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風太郎の旅立ち編
討滅寮にて
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「ここが、討滅寮か……」
風太郎はあまりの壮大さに思わず吐息を漏らす。三階建ての大きなコンクリート式の建物はまるで巨人が寝そべっているかの様に横に大きく広がっており、風太郎を真上から見下ろしていた。
車を降りるのと同時に、風太郎は半ば強制的に討滅寮の庭を歩かされていく。
庭は日本式の庭園であり、ここは山の中かと錯覚する程の草木が生え揃っており、風太郎の鼻腔に草の新鮮な香りが漂っていく。
風太郎が鼻を抑えていると、ぼさっとしていると思われたのか、先程の青い顔の青年に引っ張られて建物へと連れて行かれてしまう。
建物の中に入りると、その中には和と洋とが折衷した造りとなっており、あちこちの部屋に畳と襖が備えられている他に、その部屋の中に近代風の棚やら机やらが設置されていた。
それが、玄関近くの部屋であり、尚且つ側に居た綺蝶がこれがこの建物の殆どの部屋だと教えられたから、風太郎は建物と部屋の殆どはこうなのだと確信していた。
すると、また止まっていたのか、青年に小突かれて玄関の奥に存在する階段を上っていく。
二階も綺蝶曰く一階と殆ど同じらしい。風太郎が感心した様にふーんと言うと、誰も反応する事なく三階へと連れて行かれる。
三階も階段の周囲は一階、二階と殆ど変わらなかったのだが、唯一、階段を進んで奥に向かう場所に存在する大きな虎の描かれた襖で仕切られた部屋のみは別格。
何やら得体の知れない光を放っていた。その様子にここまで緊張感のためか、黙りっぱなしで居たあの丸眼鏡の青年も声を上げてしまう。
「な、何だこりゃあ!こりゃあ、まるで時代劇の殿様の部屋じゃあねぇか!」
風太郎は心の中で同意する。
確かに、これは巷の映画館でよくやる時代劇などで見る徳川将軍の居室そのものである。
二人が呆気に取られていると、綺蝶が扉を軽く叩いて入室の許可を仰ぐ。
「斑目綺蝶です。本日は我が討滅寮にとっての希望の星を連れて参りました」
その言葉に対して返されたのは「入れ」という小さくてしゃがれた声。
だが、声の質は滑らか。
恐らく、扉の向こうの主は老婆であろう。
綺蝶が扉を開けるのと同時に、風太郎は深く閉ざされた扉の向こう、大きな畳が敷き詰められた部屋の中央、上座の上に佇む茶色の着物姿の老婆を目撃する。
皺だらけの顔に、既に白く染まり、半ば頭から落ちかけた白髪、そして死人の様に痩せこけた様子から彼女が病人に近い事は誰の目から見ても明白であろう。
風太郎が挨拶をし遅れていると、綺蝶が黙って風太郎と青年とに跪く様に指示を出す。
二人は綺蝶の指示に従って死にかけの老婆の前に跪く。
上座の上の肘掛けにもたれかかった老婆は暫くの間、風太郎と青年とを一瞥していたが、直ぐに鼻を鳴らした後に懐からベルを取り出し、強く鳴らす。
すると、扉を開けて黒い和服を着た妙齢の美しい女性が現れて三人と同様に老婆の前に跪く。
「椿、わしの扇子はあるか?」
椿と呼ばれた女性は老婆に向かって黙って扇子を手渡す。
老婆は扇子を受け取った後に勢い良く目の前で頭を下げていた綺蝶に向かって振り下ろす。
風太郎と青年とは初めの瞬間は何が起こったのかを理解できずにいたが、次第に状況が飲み込めると目の前で青筋を立てる老婆への憎悪の念を向ける。
風太郎に至っては無意識のうちに刀の塚に手を掛けようとしていたが、今度は風太郎自身が老婆によって刀の塚を握っていた手を離してしまう。
それを見た老婆は鼻を鳴らして、
「綺蝶、主の教育とやらはなっておらぬようじゃな?飼い犬のくせにわしに手向かおうとしおったぞ」
老婆はもう一度、不機嫌そうに扇子を綺蝶の額に振り下ろす。
「て、テメェ!」
青年は拳を握って立ち上がろうとしたが、他ならぬ綺蝶自身がそれを手で静止したために青年は黙ってその場で跪く。
それを見た老婆がもう一度、無言で扇子を綺蝶へと振り下ろす。
「それに何故、彼奴を連れてきたのじゃ?」
「申し訳ありません。上様の怒りもごもっとも、ですが、私がお目見えに伺うまでに一悶着がありまして……」
「その様な事ではない!何故、主が我らが神聖なる討滅寮に妖鬼を連れ込んでいるのかと聞いておるのじゃ!」
それを聞いた瞬間に綺蝶と風太郎、そして何より、青年自身が驚きの表情を浮かべていく。
