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船橋事変編
義経千本刀
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「あの様子だと余計な警戒心を与えかねていません。全く、失策でした。ええ」
彼はそう言うと、自身の組織の本部の上司の元へと電話を掛けていく。
それから、再びダイヤルを回して今度は別の場所へと電話を掛けていく。
だが、今度は繋がらない。交換手の口から繋げないと言われれば最早、それまでだ。
青年は乱暴に施設の公衆電話から耳を離して腹立ち紛れに受話器を乱暴に置く。
どうやら、船橋市内に侵入した自分の同志とは未だに連絡が取れないらしい。
一体、何が起きているのだというのだ。
美しい顔の青年はあの三人が消えた施設の中で一人、コーヒーを飲みながら今後の計画を思案していく。
彼が今、なすべきことはあの怪物たちと対魔師とを戦い合わせて、潰し合わせる事だろう。
そのためには、どちらかだけに勝ってもらっては困るのだ。そう、両者が共倒れてこそ、我々の組織がこの日本の牽制を握れるのだ。
そのためには怪物もそれを退治する陰陽師擬きも全て倒れてもらわなくては困る。絶妙なバランスの上で。
彼はコーヒーを飲みながら、その事を考えた。
三人は先程の気不味い空気も何処へやら、そのまま先程の男についての正体へと考察を重ねていく。
「あの男は一体、何者か?」という疑問にそれぞれが考える正体を話し合っていくものの、答えは一向に出ない。
結局、その日は答えの出ぬまま昨日の滑走路へと移動する事になった。
全員が煮え切らない思いであったが、それでもその疑問を抱えたまま、一歩も動かぬよりも、他に隠れている二体の妖鬼が起こすとされる騒動を止める方が先決だと考えたのだ。
三人は滑走路へと移動し、例の妖鬼が現れるのを待っていた。
だが、待てども待てどもその妖鬼は姿を見せない。
骨折り損のくたびれもうけとなるかと思われた時だ。
夜になり、滑走路が閉められる時間になり、二人の妖鬼が現れた。
表向きは二体とも普通の人間。だが、その歩き方は異様。
全員が隠し持っている刀と太刀を抜ける様に準備していく。
だが、あまりにも堂々と来すぎてはいないだろうか。
不自然にも感じてしまう。まさか、この場でいきなりの虐殺を行うつもりか。
それとも、単に何者かに突き動かされているだけなのか。
それに、入り口の方から聞こえる悲鳴も気になる。あれも、奴らが起こしているのだろうか。
風太郎は訳が分からなくなり、先制攻撃とばかりに太刀を振っていく。
このまま太刀で相手を斬られれば良いと考えた時だ。
背後で綺蝶が大きな声で彼を呼び止める。
「待ってください!獅子王院さん!何か変です!」
その声を聞いて、風太郎が立ち止まった次の瞬間の事だった。
彼の前で旧警視庁の制服を着た男の体から巨大なヒルの様なものが出てくる。
風太郎はそれを危険に感じ、即座に氷結下僕を使用してヒルに向かって攻撃を喰らわせていく。
風太郎は半ば反射的にこのヒルが蔓延しては不味いと考えて、氷で固めさせていったのだ。
その判断は正しかったと言えるだろう。何故なら、あの妖鬼の体から出てきたのは人に吸い付くヒルだったのだから。
風太郎が荒い息を吐いて、その様子を眺めていた時だ。不意に真横から空を切る音が聞こえて、横を向くとそこには太刀を持った源平合戦の銅丸鎧を纏った男が怒りの形相で太刀を振り回して現れた。
「貴様、貴様、貴様がァァァ~!!」
彼はそう叫びながら、太刀を乱暴に振り回していく。
風太郎はこの古い鎧を纏った男の言い分が分からなかった。この男の相棒である妖鬼はこの手段で自分を殺そうとしていたのではないのか。
そう考えていた時だ。目の前の妖鬼は乱暴に刀を振り回しながら問い掛ける。
「対魔師だな!?貴様どもがオレたちを狩るのは理解できる……だが、どうしてあんな卑劣な手段であいつが死ななければならないッ!」
「あんな卑劣な手段?何を言っている?」
男の言い分が飲み込めない。確かに、最初に風太郎は先手を打とうとしたが、それが『卑劣な手段』などと呼称される程のものなのだろうか。
そう考えていた時だ。辺りの空気を揺らさんばかりの大声で男は風太郎を詰っていく。
