太刀に宿る守護霊とその上位の神々に認められたので、弟と妹を殺された兄ちゃんは仇の相手である妖鬼に復讐を誓います!

アンジェロ岩井

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妖鬼対策研究会編

バットウォーマンレディ

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何にしても厄介な敵だ。風太郎はそう自覚せざるを得ない。アメリカのテレビドラマで超人が活躍するドラマには空を飛べば弾丸よりも早くというナレーションが有名となっていたが、あの蝙蝠の翼を生やした女はいや、あの空中を飛び交う妖鬼こそまさにその表現が最も相応しいと言えるだろう。
事実、今のあの美しい女性にはそれが最も似つかわしかった。
同時に風太郎はその風貌が恐ろしくさえ感じられてしまう。
あの妖艶な顔に見惚れてしまっていてはそれこそ避ける暇さえもなくなってしまう。
風太郎は空中を飛ぶ魔女に対抗するために、氷の下僕を自分の周りの作り出していく。自分の体の周りをうろつく氷の下僕たち。
それらが居れば、いつ来ても大丈夫な筈であった。そして、更に万一の事態にも備えて上空に向かって刀を構える。
先程と同様に自分たちの元に降下してくれば、氷結下僕で体の自由をある程度奪った後に、自身の太刀であの凶悪な蝙蝠の首を跳ね飛ばせるかと思ったからだ。
だが、蝙蝠は予想外の方向へと向かってしまう。
そう、彼女は空中で舌舐めずりをしてから、風太郎ではなく、綺蝶に狙いを定めて降下していったのだ。
風太郎は綺蝶を助けに向かったのだが、心配は要らなかったらしい。
彼女は自分の目の前に迫ってきた血の槍を持った蝙蝠の妖鬼を刀で斬り付ける。
背中を斬られた彼女は悲鳴を上げて地面の上へと落ちていく。
綺蝶は背中を斬られた彼女の元へと歩み寄り、その首元に刀を突き付ける。
「どうです?あなたもこのまま首を斬られたくはありませんよね?この大学に入り込んだ妖鬼の数を教えてくれませんか?」
彼女の問い掛けに、対して妖鬼の女性は懸命に首を縦に動かす。
「わ、分かりましたわ。勿論です。あなたに全ての事をお話し致しますわ」
そう言って彼女は黙って手を伸ばす。綺蝶はそれに従って手を貸そうとしたが、それがいけなかった。
蝙蝠の姿をした妖鬼は狼の様に鋭い犬歯を見せて綺蝶を噛もうと試む。
だが、綺蝶はそれを見切っていたのか、慌てて首を背後に動かして、牙を避ける。
その顔に焦りはない。笑った表情を浮かべて反撃を喰らわせる。
彼女の突きの攻撃が蝙蝠の羽に直撃し、妖鬼は悲鳴を上げる。
「これで分かりましたよね?お嬢さんの生殺与奪の権は私が握っているんです。さっさと答えてくださいよ」
綺蝶は体全体からどす黒いオーラの様な物を纏わせて言った。その光景を風太郎は遠い距離から眺めていたが、あまりにも黒かったためか、思わず身震いしてしまう。
最も、綺蝶本人としては悪くなっているつもりなどない。むしろ、これは正当な権利とさえ思っていた。
彼女は刀をチラつかせながら、笑顔で脅していく。
「早く答えてくださいよぉ~そうでなかったら、お嬢さんの体ボロボロになっちゃいますよ」
綺蝶はそう言って刀の先で倒れている蝙蝠を痛め付けていく。
彼女は剣の様に鋭い瞳で綺蝶を睨んだが、綺蝶は意に返す事なく軽い拷問を終え、もう一度、彼女に向かって尋ねる。
「答えてください。お嬢さん。この大学に潜入している妖鬼の数を答えてください」
