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新しい時代の守護者編
上位の対魔師による会議
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昭和30年代のある年のある日に起きたこの出来事は恐らく今も討滅寮の中にできる重大な出来事になるのは間違いないだろう。
少なくとも、最後にこの会議が招集されたのはあの戦争が開戦された年だという事から事の重大さはひしひしと伝わってくる。
それ以来、もう10年以上も開かれていなったのなら尚更に。
綺蝶はまたとない危機感を感じながら、討滅寮の階段を二人の仲間と共に駆け上がり、二人を部屋の前で待たせると、征魔代将軍の控えの間へと並んでいく。
丁度、自分が最後だったらしい。彼女は必死に頭を下げて目の前の上座に座る老齢の和服の女性に頭を下げていく。
両手をついて深々と頭を下げる姿は現代のものとは到底思えない。
だが、これが作法。従わざるを得まい。
将軍の前に妖鬼対策研究会なども含めての関東を仕切る上位の対魔師たち、十名が跪く。
「表を上げよ」
その一言ともに十の顔が一斉に上がっていく。
十名の顔のうち、綺蝶が討滅寮に来るたびに会話を交わすのは二名。氷堂冴子と松風神場。
それに加えて、妖鬼対策研究会の桐生桃を合わせたら、三名。
それが、彼女の見知った顔である。
後の六名は普段は地方に方で妖鬼を狩っているためか、あまり顔を合わせた事がない。
それは他の三名も同じであったらしく、将軍を見るふりをしながら、見知った顔を探していた。
どうやら、考える事は同じらしい。綺蝶がそう考えていると、将軍の老婆はあのか細くて皺だらけの喉からやっと声を絞り出す。
「……先日、主らと同じ上位の対魔師、佐久間新五郎が東京で何者かに殺された。妖鬼と戦った後がある事から、下手人は妖鬼ではないかと疑ったが、どうやら違うらしい。椿、これへ」
椿は頭を下げると、全員の元に一枚の書類を配っていく。
「あの、上様、これは?」
と、最初に口にしたのは両方の髪を結んだ可憐な顔の少女。
彼女は将軍に向かって疑問を口に出すと、将軍は寡黙な表情を浮かべながら言った。
「佐久間の死因の記載された書類じゃ、死因は大勢による銃殺。即ち、ええと……」
「蜂の巣です。上様」
椿の指摘に老婆は首を縦に動かしてそのまま説明を続けていく。
「主らに言うておく。儂らは暫くの間は妖鬼だけではなく、人間の組織も相手だって戦わねばならぬかもしれぬと言うておく。今日、皆を集めたのはそのためじゃ」
彼女はそう言うと、集まった上位の対魔師たちにこの場を下がる様に指示を出したが、その説明だけでは足りないと思ったのか、将軍に手を上げて質問を行う。
そんな勇気のある者の正体は丸い眼鏡をかけてお下げから三つ編みを見せている可愛らしい顔の少女。
一目見ただけでは対魔師とは到底思えない。その姿は平均的な女子学生の姿そのもの。
将軍はその姿を見て不服そうな様子を見せる。
「なんじゃ?儂にまだなにか聞きたいことがあるんか?」
「わ、我々は人間の組織と戦わなければならないと仰られましたが、我々はなぜ、人間の組織と戦わなければならないのでしょうか?それをお聞かせ願えませんか?」
将軍は苛立った様子を見せながら、説明を冴子へと丸投げしていく。
思わぬ指名に戸惑った様子を見せた冴子であったが、彼女は何とか空咳を出して立ち上がると、一ヶ月前に船橋ヘルスケアセンターで何があったのかを語っていく。
警視庁の別の組織を名乗る騎士団の存在に、その騎士団が追っていた謎の青年の事。
彼女はそれらの事を全て集まった対魔師たちに向かって喋っていく。
対魔師たちは全員が青色表情を浮かべて震撼した様子を見せていく。
まさか、そんな事があるとは思いもしなかった。
いいや、考えてみれば今までの時代がおかしかったのだ。
今の時代までよく対魔師と妖鬼だけで戦っていたものだ。
二つの異なる勢力がこの時代になってようやく登場し、新たな均衡を作ろうと試みたのだ。
何処ぞの内閣の首相ではないが、こう言いたい気分だ。
『世の中は複雑怪奇なり』と。
綺蝶は自分が下らない冗談を喋っている事に気が付いて苦笑してしまう。
