太刀に宿る守護霊とその上位の神々に認められたので、弟と妹を殺された兄ちゃんは仇の相手である妖鬼に復讐を誓います!

アンジェロ岩井

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妖鬼対策研究会編

風よ、吹けよ!

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菊園寺和巳はあの少年が出て行った時から、懸命になってあの少年と怪物を追う様に周りの生徒に訴え掛けるが、誰も応じようとはしない。
それも、当たり前だろう。御曹司の自分ならばともかく、あの少年には何の後ろ盾もないのだ。懸命に熱弁を振るったが、誰も相手にもしようとしない。
彼が夜の校舎の下で泣いていると、校舎の中から、三人の聴講生の男女が現れる。
確か、彼ら三人はあの少年と同じくこの大学の聴講生であった筈。
彼は万が一の可能性に縋り、三人に月島の窮状を説明していく。
すると、三人の顔色が変わり、直ぐに駅の方へと駆け出す。
和巳はそれを見て目に涙を浮かべていた。あの三人ならば、怪物を止めてくれるという気持ちさえあった。
それを見ていると、背後から声が聞こえた。
「おい、菊園寺くん。何を見ているんだね?」
このオペラの低音の様に重厚のある声はこの大学にはたった一人。
自己保身のためならば、その努力を惜しまず、平気で生徒を捨て駒にし、権力者に媚を売る卑怯者。
「おい、返事をしてくれんかね。キミはあの聴講生に何を喋ったんだ?ただでさえ、私の、この長根蓮也の授業の最中に席を立とうとした愚か者がいて私は不愉快なんだ。最も、その原因はあの聴講生の事なんだがね」
豚の様に丸々と太った大学教授を睨む。
だが、直ぐに普段通りの柔和な笑みを浮かべ直して彼に対応する。
「いえちょっとした用事なんです。お気になさらずに。ですが、教えてください。教授……どうして、あの三人に授業の退出を許可しなかったんですか?聴講生とは言え、事情があるのならーー」
「キミぃ、私の授業に一人でも欠員が出てみろ、私の名声に響くだろう。私の歴史の授業を途中で出ようとした愚か者がどんな結末になったのかをキミは知っているなぁ?」
教授はそう言ってニヤニヤと笑う。その瞬間に、和巳はこの教授のやり口を卑劣なやり口を思い返す。
そう、身内の不幸でも、急な事故でも彼の講義に傷を付けた、いわゆる欠席や途中退席を行った生徒には容赦をする事なく単位を落とすという方法の事を。
あの三人も同じ手口で脅したのかと和巳は教授に敵意を抱いたが、教授は聞いてもいないのに三人の事についての回答を教えてくれた。
「最も、あの三人は別。推薦の事や今後の影響の事について話しても耳を傾けようとはしなかった。だがね、私はあの三人のある弱みを掴んでね。それを私の友人である大物政治家……そう、次の総理、最有力候補の男と次期警視庁長官最有力候補の男にあれを見せると脅し、キミらのバックを破滅させると脅したら、直ぐに引っ込んでくれたよ」
彼は餌を溜めて寝ようとするタヌキの様に太った腹を鳴らしながら自身のコネクションの太さと胸糞が悪くなる話を平気で行う長根の態度に我慢ができずに、彼は思いっきり彼の頬を叩き付けた。
頬を抑えて何が起きたのかを信じられずにいる卑劣な豚男に和巳はもう一度、強烈な一撃を喰らわせる。
そして、怯えた表情を浮かべる長根がこれ以上、何も言えない様に更に強烈な一撃を顎に食らわせて“のす”と、和巳の起こした騒動を聞いて駆け付けた大学内の教授陣に向かって和巳は叫ぶ。
