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船橋事変編
氷堂冴子が語る狡猾な妖鬼の話
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冴子は驚愕する二人を映画館から喫茶店へと連れ出し、そこでコーヒーを手にどうして味方を騙してまで映画館に巣食う魔物を狩ったのかを説明していく。
「簡単な話さ、敵を騙すのにはまず味方からだというだろう?私はあの映画館に巣食う怪物がいざとなれば、また一時的に逃れるだろうという事には簡単に予想が付いたからな」
冴子は次にどうしてその映画館に巣食う妖鬼に迫ったのかを語っていく。
まず、彼女は映画館に適当な映画の券を購入して忍び込み、次に関係者以外が入れない出入り口へと忍び込み、そこで隠し持っていた刀を持って辺りを見つめていく。
そして、部屋の側で怪しげな動きをする従業員に声を掛けたところ、それが当たったらしい。
彼女は即座に自身の破魔式を利用して従業員として潜り込んでいた妖鬼を浄化して倒したのだという。
最も、従業員に化けていた妖鬼の方も激しく抵抗したために、討伐にはそれなりの時間が掛かったのだという。
「成る程、そんな事があったんですか、別の感情を抱いてしまい本当に申し訳ありませんでした」
「謝る事はないさ」
冴子はそう言って綺蝶を制して、勝ち誇った顔を浮かべて告げた。
「お前の様に強力な破魔式を持ちいらずに上がってきた身だからな。これでも、妖鬼を嗅ぐ事には長けているんだ」
彼女はそう言って自らの鼻を指差す。
風太郎は綺蝶への態度を不快に思ったが、彼女自身が優れていたものを持っているために、何も言えずにただコーヒーの中に視線を落とすばかり。
綺蝶も反論を行わない。ただ、悲しそうな顔を浮かべてコーヒーを啜っていく。
その顔を見た時に風太郎の中の何かが爆発した。彼は席の上から立ち上がると、冴子に向かって言葉を刃物の様に言った。
「何が敵を騙すのには味方からだ。そんな分かりにくい事を言うから、あんたが最初は本当に遊んでるんだと思ったんだろうが。強力な破魔式を持てない?そんな奴が何で高位の対魔師になれたんだ?その鼻だけでか?」
冴子はそれを聞いてピクピクと眉を動かす。眉間にも青筋が寄っている。
どうやら、相当に起こっているらしい。彼女は立ち上がるのと同時に風太郎の胸元を掴んで、
「お、お前よくも言ってくれたなッ!私は必死に努力してこの地位を掴んだんだッ!それに対して斑目の奴はどうだ!?あいつは単に闇の破魔式なんていう元から強い式神に見染められただけに過ぎない。何の努力もせずにーー」
「何の努力もしてない?お前に綺蝶の何が分かるッ!」
風太郎は顔を真っ赤にして叫ぶ。そして、それまでは胸ぐらを掴んでいた冴子の手を掴み、反対に彼女の胸ぐらを掴む。
「綺蝶はなこれまでずっと頑張ってきたんだよ!オレに剣を教え、オレに破魔式の事を教えて、オレに対魔師としての道を教えてくれたッ!破魔式だけに頼ってる馬鹿なら、こんな事を教えたりしねぇ!」
冴子はそう語る風太郎の迫力に気後れしていく。あまりの剣幕に彼女は逆らえずに形だけの謝罪を口にして椅子の上に座っていく。
そして、座った時に周りの冷ややかな視線が自分に突き刺さっている事を知り、耳を真っ赤に染めていく。
それから、この少年の前では斑目を侮辱する事をやめ、手元にあったコーヒーを黙って啜っていく。
今日の日ばかりは普段は何とも思わないコーヒーがやけに苦い。
冴子は『敗北』の味を知った様な気がした。
喫茶店での気まずい話し合いが終わった後に、彼女は妖鬼の姿を見つけたという場所に三人を案内していく。
彼女の案内する場所は当初こそ、まだ店や家があったが、次第に海の方に近くなっていく。
目撃されたのは海なのだろうか。そんな事を思っていると、彼女はその海の前から見えて、多くの人々を惹きつける場所を指差す。
「あれが、我々の今回の任務を言い渡された場所……船橋ヘルスケアセンターだよ」
「ふ、船橋ヘルスケアセンター!?」
二人は同時に声を重ねて叫ぶ。それも当然だ。何故なら、そこは二人の仲間であり、綺蝶にとっては弟子であり、風太郎にとっては後輩弟子であり仲間である日向と他ならぬ彼自身が行きたがっていた船橋ヘルスケアセンターそのものであったからだ。