すると、綺蝶に向かって叱責が飛ぶ。
どうやら、笑いを浮かべていたのが将軍の気に触ったらしい。
老婆は一通り、綺蝶を怒鳴った後で集まった上位の対魔師たちに向かって人間の組織の事を告げ、彼らを帰していく。
綺蝶は会合を終えると、扉の前で自分を待っていてくれた二人の弟子に感謝の言葉を述べていく。
「待っていてくださってありがとうございます。獅子王院さん。近作さんも」
「いやいや、気にするなって、それよりも上様はなんて?」
「船橋ヘルスケアセンターで対峙したあの青年と騎士団なる存在について仰っておられました。両組織と敵対するから、気を付けろ……と」
その言葉を聞いて綺蝶が暗い顔を浮かべていく。綺蝶が暗い顔を浮かべるのは珍しい。
風太郎は彼女を元気付けるために、元気な声で言った。
「ま、まぁ、今回は大変だろうけどさ、戦える筈だろ?オレ達なら!それに、オレが上手く紋章を使える様になれば、黒崎だろうが、得体の知れない男だろうが、纏めて吹っ飛ばしてやるよ!」
それを聞いた綺蝶は堪らずに吹き出す。可愛らしい顔で一通り笑ってから、風太郎に向かって告げた。
「ありがとうございます。獅子王院さん。三人で頑張って妖鬼やその得体の知れない連中と戦いましょうね!」
彼女がそう言って両手の拳を握り締めながら笑顔で言った時だ。
三人の前に隊服を着た対魔師と思われる男が現れて彼女の前に跪く。
「上様よりの指令です!本日、妖鬼や対策研究会の方々、並びに氷堂冴子様とともに東京に向かえと言うお達しでございます!」
「……そうですか、ありがとうございます」
綺蝶が簡潔に言うと、大慌てで対魔師の男はその場から去っていく。
彼女はそれを見届けると風太郎と日向に向かって言った。
「お二人とも、今から仕事です。東京の方で仕事です。それもかなり大きな……」
綺蝶はそう言うと、二人を連れて討滅寮の外で待機していた男の車の中に乗り込む。
車に乗ると、車は轟音を立てて砂利道の上を走っていく。
忘れてはいたが、東京の道路は未だに舗装されておらず、車が動くたびにガタガタという音が鳴るのだ。
不快感に三人が眉を顰めたが、口に出してもどうにもならないために必死に口を紡ぐ。
砂利道に揺られながら、風太郎は何となく、この先の道が悪く様な予感を感じていく。
少なくとも、最後にこの会議が招集されたのはあの戦争が開戦された年だという事から事の重大さはひしひしと伝わってくる。
それ以来、もう10年以上も開かれていなったのなら尚更に。
綺蝶はまたとない危機感を感じながら、討滅寮の階段を二人の仲間と共に駆け上がり、二人を部屋の前で待たせると、征魔代将軍の控えの間へと並んでいく。
丁度、自分が最後だったらしい。彼女は必死に頭を下げて目の前の上座に座る老齢の和服の女性に頭を下げていく。
両手をついて深々と頭を下げる姿は現代のものとは到底思えない。
だが、これが作法。従わざるを得まい。
将軍の前に妖鬼対策研究会なども含めての関東を仕切る上位の対魔師たち、十名が跪く。
「表を上げよ」
その一言ともに十の顔が一斉に上がっていく。
十名の顔のうち、綺蝶が討滅寮に来るたびに会話を交わすのは二名。氷堂冴子と松風神場。
それに加えて、妖鬼対策研究会の桐生桃を合わせたら、三名。
それが、彼女の見知った顔である。
後の六名は普段は地方に方で妖鬼を狩っているためか、あまり顔を合わせた事がない。
それは他の三名も同じであったらしく、将軍を見るふりをしながら、見知った顔を探していた。
どうやら、考える事は同じらしい。綺蝶がそう考えていると、将軍の老婆はあのか細くて皺だらけの喉からやっと声を絞り出す。
「……先日、主らと同じ上位の対魔師、佐久間新五郎が東京で何者かに殺された。妖鬼と戦った後がある事から、下手人は妖鬼ではないかと疑ったが、どうやら違うらしい。椿、これへ」
椿は頭を下げると、全員の元に一枚の書類を配っていく。
「あの、上様、これは?」
と、最初に口にしたのは両方の髪を結んだ可憐な顔の少女。
彼女は将軍に向かって疑問を口に出すと、将軍は寡黙な表情を浮かべながら言った。
「佐久間の死因の記載された書類じゃ、死因は大勢による銃殺。即ち、ええと……」
「蜂の巣です。上様」
椿の指摘に老婆は首を縦に動かしてそのまま説明を続けていく。