「惚けるなッ!たった今、貴様がその氷で固めたヒルの事だッ!あれを埋め込んだのはお前たち対魔師だろう!?」
男はそう言うと強い力で風太郎の太刀を彼の手元から弾き飛ばしていく。
風太郎の太刀が地面の上を転がっていくのが見えた。
起き上がろうとする風太郎に向かって彼は刀の先を突き付けて、
「お前は首を刎ねてはやらぬ。代わりに、体のあちこちを痛ぶってやろうではないか。それが、お前に相応しい道だ」
男が風太郎の体に向かって刀を振ろうとした時だ。
冴子が風太郎と彼との間に割って入り、刀を振るう。
「いい加減にしなよッ!あたし達はそんな破魔式を使ってる奴なんて見た事がないし、あんたも分かっている筈だろう!?」
「では、誰だ!?誰がやった!?貴様らでないとすれば、誰だ!?」
その声と共に、背後から銃声が聞こえる。同時に、鎧の男の足が揺らぐ。
その正体を知った時に全員が驚愕の視線を向けていく。
何故なら、彼らは中世の騎士の様な鎧を身に纏っていたからだ。
日本のそれも現代の施設には明らかに相応しくない集団だ。
全員が警戒の視線を向けていると、その奇妙な鎧の集団から、『八の字』に分けた黒い髭を蓄えた赤い将校姿の男が現れた。だが、その制服も今の時代には似つかわしくはない。どちらかと言えば明治時代の方がその制服の出番があって然るべきだった。
赤い将校姿の男は腰に下げていたサーベルを抜き取ると、固まっている風太郎たちに向けて叫ぶ。
「我々の名前は『万里の騎士団』。別名、警視庁闇祓い課とも言うがね」
不敵な笑いを浮かべている先頭の男は馬の上から会釈をしながら言った。
「警視庁の方でしたか、それはご丁寧に、ですが、我々対魔師は既に討滅寮の方から派遣されているのはご存知の筈ですよね?どうして、この様な真似をなさるのかが不明です」
「不明も何もね、我々はこの施設内に潜り込んだ妖鬼どもを片付けるべく派遣されたんだ。キミらに邪魔をされる覚えはないね」
「ですが、上様からはその様な指示は頂いておりません。お手数ですが、引き返して頂けると幸いです」
綺蝶は笑顔でそう進言していたが、顔の何処かに怒りを浮かべていた。
どうやら、警察関係者が突然、現れて理不尽な事を言い出した事に相当、怒っているらしい。
彼はそう言うと、自身の組織の本部の上司の元へと電話を掛けていく。
それから、再びダイヤルを回して今度は別の場所へと電話を掛けていく。
だが、今度は繋がらない。交換手の口から繋げないと言われれば最早、それまでだ。
青年は乱暴に施設の公衆電話から耳を離して腹立ち紛れに受話器を乱暴に置く。
どうやら、船橋市内に侵入した自分の同志とは未だに連絡が取れないらしい。
一体、何が起きているのだというのだ。
美しい顔の青年はあの三人が消えた施設の中で一人、コーヒーを飲みながら今後の計画を思案していく。
彼が今、なすべきことはあの怪物たちと対魔師とを戦い合わせて、潰し合わせる事だろう。
そのためには、どちらかだけに勝ってもらっては困るのだ。そう、両者が共倒れてこそ、我々の組織がこの日本の牽制を握れるのだ。
そのためには怪物もそれを退治する陰陽師擬きも全て倒れてもらわなくては困る。絶妙なバランスの上で。
彼はコーヒーを飲みながら、その事を考えた。
三人は先程の気不味い空気も何処へやら、そのまま先程の男についての正体へと考察を重ねていく。
「あの男は一体、何者か?」という疑問にそれぞれが考える正体を話し合っていくものの、答えは一向に出ない。
結局、その日は答えの出ぬまま昨日の滑走路へと移動する事になった。
全員が煮え切らない思いであったが、それでもその疑問を抱えたまま、一歩も動かぬよりも、他に隠れている二体の妖鬼が起こすとされる騒動を止める方が先決だと考えたのだ。
三人は滑走路へと移動し、例の妖鬼が現れるのを待っていた。
だが、待てども待てどもその妖鬼は姿を見せない。
骨折り損のくたびれもうけとなるかと思われた時だ。
夜になり、滑走路が閉められる時間になり、二人の妖鬼が現れた。
表向きは二体とも普通の人間。だが、その歩き方は異様。
全員が隠し持っている刀と太刀を抜ける様に準備していく。
だが、あまりにも堂々と来すぎてはいないだろうか。
不自然にも感じてしまう。まさか、この場でいきなりの虐殺を行うつもりか。
