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東京追跡編
一千年の旅の後で
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三人は例の青年に連れられ、事務所を後にして、もう一度、橋を渡って下町の端に存在する喫茶店へと連れて来られた。
ショーウィンドウから街の景色が観察できるモダンな店であった。
青年は慣れた手付きで奥の席に三人を案内して注文を聞きに来た洋装にエプロンというラフな格好の若い女性にコーヒーと紅茶を頼む。
暫くして女性がコーヒーを置く音が聞こえて、全員の前にコーヒーが並ぶ。
青年は全員にコーヒーが行き渡ったのを確認すると、自分の前に置かれたコーヒーを一口啜り、真っ白なコーヒー皿の上にコーヒーを置いて本題に入っていく。
「まず、始めに言っておきますが、ぼくはずっとあの女を追い掛けています。それは、平安時代、天安の頃からこの昭和の時代まで血の滲む思いをしながら……」
それを聞いて綺蝶と日向は驚きを隠せなかった様だが、風太郎は既に答えを聞いていたので直ぐに手を挙げて質問を行う。
「待ってください。なら、あなたは妖鬼なんですか?歳も取らず、顔も変わらずにそんな格好をするなんてむしろ、妖鬼じゃなければ変ですよッ!」
「……獅子王院くん。喜ばしい事にね、私は妖鬼じゃあないよ。私が若さと寿命を保てている秘密はこれさ」
そう言うと、青年は白色の背広の懐から彼が使用しているのと同じ人型の紙を取り出して机の上に置く。
その人型の紙に三人の視線全てが注がれていく。
そして、一通り見終わると、同時に青年に視線を向けて尋ねる。
が、青年もその事を予見していたのか、優しい微笑を浮かべながら答える。
「これは身代わりの人形だよ。死や時間という本来ならば逃れられない概念にぼくはぼくの身代わりの人形を渡す儀式を行う事で、ぼくは一千年以上もの長い間を生きる事が出来たんだ。長い時間、あいつを追い掛けていたが、その足取りが中々掴めなくてね……」
青年はそう言うと視線をコーヒーの中に落としていく。黒色の海の中で彼が見たのは何だったのだろう。一千年の苦楽、絶望、執念。はたまた、何も見つからない自分を責めた苦悩だったのか。
風太郎には分からない。すると、日向が震えた声を出して、
「ま、待ってくれよ!過去にそんな凄い儀式が出来たって事は今、この儀式を公表すればーー」
「当然、誰もが欲しがるだろうね。それに儀式のやり方はぼくしか知らないんだ。当然、今の権力者はぼくを求めてやまなくなるだろうし、そうすれば玉藻の追跡も容易に出来る様になるだろう」
「だったら!」
興奮して喫茶店の席の上から立ち上がった日向を手で押し止めて青年は話を続けていく。
「だが、そんな事をして何になる?確かに、玉藻は直ぐにでも始末できるだろうが、それ以上に新たな脅威が生まれるだけだよ」
彼の冷たい視線が日向に刺さっていく。確かに、この青年のみが持つという不老不死の方法が公になればどんな事になるかどうかは容易に想像が付く。
日本内部でも権力者が不老不死の力を得たとするのならば、常にその権力者が人々を掌握するだろうし、その力が外国にでも渡れば、日本の権力者以上に厄介な人間が不死の力を得る事になってしまう。
例えば、二十年以上前にドイツを掌握し、世界大戦を引き起こしたヒトラーなどが不死になってしまえば世界はどうなるのだろう。
綺蝶はあり得ないが、もしかしたら実現した世界から自分の意識を戻し、慌てて辺りを見渡す。
そこに広がるのは喫茶店の景色。人々が楽しそうに談笑する場所であり、そこには物騒な気配は見えない。
綺蝶は深い溜息を吐いて、視線を下に降ろす。
そこにはコーヒーの中に映る自身の姿。討滅寮所属の上位の対魔師の姿だ。
刀はヤクザの事務所を出る前に、隠し持っているので見えないが、制服を着た自身の姿はちゃんと見える。
綺蝶は自身が対魔師である事を思い出し、想像するしかない他所の世界の心配事よりも、今の自分たちが心配すべき事を思い出す。
それは、古来より人々を悩ます妖鬼の存在。
綺蝶は脱線しつつあった全員の雰囲気を変えて、当初の目的を問い掛ける。
「それよりも、我々の追う妖鬼の総大将、玉藻についての詳しい情報を教えてください」
青年は首肯する。それから、自身が知っている出来事を話していく。
彼曰く彼女はもう平安時代にはその大手を振っていたらしい。しかも、あろう事か、彼女は当時の有力貴族たちに取り入り、その権勢を高めていったという。
だが、天安の時代。彼女は失態を犯してしまう。
