太刀に宿る守護霊とその上位の神々に認められたので、弟と妹を殺された兄ちゃんは仇の相手である妖鬼に復讐を誓います!

アンジェロ岩井

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風太郎の旅立ち編

村での一夜

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「良いですね?我々に妙な事をすれば、私やこの後に来る私の仲間が招致しませんので、そこら辺を了承して頂けると幸いです」
斑目綺蝶は笑顔の裏に相応の怒りを滲ませながら、年老いた村長に向かって刀を突き付けていた。
先程までのびており、叩き起こされた村長は大きな悲鳴を上げながら、尻餅を突いて激しく首を振って二人をもてなしていく。
風太郎と綺蝶の前にこの地域の郷土料理と思われる山菜を使用した料理が並んでいき、更には上等の徳利にこれまた上等な日本酒を入れたものを出していく。
風太郎も綺蝶も先程の事があったため、徳利には手を付けなかったのだが、代わりに先程の戦闘で腹が減ったのか、郷土料理には口を付けていく。
そして、酒の代わりに水を要求し、ほぼ同時に二人で飲み干す。
風太郎は土の壁にもたれかかって目を瞑ろうとしたが、それを綺蝶が肩を揺すって静す。
「待ってください。夜はまだまだ長いですから、二人でこの前、観た映画の話でもしませんか?丁度、古代ローマを舞台した面白い映画の事、もう忘れちゃいました?」
「あ、あ、あぁそうだな。あれだな。うん」
風太郎は連日の戦いで映画の内容は頭から殆ど抜けかけていたが、修行を終えた褒美に二人っきりであの映画の内容を拙い記憶を辿って思い出す。
コロッセオなる巨大な古代の闘技場を舞台に二人の選手が馬車を走らせて競い合う内容は手に汗握るものがあり、最後に主人公が勝った時には思わず叫んでしまいそうになった程であった。
だが、その後の内容はといえばお粗末の一言に尽きる。
だが、目の前の少女は自分と同年代で出世しているという事もあり、映画の細かい点も事細かにそれこそ、風太郎の頭の中で情景が思い浮かぶ程の鮮やかな説明を始めていく。
それが終わったらと思うと、やがて三年前の映画鑑賞録が始まっていく。
日露戦争を題材に挙げた大作から始まり、昔のアメリカの西部開拓時代を舞台とした牧場での決闘を描いた名作まで、彼女は様々な映画を観ていた。
風太郎からすれば、感心するしかなかった。彼が水の入ったコップを持って何とか話を合わせていると、二人の前に禿げた頭に丸い眼鏡をかけた若い男が現れて意味ありげに二人の顔を覗き込んでいた。
男の顔が迫ってきたのを見て慌ててその場から離れる二人。
だが、男はニヤニヤと笑いながら二人に続きを急かしていた。
「いやいや、どうぞ、どうぞ、お二人の話は面白くてね。親父が変な声を上げたもんで駆け付けてみたら、まさか今日はこんな美しい人が泊まりに来てるなんて……いやぁ~眼福、眼福」
青年は丸い眼鏡の端を親指と人差し指で上下させながら笑う。
体系は痩せっぽっちであり労働などには向かないタイプである事は間違いない。顔は若いという以外は何ら変哲のない書生顔。
頭も坊主のままであるから、恐らくは閉鎖的な村であるから、そのまま戦争中の空気を引き摺っているのだろう。
あれから、十年以上も経っているのに……。
風太郎が呆れた表情で彼を眺めていると、青年はケタケタと笑いながら、
「いやぁ~先程は失礼した。どうも、オレの親父が暴走しちまったらしくて……本当に申し訳ない。オレと共に戦争を生き延びられたのが嬉しくて、オレを食べさせたくなくて、つい、あんたらを蛇姫様の生贄にしようとしたらしい。これについては言い訳の仕様もない」
眼鏡の青年の謝罪を風太郎は呆れ顔で綺蝶は澄ました顔で聞き流していた。
だが、青年は一度話すと止まらない性質であるらしい。彼は決壊したダムから溢れ出る水の様に話を始めていく。
自己紹介から始まった彼の話はライスカレーの作り方まで進んでいき、気が付けば家の中に朝日が差し込み、鶏が鳴くという有様であった。
そして、話の最後になり、青年は二人にある事を尋ねた。
「なぁなぁ、お二人さんは何をしている人たちなんだい?オレはお二人さんが気に入ってさ、何をやってるのかを教えてくれないかな?」
「オレ達は妖鬼っていう化け物どもを狩る仕事をしているんだよ」
「へぇ~面白そうだな!オレも混ぜてくれよ!戦争から帰ってきてもずっと田舎で燻っているのも嫌だし、ここら辺で抜け出したと思ってさ、オレも一発ーー」
「駄目です」
綺蝶がキッパリと否定する。あまりにもバッサリと切り捨てたので隣に座っていた風太郎が面食らってしまった程である。
だが、綺蝶は置いてけぼりにされた二人の心境など構う事なく自身の仕事がどれだけ危険に見舞われているのかを説明していくが、目の前の青年には効果がないらしい。
彼は相変わらずの笑顔を浮かべながら、
「大丈夫だって、オレは何つったってあの地獄の様な時代を生き抜いたんだぞ、今更、妖怪くらい何だったんだ」
「妖怪じゃありません妖鬼です」
綺蝶は訂正したが、目の前の男は言葉を変える事なく無言で二人を掴んで村の外へと出ようとしていた。
だが、その時だ。村長の家の前に車が停まったのは。
車は風太郎が始めて綺蝶の家に連れて来られた時と同様の黒塗りの高級車。
そして、今度はその車から一人の刀を腰に差した青色の蝶ネクタイに黒のジャケットを羽織った若い男が現れた。
男は髪が目の辺りにまで伸び、顔色も悪かったのだが、体格だけは風太郎やこの青年よりも立派だった。
青年は綺蝶の前で跪いて、
「斑目様、ご機嫌麗しゅうございます。上様が京にてお待ちでございます。至急、風太郎殿と共に車に乗られます様に」
青年の言葉に従って風太郎と綺蝶が車に乗り込もうとすると、青年もついでに乗り込もうとしたので、あの根暗な青年が必死に止める。
「や、やめないか!お前は対魔師ではないだろう?無関係な人間を上様の元へと連れて行くわけにはいかぬのだッ!」
「お、オレだってね!やろうと思えばやれるんだよ!絶対にここから抜け出してやろって決めていてーー」
それを見た綺蝶は小さく溜息を吐いて迎えの青年に向かって言った。
「ついでに連れて行ってあげたらどうですか?破魔式が使えないのならば、修行させてあげれば良いでしょう?」
それを聞いた青年は深々と頭を下げて青年を強引に車の奥へと放り込む。
そして、運転席に座ると車を京都へと向かって飛ばす。
四人を乗せた黒塗りの高級車は土を飛ばしながら、前へと進む。
風太郎は刀を車の窓の側に立て掛けながら、今後の事を考えていく。
そして、再び決意する。自分の妹と弟の命を奪った妖鬼復讐するのだ、と。
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