風太郎も綺蝶も青年が妖鬼などとは知らなかった。いや、表情から見て、当の青年でさえ知らない事であろう。
目の前の老婆はとうとう狂ってしまったのだろうか。
そんな事を考えていると、老婆は綺蝶の元から離れて、その隣の青年の元へと向かっていく。
「お主、名は?」
「日向、近作日向」
「主はどうやら、赤ん坊の時に妖鬼にされたものの、力が目覚める事なくそのまま放置されていた様じゃな?稀におるのじゃ、その様な体質を持つ者がな……」
女将軍はそう言うと扇子で強く日向を殴打して彼を地面の上に転ばせていく。
頬を抑える日向。だが、女将軍は容赦する事なく扇子を掲げて殴打しようとする。
だが、それは振り下ろされる前に風太郎の一言の元に止められてしまう。
「待ってください!」
風太郎は必死だった。目の前で少し前に出来た友人が傷付けられようとしているのだ。冷や汗で頬を青く染めながらも、彼は懸命に喉から言葉を絞り出す。
「日向は人を傷付ける妖鬼なんかじゃありません!そんな奴だったら、おれも綺蝶もあの村で死んでいました!」
「確かに、これ迄はそうじゃろうな。だが、今後はどうなるのか分からぬ。いつ、此奴が覚醒し、人を襲うかは分からぬのだ。ならば、この場で殺した方が良いじゃろう?椿ッ!」
椿は無言で立ち上がり、腰に下げていた日本刀を抜いて日向の元へと向かう。
だが、その前に風太郎が移動し、椿が日向の側へと移動するのを防ぐ。
「待ってください!あまりにも一方的過ぎます!日向の奴に機会をッ!あなた方が着せた濡れ衣を扶植する機会をッ!」
「くどいッ!」
老婆は一喝する。
「先程も言うた様に、この男は危険なんじゃ、いつ怪物へと姿を変え、討滅寮に牙を向けるかは分かったものではないのじゃ!」
「なら、おれが見張っとく!おれがこいつを暴走させない様にする!それでいいだろう!?だが、それでも分からない、それでもこいつを傷付ける様な盲目した婆さんなんかに妖鬼を倒す総大将が務まるとは思えない!その時はおれが征魔大将軍になってやる!おれの手であんたを始末した後に、おれを将軍に就任させろと宮内庁の方々に訴えてやる!」
「こ、こ、こ、この罰当たりなガキがッ!誰に向かって口を聞いとると思っとるんじゃ!」
老婆の声は明らかに怒りに満ちていた。老婆は手に持っていた扇子をペチペチと鳴らしながら、風太郎の元へと近付いていく。
風太郎はあまりの壮大さに思わず吐息を漏らす。三階建ての大きなコンクリート式の建物はまるで巨人が寝そべっているかの様に横に大きく広がっており、風太郎を真上から見下ろしていた。
車を降りるのと同時に、風太郎は半ば強制的に討滅寮の庭を歩かされていく。
庭は日本式の庭園であり、ここは山の中かと錯覚する程の草木が生え揃っており、風太郎の鼻腔に草の新鮮な香りが漂っていく。
風太郎が鼻を抑えていると、ぼさっとしていると思われたのか、先程の青い顔の青年に引っ張られて建物へと連れて行かれてしまう。
建物の中に入りると、その中には和と洋とが折衷した造りとなっており、あちこちの部屋に畳と襖が備えられている他に、その部屋の中に近代風の棚やら机やらが設置されていた。
それが、玄関近くの部屋であり、尚且つ側に居た綺蝶がこれがこの建物の殆どの部屋だと教えられたから、風太郎は建物と部屋の殆どはこうなのだと確信していた。
すると、また止まっていたのか、青年に小突かれて玄関の奥に存在する階段を上っていく。
二階も綺蝶曰く一階と殆ど同じらしい。風太郎が感心した様にふーんと言うと、誰も反応する事なく三階へと連れて行かれる。
三階も階段の周囲は一階、二階と殆ど変わらなかったのだが、唯一、階段を進んで奥に向かう場所に存在する大きな虎の描かれた襖で仕切られた部屋のみは別格。
何やら得体の知れない光を放っていた。その様子にここまで緊張感のためか、黙りっぱなしで居たあの丸眼鏡の青年も声を上げてしまう。
「な、何だこりゃあ!こりゃあ、まるで時代劇の殿様の部屋じゃあねぇか!」
風太郎は心の中で同意する。
確かに、これは巷の映画館でよくやる時代劇などで見る徳川将軍の居室そのものである。
二人が呆気に取られていると、綺蝶が扉を軽く叩いて入室の許可を仰ぐ。
「斑目綺蝶です。本日は我が討滅寮にとっての希望の星を連れて参りました」
その言葉に対して返されたのは「入れ」という小さくてしゃがれた声。
だが、声の質は滑らか。
恐らく、扉の向こうの主は老婆であろう。