「いいかッ!月島の仲間を戦場に行かせろ!それから、二度と月島の仲間の邪魔をするな!もし、また邪魔をするのなら、菊園寺和巳が相手になるぞ!」
そう言って、和巳は顎に強烈な一撃を喰らって地面の上でのびている長根の腹に向かって蹴りを喰らわせる。
それを喰らった長根は悶絶し、腹を抑えてその場で悶え苦しむ。
それを見て騒つく教授陣。同時に、青い丸渕の眼鏡をかけた女性。いや、桐生桃は彼女の痩せて綺麗な体とは対照的なまでに醜く太っている体の女性を跳ね除けて、校舎を出て入り口へと向かう。
同じ様に、教授陣を押し退けて入り口へと向かう妖鬼対策研究会の学生たち。
彼ら彼女らは先程の三人と同様の理由で入口の騒動に向かえなかったのだ。
中には六時間目の講義を選んだのを後悔した人間も居た程だ。
だが、あの菊園寺和巳が味方に付いたとならば怖いものなどない。
やれ、講義を続けろだの、やれ、研究の手伝いを行えなどの理不尽な理由で足止めをされていた妖鬼対策研究会の面々は意気揚々と門を潜っていく。
菊園寺和巳はこれから出立する戦士たちに向かって無意識のうちに敬礼の姿勢を取っていた。
妖鬼対策研究会の面々はようやく、解放されて全員が服の中に隠し持っていた刀を取り出して月島が刀を交えながら、向かったという駅前の方へと向かう。
特に、獅子王院風太郎は月島と同じ選択をしなかった事を悔いていく。
何故、最後の授業など選んでしまったのだろう。そんな後悔の念が渦巻いていく。
すると、彼の隣を走っていた美人、斑目綺蝶も同じ気持ちであったらしく、無念の表情を浮かべる風太郎を見て黙って首を縦に動かす。
日向も同じだったらしい。刀を持った青年は黙って首を縦に動かして、駅前へと向かう。
全員があの勇敢な少年、月島順の無事を祈って駅前へと着くと、そこには刀を持ったまま何故か、優しい笑顔を浮かべる月島順の、ただし腹と背中の両方に大きな傷を負っているという異常な姿が見えた。
そんな笑顔の彼は綺蝶たちの姿を見つけるなり、安堵の溜息を吐いて駆け寄っていく。
そして、風太郎の腕に抱かれるなり、その腕の中へと倒れ込む。
そんな勇敢な少年を風太郎は慌てて抱き抱える。
「ごめんな、ごめんな、月島くん……キミにだけ辛い思いをさせて……」
風太郎の瞳から涙が溢れていく。このまま滝の様に涙が溢れていくのかと思われたが、何故かその先は溢れてこない。
と、言うのも自分が抱き抱えている少年がその涙を拭っていたからだ。
少年は愛らしい顔を浮かべて言った。
「うんうん、大丈夫だよ。それよりも、聞いてよ。ぼくは守れたよ……ここに居る人を誰も妖鬼には狩らせなかった。これで、ぼくは蠍の様に人々を照らす星になれたかな……」
弱々しい声の少年を風太郎は嗚咽を出して何かを言おうとしたが、だが、何故か言葉が出てこない。
顔から涙を出す風太郎の涙をもう一度拭うと、月島は最後に綺蝶と桐生桃の両名を呼び寄せて言った。
「ねぇ、桐生さん、綺蝶を嫌わないであげて欲しいんだ。闇の破魔式は確かに危険だけれど、普段の彼女はとってもいい人なんだ……だから……」
『だから』から続く言葉を彼が喋る事はなかった。何故ならば、彼はゆっくりと目蓋を閉ざしてしまい、そのまま……。
風太郎は月島順が目蓋を開けない理由を察した瞬間に、大きな声で無念を叫ぶ。
同時に、この場に居た全員が月島順が最後の最後まで自分ではなく、他者の事を思っていた事を悟った。
そして、その後には広場の中を悲しみが覆い、その夜は悲しみへと包まれていく悲しい夜となった。
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