メトロポリス社へようこそ! ~「役立たずだ」とクビにされたおっさんの就職先は大企業の宇宙船を守る護衛官でした~

アンジェロ岩井

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第三植民惑星ポーラ

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「……それで、決定的な出来事というのは何なんですか?」

 ユー将軍の反乱に同情を覚えたのか、修也はレーザーガンを下げていた。そればかりか、先ほどまでは用いなかった敬語まで使用している。

「……殺しだ。シャルルの奴は密貿易が他の面々に露呈することを恐れて幼子を……私の最愛の息子を殺したのだ」

 ユー将軍はか細い声で吐き捨てるように言った。
 修也はその言葉に強い衝撃を受けていた。対面したシャルルとは言葉が通じなかったこともあり、直接のやり取りはほとんどなかった。

 それでも大人として最低限のモラルくらいは持ち合わせていると思っていたのだ。
 それ故にユー将軍からの告発は大きいものだった。ふらつきを覚え、周囲の視界がボヤけてきそうだった。

 だが、それでも必死になってその場に踏み止まった。そして姿勢を正してユー将軍の話を聞くことにした。

「奴は密貿易の時、毎回総督室の地下の床に仕舞い込んである手提げ金庫を持ってオレや他の部下数名を引き連れて開拓地から遠くに外れた場所へと向かう。その時にあの子は付いてきてしまったんだ……」

 ユー将軍の口調が少し悲しげになっているのは気のせいではあるまい。彼は自身がその幼子とやらを救えなかったことを悔やんでいるのだ。

 その声を聞いても修也はどうすることもできなかった。今の自分にはユー将軍の話を聞いてやることしかできなかった。
 修也は続きを促した。

 ユー将軍は話を語っていく途中でパワードスーツの兜の下で涙を流してしまったのだろう。鼻水を啜る音が聞こえた。

「私は必死になってあの子を守ろうとした。だが、シャルルの馬鹿は口封じをするのだ、とレーザーガンを取り出してーー」

 そこから先の言葉が消えていたのは続きを語りたくないからだろう。その後に続く言葉が喉の奥から出てこなかったに違いない。

 修也はユー将軍に対して深い同情を寄せていた。自分とて二人の子どもを持つ父親である。もしユー将軍の立場が自分のものであったのならば耐えられない。ましてや自分の家族であったのならばユー将軍のように暴力に訴えていたに違いない。

 しかしそれでもユー将軍の取った行動を許すわけにはいかない。ユー将軍やその部下たちの動機はどうであれ許すわけにはいかないのだ。
 ユー将軍の仕掛けた戦闘によって総督側の兵士たちは何人も死んでいるし、多くの人が家を焼かれた。あの惨状を目撃し、怒りを覚えたからこそ今ここにいるのだ。

 修也はパワードスーツの下で下唇を噛み締めると、無言でレーザーガンを突き付けた。
 ユー将軍は慌ててビームライフルを構えようとしたものの、修也の手によって呆気なく撃ち落とされてしまうことになった。

「……あなたはなるべく苦しませないようにします。あなたがどうか天国でその子と会えますように」

 そうは言ったものの修也の言葉には嘘が混じっていた。キリスト教徒ではない修也であっても虐殺という罪を犯したユー将軍が天国に行けるはずがないということは一番よく理解していた。
 先ほどの言葉は修也からのせめてもの手向けであったのだ。

 だが、ユー将軍は修也の気遣いに対して返したのはおおよそ軍人らしからぬ行動であった。敬意を持ってトドメを刺そうとする修也の前に見苦しい抵抗を始めた。
 地面の上に落ちている小石を拾い上げて修也の兜に向かって放り投げた。
 もちろんパワードスーツであり耐久性は保証されている。

 ただ、それでも小石がぶつかった際の衝撃は僅かではありながらも響いていくのだ。そこに隙が生じた。
 ユー将軍はその隙を利用して腰に下げていたビームサーベルと呼ばれる武器を取り出した。

 青い色をした粒子状の剣身が特徴的であった。ユー将軍はフェンシングの用量で修也に向かって剣身を伸ばしていく。
 ユー将軍の剣を修也は自らのビームソードを盾にして防いだ。
 二、三度互いの剣を打ち合った後にユー将軍は修也の腹部を蹴り飛ばし、また奥へと逃げ出していった。

「ま、待て!」

 修也はビームソードを携えて追い掛けようとしたが、追い掛けようとする一歩手前のところでハッと息を呑んだ。
 これは先ほどユー将軍が自身を誘き出した作戦と同じものだった。

 もし追い掛ければ更なるドツボにハマってしまうかもしれない。
 理性が働いた修也は我へと立ち返った。そうして背後を警戒しながら開拓地へと戻っていったのである。

 修也がやっとの思いで開拓地へ戻ると、そこには神妙な顔を浮かべたジョウジの姿が見えた。
 ジョウジの隣にはビームライフルを構えた数名の男女の姿が見えた。

「大津さん、お疲れ様でした。どうです? あいつ何か妙なことを言ったでしょう?」

「えぇ、シャルルに息子を殺されたとか……」

「その件に関しては三割が本当……そして七割が嘘だということになります」

 ジョウジの隣にいたカエデが淡々とした口調でユー将軍が反乱を起こした真の動機を語っていった。

「この星に移民団が到着したばかりの頃です。総督だったシャルル・シャンソンとユー将軍、そしてその息子が交流も兼ねて山登りに行ったんです。その時に息子さんが足を滑らせてしまいまして」

「なるほど、その事故による一件でユー将軍は総督を逆恨みしていたわけですね」

「えぇ、息子を助けられなかった責任を将軍は総督に押し付けたんです。総督自身も目の前で子どもが死んだことに相当参ってしまったようでして、ユー将軍の言葉を否定しなかったみたいです」

 修也は総督に反乱の動機を聞いた時に不機嫌になった理由が分かった気がする。
 総督自身もこの反乱の責任を痛感していたからだ。

 だが、そのような事情があったにしろ総督が逆恨みに対して反論を行わなかったことは結果的にユー将軍の逆恨みを肯定したことになる。

 そのためユー将軍は勝手な憎悪を夜の間に屋根の上に降り積もっていく雪のように積み上げていき、挙げ句の果てに自分の好き勝手な動機を捏造したのだろう。

 自分や自分の仲間が立ち上がるための正当な動機として密輸やら私財やらをでっち上げたのである。
 ここまで来てユー将軍の話の中に感じた違和感の正体が分かった。

「だが、将軍に関してはその動機でいいとして、他の面々が反乱を起こした動機が気になります」

「ルドルフ・ランツベルク大尉やその他の兵士たちは全て自分たちが特権階級に就きたいという故の野心から出たものです。マリー・ロシェ中尉はユー将軍に対する恋愛感情から動いたものだと推測されます」

「恋愛感情?」

 アンドロイドであるが故にこうしたデリケートな問題にも触れられることができるのだろう。アンドロイドと人間の差があるとはいえ同じ女性の恋愛事情を恥ずかしがることもなく答える姿に修也は苦笑いするしかなかった。

「まぁ、何はともあれ今回の将軍たちの反乱は身勝手な動機から来たものだと明らかになったわけですよ。私としてはユー将軍には同情を禁じ得ない。ですが、彼の好き放題にさせるわけにはいかない。皆様もそうでしょう?」

 周りに集まっていた人々は修也の問い掛けに対して全員が首肯で答えた。
 どうやらユー将軍だけは倒さなくてはならないらしい。
 修也は深い決意を固めた。
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