夢でないことを自分の心が伝えている。
 ……他の使用人たちに混じっての朝食。
 それを無理やりかけこむけれど。
 その後こみ上げるものがきて、吐いてしまうのは……生々しいからだろう。
 辛い。
 何で私はこんなに汚らしいのだろう。
 そう思っても生きているのは……。

「リエル? 体調が悪いのかい?」
「いいえ、最近少し暑くなってきましたから寝不足なだけです」

 久しぶりに屋敷にお帰りになったエンデ様に私は笑顔で答えた。
 相変わらず、お優しい。
 体調が悪い事を見破られて、リエルは無理に元気だと装うが、お見通しのようだった。

 エンデ様は名門貴族ファンボルト家の三男で、リエルはその専属メイドだ。
 リエルの父親はこのお屋敷の上級使用人だったから、メイドではなくもっといい待遇の仕事は沢山あったが。
 リエルがメイドになったのは、このエンデ様が初恋で……大切な人だったからだ。
 身分違いの恋。
 この恋が叶わなくても、誰よりも側にいたいと望んだ結果で。
 その愚かな願いの所為で、リエルは罰が下ったのだ。

 だからエンデ様のライバルとも言える男に、この身を汚されてしまったのだ。

 リエルは父親の事もあってか他の使用人たちとは別格のように、エンデ様に取り立てられていた。
 大事にされていた。それが使用人としてであっても嬉しくて。
 それが悪意を持った他の人間には、どう映るかなんて知らなかった。

 数ヶ月前に、屋敷の大旦那様が開いた夜会。
 エンデ様は商用で別の領地へと赴いていた。
 エンデ様付きのメイドといえど、屋敷の使用人が総動員してお客様をお迎えする。
 その時に、エンデ様と仲がいいといって近づいてきた一人の紳士。
 その男が、実はエンデ様に悪意を持っていて。
 一介の使用人以上の対応をされているリエルとは、使用人以上の関係だと下種な勘繰りをしたのだ。

「自分の愛人が俺なんかに穢されたと知ったら、アイツ悔しがるだろうなぁ」

 そう、下卑た声が呪いのように耳に残っている。
 庭園の暗がりで組み敷かれながら「違う」と抵抗したが男は聞く耳を持たず。
 リエルの花を容赦なく散らした。
 しかも、初めてだと知り、この身を以て「愛人ではない」と証明されたにも関わらず。男は恥知らずにも何度も何度もリエルを犯した。
 リエルはただ暴力行為が過ぎ去るのを、待つだけしか出来なくて。
 やっと満足した男に解放され、部屋に帰る頃にはもう涙も枯れ果てていた。
 

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

大丈夫のその先は…

水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。 新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。 バレないように、バレないように。 「大丈夫だよ」 すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

屋上の合鍵

守 秀斗
恋愛
夫と家庭内離婚状態の進藤理央。二十五才。ある日、満たされない肉体を職場のビルの地下倉庫で慰めていると、それを同僚の鈴木哲也に見られてしまうのだが……。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...