それとも、単に何者かに突き動かされているだけなのか。
それに、入り口の方から聞こえる悲鳴も気になる。あれも、奴らが起こしているのだろうか。
風太郎は訳が分からなくなり、先制攻撃とばかりに太刀を振っていく。
このまま太刀で相手を斬られれば良いと考えた時だ。
背後で綺蝶が大きな声で彼を呼び止める。
「待ってください!獅子王院さん!何か変です!」
その声を聞いて、風太郎が立ち止まった次の瞬間の事だった。
彼の前で旧警視庁の制服を着た男の体から巨大なヒルの様なものが出てくる。
風太郎はそれを危険に感じ、即座に氷結下僕を使用してヒルに向かって攻撃を喰らわせていく。
風太郎は半ば反射的にこのヒルが蔓延しては不味いと考えて、氷で固めさせていったのだ。
その判断は正しかったと言えるだろう。何故なら、あの妖鬼の体から出てきたのは人に吸い付くヒルだったのだから。
風太郎が荒い息を吐いて、その様子を眺めていた時だ。不意に真横から空を切る音が聞こえて、横を向くとそこには太刀を持った源平合戦の銅丸鎧を纏った男が怒りの形相で太刀を振り回して現れた。
「貴様、貴様、貴様がァァァ~!!」
彼はそう叫びながら、太刀を乱暴に振り回していく。
風太郎はこの古い鎧を纏った男の言い分が分からなかった。この男の相棒である妖鬼はこの手段で自分を殺そうとしていたのではないのか。
そう考えていた時だ。目の前の妖鬼は乱暴に刀を振り回しながら問い掛ける。
「対魔師だな!?貴様どもがオレたちを狩るのは理解できる……だが、どうしてあんな卑劣な手段であいつが死ななければならないッ!」
「あんな卑劣な手段?何を言っている?」
男の言い分が飲み込めない。確かに、最初に風太郎は先手を打とうとしたが、それが『卑劣な手段』などと呼称される程のものなのだろうか。
そう考えていた時だ。辺りの空気を揺らさんばかりの大声で男は風太郎を詰っていく。
「惚けるなッ!たった今、貴様がその氷で固めたヒルの事だッ!あれを埋め込んだのはお前たち対魔師だろう!?」
男はそう言うと強い力で風太郎の太刀を彼の手元から弾き飛ばしていく。
風太郎の太刀が地面の上を転がっていくのが見えた。
起き上がろうとする風太郎に向かって彼は刀の先を突き付けて、
「お前は首を刎ねてはやらぬ。代わりに、体のあちこちを痛ぶってやろうではないか。それが、お前に相応しい道だ」
男が風太郎の体に向かって刀を振ろうとした時だ。
冴子が風太郎と彼との間に割って入り、刀を振るう。
「いい加減にしなよッ!あたし達はそんな破魔式を使ってる奴なんて見た事がないし、あんたも分かっている筈だろう!?」
「では、誰だ!?誰がやった!?貴様らでないとすれば、誰だ!?」
その声と共に、背後から銃声が聞こえる。同時に、鎧の男の足が揺らぐ。
その正体を知った時に全員が驚愕の視線を向けていく。
何故なら、彼らは中世の騎士の様な鎧を身に纏っていたからだ。
日本のそれも現代の施設には明らかに相応しくない集団だ。
全員が警戒の視線を向けていると、その奇妙な鎧の集団から、『八の字』に分けた黒い髭を蓄えた赤い将校姿の男が現れた。だが、その制服も今の時代には似つかわしくはない。どちらかと言えば明治時代の方がその制服の出番があって然るべきだった。
赤い将校姿の男は腰に下げていたサーベルを抜き取ると、固まっている風太郎たちに向けて叫ぶ。
「我々の名前は『万里の騎士団』。別名、警視庁闇祓い課とも言うがね」
不敵な笑いを浮かべている先頭の男は馬の上から会釈をしながら言った。
「警視庁の方でしたか、それはご丁寧に、ですが、我々対魔師は既に討滅寮の方から派遣されているのはご存知の筈ですよね?どうして、この様な真似をなさるのかが不明です」
「不明も何もね、我々はこの施設内に潜り込んだ妖鬼どもを片付けるべく派遣されたんだ。キミらに邪魔をされる覚えはないね」
「ですが、上様からはその様な指示は頂いておりません。お手数ですが、引き返して頂けると幸いです」
綺蝶は笑顔でそう進言していたが、顔の何処かに怒りを浮かべていた。
どうやら、警察関係者が突然、現れて理不尽な事を言い出した事に相当、怒っているらしい。
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