太刀に宿る守護霊とその上位の神々に認められたので、弟と妹を殺された兄ちゃんは仇の相手である妖鬼に復讐を誓います!

アンジェロ岩井

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妖鬼対策研究会編

月島順という少年と玉藻姑獲鳥という女

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「あっ、オレ、プリンアラモード!」
「私はパフェでお願いします!」
二人の快活な声が店の中に響いていく。風太郎はと言えば、これ程までに西洋風の小洒落たデザートの揃った店は初めてだったので、何を頼めば良いのか分からずに困惑していた。
すると、奥の席に座っていた月島がメニューを人差し指でチョコレートサンデーと書かれたメニューを差す。
「これ、おすすめ……」
「チョコレートサンデー?一体、どんなデザートなの?」
「チョコ味のアイスが詰まったとっても甘いものらしいよ。美味しいと思うよ」
月島のその助言に従って風太郎はアイスサンデーを頼む。暫くしてから、日向の前にはフルーツで彩られたプリンが入ったデザートが、綺蝶の前にはクリームとバニラアイスクリームにチョコレートソースがかかったものが、そして、風太郎の前にはナッツと果物、ホイップクリームが添えられたチョコレートアイスクリームが置かれた。
「こ、これがチョコレートサンデー……」
「美味しいよ。召し上がれ」
月島は満面の笑みで言った。可愛らしい笑顔に誘われて風太郎はスプーンでチョコレートサンデーの表面を掬う。
美味い。チョコレートの甘い感覚が口の中に広がったかと思うと、チョコレートアイスが舌の上で溶けていき、なんとも言えない快感を味わう。
自分は何と幸せなのだろう。このまま奪い去られてしまいたい気持ちだ。
風太郎はその後は誘惑に勝てずに、そのまま用意されたチョコレートサンデーを一気に平らげてしまう。
チョコレートサンデーを平らげてから、周りを見ると他の仲間たちもすっかり食べ終えたらしい。
このまま食後にコーヒーでも頼もうかと思ったが、突如、目の前で月島が立ち上がった事でそれは立ち消えてなってしまう。
彼は焦った様子で店を出る様に指示を出す。
どうやら、午後の授業の時間が近付いているらしい。
四人で慌てて大学の門を潜り、そのまま大学の構内へと戻っていく。
初めて足を踏み入れる大学の構内は風太郎が想像していた通りの上から見下ろす形で木の机が並んでおり、生徒が好きな場所に座り、一番下の教師の授業を聞くという形のものであった。
だが、そこにも決まりがあり、見やすい黒板の近くの席は既に他の学生で占められ、自然、聴講生は上の見にくい席へと追い立てれていく。
窮屈な思いをしながらも、三人は何とか三時間の授業を受けていく。
三時間の授業が終わり、三人が大学の外に出ると、そこには既に真っ黒な景色が広がっていた。
綺蝶は腕を伸ばして疲れをほぐすと、横に立っていた二人に向かって笑顔を浮かべて言った。
「疲れましたし、この後は蕎麦でも食べに行きませんか?確か、ここから左隣に歩いていけば、駅にぶつかる筈ですから」
「いいなぁ、ねぇ、斑目さん!オレ、天ぷら蕎麦が食べたい!」
「いいですね、今日ぐらいの冷えた夜にはそれが一番かもしれません」
はしゃぐ日向の一押しもあって、三人の行く場所が決まって大学の外へと出ようとした時だ。
「待て!」という呼び止める声が聞こえて三人は一斉に振り向く。
そこには、四角い黒斑の眼鏡をかけた短い眉にまで掛かった髪をした青年が立っていた。
綺蝶は一瞬、首を傾げたが、直ぐにいつもの可愛らしい笑顔を浮かべて、
「あぁ、誰かと思えば、日下部くさかべさんでしたか?どうして、こんな真夜中にたった一人で?危ないですよ」
だが、日下部と呼ばれた青年は綺蝶の声を無視して彼女の元にまで近寄って、彼女の耳元で叫ぶ。
「何ってッ!お前らは上様から命じられて、オレ達の護衛をしに来たんじゃあないのか!?みんな、もう大学の構内で待ってるぞ!」
「勿論、そのつもりですよ。けれど、三時間続いての講義はどうしてもお腹が減るんです。蕎麦屋で腹ごしらえをしてからでもいいですか?」
綺蝶は笑顔を浮かべてそう言うと、腹をさすり、腹の虫を鳴らす。
こうなってしまっては日下部も眉を顰める以外、抵抗の意を示す方法はない。
やはり、この少女にはいや、この女性にかかっては敵わない。日下部はすっかり肩の力を落としてしまう。
それから額を抑えて溜息を吐くと、三人に向かって無愛想な声で言った。
「駅の近くに上手い蕎麦を出す屋台がこの時間になると来ているんだ。折角だから、案内するよ」
そう言って彼は三人を案内して駅までの道を歩んでいく。
が、彼らとは正反対の場所。即ち、大学から見て右方向の道の上に派手な飾りを付けた黒いドレスを着た小柄な少女が立っていた事には誰も気が付いていなかったらしい。
彼女は場所が場所であるためか、吉森組長を訪れた時に持っていた様な戦斧は持っていなかったが、代わりに彼女は黒く輝く万年筆を持っていた。
彼女は右手の指で万年筆を弄りながら、一人で呟く。
「まさかぁ、こんな所に来ているなんてねぇ、姉様からは正妖大学の忌々しい研究会を潰せと命じられているけれどぉ、ここは中止した方がいいかしらぁ」
半ば弱音にも近い独り言であったが、それを聞いていた者は単なる独り言だとは捉えなかったらしい。
短い黒い髪に地味という印象を人々に与える青年はそれを聞いて、自分よりも遥かに上の妖鬼である小柄な女性に突っかかっていく。
「何を仰られるのですか!これはあのお方直々のご命令です!これに逆らうというのはあのお方に逆らうという事!いかに、妹君と言えどもーー」
「何よぉう、あたしには独り言を言う権利も無いって言うのぉ」
彼女はそう言うと、真面目そうな顔の青年の顎を持ち上げて呟く。
「ねぇ、ぼくぅ、あんたが姉様に憐憫の情を抱くのも勝手だし、姉様を神のように崇め奉るのも勝手だけれどぉ、一つ言っておくわぁ」
彼女はそこでそれまでの笑顔と明るい調子の声を引っ込めて、代わりにドス黒い怒りを込めた表情と、下手をすれば男よりも低いかもしれない声で青年に警告の言葉を浴びせる。
「あたしにまでそれを押し付けるな。あたしはあたし。姉様は姉様だ。姉様はあたしよりも立場が上だが、お前は違う。姐様の威光を笠に着て偉くなったつもりか?小僧?」
果てしれぬ恐怖。この世の光を全て覆いかねない程の暗いオーラ。
それらの全てがこの少女から発せられるのを感じた。
身の危険を感じた青年は慌てて首を縦に動かして謝罪の言葉を口にしていく。
それを見届けると、玉藻姑獲鳥は元の笑顔と口調とを取り戻して青年の頭をさすっていく。
「分かれば良いのよぉ~時間が来たら、計画を決行しなさい」
姑獲鳥の言葉を聞いて未だに恐怖が収まらない青年は足と顔の両方を震えさせながら、ぎごちない顔で首肯する。
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