太刀に宿る守護霊とその上位の神々に認められたので、弟と妹を殺された兄ちゃんは仇の相手である妖鬼に復讐を誓います!

アンジェロ岩井

文字の大きさ
78 / 135
船橋事変編

土の破魔式と鵺と

しおりを挟む
斑目綺蝶は彼を捕らえたものの、彼の処理に戸惑っていた。彼はどうすれば、言う事を聞いてくれるのだろう。
対魔師はあくまでも妖鬼を祓う人の総称。破魔式は決して人を殺めるためのものではない。彼女の目に躊躇いが生じてしまう。どうすれば良いのだ。捕らえた彼をどの様に扱えば良いのだ。
彼女が迷っていた時だ。突然、冴子が彼女の前に現れて、黒崎の前に刀を振り下ろす。
一瞬の出来事であったが、彼女は咄嗟に黒崎を突き飛ばし、彼が死ぬという最悪の事態を避けていく。
冴子はそれを見て唇を噛み締める。それから、次に綺蝶の胸ぐらを掴み上げて、
「おい、斑目!お前、どういうつもりだ!?」
「どういうつもりとはどういう事でしょうか?氷堂さん」
「何故、あの裏切り者を庇う!まさか、お前の父の友人だからとかそんな理由だからじゃあないだろうな!?」
冴子の問い掛けに綺蝶は黙って首を横に振ってから、静かな声を吐き出して言った。
「あなたを人殺しにさせないためですよ。氷堂さん」
胸ぐらを掴まれても尚、凛とした表情を貫く綺蝶。彼女は黙って氷堂を眺めると一言だけ告げた。
「分かってください。氷堂さん」
彼女はそう言うと峰打ちで黒崎に向かって斬りかかったが、黒崎は泥を纏わせた破魔式で彼女を迎え撃つ。
それに対して光を纏わせた刀を何度も振っていく綺蝶。
二人の刀の打ち合いが続いていた時だった。突如、戦いの輪の中に巨大な鵺が倒れてきた。
鵺は二人の間に割って入り、めちゃくちゃに刀を振っていく。
どうやら、風太郎がこの鵺をここまで追い詰めたらしい。
荒い息を漏らしている胴丸鎧に異常な足と顔と尾を生やした男。
この男こそが24魔将の中の最古参。源平合戦の時代から生きている妖鬼。
彼は太刀を握り締めると、その矛先を本来の対峙した相手である風太郎ではなく、綺蝶と冴子。そして、今や満身創痍となりつつある黒崎へと向ける。
彼は大きな声で唸り声を上げながら、三名に向かっていく。
だが、それはこの妖鬼と途中まで戦いを繰り広げていた勇敢な青年が許さない。
彼は太刀を振り上げて向かっていく異様な姿をした武者の背後を思いっきり斬りつけた。
鎧に当たったので思ったよりは効果がないかもしれない。
けれども、当たらないよりはマシだ。そう言い聞かせて彼は必死になって自分の太刀を振っていく。
しつこいくらいに太刀を振るうと、武者の男はようやく振り返って此方を振り向く。
まさしく、怨念に相応しい悲痛な声を上げて風太郎へと向かっていく。
「オレの邪魔をするなァァァァァ~!!」
風太郎はそう叫んで振りかぶってきた太刀を自らの太刀を盾にして防ぐ。
何度目かの太刀と太刀との斬り合いが再開するかと思われたが、風太郎の太刀から巨大な風が巻き起こり、彼の顔に向かって勢いよく吹き付けていく。
若武者は悲鳴を上げてその場に倒れそうになったが、何とか踏み止まるともう一度、光の壁を自身の目の前に築き上げて、絶対の安心を誇る。
だが、風太郎とて負けてはいない。彼と激しい戦いを繰り広げる中で彼は光の壁の弱点とも言える箇所を見抜いていた。
彼は風の破魔式と氷の破魔式とを交互に使用して男に向かって斬りかかっていく。
光の壁は当初こそヒビすら入らずに、彼は安全を謳歌していたのだが、諦めずに攻撃を繰り返していく内に彼は知ったのだ。
一定の箇所に一定の斬撃を集中させて打っていると、そこを中心とした弱みが強力な男の盾を打ち砕いていく事を。
風太郎は何度目かの打ち付けを行った後に、光の壁が壊れた事を見て、思わず口元を緩めてしまう。
そして、彼の周りを覆う小さな壁に彼が攻撃を仕掛けていた時には何度も太刀を振って抵抗していた源平合戦の頃の胴丸鎧を着た男が姿を表す。
男は両手で太刀を持って風太郎に向かって斬りかかっていく。
風太郎と男の太刀がぶつかり合う。今度こそ、破魔式も魔獣覚醒もない正真正銘の太刀同士の斬り合い。
二人の手から放たれる斬撃は見るものを圧倒させ、その言葉を失わせていた。
特に黒崎は度肝というものを抜かれてしまったらしい。
ぼんやりとその壮大な戦いを眺めていた。
「ま、まさか……こんな使い手がいたなんて……」
「当然でしょう。私の弟子なんですから」
綺蝶の言葉に黒崎は源平合戦の鎧を身に付けた妖鬼と風太郎との戦いを見守っていく。
彼はその姿に無意識の内にかつて、まだ自分が二足の草鞋を履いていた頃にあの男と共同戦線を張っていた事を思い出す。
「己ッ!クソガキがッ!よくも、私をここまで愚弄してくれたなッ!」
男が頭上から太刀を振るう。それを真上に構えた太刀を盾の代わりにして防ぐ風太郎。
彼はそのまま男の太刀を押し返すと、風の破魔式を使用して頭上から胴丸鎧を着た男に向かって斬りかかっていく。
「第一の破魔式『竜巻』!!」
彼がそう叫ぶのと同時に彼は自分の体を宙の上で回して、本当の竜巻さながらの風を彼の体全体で作り上げながら男に向かって斬りかかっていく。
勢い付く突風の前に、彼は今度こそ、光の壁を作る暇もなくその首を跳ね飛ばされてしまう。
地面に着地するのと同時に彼は刀を鞘の中にしまって背後で体を崩す鎧武者の姿を眺めていく。
心なしか、首を飛ばされた後の鎧武者は泣いている様に思えた。最も、彼にはそんな涙の跡は見えなかった。
ただ、そんな気がしただけだ。
風太郎はこの時、気のせいだと一蹴していたのだが、男はちゃんと涙を流していた。その涙は自らの今までの所業を顧みてのものだったのであり、同時にこの力でどうして主人を助けられなかったのかという無念の涙。
もうじき、自分の体は崩れて浄化されて地獄へと堕ちていくだろう。
だが、自分は堕ちて当然の事をした。その罪を償うだけの事だ。
彼が涙を流していると、彼の前にかつての主人が手を差し伸べていく。
「大丈夫だ。主の罪くらい儂も共に背負ってやろう。主と儂とは一心同体ではないか」
差し伸べられた手を受け取ると、彼はその手に縋り付いて泣いていく。
「申し訳ありませぬ!申し訳ありませぬ!私はとんでもない事を……」
「良い。気にするな。もう済んでしまった事だ。天狗丸」
彼は優しく頭を撫でると、彼と共に業火の中へと歩いていく。
義経の影武者だった男はいや、天狗丸はこの時に初めてこれまでの人生の中で味わった事のない快感を味わう。
この方と一緒ならば何処も怖くない。彼はそう感じていた。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