と、言うのもある侍女を始末する際に、その姿をひけらかしてしまったのだという。
彼女は慌てて京の都に巣食う彼女の腹心を連れて逃亡したらしい。
だが、侍女の死を知った当時の帝は激昂し、玉藻の追悼令を出した。
その時に初めて、征魔大将軍という呼称が用いられたという。
「その時に我々、陰陽師が駆り出されました。その中には当然、ぼくも……けれど、結果は無惨なものでした」
青年はコーヒーをかき混ぜながら言った。
「玉藻の強さは尋常ではなかった。仲間は一人、また一人と殺されました。その際にぼくの師匠が、不老不死の術を授けてくれました。いつか、玉藻を倒してくれと」
青年はその後、長い修行を積み、何度も玉藻に立ち向かったのだという。
だが、その度に敗北し、倒れている隙を突かれて玉藻に逃げられたのだという。
「ですが、ぼくは諦めません。必ず、あの女を浄化して地獄へ送ってやりますよ」
青年の決意の目は固かった。どうしても、総大将を討つという確固たる決意が彼の目には伺えた。
風太郎は気が付けば、淹れられたコーヒーが冷めている事に気が付く。
陽も沈みかけている。風太郎が席から立ち上がるのと同時に、他の仲間も席から立ち上がってそのまま喫茶店の外へと向かう。
「玉藻の恐ろしさは分かった。けれど、上様から命令されているのは東京での玉藻の居場所を見つけてあの女の首を狩る事だろ?あいつ自身の事が分かっても、居場所が見つからなくちゃあ意味がねぇよ」
「確かに、斑目さんのいう通りです」
青年、長谷川零はヤクザ事務所から喫茶店までの道のりで自己紹介を済ませていたので、零は全員の名前を知っていた。
だからこそ、先程は円滑に話が進んだ。
四人で陽が沈む街の中を歩き、下町に戻るために、橋の上で複数の通行人とすれ違っていく。
帰宅時間だというのもあるのか、多くの人とすれ違う。そして、橋を降り、下町の方へと向かおうとした時だ。
四人の目の前で突然、通行人の首が飛ぶ。
一閃の光が垣間見える度に通行人の首が次々と飛ぶという事態に、周りの人々は悲鳴を上げてその場を去ろうとするが、謎の光はそれを許さない。
人の血が飛び、悲鳴が聞こえるという事態を見て風太郎は叫ぶ。
「この外道がァァァァァ~出てきやがれ!テメェをおれの太刀で叩き斬ってやる!」
風太郎の叫び声と共に殺戮は止み、四人の前に白い麻の服に原始的な首飾りに髪を団子状に束ねた凶悪な顔の男が姿が見えた。
「おれの名は遠呂智。草薙遠呂智。おれの姉を狙う不埒なガキどもを始末しに来た」
ショーウィンドウから街の景色が観察できるモダンな店であった。
青年は慣れた手付きで奥の席に三人を案内して注文を聞きに来た洋装にエプロンというラフな格好の若い女性にコーヒーと紅茶を頼む。
暫くして女性がコーヒーを置く音が聞こえて、全員の前にコーヒーが並ぶ。
青年は全員にコーヒーが行き渡ったのを確認すると、自分の前に置かれたコーヒーを一口啜り、真っ白なコーヒー皿の上にコーヒーを置いて本題に入っていく。
「まず、始めに言っておきますが、ぼくはずっとあの女を追い掛けています。それは、平安時代、天安の頃からこの昭和の時代まで血の滲む思いをしながら……」
それを聞いて綺蝶と日向は驚きを隠せなかった様だが、風太郎は既に答えを聞いていたので直ぐに手を挙げて質問を行う。
「待ってください。なら、あなたは妖鬼なんですか?歳も取らず、顔も変わらずにそんな格好をするなんてむしろ、妖鬼じゃなければ変ですよッ!」
「……獅子王院くん。喜ばしい事にね、私は妖鬼じゃあないよ。私が若さと寿命を保てている秘密はこれさ」
そう言うと、青年は白色の背広の懐から彼が使用しているのと同じ人型の紙を取り出して机の上に置く。
その人型の紙に三人の視線全てが注がれていく。
そして、一通り見終わると、同時に青年に視線を向けて尋ねる。
が、青年もその事を予見していたのか、優しい微笑を浮かべながら答える。
「これは身代わりの人形だよ。死や時間という本来ならば逃れられない概念にぼくはぼくの身代わりの人形を渡す儀式を行う事で、ぼくは一千年以上もの長い間を生きる事が出来たんだ。長い時間、あいつを追い掛けていたが、その足取りが中々掴めなくてね……」
青年はそう言うと視線をコーヒーの中に落としていく。黒色の海の中で彼が見たのは何だったのだろう。一千年の苦楽、絶望、執念。はたまた、何も見つからない自分を責めた苦悩だったのか。
風太郎には分からない。すると、日向が震えた声を出して、
「ま、待ってくれよ!過去にそんな凄い儀式が出来たって事は今、この儀式を公表すればーー」