容赦はない。あまりにもしつこく喰らい付く態度に彼女の瞳の中には『焦り』『恐怖』その感情がひしめいていく。
彼女は下唇を強く噛み締めると、傷は負ったもののまだ重傷を負っていない足を蹴って、綺蝶に向かって襲い掛かっていく。
「こうなれば、他の姉妹のために、あなただけでも始末しておくわ!」
自棄になり、目の前から飛びかかってきた怪物にも動じる事なく、難なく攻撃を交わして回り込む。
回り込んだ後には、そのまま反撃を喰らわせる形で彼女の背中に斬撃を喰らわせる。
だが、まだ死ぬ程度の傷ではない。綺蝶は彼女の背後に回り込んで、倒れた蝙蝠の首元に再度刀を突き付ける。
「もうそろそろ答えてくれませんか?お嬢さんだって楽に死にたいと思いませんか?」
それを聞くなり、彼女は舌を噛む。彼女の顔色はみるみる内に悪くなり、そのまま口から血を流して地面の上に倒れ込む。
どうやら、事切れてしまったらしい。綺蝶は何の感情も見せる事なく、刀を鞘にしまって風太郎の元へと近付く。
正直に言えば、風太郎はこの時の綺蝶から発せられるどす黒いとも言えるオーラに圧倒され、思わずたじろいでしまう。
それでも、風太郎は太刀を仕舞って綺蝶の元へと寄っていく。
「お、お疲れさん。綺蝶。どうだった?あいつからは何か聞き出せたか?」
ぎごちない笑顔。綺蝶はそんな風太郎の表情など気にする事なく、いつもと同じ様な柔和な笑顔を浮かべて、
「いいえ、その前にあのお嬢さんは舌を噛んで死んでしまいました。そのために大きな情報は掴めませんでした」
「そ、そうか。残念だな。これで振り出しに戻っちまったか……」
風太郎が気を落とした様子で言うと、綺蝶はいつもの明るい声で彼を慰める。
「いいえ、そうでもありませんよ。今回の一件でおおよその予想は掴めました」
それから、綺蝶は人差し指を立てて言った。
「あの妖鬼はこう口にしていました。『他の姉妹』と……つまり、これで大体の妖鬼の正体が掴めました。他の妖鬼は殆どが女性の妖鬼だと分かります。姉妹と表現した事から、彼女に近い能力を持つ事も予想が尽きます」
彼女は柔和な笑みを浮かべて言った。そして、彼女は背中を向けて空き地から出て行く。
それに慌ててついて行く風太郎。風太郎はあの暗いオーラに気押しされながらも、彼女の後をついて行く。
と、言うのも彼女は自分の師であり、同時に……。
風太郎はこの単語を思い返した際に自分の頬が赤く染めっていくことに気が付く。
気が付けば、右側の道を歩き、三人で借りている下宿に戻っていた。
綺蝶が軋む安っぽい扉を開けて部屋の中へと入って行く。
下宿の部屋は5畳一間の狭い部屋で、簡素な流し台とトイレが付いている以外には何の特徴もないという部屋である。
そこを男女三人で借りているというのだから、討滅寮側の配慮のなさが窺える。
討滅寮うちはそういう配慮がないのは仕方がありませんが、少なくとも着替えの時くらいは部屋を出てくださいね」
綺蝶はこの下宿を借りた時にそう言った。その時の彼女の表情が有無を言わさんばかりの黒い笑顔をしていたので覚えている。
部屋にはちゃぶ台の上で復習をしている日向の姿が見えた。
彼女はそれを見ると可愛らしく笑って言った。
「近作さん。いい所まで来たら、銭湯にでも行きませんか?さっぱりしますよぉ~」
日向はそれを聞くなり、立ち上がって押し入れから、三人分のオケと石鹸、タオルを取り出して玄関にまで向かって行く。
「準備完了だ!直ぐにでも行けるぜ!」
日向は得意そうな顔を浮かべて言った。
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