太刀に宿る守護霊とその上位の神々に認められたので、弟と妹を殺された兄ちゃんは仇の相手である妖鬼に復讐を誓います!

アンジェロ岩井

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船橋事変編

だって、私の英雄

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「テメェらいたいけな娘を寄ってたかって、村ぐるみでいじめやがって!許せねぇ!許せねぇ!テメェら人間じゃあねぇや!叩き斬ってやる!」
あれはいつの日の事だっただろう。ハッキリとは思い出せない。いいや、正確に言えばあの日の出来事はモヤがかった様にぼんやりとしか思い出せない。
と、言うのも彼女の頭の中にはあの日の出来事があまり頭に残っていないからだ。
だが、妖鬼になった日に自分をそれまで虐めていた村人が一斉に始末された事だけは覚えている。そして、今現在、父と慕う男と合流した事も。
今は関係ない。そう言い聞かせて目の前で闇の力を振るう女と刃を斬り結ぶ。
金属の音が暫く響き合った後に、彼女の夜の闇よりも果てしなく黒い闇が自分に向いている事に気が付く。
あの闇が自分に当たった時にはどうってしまうのだろうか。想像もしたくない。
だからこそ、彼女は必死になり、炎の弾を作り出していく。
必死に目の前の女性を仕留めようと躍起になっていくが、それが逆に彼女の首を絞める事になっていた。
もがけばもがくほど、足を取られる底無し沼で溺れているかの様な感覚だ。
炎の弾も自分の短刀も悉く交わされていく。
このままでは敵わない。やむを得ずに、彼女はその場を離れて自分が父と慕う制服姿の男の元へと向かう。
制服姿の男と合流すると、二人は互いに背中を預けて二人の対魔師に向かって対峙していく。
文代は短刀を綺蝶の目の前に突き付けるのと同時に、そこから炎弾を出して彼女を襲っていく。
彼女はそれを闇の破魔式でかき消し、刀を思う存分に試し振りして空を切る音を聞かせてから、文代に向かって刀を突いていく。
文代は手に持っていた短刀を斜めに構え、彼女の刀の先が自分を突こうとするのを防いだが、どうも上手くはいかないらしい。
今までは当たらなかった筈の彼女の刀による攻撃が微かに文代の頬を貫く。
と、その途端に背中を守っていた筈の傘杖が彼女と位置を入れ替えて、綺蝶に向かってサーベルを振っていく。
綺蝶と傘杖とは二、三合、刀とサーベルとを打ち合っていたが、そこは彼女なりの礼儀だったのだろう。
彼女はやがて刀を闇に覆わせると、彼にとどめを刺すべく刀を振るう。
「ダメですの!お父様逃げてくださいませ!」
義娘の必死の懇願にも関わらず、傘杖は第一の闇の破魔式によって暗黒の雲の中へと消えていく。
「第一の破魔式『暗黒星雲の彼方』私の出す黒色の雲に吸い込まれた妖鬼はこの世から消えてなくなります。何処へ行ったのかは私も知りませんが、まぁ、遠い所でしょうね。仮に何処か別の場所に行ったのだとしても、少なくとも、地球が滅亡するまでは戻って来ないんじゃあないでしょうか」
「……父様?」
だが、文代には綺蝶の刃の含まれた言葉は聞こえていなかったらしい。ただ、呆然とした様子で義父の名前を呼び続けていた。
「もしもし~?聞こえてますか?文代さん?」
綺蝶は煽る様に呼び掛けていたのだが、彼女には聞こえていなかったらしい。
やむを得ずに、綺蝶はそのまま闇の破魔式を使用して彼女を斬ろうと目論んだのだが、その前に氷堂冴子が彼女の首を刎ねて地面の上に落とす。
首は地面の上を転がり、同時に胴体と首の両方が光に包まれて浄化されていく。
文代は首を刎ね落とされ、体を浄化されつつあるものの全くと言っていい程に恐怖はない。
何故ならば、彼女にはいつだって頼りになる英雄が付いていたのだから。
彼女は涙を流しながら、これまでの事を思い返していく。
彼女は花山村という小さな村に生まれ育った。ある時期までは彼女は普通の村人として過ごし、普通に暮らしていた。
平凡と呼べる日々の中で少女は育ち、このまま何事もなく平穏な一生を過ごす筈であったのだ。
だが、ある日、彼女は村の有力者の跡取り息子に迫られ、それを拒否した。
すると、彼はある事ない事を両親に吹き込み、彼女の家を村八分にし、虐め倒す様に進言した。
息子可愛さに両親はそれに従い、村人たちも彼女の家には何も売らず、家を壊すまでにしていく。
そして、最後には有力者の息子が彼女を奪うために、彼女の家族を殺し、家を焼いたのだ。
泣き叫ぶ彼女に迫ろうと息子が現れた時だ。義父が、自分の中の英雄が現れて、あの台詞を吐いて村人を皆殺しにしたのだ。
そして、弱っていた自分を助け、妖鬼にしてくれたのだ。あの人は私の英雄。
文代は最期に傘杖と出会った時の事を思い返しながら、静かに身を地獄の業火の中へと捧げていく。
彼女の死体が消えていくのを確認すると、冴子は顎をしゃくり上げて、
「……斑目。この後処理は大変な事になるぞ、上様には何と報告するつもりだ?」
「……危機的状況になったので、やむを得ずに闇の破魔式を使用したと報告しますよ。それよりも、横から割って入って首を斬るなんてあなたらしくもありませんね?氷堂さん?」
「妖鬼に隙が出来たのなら、当然だろう?それよりも、気になるのは風太郎だ。あの女は自分と同じ妖鬼が風太郎を襲っていると言っていたな。その応援に向かうぞ」
冴子はそう言って綺蝶を連れ出して戦いでメチャクチャになった部屋を後にしていく。
どうやら、まだ戦いは続いているらしいが、綺蝶は風太郎ならば、自分が助かるまでの間にその妖鬼を始末している可能性もなきにあらずと考えていた。
なので、彼女はのんびりと風太郎が泊まる部屋へと向かっていた。
すると、そんな二人の前に風太郎が現れる。大小の傷を負ってはいるものの、五体満足なので大丈夫だろう。
綺蝶は風太郎に向かって刺客の詳細を尋ねる。
「獅子王院さん。刺客は船橋の件について何か言及していませんでしたか?こちらは戦うのに必死で、尋問を忘れてしまったんです。よろしければ、教えて頂けると幸いですが……」
「いいや、向こうも何も言っていなかったぜ、特に何も言う事なくオレの刀の前に消えていったよ」
「……そうですか」
綺蝶は残念そうな表情を浮かべるとそのまま風太郎に自分の後を追う様に指示を出す。
「おい、綺蝶。このまま何処へ行くつもりなんだよ?」
「船橋ヘルスケアセンターの名物と言えば何ですか?獅子王院さん」
彼は迷う事なく答えた。巨大な滑り台の付いたプール、と。
「正解です。もし、そこに妖鬼が隠れていたらどうしますか?」
「ま、待てよ!それはあり得ないぜ!」
風太郎は焦った顔を浮かべると、電電なる妖鬼から聞いた情報を語っていく。
綺蝶はそれを聞くと、真剣な表情で風太郎を見つめて、
「お手数ですが、獅子王院さん……私たちと合流するまでの間を覚えている限りの範囲でいいのでお話し願えませんか?」
風太郎は黙って首を縦に動かして電電との戦いの詳細を語っていく。
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