太刀に宿る守護霊とその上位の神々に認められたので、弟と妹を殺された兄ちゃんは仇の相手である妖鬼に復讐を誓います!

アンジェロ岩井

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船橋事変編

黒崎玲太郎は如何にして騎士団を引き上げたか

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黒崎玲太郎は風の破魔式を完璧に活用し、妖鬼を仕留めた風太郎の姿を見て思わず膝を突いてしまう。この男は怖くないのだろうか。
自分だって24魔将の類は斑目明蝶とでなければ相手にできなかった。
そうだろう。妖鬼の総大将、玉藻紅葉配下の24魔将は上位の対魔師でなければ相手にできない存在ではないのか。
そんな事を考えながら、黒崎は風太郎に問い掛けようとした時だ。
綺蝶は彼の肩を掴んで、
「お待ちなさい。このまま行くつもりですか?行って何をするつもりです?」
と、牽制目的の厳しい口調で彼の行動を遮る。
黒崎はそれを見ると、猟師に囚われる際に命乞いをする鹿さながらに涙を流して、
「あ、あれは昔のオレなんだ……分かるだろう?あれはオレなんだ。昔のオレ……」
綺蝶はそれを冷たい視線で見下ろす。
どうやら、この男は風太郎を過去の自分と同一視しているらしい。
だが、綺蝶としては自分の愛弟子とこんな身勝手な男と同一視されるのは甚だ迷惑だ。彼女は何も言わずにぶつぶつと呟き、過去に思いを馳せる男を放置して風の破魔式までも使用した愛弟子を迎えに行く。
「お疲れ様です!獅子王院さん!」
彼女はそう叫ぶと、倒れ掛かるように彼の体に抱き付いていく。
「わっ、ちょ、危ないって綺蝶……」
「あなたはすごいです。と、言うのも24魔将の中の最古参の妖鬼を仕留めたからですよ!これで、今の24魔将は少し前に討伐した阿波なる妖鬼も含めて、後、18体……凄いですよ!過去の歴史上にはなかった程の速度で24魔将を減らしていっています!」
彼女曰く、妖鬼の精鋭にして総大将、玉藻紅葉の親衛隊、24魔将は常に入れ替わる形で運営されていたのだという。
彼らは常に強さでその地位に選ばれ、常に対魔師を葬ってきたのだが、やはり、上位の対魔師と頻繁に交戦するという事から、入れ替わりも多い。
そのため、24魔将の中でも徳川幕府が成立するよりも以前にその地位に就いていた妖鬼はたったの10体程しかいないらしい。
風太郎はその10体の内の一体を倒したのだ。これは褒められて当然の事である。
綺蝶が自慢の弟子の頭を笑いながら撫でているのを眺め終えると、黒崎は立ち上がってまだ立ち上がれる部下を引き連れて、一瞥もする事なくこの遊戯施設を後にしていく。
後味の良い淡白とした処置であったが、今回はもうこれ以上は手を出さないという事で解釈しても良いだろう。
と、そこにようやくこの施設の管理人と思われる男が現れて綺蝶たちを咎めていく。
「お客様!何があったのでしょう!?どうして、お客様方それぞれが空の旅を楽しんで頂くためにこちらで設置した滑走路の上にこんなにも大勢の人が倒れているのでしょうか!?それに、お客様方が手にしていらっしゃるその刀剣類は何でしょうか!?」
綺蝶は改めて管理人と思われる男性の背後を見ていく。どうやら、管理人は施設の従業員だけではなく用心のために警備員も用意していたらしい。
最も、そんな普通の力を持つ人が来たところで破魔式やら魔獣覚醒やらに太刀打ちできるとは思えない。
それに、自分たちもこの場を刀で片付ける事ができるのだが、そんな穏当でない事はやらない方が良いだろう。
今後、ここに連れてくる予定の日向のためにも。
なので、彼女はいつもの様な柔和な笑みを浮かべて、
「申し訳ありません。少し私事がありまして……」
と、彼女は丁寧に頭を下げて謝罪の言葉を口にはしたのだが、管理人の怒りは収まらなかったらしい。
彼は綺蝶を代表で引っ張っていくと、冴子と風太郎の両名を従業員と警備員に見張らせていく。
同時に、地面の上に倒れている鎧を着た男たちを担架で運び出していく。
これで、彼らは安心だろう。
それが終わると、彼らは蟻の這い出る隙間もない程の包囲網を二人の前に築いていくが、刀や太刀を振れば余裕だろう。
警備員は怯えた様子で警棒をこちらに向けているが、そんなものは単なる気休めくらいにしかならないだろう。
いや、それにすらなるか怪しい。彼らからすれば見知らぬ宇宙人を相手にしている気持ちなのかもしれない。
宇宙人と言えばアメリカの方で目撃情報も多いらしいが、どうなのだろう。
退屈しのぎに冴子に聞いてみたが、
「そんな胡散臭いものは信じていない。と、言うかそれは今、聞かなければならない話なのか?」
と、無造作につっけ返されてしまう。後は互いに顔を合わせる事もなく綺蝶の帰りを待ち続けていた。
日が大きく沈んで、太陽が隠れて代わりに月と満点の星空が現れる頃に、綺蝶は大きく手を振ってこちらに現れた。
「お待たせして申し訳ありません。少々、説得に時間が掛かってしまいまして……」
背後にはやつれた様子の管理人の姿。連れて行かれた部屋で彼女は容赦なく反論し、毒舌や皮肉を言って聞かせたのは想像に難くない。
二人が内心、呆れていると、彼女は両手の拳を握り締めながら、心底から嬉しそうな顔で告げた。
「しかも、私と氷堂さんの泊まった部屋の弁償については無料タダ。しなくても良いとまで仰ってくださったんです。さぁ、任務も終わりましたし、私たちも帰りましょう」
綺蝶は満面の笑みを浮かべて一度、宿舎の方に戻り、荷物を取ってから船橋ヘルスケアセンターを後にしていく。
帰り際の東京に戻る電車の中である事実が気になったので、満足そうに流行りの曲の替え歌を歌う綺蝶の耳元で尋ねる。
「なぁ、綺蝶。お前、あの管理人の人に何を言ったんだ?」
「いやぁ、最初は普通に議論をしていたんですがね。私がこの施設を見ていた時に気になった点を二、三点指摘してらそれについて毒舌と皮肉を交えて喋ったら、顔を真っ青にして頭を額に擦り付けて言いふらさないでくれと懇願したんですよ」
綺蝶は悪い顔で笑う。それを見て思わず引き攣った笑みを見せる二人。
船橋市から電車を乗り継ぎ、ようやく東京に着くともう真夜中だった。
あの郊外の屋敷に帰るのは明日になるだろう。
風太郎がそう考えていると、綺蝶は風太郎の鼻に人差し指を当てて、
「分かってますよ。獅子王院さん。なので、今晩は東京に泊まりませんか?」
「え!?いいの!?」
「はい、獅子王院さんは24魔将の精鋭を倒しましたから、そのご褒美に、ね……」
彼女はそう言うと風太郎とまだぶつくさと不服そうな顔をする冴子を引き連れて臨時の宿屋を探す。
風太郎は苦笑しながら、可愛らしい顔で宿屋を探す師を見つめていた。
そして、密かに心の内で破魔式の事、そして自分と共に戦ってくれる事について感謝を述べた。
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