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第二章『第三植民惑星ポーラ』

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 口先から頬を通った後頭部に繋がっている動力パイプが見えた。呼吸装置も兼ねているのか、ヒューヒューという音が聞こえてくる。他には特徴的な丸みを帯びた兜に他の『ロトワング』と異なり、シンプルなデザインの装甲が特徴的だった。

 敢えて特徴を挙げるとすれば右肩に付いている大きな棘の付いた肩鎧だろう。
 だが、そんなことはどうでも良かった。
 修也は嫌な性格をした人物とはいえ人をあっさりと殺した『ロトワング』の装着者に抗議の言葉を浴びせた。

「ひ、ひどい。どうしてこんなことを!?」

 だが、相手からの返答はなかった。当然である。目の前にいるのは
 代わりに修也はビームライフルを突きつけられた。

 この時咄嗟にその場から飛び上がらなければ目の前の『ロトワング』が構えたビームライフルからの熱線が修也を溶かしていたことだろう。

「お願いです! どうか私の話を聞いてくださいッ!」

 修也は必死になって相手へと訴え掛けた。だが、返事は先ほどと同じだった。ビームライフルの熱線が修也を襲っていった。
 は熱線を避けることができたのは運が良かったからだ。

「や、やめてくれ! 我々は同じ理性を持った人間だッ! なら話し合うことができるはずだろ!?」

 修也は必死になって説得を試みていた。目の前にいるのは恐ろしい異星獣でもなければ話し合いが通じない蛮族でもない。同じ知性を持った人間なのだ。
 それ故に話し合うことができるはずだと修也は固く信じていた。

 だが、熱線が右耳を掠めた時、修也は目の前にいる相手には話し合いなどは通じないのだとようやく悟った。
 それならば多少は荒療治ではあったとしても殴って目を覚まさせるしかない。
 修也は戦うための決意を固めた。

 修也はカプセルトイからパワードスーツを取り出して身に纏っていった。
 今将軍の前にいるのは先ほどまでの情けない姿を見せる中年男性ではなく、自身の部下が乗ったヘリを撃ち落とした騎士だった。

 琥珀色の兜にメタリックな銀色の装甲を纏った美しい騎士の姿が見えた。
 ユー将軍は思わず感嘆の声を上げた。

「う、美しい。まさかまだこの宇宙にこのようなパワードスーツがあったとは」

 できることならばずっと見つめていたい気持ちだった。
 だが、そんなことは修也が許さなかった。修也は腰に下げているレーザーガンを突き付けていき、躊躇うことなく引き金を引いた。

 黒色の『ロトワング』を身に纏ったユー将軍は咄嗟に身を翻して交わしたものの、右側の兜部分の装甲が微かに外れていることに気が付いた。
 どうやら修也の放った熱線が自身の兜の右側を掠めたらしい。まさしくプロ並みの腕前であった。

 もし彼が自軍にいれば大きな戦力となるだろう。先ほどの戦闘でシャルルは討ち取った。そのためもう危惧するものなど何もないのだが、それでも防備を固めておくに越したことはない。

 ユー将軍は計画通りに作戦を進めることにした。わざと退却を行い、修也をこの開拓地の周辺に広がっている深い森の中へと誘き寄せたのであった。

「待てッ!」

 怒りの感情に囚われた修也がレーザーガンを片手にユー将軍を追い掛けていた。
 背後から熱線が発射され、逃亡するユー将軍の近くにあった木が熱に溶かされていったが、ユー将軍の気にするところではない。

 パワードスーツの強靭な両足によって森の中にある葉や土を踏む音が聞こえてきた。森の奥深くまで修也を誘き寄せた。
 だが、逃げるのもここまでだ。ユー将軍は身を隠し、修也を翻弄していった。

「クソッ! どこに逃げた!?」

 自分でも信じられないほどの口汚い言葉を叫んだ後に修也はレーザーガンを宙の上に掲げて二度三度と発射していく。意味のない行動であることは修也本人が一番分かっていた。
 だが、自身の中に溜まった鬱憤を晴らすためにはこれが一番だったのだ。

 狙い通り修也は落ち着きを取り戻した。同時に今の自身が途方もない不利な状況に置かれているということを理解した。
 修也は敵の懐の中に踏み込んでしまったのである。もし、この周辺に敵が潜んでいたとすれば自分は蜂の巣になってしまう。

 慌ててその場から立ち去ろうとした時だ。目の前の草むらがガサガサと動き出した。修也は音のした方向に向かって咄嗟にレーザーガンを構えると、そこには先ほどの黒色に塗られた『ロトワング』の姿が見えた。

 黒色に塗られた『ロトワング』は無言でビームライフルを構えている。勝負としては五分と五分といったところだろうか。

 修也はレーザーガンの引き金を引いてしまいたかった。もちろん急所を狙うつもりはない。あくまでも相手のロトワングを破壊して戦力を奪うだけのつもりだ。
 修也が引き金を当てる手に力を込めた時のことだ。

「キミかね? 昨日我々の所有するヘリを撃ち落とした男というのは?」

 相手が装着している『ロトワング』の無線の中には翻訳機能が内蔵されているのだろう。修也の耳には黒色のロトワングを纏った男の声が流暢な日本語に聞こえた。

「そ、そうだ。あんたは誰だ?」

「申し遅れた。私の名前はモーリス・ユー。悪逆非道なポーラの総督に反旗を翻した誇り高きフランス人の名前だ」

「フランス人? 惑星ポーラにフランスはないぞ」

「私はフランスの出身でね。外国にいようが、他の惑星にいようがついそう名乗ったしまうのだ。許してくれたまえ」

「許すも許さないもないさ。それよりもどうしてこんなことをしたんだ?」

 修也は詰めるように問い掛けた。その口調はまるで悪事の現場を暴いた教師が生徒を問い詰めるかのような声だった。
 これまで多くの戦闘を積み重ねてきたユー将軍にとっては屈辱的に感じたに違いない。

 だが、ユー将軍は寛大な気持ちで修也の非礼を許し、質問に答えてやることにした。

「決まっているだろう? シャルル・シャロンの独裁体制を打破するためだッ!」

「独裁体制?」

「その通りだ。シャルルは独裁者だッ!あの野郎はヒトラーやスターリン、イディ・アミンにも劣るゲス野郎なんだッ!」

 世界史の中でもとりわけ強く批判されがちである面子と並べられるシャルル・シャンソンというのはどのような男なのだろう。
 修也は気になって仕方がなかった。

「……よろしければ教えてください。シャルル・シャロンが何をしたのかということを」

「よかろう。あの男は地球から支配権を渡されたという理由でロケットの装備を己と己の家族の持ち家としたんだ。あのロケットは本来であるのならばみんなで使うべきものだというのに……」

 修也にシャルルのことを語る際にユー将軍は感情的になったのだろう。握り拳を作ってプルプルと震わせていた。

「第二の理由として裏金だ。奴は金を隠し持っている」

「えっ?金を?」

「あぁ、日本円やフラン、ドルといった地球の金をな。奴はその金で奴個人で持ち込んだと思われるテレビ電話を利用して奴個人の贅沢品を密輸していたんだ」

「じゃ、じゃあ採掘したルビーの何割かは……」

「奴が換金したよ。我々には分け前もよこさずにな……」

「では、あなた方はそのことに不満を感じて反乱を?」

「いいや、それだけではない。奴に逆らうことになった決定的なきっかけがあった」

 ユー将軍は人差し指を掲げながら言った。
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