綺蝶が扉を開けるのと同時に、風太郎は深く閉ざされた扉の向こう、大きな畳が敷き詰められた部屋の中央、上座の上に佇む茶色の着物姿の老婆を目撃する。
皺だらけの顔に、既に白く染まり、半ば頭から落ちかけた白髪、そして死人の様に痩せこけた様子から彼女が病人に近い事は誰の目から見ても明白であろう。
風太郎が挨拶をし遅れていると、綺蝶が黙って風太郎と青年とに跪く様に指示を出す。
二人は綺蝶の指示に従って死にかけの老婆の前に跪く。
上座の上の肘掛けにもたれかかった老婆は暫くの間、風太郎と青年とを一瞥していたが、直ぐに鼻を鳴らした後に懐からベルを取り出し、強く鳴らす。
すると、扉を開けて黒い和服を着た妙齢の美しい女性が現れて三人と同様に老婆の前に跪く。
「椿、わしの扇子はあるか?」
椿と呼ばれた女性は老婆に向かって黙って扇子を手渡す。
老婆は扇子を受け取った後に勢い良く目の前で頭を下げていた綺蝶に向かって振り下ろす。
風太郎と青年とは初めの瞬間は何が起こったのかを理解できずにいたが、次第に状況が飲み込めると目の前で青筋を立てる老婆への憎悪の念を向ける。
風太郎に至っては無意識のうちに刀の塚に手を掛けようとしていたが、今度は風太郎自身が老婆によって刀の塚を握っていた手を離してしまう。
それを見た老婆は鼻を鳴らして、
「綺蝶、主の教育とやらはなっておらぬようじゃな?飼い犬のくせにわしに手向かおうとしおったぞ」
老婆はもう一度、不機嫌そうに扇子を綺蝶の額に振り下ろす。
「て、テメェ!」
青年は拳を握って立ち上がろうとしたが、他ならぬ綺蝶自身がそれを手で静止したために青年は黙ってその場で跪く。
それを見た老婆がもう一度、無言で扇子を綺蝶へと振り下ろす。
「それに何故、彼奴を連れてきたのじゃ?」
「申し訳ありません。上様の怒りもごもっとも、ですが、私がお目見えに伺うまでに一悶着がありまして……」
「その様な事ではない!何故、主が我らが神聖なる討滅寮に妖鬼を連れ込んでいるのかと聞いておるのじゃ!」
それを聞いた瞬間に綺蝶と風太郎、そして何より、青年自身が驚きの表情を浮かべていく。
風太郎も綺蝶も青年が妖鬼などとは知らなかった。いや、表情から見て、当の青年でさえ知らない事であろう。
目の前の老婆はとうとう狂ってしまったのだろうか。
そんな事を考えていると、老婆は綺蝶の元から離れて、その隣の青年の元へと向かっていく。
「お主、名は?」
「日向、近作日向」
「主はどうやら、赤ん坊の時に妖鬼にされたものの、力が目覚める事なくそのまま放置されていた様じゃな?稀におるのじゃ、その様な体質を持つ者がな……」
女将軍はそう言うと扇子で強く日向を殴打して彼を地面の上に転ばせていく。
頬を抑える日向。だが、女将軍は容赦する事なく扇子を掲げて殴打しようとする。
だが、それは振り下ろされる前に風太郎の一言の元に止められてしまう。
「待ってください!」
風太郎は必死だった。目の前で少し前に出来た友人が傷付けられようとしているのだ。冷や汗で頬を青く染めながらも、彼は懸命に喉から言葉を絞り出す。
「日向は人を傷付ける妖鬼なんかじゃありません!そんな奴だったら、おれも綺蝶もあの村で死んでいました!」
「確かに、これ迄はそうじゃろうな。だが、今後はどうなるのか分からぬ。いつ、此奴が覚醒し、人を襲うかは分からぬのだ。ならば、この場で殺した方が良いじゃろう?椿ッ!」
椿は無言で立ち上がり、腰に下げていた日本刀を抜いて日向の元へと向かう。
だが、その前に風太郎が移動し、椿が日向の側へと移動するのを防ぐ。
「待ってください!あまりにも一方的過ぎます!日向の奴に機会をッ!あなた方が着せた濡れ衣を扶植する機会をッ!」
「くどいッ!」
老婆は一喝する。
「先程も言うた様に、この男は危険なんじゃ、いつ怪物へと姿を変え、討滅寮に牙を向けるかは分かったものではないのじゃ!」
「なら、おれが見張っとく!おれがこいつを暴走させない様にする!それでいいだろう!?だが、それでも分からない、それでもこいつを傷付ける様な盲目した婆さんなんかに妖鬼を倒す総大将が務まるとは思えない!その時はおれが征魔大将軍になってやる!おれの手であんたを始末した後に、おれを将軍に就任させろと宮内庁の方々に訴えてやる!」
「こ、こ、こ、この罰当たりなガキがッ!誰に向かって口を聞いとると思っとるんじゃ!」
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