太刀に宿る守護霊とその上位の神々に認められたので、弟と妹を殺された兄ちゃんは仇の相手である妖鬼に復讐を誓います!

アンジェロ岩井

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風太郎の旅立ち編

破魔式との二年

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結論から言えば破魔式を覚えるのには二年の月日を要した。
まず、彼は二ヶ月の長い時間を利用して人間には必ず付くと言われる式神を呼び出し、契約する事に使われていた。
彼はその中で氷の式神と誓約を結ぶ事に成功し、彼は氷に関連した破魔式を使用できる事になったのだが、今度は上手く式を発動できない。
綺蝶曰く修行をし、体と呼び出した式神と体が一体化すれば、自身の式神と合う破魔式を使用できるという事であり、呼び出した式神と自分の体を一体化させ、破魔式を発動させるための時間に半年間の時間を利用した。
半年間、彼は師である綺蝶からの激しい鍛錬を受け、現在、体に感じている見知らぬ誰かが体の中に住まうという違和感を払拭するために体を慣らさせていく。
簡単な打ち込み稽古や素振り稽古、太刀打ち矯正、そして走り込み。そこに柔軟体操に掃除や洗濯、料理といった日常の家事までも加わり、綺蝶の指導を受ける事になった。
特に、綺蝶は味噌汁の味に煩く、風太郎が懸命に作った茄子の味噌汁を一口啜って「不味いですね」と、満面の笑みで酷評した事は彼は今でもハッキリと覚えている程だ。
味噌汁を顔に吹かれたり、その場で捨てられるよりかは大きくマシな方法なのだろうが、それでも受けた衝撃は大きい。
それから、彼は朝、昼、夕方の稽古と同じくらいか下手をすればそれ以上に綺蝶を満足させるための味噌汁作りに専念していた。そうして、彼はようやく彼女を満足させる味噌汁を作り上げたのだ。
彼女はそれを一口啜って可愛らしい笑顔で、
「よくできましたね。とっても美味しいです」
と、褒めた。そして、不思議な事に翌日に稽古をし、その後に彼女に木刀の練習試合を持ち掛ければ、彼はあっさりと勝てたのだ。
その時の彼には当初、感じていた様な違和感を感じられなくなっていた。そして、完全な自分のまま綺蝶の目の前で木刀を止める。
それを見た彼女は両手を叩いて、満足そうな顔で笑う。
「素晴らしい。獅子王院さん!やっぱり、あなたは私が思っていた通りの人です!まさか、半年で式神をモノにしてしまうとは……」
風太郎は惚けている彼女を助け起こし、そのまま休む事なく破魔式を使用するための修行を頼む。
彼女は満足そうに笑いながら、それを首肯する。
だが、そこからが本当の地獄であったとも言えよう。破魔式は型にし物にするのには一年と四ヶ月の日々を必要とした。
破魔式は大体の式神が五つらしく、彼も五つの破魔式を覚える事を約束させられた。
まず、最初に斬った際に相手を氷の塊にしてそのまま太刀で砕いて相手を破壊する破魔式を覚えた。次に小さな氷の化身を出し、それを使役する破魔式を。
その次に小柄であるけれども美しく鋭い氷を作り出す破魔式を覚えた。
四つ目の破魔式は一度斬った相手の傷口に蛇の様に纏わり付く厄介な破魔式であったりここまでを覚えるのに一年の月日を要した。
だが、五つ目、各々の破魔式の中で最強と言われる式だけが彼の中に降りてこない。
何度やっても降りてこない事に彼が業を煮やしながら、裏庭の縁側で庭と夕陽を眺めていると、そこに綺蝶が現れて一冊の本を手渡す。
彼は何気なしにその本を手に取ったが、そのタイトルを見て思わず声を出してしまう。
「これって、あの有名推理小説か?確か、四年前にデビューして面白い推理で人を惹きつけたっていう」
「ええ、その噂の人物の書いた小説です。少し前に家を開けた帰りに東京の書店で見つけたんですよ。ええ、犯人を当てるのには随分と苦労した作品でしてね。でも、ヒントだけは与えてあげます。ヒントは時刻表です」
彼女は悪戯っぽく笑うと、縁側から去り、そのまま夕食の支度をしに勝手へと戻っていく。
風太郎は何気なしに読んだ筈だったのだが、気が付けば日が完全に沈むまで熱心に読みふけていた。
そして、彼は時刻表を真剣に読み解けていなかった事に気が付き、何気ない事がヒントになる事を確信した。
彼はそれから、日常の事を思い出していく。その中で彼は一年前の冬の日、先端が太陽の光によって照らされて眩しく光る氷柱の事を思い出す。
その瞬間、頭の中に稲妻が走ったかの様な衝動が走る。
そして、彼は急いで庭の真ん中で自分の念じるままに刀を振っていく。
その瞬間に、それは出た。そう、刀を振った先に氷柱が。
その瞬間に拍手の音が聞こえて、笑顔の綺蝶が青年の元に現れた。
「お見事です。ヒントはあなたの勘付いた通り、日常の些細な事、些細な見落としにありました。そう、時刻表の見落としと同じなんです。初めから、細かな点、些細な点を思い出していれば、全てを見落とす事が出来ると私は思っています」
綺蝶はそう言うと、少年を後ろから抱き締めて、
「おめでとうございます!これで、あなたは誰がどう見ても恥ずかしくない立派な闇祓い師です!」
彼女は言った。闇祓い師と。どうやら、この世にあらざるものと対峙する人物を表す呼称は『対魔師』という呼称以外にもあるらしい。いや、より正確に言えばこれが世間一般で言われる自分たちの身分になるらしい。
彼女は付け加えて、
「その上、我々の任務は平安の時代、桓武帝が蝦夷追討の詔を出した時から始まっています。つまり、一千年以上、いや、朝廷はそれ以上の年数、つまり、我々の組織が出る以前から妖怪の頭目たらん存在を追っています」
綺蝶の話から察するにその『妖鬼』と呼称される存在には黒幕らしき存在がいるらしい。
彼女は顔に大きく陰を落として呟く。
「その『妖鬼』の頭目たる存在の正体の名前は玉藻という名前だけしか分かっていません」
風太郎は思わず息を呑む。どうやら、自分たちが思ったよりもその存在は強大であり尚且つ、謎に包まれているらしい。
風太郎が難しい顔で考えていると、彼女は幸せそうな笑顔を浮かべて、
「まぁ、今日は特別です。この後はあなたはのんびりしていてください。お夕飯の支度は私がしますから、それから明日は一緒に出かけませんか?明後日にはどうせ、迎えの車が来ると思うので」
昨日に言っていた討滅寮の話だろう。わざわざ京都にまで行かなければならないのが面倒であるが、彼女の上司に面会しなければならないのが規則であるのならば従わねばならないだろう。
だが、彼はそんな事よりも今日、明日の
楽しみを優先させたかった。
三年間を通して険しい指導をされたのだから、この二日ばかりは彼女を大いに振り回してもいいだろう。
風太郎は悪戯っぽく笑うと、靴を脱いで縁側から勝手へと向かう。
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