【完結】魔物をテイムしたので忌み子と呼ばれ一族から追放された最弱テイマー~今頃、お前の力が必要だと言われても魔王の息子になったのでもう遅い~

柊彼方
ファンタジー
「一族から出ていけ!」「お前は忌み子だ! 俺たちの子じゃない!」  テイマーのエリート一族に生まれた俺は一族の中で最弱だった。  この一族は十二歳になると獣と契約を交わさないといけない。  誰にも期待されていなかった俺は自分で獣を見つけて契約を交わすことに成功した。  しかし、一族のみんなに見せるとそれは『獣』ではなく『魔物』だった。  その瞬間俺は全ての関係を失い、一族、そして村から追放され、野原に捨てられてしまう。  だが、急な展開過ぎて追いつけなくなった俺は最初は夢だと思って行動することに。 「やっと来たか勇者! …………ん、子供?」 「貴方がマオウさんですね! これからお世話になります!」  これは魔物、魔族、そして魔王と一緒に暮らし、いずれ世界最強のテイマー、冒険者として名をとどろかせる俺の物語 2月28日HOTランキング9位! 3月1日HOTランキング6位! 本当にありがとうございます!

防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました

かにくくり
ファンタジー
 魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。  しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。  しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。  勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。  そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。  相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。 ※小説家になろうにも掲載しています。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

能力『ゴミ箱』と言われ追放された僕はゴミ捨て町から自由に暮らすことにしました

御峰。
ファンタジー
十歳の時、貰えるギフトで能力『ゴミ箱』を授かったので、名門ハイリンス家から追放された僕は、ゴミの集まる町、ヴァレンに捨てられる。 でも本当に良かった!毎日勉強ばっかだった家より、このヴァレン町で僕は自由に生きるんだ! これは、ゴミ扱いされる能力を授かった僕が、ゴミ捨て町から幸せを掴む為、成り上がる物語だ――――。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

処理中です...