太刀に宿る守護霊とその上位の神々に認められたので、弟と妹を殺された兄ちゃんは仇の相手である妖鬼に復讐を誓います!

アンジェロ岩井

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妖鬼対策研究会編

未来は奴らの手の中

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真夜中の警視庁。この日はその前日に東京のある場所で発生したとされる化け物騒ぎの対応に追われていた。
新人の刑事、佐藤幸一郎さとうこういちろうはその若さに見合う働きを見せ、早速、朝一番にその事件の発生した駅前に駆け付け、現場検証や聞き込みの末に、その場に居た正妖大学の学生と思われる人物たちに狙いを定める事に成功した。
そして、彼が一度、情報を纏めるために本庁に戻った時だ。
彼は直属の上司に呼び出され、上司の座る木製の机の前に立たされてしまう。
直属の上司は煙草を吸いながら、懸命に捜査を行った佐藤に向かって冷たく告げた。
「残念だが、捜査は打ち切りだ。上の方から命令が来てね。今回の事件は薬物中毒者が駅前で暴れ回り、それを抑えた少年が死亡したという事で被害者、加害者、双方死亡という事で決着が付いたよ。だから、キミはもう捜査を行わなくてもいいよ」
「課長!自分は刑事です!それも、捜査第一課の殺人事件を担当する刑事であります!それをどうして……」
「いいか、今回の事件の裏には我々には触れられん言うなれば、タブーがあるんだ。キミはそのタブーをこじ開けて周りの人々を不幸にするつもりかね?」
課長はそう言って椅子に座って再度、手に持っていた煙草に火を付ける。
そう言って彼は木製の椅子から立ち上がって煙草を片手に警視庁の窓から外の景色を眺めていく。
それを見て佐藤は拳を強く握り締めていく。そして、彼の中の堪忍袋の尾が切れたと見えて、大きな声で叫ぶ。
「課長!この事件の裏に何がいるのかは知りませんが、自分は真相を知りたいのです!それなのに、どうして課長は自分に化け物引けと命じられるのありましょうか!?私には理解しかねます!」
捜査一課の宮崎課長は彼の気持ちが分からなくもなかった。
事実、自分が佐藤くらいの若い刑事であった頃には同じ様に上司に突っ掛かったものだ。
それに、佐藤刑事はまだ若い。彼からすれば、まだまだ世の道理が分からぬ青二才。
だから、宮崎課長は振り返り、興奮のために鼻息を荒くしている佐藤刑事に自分が教えられたのと同じ道理を説明しようかと考えて、懐からしわくちゃになった煙草を突き出して、彼に勧めていく。
佐藤幸一郎刑事は差し出されたしわくちゃの煙草の箱を宮崎課長から受け取ると、そのまま口に咥える。
そして、懐からマッチを取り出して煙草を味わおうとした時だ。
あろう事か、宮崎課長自らが彼の咥える煙草に火を付けてやり、下がった彼の右肩を力強く叩いてから言った。
「なぁ、お前、桃太郎って知ってるか?」
「当然、知ってますよ。で、それがどうかしたんですか?」
敵意を隠さない新人刑事を宮崎課長は柔和な笑顔で流して説得していく。
「まぁ、聞け。桃太郎は桃から生まれた超人的な力を持った男の子が鬼を退治する話だろ?つまり、そんな特別な力を持った男の子以外は鬼を退治できなかったわけだ。もし、『桃太郎』の話の中で桃太郎の動きを怪しんで、役所に無実の罪で密告する奴が居たとしてそいつがもし、桃太郎を本当に密告したとしたら『桃太郎』の物語の中の鬼に苦しめられている人たちはどうなる?」
「課長は話が長いです。第一、桃太郎の話なんて今はーー」
佐藤刑事はその時に桃太郎の話の意味を察した。
彼はそう理解した瞬間にその時に続く筈で合った「関係ないでしょう?」という疑問を生唾と共に喉の奥へと流し込む。
代わりに、あの事件の裏に何があるのかを問う。
宮崎課長は煙草を一旦口から離して、真っ白な息を部屋の中に吐いていく。
白い煙が部屋の中を染めていく。煙に部屋の一部が完全に侵食される様を佐藤は黙って眺めていく。
まるで、自分の目の前に漂う煙はこの世の何処かにただよう呪いが具現化した怪物の様に思えてしまう。
「まぁ、世の中には我々、刑事の様な人間でも解けない様な難しい問題も多いんだ。まぁ、これはオレの持論なんだが、聞いてくれや。
物事っていうのはな。その時、その場所に合った適切な人間がその場に動く様に指示を出されるんだ。それは誰なのかは分からない。神様って奴なのかもしれねぇし、だが、これだけは言っておく。この世に得体の知れない不気味な輩が常に蔓延って人を脅してるってのは事実だ。そいつらの足を引っ張る様な真似をするんじゃあねぇ。そいつらの足を引っ張るのは桃太郎を密告し、捕らえて人々を鬼の危険に晒す様なもんだからな」
宮崎課長は長い演説が終わると、顔から冷や汗を垂らして固まる佐藤刑事の肩を叩いてから、椅子の背もたれに掛けていた背広を引っさげて捜査第一課の部屋を出ていく。
佐藤刑事はそれを見送ると、机を強く叩く。
彼は深い溜息を吐いて、帰り支度を始めていくと、扉の前から声が聞こえてきたので耳を澄ませていく。
片方は宮崎課長であるらしいが、もう片方は女性の声。それも、妙齢と思われる女性の声だ。
話を聞いていくと、どうやら、相当に高貴な身分の人間であるらしい。
佐藤刑事は自身の背広の胸ポケットから、安い煙草を取り出すと、それを咥えで火をマッチで火をつけ、味わいながら会話を盗み聞いていく。
「わざわざご足労頂き、ありがとうございます。椿様」
「構わないさ、それでおたくの若い刑事さんは納得してくれたのかい?」
「ええ、何とか……それにしても、まさか次期警視庁の長官の最有力候補の人間がそんなお方だとは……」
「全く腹が立つ話さ。斑目から話を聞いて、向こうの方に行って説明したんだけど、聞く耳を持たないよ。向こうはこっちの話をロッド・サーリングの作り上げた空想科学かなんかの話だと思ってるんだよ」
「次の総理候補も噂によればーー」
「あぁ、妖鬼の討伐に耳を貸すどころか、こっちを銃刀法違反の件で訴えると抜かしやがったよ。あんな奴らのために月島が死んだと思うと本当に腹正しいよ」
その話を聞くなり、彼は扉の前から耳を離していても立ってもいられずに、こちらを訪ねた女性に向かって叫ぶ。
「そ、それはどういう事でありましょうか!?」
扉の前の二人は困惑した表情を浮かべていたが、直ぐに観念した様な表情を浮かべて佐藤刑事を手招く。
「聞いての通りだよ。佐藤くん。『桃太郎』を役所に密告しようとする連中がとうとう現れたんだよ」
佐藤刑事はそれを聞いて頭を殴られた様な衝撃を受けてしまう。
同時に、どうしようもない事態に煮え切らない怒りを抱えていく。
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