疑問を感じた風太郎は冴子に向かって屋敷に来た時と違う事や、どうしてそこなのかを問う。
「……私も初めは驚いたさ。けれど、昨日、宿の方に討滅寮の方から電話が掛かってきた時には本当にあそこで合っているらしい」
彼女はそう言うと、風太郎と綺蝶の両名を連れて船橋ヘルスケアセンターへと向かって行く。
船橋ヘルスケアセンター。それは、昭和30年に建てられ、以後は関東でも大人気の遊戯施設として人気を集めている場所であった。
風太郎が行きたい旨を伝えた時に説明した時に彼女が答えていた内容はそれもあながち間違いではないという事を知った。
それに加えて、彼の目を引いたのは船橋ヘルスケアセンターの上を旋回する飛行機の存在。
彼はそれに釘付けになってしまう。かつて、怪獣映画で観た様な飛行機に自分が乗れると知ると、目を輝かせずにはいられなかったのだ。
だが、冴子はそんな風太郎の興味など知った事がないとばかりに、彼を案内板から中に存在する美術館へと移動させる。
と、言うのも船橋ヘルスケアセンターで静かに打ち合わせができる場所はそこしか無かったからだ。
彼女は美術館の絵を眺めるために設置された長椅子の上に二人を座らせると、この施設内で大量の行方不明者が増えている事を語っていく。
「始めの犠牲者はこの地にたまたま休養に訪れていた二人の対魔師だった。二人が二泊三日の楽しみを終えるのと同時に電話を掛けたが、その後に連絡が途絶えた……その調査のために向かった五名の対魔師が行方不明になったのがその僅か一週間後。妙だとは思わないか?しかも、二人の対魔師が行方不明になったのが、玉藻姑獲鳥が丁度、正妖大学から手を引いた二日後の話なのだ」
「……つまり、玉藻姑獲鳥があのクソ鳥がこの件に関わっていると仰りたいんですか?」
綺蝶の問い掛けに対して彼女は無言で首を縦に動かす。
「成る程、あの報復として玉藻姑獲鳥がこの施設で何かを起こそうとしている……そう考えた方が自然だな」
「あぁ、それにここはいつも人が多い。もし、奴らが何らかの行動を起こすとするのならば、絶好の場所だからな。油断はするなよ」
冴子はそう言うと、席を立って美術館の中央に飾ってある絵を満足そうな表情で眺めていく。
だが、そんな表情の冴子とは対照的に、風太郎の体は震えていた。
と、言うのもここに集った多くの人が妖鬼の魔の手に掛かる可能性を考えたからだ。
「簡単な話さ、敵を騙すのにはまず味方からだというだろう?私はあの映画館に巣食う怪物がいざとなれば、また一時的に逃れるだろうという事には簡単に予想が付いたからな」
冴子は次にどうしてその映画館に巣食う妖鬼に迫ったのかを語っていく。
まず、彼女は映画館に適当な映画の券を購入して忍び込み、次に関係者以外が入れない出入り口へと忍び込み、そこで隠し持っていた刀を持って辺りを見つめていく。
そして、部屋の側で怪しげな動きをする従業員に声を掛けたところ、それが当たったらしい。
彼女は即座に自身の破魔式を利用して従業員として潜り込んでいた妖鬼を浄化して倒したのだという。
最も、従業員に化けていた妖鬼の方も激しく抵抗したために、討伐にはそれなりの時間が掛かったのだという。
「成る程、そんな事があったんですか、別の感情を抱いてしまい本当に申し訳ありませんでした」
「謝る事はないさ」
冴子はそう言って綺蝶を制して、勝ち誇った顔を浮かべて告げた。
「お前の様に強力な破魔式を持ちいらずに上がってきた身だからな。これでも、妖鬼を嗅ぐ事には長けているんだ」
彼女はそう言って自らの鼻を指差す。
風太郎は綺蝶への態度を不快に思ったが、彼女自身が優れていたものを持っているために、何も言えずにただコーヒーの中に視線を落とすばかり。
綺蝶も反論を行わない。ただ、悲しそうな顔を浮かべてコーヒーを啜っていく。
その顔を見た時に風太郎の中の何かが爆発した。彼は席の上から立ち上がると、冴子に向かって言葉を刃物の様に言った。
「何が敵を騙すのには味方からだ。そんな分かりにくい事を言うから、あんたが最初は本当に遊んでるんだと思ったんだろうが。強力な破魔式を持てない?そんな奴が何で高位の対魔師になれたんだ?その鼻だけでか?」
冴子はそれを聞いてピクピクと眉を動かす。眉間にも青筋が寄っている。
どうやら、相当に起こっているらしい。彼女は立ち上がるのと同時に風太郎の胸元を掴んで、
