太刀に宿る守護霊とその上位の神々に認められたので、弟と妹を殺された兄ちゃんは仇の相手である妖鬼に復讐を誓います!

アンジェロ岩井

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妖鬼対策研究会編

妖鬼対策研究会とは

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妖鬼対策研究会とはその名前の通り、大学の中に設置された妖鬼に対策するための研究会であったが、正妖大学には認められておらず、その管轄権は討滅寮にあった。
つまり、その非公式の彼ら彼女らは学生であり尚且つ対魔師であるという事になる。
日下部暁人くさかべあきとと名乗る眼鏡の青年の話を総合するとこういう事になるらしい。
だが、唯一本家の対魔師と違うところは彼ら彼女らが学生であるという事につきる。
風太郎は蕎麦を啜りながら、彼が小難しい歴史の話を語るのを聞いてその事実を肯定した。
彼は歴史上の人物がどうたらと言うが、あまりにも聞いたことがない人物や政策の事を語るため、その都度三人は暁人にそれが誰であるのか、それはどういう政策なのかを尋ねなければならなかった。
三人は半ば講義とかした夕食を終えると、屋台の店主に金を払って大学の方向へと戻っていく。
風太郎は夜を歩く時の夜風が好きだった。殆どの店が仕舞い、人も遅くまで残って駅からようやく自宅に帰る人々が殆どのこの慌ただしくも何処か落ち着いた時間が好きだった。
後は檜の桶に石鹸とタオルとを入れて銭湯にでも入れたら良いのだが……。
そんな事を考えながら、コンクリートの上を歩いていると突然、耳に痛みを感じる。
痛さのために彼が立ち止まると、耳元で暁人が大きな声で叫ぶ。
「阿保がッ!もう大学に戻ったぞ!いつまで歩いているつもりだッ!」
その声を聞いてようやく足を止める風太郎。
朝と昼、そしてつい先程も見た大学の建物を彼はもう一度、見上げていく。
思えば、今回の任務は雪辱戦。東京の追跡をしくじった自分への罰。
風太郎はその事をもう一度思い出し、両眉を上げて決意を秘めた顔で大学の中へと足を踏み入れていく。
そんな彼を見て二人は顔を見合わせて笑う。それから、笑顔で彼を追い掛けていくが、ついていけないと言えば彼。
日下部暁人である。彼はいまいち理解しづらいこの青年を見てもう一度頭を抱えてから、溜息を吐いて風太郎を追い掛けていく。
その様子を黒いドレスの少女に見られているとも知らずに……。












