太刀に宿る守護霊とその上位の神々に認められたので、弟と妹を殺された兄ちゃんは仇の相手である妖鬼に復讐を誓います!

アンジェロ岩井

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天楼牛車決戦編

討滅寮と地下帝国

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「……上様、お耳にお入れしたい事が」
上位の対魔師、松風神馬は単独で征魔大将軍の元を訪れて、自分が手に入れた情報を口に出す。
と、それまでは不機嫌だったらしく、それに相応しい尖った表情であった征魔大将軍の顔が代わり、柔和な笑顔を浮かべて神馬に笑顔を向ける。
「そうか、そうか、それだけの情報を……ご苦労じゃったな」
「いえ、上様の役に立つ事が対魔師我々の役目ですので、これで失礼致します」
彼はそう言って頭を下げて謁見の間を後にする。
謁見の間から立ち去る神馬の姿を見つめて、老婆は安堵の溜息を吐く。
「これで、警察には奴らの情報と引き換えで冴子を出してもらえるな」
「上様、もしかして冴子の事が心配だったんですか?」
「あぁ、年寄りが未来ある若者を気にせんでどうするんじゃ。こんな情報で冴子が助かるんなら、なんぼでも流してやるわ」
結果、翌日の新聞ではデパートの地下に存在していた巨大テロ組織が発見され、警察による一斉検挙が行われたという情報が流れた。
警察は国家転覆罪と内乱罪の両方でテロ組織の頭目であり、尚且つ戦前戦後の文壇で多くの優れた書籍を発表した優れた文学者であった男を逮捕した。
彼の作品は大抵の日本人が読んでおり、何なら、一部の作品は海外にも輸入され、そこで広く読まれているほどに人気であったので、その逮捕は文学界のみならず世間をも大混乱に陥れた。
その報告を聞いた上位の対魔師たちや妖鬼対策研究会の面々も彼女の釈放を喜んでその晩に駆け付けたのだが、警察の方からは何の連絡も入ってこない。
全員の抗議の言葉を代弁して、試しに副将軍の椿が電話を掛けたところ、警察は、
「氷堂冴子は脱獄を行ったので、そちらの条件は飲めません。我々もそれ以上、そちらに干渉致しませんので、どうぞ、お引き取りを」
と、いい加減な態度で応対した挙句に電話をこちらが切るよりも前にいきなり切ったのだった。
椿は明らかな横柄な態度に腹が立っていたが、その相手はもう電話口の向こうには居ないのだから、怒りを当て様にも当てられない。
そんな娘を老婆は優しく宥めて、冴子の事を口にする。
「まぁ、向こうから逃げたんなら、仕方がなかんね。それよりもさ、我々は玉藻の行方を調べる方が重要じゃ。何か的確な人物はおるか?」
その指摘に椿は首を縦に振って、手を叩いて自分が呼んだ人物を呼び出す。
すると、執務室の扉が開いて、一人の青年年齢と思われる若く美しい男が老婆の元に跪く。
老婆が許可を上げると、男は顔を上げて言った。
「初めまして、私の名前は長谷川零と申します。この時代の上様には初めてお目にかかります」
彼は見るものを老若男女問わない美しい顔で名乗りを上げた。
それを見て、椿は微かに頰を赤く染めていたが、どうやら、征魔大将軍だけは例外であったらしい。
彼女は鋭い瞳で老婆を見下ろして、
「主は長谷川零と申したな?この時代の上様と言ったが、主は他のどの時代で別の将軍と出会ったのじゃ?」
「この時代の上様と申しましたのは私が様々な時代の将軍方と謁見したからでございます。平安時代に初代将軍に一度、源頼朝公が作り、北条氏が権力を振るった幕府の時代に一度、足利尊氏公の三代下、足利義満公が京にて実権を握り、その権勢をほしいままにしたあの時代に一度、そして、天子が信頼する臣下の方々と共に徳川様の時代を終わらせになられた幕末の動乱期に一度。そして、大正時代に一度。お会いしております」
彼の言葉に椿は思わず両眉を上げる。同時に手に持っていた杖から仕込んでいた刀を持ち出そうとしたが、将軍にして母である老婆がそれを止める。
「まぁ、待て、お主は妖鬼ではなかろう?儂に襲い掛かって来ない所を見ると、図星じゃな。妖鬼なり不死の体になるのとは別の方法でお主は玉藻を追い掛けておる。そうじゃろう?」
その言葉に零は頭を下げて、自らの不死の方法を彼女に説明していく。
それを聞くと、老婆は顎の下に親指と人差し指を置いて静かに首を縦に動かす。
「成る程な。その様な方法で……」
「ええ、最もこの方法は内密にして頂きたい」
「勿論、此奴から聞いた秘密は椿と儂以外は誰にも話さぬ。安心せぇい」
零はそれを聞いて大袈裟な程に頭を畳の上には擦り付けていく。
それを見た両名は笑って、零に頭を上げる様に指示を出す。
「代わりと言ってはなんじゃが、儂らに玉藻を倒す手助けをしてもらえぬかって」
「勿論でございます。遠呂智が倒された今、彼女の命は風前の灯……恐らく、もうそろそろ奴めの命は尽きるでしょう」
彼がそう自分の意見を具申した時だ。
討滅寮の庭の真ん中に巨大な牛車が着地して中から一人の女性が姿を表す。
女性の体からは容姿端麗。才色兼備という言葉が浮かぶ程に美しかった。
だが、庭に集まった討滅寮駐屯の対魔師たちが刀を向けた時、彼ら彼女らは目を開く暇もなくその女の背中に生えた紐によって斬り殺されていく。
女は背中に生えた武器を利用しながら、中にいた自分を邪魔する人物を見境なく惨殺していきながら、階段を一段、一段はっきりと登っていく。
彼女は最後、征魔大将軍の部屋の扉を開き、中にいた彼女に向かって言った。
「無様な姿ね、婆」
「……主が、玉藻紅葉か……儂や儂の先祖が一千年にも渡り、追い求め、首を欲しがった伝説の女……それが儂の目の前に居るのはな……」
老婆は慣れない足を立って副将軍から黙って仕込み刀を取り、その剣先を部屋に侵入した無礼な敵に向かって突き付ける。
「お主からは感じるぞ、夏の晴れた日に発行した納豆よりも臭い臭いがな。告げておる。お前は悪い女、だとな……」
「そうよ。だったら、何?もうじき死ぬあなたには関係ないでしょう?」
彼女は背後から例の武器を取り出して言った。
「主は自分を中心に世界が回っておると勘違いしておる様だ。ふん、愚かよ。仏教では業があり、罪を犯せばその業が罰として返ってくるという話があるが、知らんね?あんたは……」
「業?くだらない。業があるというのなら、あなたが唯一首を垂れるという京の奴らこそがその業を受けるべきよ。私の国を奪った罰としてね……」
彼女はそう言って背中から例の凶器を取り出して、老婆へと向けていく。
だが、それを長谷川零が命懸けで救う。
彼の姿を見つけると、玉藻紅葉は舌を打ってその場からの逃亡を図るが、真下に対魔師とりわけ、自分の大嫌いな氷と風の紋章を扱える青年が刀を構えて待っていた。
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