「当然、誰もが欲しがるだろうね。それに儀式のやり方はぼくしか知らないんだ。当然、今の権力者はぼくを求めてやまなくなるだろうし、そうすれば玉藻の追跡も容易に出来る様になるだろう」
「だったら!」
興奮して喫茶店の席の上から立ち上がった日向を手で押し止めて青年は話を続けていく。
「だが、そんな事をして何になる?確かに、玉藻は直ぐにでも始末できるだろうが、それ以上に新たな脅威が生まれるだけだよ」
彼の冷たい視線が日向に刺さっていく。確かに、この青年のみが持つという不老不死の方法が公になればどんな事になるかどうかは容易に想像が付く。
日本内部でも権力者が不老不死の力を得たとするのならば、常にその権力者が人々を掌握するだろうし、その力が外国にでも渡れば、日本の権力者以上に厄介な人間が不死の力を得る事になってしまう。
例えば、二十年以上前にドイツを掌握し、世界大戦を引き起こしたヒトラーなどが不死になってしまえば世界はどうなるのだろう。
綺蝶はあり得ないが、もしかしたら実現した世界から自分の意識を戻し、慌てて辺りを見渡す。
そこに広がるのは喫茶店の景色。人々が楽しそうに談笑する場所であり、そこには物騒な気配は見えない。
綺蝶は深い溜息を吐いて、視線を下に降ろす。
そこにはコーヒーの中に映る自身の姿。討滅寮所属の上位の対魔師の姿だ。
刀はヤクザの事務所を出る前に、隠し持っているので見えないが、制服を着た自身の姿はちゃんと見える。
綺蝶は自身が対魔師である事を思い出し、想像するしかない他所の世界の心配事よりも、今の自分たちが心配すべき事を思い出す。
それは、古来より人々を悩ます妖鬼の存在。
綺蝶は脱線しつつあった全員の雰囲気を変えて、当初の目的を問い掛ける。
「それよりも、我々の追う妖鬼の総大将、玉藻についての詳しい情報を教えてください」
青年は首肯する。それから、自身が知っている出来事を話していく。
彼曰く彼女はもう平安時代にはその大手を振っていたらしい。しかも、あろう事か、彼女は当時の有力貴族たちに取り入り、その権勢を高めていったという。
だが、天安の時代。彼女は失態を犯してしまう。
と、言うのもある侍女を始末する際に、その姿をひけらかしてしまったのだという。
彼女は慌てて京の都に巣食う彼女の腹心を連れて逃亡したらしい。
だが、侍女の死を知った当時の帝は激昂し、玉藻の追悼令を出した。
その時に初めて、征魔大将軍という呼称が用いられたという。
「その時に我々、陰陽師が駆り出されました。その中には当然、ぼくも……けれど、結果は無惨なものでした」
青年はコーヒーをかき混ぜながら言った。
「玉藻の強さは尋常ではなかった。仲間は一人、また一人と殺されました。その際にぼくの師匠が、不老不死の術を授けてくれました。いつか、玉藻を倒してくれと」
青年はその後、長い修行を積み、何度も玉藻に立ち向かったのだという。
だが、その度に敗北し、倒れている隙を突かれて玉藻に逃げられたのだという。
「ですが、ぼくは諦めません。必ず、あの女を浄化して地獄へ送ってやりますよ」
青年の決意の目は固かった。どうしても、総大将を討つという確固たる決意が彼の目には伺えた。
風太郎は気が付けば、淹れられたコーヒーが冷めている事に気が付く。
陽も沈みかけている。風太郎が席から立ち上がるのと同時に、他の仲間も席から立ち上がってそのまま喫茶店の外へと向かう。
「玉藻の恐ろしさは分かった。けれど、上様から命令されているのは東京での玉藻の居場所を見つけてあの女の首を狩る事だろ?あいつ自身の事が分かっても、居場所が見つからなくちゃあ意味がねぇよ」
「確かに、斑目さんのいう通りです」
青年、長谷川零はヤクザ事務所から喫茶店までの道のりで自己紹介を済ませていたので、零は全員の名前を知っていた。
だからこそ、先程は円滑に話が進んだ。
四人で陽が沈む街の中を歩き、下町に戻るために、橋の上で複数の通行人とすれ違っていく。
帰宅時間だというのもあるのか、多くの人とすれ違う。そして、橋を降り、下町の方へと向かおうとした時だ。
四人の目の前で突然、通行人の首が飛ぶ。
一閃の光が垣間見える度に通行人の首が次々と飛ぶという事態に、周りの人々は悲鳴を上げてその場を去ろうとするが、謎の光はそれを許さない。
人の血が飛び、悲鳴が聞こえるという事態を見て風太郎は叫ぶ。
「この外道がァァァァァ~出てきやがれ!テメェをおれの太刀で叩き斬ってやる!」
風太郎の叫び声と共に殺戮は止み、四人の前に白い麻の服に原始的な首飾りに髪を団子状に束ねた凶悪な顔の男が姿が見えた。
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