上 下
51 / 135
妖鬼対策研究会編

11人姉妹との決戦

しおりを挟む
爆破未遂事件が発生するのと同時に、警察は正妖大学において学生闘争に携わっていた生徒並びに治安維持のために動いていた教授の犬と呼ばれる組織の両方に牙を向けた。
警察は菊園寺和巳は最重要容疑者として捕縛されたが、証拠不十分として釈放され、代わりに星泉雪が重要参考人として幾度にも渡る取り調べを受ける事になった。それは、死亡した佐藤幸一郎の手記に頼っての事である。
この瞬間、長根教授の殺害事件においても彼女は取り調べを受ける事となった。
その発端となった爆破物が発見されたのは非公式の研究会の部室の前。
たまたま、その前を通り掛かった生徒が発見し、教授陣に連絡を入れた事により、爆発物が発覚する事となった。
爆発物には雪の指紋はなかったが、代わりに佐藤幸一郎刑事が死亡した日と同日に惨殺された大学の生徒、三名の指紋が発見され、彼女はこの件についても当局の取り調べを受ける事となった。
だが、凶器や動機といったものが見つからなかった事から、彼女は釈放されてしまう。
だが、学内に帰った星泉雪を待つ学生たちの視線は冷たかった。
少なくとも、大手を振ってという訳にはいかなかった様だ。
彼女は既に妖鬼へと変えた校内治安維持委員会の面々を除いて、誰からも相手にはされなくなってしまう。
雪もとい阿波は歯を噛み締めながら、雪辱の機会を伺う。
少なくとも、爆破未遂事件の影響は自分たちの陣営をここまで追い詰めたのだ。
もう、彼らを狙い撃ちに出来る機会はあるまい。彼らは警戒の目を光らせている。あの蟻の這い出る研究会に集まる時に見せるあの蟻の這い出る隙間もない様な警備網をしていては新たに一蜘網打尽にする攻撃を仕掛ける事は不可能だろう。
それに、加えて、この計画はもう玉藻姑獲鳥に知れ渡っているだろう。
勝手に彼女の計画を上書きし、その上、それが失敗したとすればどうなるのかは容易に想像が付く。
阿波は自身の首があの恐ろしい槍斧で飛ばされる光景を想像して生唾を呑み込む。
こうなってはどうしようもあるまい。自分が変えた僅かばかりの手駒を従えて突撃するよりあるまい。
追い詰められた鼠は猫を噛むというが、出来るのなら、こちらは逆に噛み殺してやろうではないか。
自身が追い詰められた折に、自分の元に迫ってきた検非違使庁の役人を皆殺しにした時の様に。
彼女は集めた妖鬼たちに向かって告げた。
「総力戦よ。やるしかないわ」
それだけ言うと、彼女は集まった妖鬼たちに視線を向ける。
妖鬼にさせられた学生たちは首を縦に振っていく。
決戦は今夜だろう。彼女は覚悟を決め、両目を見開いて天井を、いや、こどごとく自分たちの邪魔をする対魔師の面々を睨む。











妖鬼対策研究会は戦国期における領土を守る城の様に、或いは戦争期における要塞の様に厳重な警備を敷いていた。
常に外の対魔師が見張りに動き、研究室内でも常に武器を手元に寄せていた。
自分たちを狙う最大の敵である妖鬼は爆破物や学内闘争までも使う事には警戒の目を向けるしかあるまい。
一同が机の上で腕を組んでいると、扉が開いて対魔師の獅子王院風太郎が入ってきた。
彼は一言「異常はなかった」とだけ告げて、机の上に置いてあったコーラの瓶を手に取る。
このコーラの瓶は研究会の面々が警備から戻ってきた対魔師に渡すためのものであり、彼らは一口も口を付けていない。
いや、それどころか飲みやすくするために蓋さえ開けていた。
そんな彼らの安全を請け負う人物がコーラをラッパ飲みすると、また元に戻っていく。
そんな風太郎を見送ると、五人の生徒たちが互いに顔を見合わせていく。
そして、全員が頭の中に出した暗黙の回答に答えるために、首を縦に動かしていく。
彼ら彼女ら全員は刀を持って動き出そうかと考えた時だ。
外で大きな音が聞こえたために、その思考が中断されていく。
それを聞いた研究会の面々は武器を持って扉を開けて、外で起きた音を確認する。
すると、そこには元は学生闘争に携わっていた学生や校内治安維持委員会に所属していた学生たちが一同に並んでいた。
先手を放ったのは一条新太郎。彼はパチンコと石ころをポケットから取ると、並んでいた妖鬼たちに向かって放つ。
爆発音が鳴り響き、並んでいた妖鬼たちが倒れていく。
もう一撃を喰らわせようとしたが、その前に犬の様な耳を生やした男子生徒が噛み付きにかかった。
一条は何度も何度も頭上から迫る男子生徒に向かってパチンコを放ったが、空気を爆発させるばかり。
犬の様な男子生徒が彼に噛み付こうとした時だ。一条は全身から冷や汗をかきながら、怪物を眺めていたが、その前に日下部が怪物の首を跳ね飛ばした事により、彼は九死に一生を得る事になった。
妖鬼に最初に斬りかかったのは海崎英治であった。
英治は大勢の彼らが群がっている場所に自分一人だけ移動すると、刀を抜いて彼らの真ん中に斬り込む。
突然、現れた伏兵に慣れなかったのか、妖鬼たちは群れから散り散りになっていくが、それは対魔師や妖鬼対策研究会の面々が許さない。
不意を突かれて逃げる大量の妖鬼たちの首を彼ら彼女らが一気に落としていく。
たちまちのうちに怪物は二十で収められるまでに減らしていく。
加えて、対魔師と妖鬼対策研究会の面々の犠牲者は皆無。
勝負は付いたようなものだ。海崎が安堵の溜息を漏らして、そろそろ逃げた何処かの妖鬼と位置を入れ替えて部室の前に戻ろうかと思案していた時だ。
彼は背後に気配を感じて刀を斜めに構えて襲ってくるであろう攻撃に備える。
予想は当たっていたらしい。彼の背後には鼻息を荒くした少女の様に見える女性の姿があった。
その上、彼女は真っ赤な槍を振り回して英治を狙っていた。
彼女は刀の刃と拮抗した事を確認すると、舌を打って槍を引き抜いて、そのまま何度も何度も槍の先端を英治に向かって振っていく。
英治はその度に刀で槍の先端を撃墜し、文字通り返す刀で彼女に斬りかかっていく。
暫くの間、互角の斬り合いが続いたが、やがて背中から蝙蝠の翼を生やした女性は空中へと飛び上がり、今度は自身の分身にして姉妹である十一体を出していく。
英治を包囲して殺すつもりなのだろう。
彼は刀を構えてこの事態を打開する策を立てたのだが、一向に思い付かない。
焦燥感に襲われていると、小さな氷の人形のように小さなものがその内の数体に纏わりつく。
数体が一時戦闘不能に陥ると、他の数体もそれを見て空中で動きを停止する。
英治は校庭から、少し離れた部室の前を見つめる。
すると、そこには親指を立てた風太郎の姿。
彼はそんな風太郎に向かって親指を立て返す。
しおりを挟む

処理中です...