玉藻姑獲鳥は彼ら四人がしっかりと大学の中に入るのを見届けると、あの東京での事件の後に姉の拠点で姉にこちら側の成果を報告した日の事を思い出す。
あれは東京の一等地に存在する家であり、旧華族の人間が所有する白塗りの三階建ての邸宅に姉は居た。
女給でも妾でもなく、“養女”という立ち位置で。
彼女は旧華族の菊園寺きくおんじ家のもう一人の令嬢として潜り込んでいたのだ。
今も、彼女の仮初の両親が会話をしている所だ。玉藻姑獲鳥は軒下に隠れながら、会話に耳を立てていく。
「いやぁ、とても可愛らしい子ですよ。我が家の自慢です」
そう話すのは旧伯爵、菊園寺正二郎きくおんじしょうじろうその人であった。
鼻の下に見事なまでの立派な髭を蓄えたえんじ色の浴衣を着た男は集まったかつての旧華族の仲間たちに新たに迎えた養女の事を話していく。
「儂はあの汚らしい路地であの子を見つけた時には天の助けが来たのかと思いましたよ。彼女はとても美しい子です。将来、もし、我が息子に伴侶が見つからなかった場合にはあの子が側に立っていれば必ず引き立つ事でしょう」
そう言って、菊園寺正二郎旧伯爵は背後を振り返り、自身が見染めたという美しい少女を紹介する。
少女は外見は清楚そのものであり、とても美しい顔だ。いや、美しいという形容詞では彼女を表す事さえ不可能と言えたかもしれない。もし、この表現が許されるのならば、こう表現させてほしい。男ならば誰もが手に入れたくなる程の顔の美人だ、と。
絶世の美少女は丁寧に頭を下げて、耳が蕩けてしまう程の甘い声で自分の名前を語っていく。
「初めまして、私は菊園寺深雪と申します」
その声を聞いて集まった老齢の男たちが一同に感嘆の声を上げていく。
同時に菊園寺旧伯爵が与えたという深雪という名前も彼らは気に入っていた。
彼女の肌は雪の様に白くて美しい。凛と澄ました顔も雪の夜に旅人を惚れさせて結ばれた雪女の様を彷彿とさせた。
椅子に座っていた彼らは一斉に深雪と呼ばれる少女を褒めそやし、次々に菓子やおもちゃを与えていく。
また、深雪自身も巧みに彼らに媚び、笑いかけ、彼らの心を満たしていく。
やがて、子供は寝る時間になり、彼女は二階に用意された自身の部屋へと帰っていく。
彼女に与えられた子供部屋は子供部屋という言葉が似つかわしくないほどに豪華であった。
天蓋付きのベッドに地面の下に敷かれた狼の毛皮。それに、象牙の入ったピアノにガラスの付いた書棚。
勿論、深雪もとい玉藻紅葉はこれらの本には一冊足りたも目を通した事はない。
では、何故小難しい本が置かれているかといえば……。
「はぁい、お姉様、部屋に入っていいかしらぁ?」
そう、彼女の聡明な妹、玉藻姑獲鳥のために用意されたものなのだ。
姑獲鳥は部屋の中に入るなり、姉のために用意された名作全集を開いていく。
ベッドに腰を掛けた紅葉は暫くの間は妹が全集を読むのを見守っていたのだが、直ぐに昨日の出来事を思い出して低い声で閉じる様に指示を出す。
本を閉じて自身に向き直った姑獲鳥に向かって紅葉は些か厳しい口調で問う。
「あなたと遠呂智には私の周りをかぎ回っていた目障りなドブネズミどもの始末を頼んだ筈よね?どうして、あいつらは誰一人として欠けていないの?どうして、あいつらは五体満足で動けているの?答えなさい」
姑獲鳥は分厚い本で表情を隠そうとしたが、抵抗しても無駄だと分かったのか、直ぐに本を下げて自身の表情を見せる。
「ごめんなさぁい、姉様ぁ、あたしぃ、まさか吉森の奴があそこまで弱いとは思いもしなくってぇ」
「それは言い訳でしょうッ!」
紅葉は興奮したのか、声を荒げてベッドの上から立ち上がっていく。
そして、彼女の胸ぐらを掴んで彼女の耳元で叫ぶ。
「なら、あなた自身が戦えば良かったのよ!それと、遠呂智は何処なの!?」
「遠呂智兄様はぁ、姉貴に顔を合わせづらいからってぇ、代わりにあたしを使わせてぇ」
紅葉は舌を打ち、掴んでいた胸ぐらを離すと、不機嫌そうに眉間に青筋を立ててベッドの上に腰を下ろす。
「役立たずめッ!なんのために、あなたや遠呂智を遣わせたのか分からないじゃない!」
「ごめんなさぁい、姉様ぁ、あたしぃ、死んでお詫びをぉ」
「あなたの役に立たない命なんてもらってもしょうがないでしょ?それにあなたが死んだところで、あいつらが死ぬわけじゃないし」
「流石は姉様ぁ、あたし感動しましたぁ」
「いいから、それで他に作戦はあるの?」
姑獲鳥は姉からそう聞かれた時に何と答えたのかを今でも覚えている。あれは我ながらよく出来た受け答えであった。
彼女は人差し指を立てて、
「えぇ、お詫びにぃ、正妖大学にいるこの家の餓鬼を殺しましょうかぁ?」
「続きを聞かせてちょうだい」
姉の表情が変わった。姑獲鳥は夜の闇の中で勝利の笑いを堪えながら、あの時の事を更に深く思い出していく。
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