「お、お前よくも言ってくれたなッ!私は必死に努力してこの地位を掴んだんだッ!それに対して斑目の奴はどうだ!?あいつは単に闇の破魔式なんていう元から強い式神に見染められただけに過ぎない。何の努力もせずにーー」
「何の努力もしてない?お前に綺蝶の何が分かるッ!」
風太郎は顔を真っ赤にして叫ぶ。そして、それまでは胸ぐらを掴んでいた冴子の手を掴み、反対に彼女の胸ぐらを掴む。
「綺蝶はなこれまでずっと頑張ってきたんだよ!オレに剣を教え、オレに破魔式の事を教えて、オレに対魔師としての道を教えてくれたッ!破魔式だけに頼ってる馬鹿なら、こんな事を教えたりしねぇ!」
冴子はそう語る風太郎の迫力に気後れしていく。あまりの剣幕に彼女は逆らえずに形だけの謝罪を口にして椅子の上に座っていく。
そして、座った時に周りの冷ややかな視線が自分に突き刺さっている事を知り、耳を真っ赤に染めていく。
それから、この少年の前では斑目を侮辱する事をやめ、手元にあったコーヒーを黙って啜っていく。
今日の日ばかりは普段は何とも思わないコーヒーがやけに苦い。
冴子は『敗北』の味を知った様な気がした。
喫茶店での気まずい話し合いが終わった後に、彼女は妖鬼の姿を見つけたという場所に三人を案内していく。
彼女の案内する場所は当初こそ、まだ店や家があったが、次第に海の方に近くなっていく。
目撃されたのは海なのだろうか。そんな事を思っていると、彼女はその海の前から見えて、多くの人々を惹きつける場所を指差す。
「あれが、我々の今回の任務を言い渡された場所……船橋ヘルスケアセンターだよ」
「ふ、船橋ヘルスケアセンター!?」
二人は同時に声を重ねて叫ぶ。それも当然だ。何故なら、そこは二人の仲間であり、綺蝶にとっては弟子であり、風太郎にとっては後輩弟子であり仲間である日向と他ならぬ彼自身が行きたがっていた船橋ヘルスケアセンターそのものであったからだ。
疑問を感じた風太郎は冴子に向かって屋敷に来た時と違う事や、どうしてそこなのかを問う。
「……私も初めは驚いたさ。けれど、昨日、宿の方に討滅寮の方から電話が掛かってきた時には本当にあそこで合っているらしい」
彼女はそう言うと、風太郎と綺蝶の両名を連れて船橋ヘルスケアセンターへと向かって行く。
船橋ヘルスケアセンター。それは、昭和30年に建てられ、以後は関東でも大人気の遊戯施設として人気を集めている場所であった。
風太郎が行きたい旨を伝えた時に説明した時に彼女が答えていた内容はそれもあながち間違いではないという事を知った。
それに加えて、彼の目を引いたのは船橋ヘルスケアセンターの上を旋回する飛行機の存在。
彼はそれに釘付けになってしまう。かつて、怪獣映画で観た様な飛行機に自分が乗れると知ると、目を輝かせずにはいられなかったのだ。
だが、冴子はそんな風太郎の興味など知った事がないとばかりに、彼を案内板から中に存在する美術館へと移動させる。
と、言うのも船橋ヘルスケアセンターで静かに打ち合わせができる場所はそこしか無かったからだ。
彼女は美術館の絵を眺めるために設置された長椅子の上に二人を座らせると、この施設内で大量の行方不明者が増えている事を語っていく。
「始めの犠牲者はこの地にたまたま休養に訪れていた二人の対魔師だった。二人が二泊三日の楽しみを終えるのと同時に電話を掛けたが、その後に連絡が途絶えた……その調査のために向かった五名の対魔師が行方不明になったのがその僅か一週間後。妙だとは思わないか?しかも、二人の対魔師が行方不明になったのが、玉藻姑獲鳥が丁度、正妖大学から手を引いた二日後の話なのだ」
「……つまり、玉藻姑獲鳥があのクソ鳥がこの件に関わっていると仰りたいんですか?」
綺蝶の問い掛けに対して彼女は無言で首を縦に動かす。
「成る程、あの報復として玉藻姑獲鳥がこの施設で何かを起こそうとしている……そう考えた方が自然だな」
「あぁ、それにここはいつも人が多い。もし、奴らが何らかの行動を起こすとするのならば、絶好の場所だからな。油断はするなよ」
冴子はそう言うと、席を立って美術館の中央に飾ってある絵を満足そうな表情で眺めていく。
だが、そんな表情の冴子とは対照的に、風太郎の体は震えていた。
と、言うのもここに集った多くの人が妖鬼の魔の手に掛かる可能性を考えたからだ。
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