親愛なる女王陛下へ

狭雲月

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親愛なる女王陛下へ

幼い頃から貴女の事を知っておりますが
手紙を書くのはこれが初めてですね。
そしてご存じのとおり、私は明日処刑される身
これが最後の手紙となるでしょう。

最後の情けとして罪人にも最後の一言をという事ですが
貴女への言葉は一言では表せないので手紙にしたためてみました。

貴女と初めてお会いしたのは私が武人である父の下。
近衛連隊に入り訓練をしていた時でした。
貴女は、今は亡き体の弱い王弟殿下を支えるために女武人となるのだと言って
周りを困らせながら訓練へと参加されてましたね。
その時の事は、はっきりと思いだせないのですが
失礼ながら何て物好きな姫君だろうと呆れたものです。

貴女もご承知の通り
貴族として武官の家に生まれたのだから、と。
父に無理矢理武官の道に進まされた私は辟易しておりました。
母方の祖父に似た私には、どう考えてもその道には向かなかったのです。
貴女はそんな私に笑って一緒に頑張ればよいであろうと話しかけてくださいましたね。
その笑いは嘲笑でもなく……未来を、可能性を疑わない眼差しで
その笑顔がまぶしくて私はどのような形であろうと
貴女のお役に立てる臣下になろうと、自然と膝を折って心に誓ったものです。

しかし、そんな心も私の父の
王弟殿下暗殺の容疑で容易ではならないものになってしまいました。
そんな容疑は立派な武人である父には事実無根。
しかし護衛の失敗という責に、父は武人として立派過ぎる故に、己に厳しく、王弟殿下をみすみす死なせてしまった自分が許せなかったのでしょう。
自らの汚名を雪ぐために、自害を果たし、信頼の厚かった王に内々にお済しくださるようにその命を持って奏上しました。

父の志もわかります。
そうしなければならない不合理な騎士道というものも。
私にしてみればそれは、なんという愚かな事かと思いました。
みすみす真犯人を――逃すことになるのですから。
死ぬよりも、生きて汚名を雪ぐために尽力してほしかった。
そんな自分でもままならない怒りともつかない感情に支配されていた私に
素直に泣けばいいと貴女は言ってくださいましたね。
貴女も弟君を亡くされて大変だというのに。
それなのに……私の父の無実も信じてくださいました。
涙ながらに死ぬことはなかったと――。
まるで武人仲間のように肩を貸し、貴女がそう言ってくれたから
私は父の死を素直に悲しむことが出来ました。


同時に貴女をお傍で支える臣下にはなれないことにも。




それからは私は……貴女も薄々わかっていたでしょう。
私……いえ私達一族は、父の処遇の為に中央の出世ルートからは外されました。

そんな私がこれから取るべき道。
出来る事。
出来る事。
沢山沢山これ以上もなく、考えて、考え抜いて。
私は父とは違う方法を取りました――貴女を裏切る道を。


とても容易い道でした――。
この国では珍しい女王となる貴女に不満を持ち
王位簒奪をもくろむ者は水面下では沢山いたのです。
貴女にいい顔をして、その陰であざ笑っている者達も。
そんな事は私に"立派な父"がいた時には気が付かないことでした。
私の父の死の真相を半分も知らぬ者達は。
一緒に現王家に一矢報いてやらないかと私を誘って来たのです。
甘い誘惑でした とてもとても甘美な誘惑。
その者達は私を体のいいスケープゴートにでもするつもりだったのでしょう。
私には分りきった事でした。
だから、その者らをいい気にさせ、利用されているようで私の目的の為に利用した。


国家転覆を目論む者達全てと手を組み、貴女を王座から引きずり落とす。



……と、言うのはあの者達を動かす表向きの理屈。
貴女は本気にしたでしょうか?
だからこそ私は明日処刑されるとはわかっていても
あの時のまま私の事を少しでも思いやってくださっていたというのであれば
貴女は初めは私がそんな事をするとは信じないでいて下さったでしょうか。
しかし、それは本当ですが、また間違いでもあります。

私は貴女を愛してました。
誰にも渡したくないぐらい、愛してました。
でも貴女は女王陛下。私はもう道を閉ざされた貴族の息子だ。
平民よりもたちが悪い、埋められない溝しか間にはない。
そんな私が考えた、貴女にできる唯一の事。
命を懸けて国に巣食う反乱分子をあぶり出し貴女の面前に差し出すことです。
そうすれば、貴女は安全だ。
そして、明日私が処刑されれば――貴女は一生私の事を忘れない。
忘れたとしてもきっとこの出来事は歴史の頁となって残るだろう。
後世の者がこの歴史を知る。
貴女への愛の証というのは貴女だけがわかっていればいい。
貴女と一緒にいれられないのであれば、貴女の心の中に巣食いたかった。
それが、今回の謀反の動機です。


これで私の最後の告白を終わることにしましょう。
そして――ヴィオレーヌ、これで私はどういう形であれ君の忘れられない男になった。

それだけで満足で明日私は死んでいける。

愛してる、愛してる。
それがどんなに歪んだ示し方としても。
君の中で永遠になれた。
それだけで私は満足に明日笑って死んでいけるだろう。



愛を込めて。

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