「主らに言うておく。儂らは暫くの間は妖鬼だけではなく、人間の組織も相手だって戦わねばならぬかもしれぬと言うておく。今日、皆を集めたのはそのためじゃ」
彼女はそう言うと、集まった上位の対魔師たちにこの場を下がる様に指示を出したが、その説明だけでは足りないと思ったのか、将軍に手を上げて質問を行う。
そんな勇気のある者の正体は丸い眼鏡をかけてお下げから三つ編みを見せている可愛らしい顔の少女。
一目見ただけでは対魔師とは到底思えない。その姿は平均的な女子学生の姿そのもの。
将軍はその姿を見て不服そうな様子を見せる。
「なんじゃ?儂にまだなにか聞きたいことがあるんか?」
「わ、我々は人間の組織と戦わなければならないと仰られましたが、我々はなぜ、人間の組織と戦わなければならないのでしょうか?それをお聞かせ願えませんか?」
将軍は苛立った様子を見せながら、説明を冴子へと丸投げしていく。
思わぬ指名に戸惑った様子を見せた冴子であったが、彼女は何とか空咳を出して立ち上がると、一ヶ月前に船橋ヘルスケアセンターで何があったのかを語っていく。
警視庁の別の組織を名乗る騎士団の存在に、その騎士団が追っていた謎の青年の事。
彼女はそれらの事を全て集まった対魔師たちに向かって喋っていく。
対魔師たちは全員が青色表情を浮かべて震撼した様子を見せていく。
まさか、そんな事があるとは思いもしなかった。
いいや、考えてみれば今までの時代がおかしかったのだ。
今の時代までよく対魔師と妖鬼だけで戦っていたものだ。
二つの異なる勢力がこの時代になってようやく登場し、新たな均衡を作ろうと試みたのだ。
何処ぞの内閣の首相ではないが、こう言いたい気分だ。
『世の中は複雑怪奇なり』と。
綺蝶は自分が下らない冗談を喋っている事に気が付いて苦笑してしまう。
すると、綺蝶に向かって叱責が飛ぶ。
どうやら、笑いを浮かべていたのが将軍の気に触ったらしい。
老婆は一通り、綺蝶を怒鳴った後で集まった上位の対魔師たちに向かって人間の組織の事を告げ、彼らを帰していく。
綺蝶は会合を終えると、扉の前で自分を待っていてくれた二人の弟子に感謝の言葉を述べていく。
「待っていてくださってありがとうございます。獅子王院さん。近作さんも」
「いやいや、気にするなって、それよりも上様はなんて?」
「船橋ヘルスケアセンターで対峙したあの青年と騎士団なる存在について仰っておられました。両組織と敵対するから、気を付けろ……と」
その言葉を聞いて綺蝶が暗い顔を浮かべていく。綺蝶が暗い顔を浮かべるのは珍しい。
風太郎は彼女を元気付けるために、元気な声で言った。
「ま、まぁ、今回は大変だろうけどさ、戦える筈だろ?オレ達なら!それに、オレが上手く紋章を使える様になれば、黒崎だろうが、得体の知れない男だろうが、纏めて吹っ飛ばしてやるよ!」
それを聞いた綺蝶は堪らずに吹き出す。可愛らしい顔で一通り笑ってから、風太郎に向かって告げた。
「ありがとうございます。獅子王院さん。三人で頑張って妖鬼やその得体の知れない連中と戦いましょうね!」
彼女がそう言って両手の拳を握り締めながら笑顔で言った時だ。
三人の前に隊服を着た対魔師と思われる男が現れて彼女の前に跪く。
「上様よりの指令です!本日、妖鬼や対策研究会の方々、並びに氷堂冴子様とともに東京に向かえと言うお達しでございます!」
「……そうですか、ありがとうございます」
綺蝶が簡潔に言うと、大慌てで対魔師の男はその場から去っていく。
彼女はそれを見届けると風太郎と日向に向かって言った。
「お二人とも、今から仕事です。東京の方で仕事です。それもかなり大きな……」
綺蝶はそう言うと、二人を連れて討滅寮の外で待機していた男の車の中に乗り込む。
車に乗ると、車は轟音を立てて砂利道の上を走っていく。
忘れてはいたが、東京の道路は未だに舗装されておらず、車が動くたびにガタガタという音が鳴るのだ。
不快感に三人が眉を顰めたが、口に出してもどうにもならないために必死に口を紡ぐ。
砂利道に揺られながら、風太郎は何となく、この先の道が悪く様な予感を感じていく。
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