太刀に宿る守護霊とその上位の神々に認められたので、弟と妹を殺された兄ちゃんは仇の相手である妖鬼に復讐を誓います!

アンジェロ岩井

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新しい時代の守護者編

戦雲玄竜との接触

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風太郎は東京に着くのと同時に、深呼吸をしてこれからの事を考えていく。
どうすれば良いのだろう。そう考えていた時だ。綺蝶が彼の尻を小突いて言った。
「まずは正妖大学に行く事が重要です。そこで妖鬼対策研究会の面々と合流するのが最初の段階です。その後に手掛かりを探すんですよ『野良犬』みたいに」
「『野良犬』ってあの『野良犬』か?」
「あの『野良犬』の話に決まってるじゃありませんか。それ以外に『野良犬』なんてあるんですか?」
綺蝶はそう言うと黙って正妖大学へと向かう路線電車の中に乗り込む。
四人連れの、しかも刀を隠しての満員電車は中々に辛かったのだが、何とか外に出る事に成功する。
満員電車で正妖大学の駅前に着いた三人は歩いて大学から見て右側に存在する喫茶店へと向かう。
放課後までは時間があるだろうと考えていたためであったが、三人は予想外の事態に思わず両目を白黒させてしまう。
「……これは驚きましたね。まさか、あなた方が出迎えにいらっしゃるとは」
「オレ達だって出迎えくらいするぜ、それに、おれ達まで動員するくらいの大きな事件なんだろ?」
綺蝶は黙って首を縦に動かす。
「ええ、とても大きな事件ですよ。今後の妖鬼と対魔師との方針を大きく変えなければならない程のね……」
綺蝶の言葉に全員が神妙な顔になっていく。それに加えて、この中で唯一会合に参加した桐生桃が綺蝶の証言の裏付けを行ったために、余計に研究会の面々の顔が神妙になっていく。
「まさか、人間が破魔式を悪用して悪事を行うなんて……」
と、瀬戸口は声を震わせながら言った。どうやら、未だに人間が破魔式を悪用して他の人間に害をなすという事実が信じられないらしい。
「どうでもいいが、そのクソ野郎は何処にいやがるんだ?見つけたらタダじゃおかねぇぞ」
と、勢い付くのは一条新太郎。彼はパチンコの発射部分を動かしてパチンコの紐を手元に引っ張っては勢いを付けずに発射するという手遊びを繰り返しながら言った。
「やはり、警察か……どうして、奴らは月島の命を奪っただけでは飽き足らずに、他の人間の命も奪おうするんだ」
「良さないか、和巳。それに今回の件で動いているのは警察だけじゃあない。いいや、オレらからしたら警察以上に厄介な第三勢力がオレたちを狙っていると言った方がいいんだ」
「警察よりも厄介な第三勢力って?」
海崎英治は髪の隙間から鋭い瞳を覗かせながら説明を始めた部長の日下部暁人に尋ねる。
「この国で長年、警察が追い掛けている結社の話をオレはこの耳に挟んだ事があるんだ。大革命をスローガンに奴らは続々と大学の新入生やらに勧誘の声をかけ、仲間に加えているらしい。噂じゃあ、国家転覆の後に自分たちの理想の国を作ろうというイカれた連中だというぜ」
「そんな奴らがどうして妖鬼やら対魔師の戦いに介入し始めたんだ?」
風太郎の問い掛けに、暁人は残念そうに首を横に振って、
「分からん。けれど、オレは身内の何処かに妖鬼を招き入れた奴がいるんじゃあないのかと考えているんだが……」
「……真実は分からん。だが、その組織とやらが我々にも害を及ぼす様になったのはどうしようもない事実だ」
桐生桃はそう言うと、全員に背中を向けて東京の街を歩いていく。
大勢の人とすれ違いながら、かつて聴講生としてあの大学に潜り込んでいた三人はその後の事を詳しく尋ねていく。
「あの後の事か?菊園寺が月島の直接の仇を知ってな。上様への報告にも書いた様に、こちら側に入ってな。今、ようやく破魔式を使える様になってきた所だ」
桐生桃はそう答えると、次に戦中の様な坊主頭をした日向に向かって長くて美しい芸術品の様な指を突き付けて、
「それよりも、そっちこそ、その虎の飼育はできているのか?前みたいになっては敵わないからな」
彼女が唇を尖らせて毒舌を吐くと、彼女の前に綺蝶が姿を表して、
「いやですねぇ、あなた方の様に教えの悪い人たちと一緒にしないでもらえませんか?近作さんはもう既に破魔式を取得してるんですよ。私と氷堂さんが千葉の長い任務に出ている間に、その間、たったの一週間ですよ」
彼女は勝ち誇った様な笑みを浮かべて言った。しかも、その顔は表向きは笑顔ではあるものの、笑顔の裏には黒い笑みを貼り付けてある始末だ。
桐生桃は改めて彼女の腹が底なしに暗い事を痛感する。
悔しがりながら、刀を持ってその先へと行こうとした時だ。
三人の前に一人の少年が現れた。
小さな少年。恐らくまだ保護を必要する程に小さな年齢だろう。そんな少年が自分たちに向かってその小さな人差し指を伸ばして言った。
「ねぇ、ちょうだい?」
あまりにも突然に発せられた言葉に集まっていた十人の青年たちに戦慄が走っていく。
だが、誰も少年には答えようとはしない。
少年はそんな青年たちの態度を死ってか知らずか、青年たちに向かって再度、同じ声で告げる。
「ねぇ、ちょうだい。ちょうだい」
この少年は一体何者なのだろう。全員の顔が合わさった時だ。
不意に菊園寺和巳が刀を抜いて、少年に向かって襲い掛かっていく。
すると、少年の体はみるみるうちに大きくなっていき、巨大な赤ん坊へと変貌していく。
最後には曇りに曇った声で言った。
「ぼくに刀をちょうだいよォォォォォ~!!」
あまりにも無機質な声に全員が恐怖を覚えていく。
だが、その中でも特に我慢ができなかったのが、菊園寺和巳だったのだろう。
大きな声で都心に現れた巨大な赤ん坊に向かって斬りかかっていく。
だが、赤ん坊の前に彼はなす術もなく地面の上に落とされてしまう。
それを見た他の九人に戦慄が走っていく。
菊園寺は対魔師となったばかりの新人であるが、それはまだ実践経験がないため。
恐らく、普通に破魔式を使えれば最初の初陣で容易に一体くらいは倒せるだろうと踏んだのだが、彼は初陣にしてはあまりにも大き過ぎたからだ。
少年は見た目や時代こそ、何処にでもいそうな少年なのだが、その正体は平安時代の初期から生きていた少年なのである。
少年は玉藻の配下となり、赤ん坊という姿で人々を襲う存在となっていた。
風太郎は全員が倒されるのを見届けると、臆する気持ちを抑えて急いで赤ん坊の元へと向かっていく。
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