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第一植民惑星『火星』
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警官隊は今まで以上に厳重な姿勢で目の前から走ってくるホバーバイクを待ち構えていた。
ホバーバイクを運転するのは火星の中でも屈指の凶悪犯とされる『明日なき明日を撃つ者』の片割れ、アレックスである。
そして追われているのはアレックスによって誘拐され、ミダス社から捜索願が出されていた日本人の少女だった。
少女の背後には昨日の夕刻に姿を眩ませていたというアボットなる若い女性が両目を閉じ、まるで神にでも縋るかのような顔で日本人の少女の背中を強く握り締めていた。
彼女の取り乱した様子から察するに彼女も日本人の少女と同様アレックスに誘拐されて連れて行かれてしまったのだということが想像できた。
警官隊たちはビームライフルの他に特製の投網を用意してホバーバイクを拿捕する計画でいた。
その上バギーで二人を追い掛けているアレックスを逮捕する算段でいた。
警官隊たちはホバーバイクの姿が見えるのと同時にパトカーのボンネットから緑色の巨大な網を広げていった。
この時警官隊が広げた投網は日本の運動会において障害物競走において使用される巨大な網だった。
流石の麗俐といえども目の前から大量の網を投げ飛ばされてホバーバイクごと絡め取られてしまったとあっては逃げることも不可能であったらしい。
二人を乗せたホバーバイクは大量の網に囲まれたまま地面の上へと強制的に叩き付けられてしまうことになった。
この時麗俐は専用のパワードスーツを身に纏っていない状況であるにも関わらず、身を挺してアボットを守り抜いた。
地面の上に倒された状態にあっても麗俐が背中をぶつけて守ったことによってアボットは無傷だった。
「よかった。無事みたいだね」
麗俐は背中をぶつけたこともあってアボットに対してどこか弱々しい笑顔を向けながら言った。
「ダメよ! あなた、しっかりして!早く逃げましょう!アレックスが襲ってくるから!」
アボットは自分の身を挺して守ってくれた少女を必死に励ましていた。
アボットは自分を助けてくれた外国人の少女を見捨てる気にはなれなかった。
麗俐もそのことが分かっていたからか、安心させるため優しい笑みをアボットに向けていた。
だが、麗俐は痛みからかその場から動くことができなかった。
そこに警官隊が慌てた顔を浮かべながらやってきた。
「おい、しっかりしろ!」
慌てて網を解除して二人をパトカーへと乗せようとした時だ。前方からバギーのけたたましい音が聞こえてきた。
どうやらアレックスが仕返しにきたのだろう。バギーを運転する傍らでブラスターを乱射している様子が見えた。
その際に麗俐を保護しようとしてくれた警官もブラスターによって頭部を撃ち殺されてしまう羽目になった。
頭が熱線によって吹き飛ばされてしまう姿は哀れの一言に尽きた。
麗俐は心の中で念仏を唱えてから暴走中も肌身離さずに持っていたカプセルを使い、自らの体に『エンプレスト』の装甲を纏わせていった。
仮面の女騎士ともいえる風貌へと姿を変えた麗俐は腰に下げていた武器を取り出し、レーザーガンを作り上げるとアレックスのブラスターに向かってレーザー光線を放っていった。
麗俐としてはここで決着を付けるつもりだった。そのため手始めにアレックスの手からブラスターを奪い取ったのだ。
麗俐の目論見は当たり、レーザー光線を受けたアレックスの手からはあっさりとブラスターが落ちていった。
それを見た麗俐はレーザーガンをアレックスへと向けたものの、アレックスは動じる姿を見せなかった。
文字通りその場から一歩も動かなかった。
かと思うと、黙ってバギーの上から降りていった。
その後で麗俐に視線を向けると、腰に下げていたもう一つの武器を取り出した。
それは黒い形をした立派なステッキであった。アレックスは道化師のようにステッキを右手でグルリと一回転させた後でステッキの鞘を外し、そこからレーザーの刃を剥き出しにしていった。
どうやらステッキは仕込み杖として使っていたらしい。ステッキを鞘として中にはビームソードを締まっていたのだろう。
麗俐が思わずアレックスの姿に畏れ多のいていると、アレックスがニヤニヤとした笑いを浮かべながら麗俐に向かって仕込み杖を振り上げて迫ってきた。
麗俐は慌てて武器をレーザーガンからビームソードへと組み換え、アレックスを迎え撃った。
アレックスの仕込み杖とビームソードとが激しくぶつかり合い、凄まじい音を立てていった。
同時にビームソード同士による壮絶な打ち合いが始まっていった。
ただ、戦いを有利に進めていたのはアレックスの方だった。アレックスがその証明だとばかりにミュージカル映画の楽しげなテーマを鼻で歌いながら仕込み杖を振っているのに対し、麗俐は攻撃を抑えるだけで精一杯だった。
アレックスの執拗な『突き』の動きにも参っていた。それはやはりアレックスがフェンシングの心得を使っているからだろう。日本の剣道にも『突き』はあるがあくまでも攻撃の一手段に過ぎない。
それに対してフェンシングは『突き』に重点を置いているので対照的だ。
剣道に重きを置いている人ならば初めはこの異種的な剣術を相手に苦労することは容易に予想できた。
だが、麗俐はメトロポリス社で剣道の鍛錬を受ける前は元の高校でフェンシング部に所属してそれなりの実績も収めていた。
そうした事情もあり、多少ならば心得もあり、凶悪犯が相手といえども多少ならば善戦できたはずだ。
だが、今の麗俐からはかつての腕前はまるで感じられなかった。フェンシングの心構えなど忘れてしまったかのようになされるがままになってしまっている。
麗俐の体からフェンシングの腕が消えてしまったわけではなかった。
それ以上にアレックスの実戦における経験が麗俐の腕を大きく上回っているだけだったのだ。
アレックスはますます得意になっていった。けたたましい笑い声が響いていく中で麗俐は崖淵の状況にまで追い込まれていった。
麗俐が両目を閉じて己の身に迫りくる死というものを覚悟した時のことだ。
ビームライフルから放たれたと思われる熱線がアレックスの足元に撃ち抜かれた。
二人が同時に熱線の放たれた方向を見つめると、そこにはビームライフルを構えた警官隊の姿が見えた。
「動くなッ! お前を逮捕するッ!」
「チッ! ポリ公どもがッ!」
アレックスは麗俐の体を強く蹴り飛ばし、警官たちの元へと向かっていった。
ビームソードを振り回しながら警官たちを殺そうとしていた。
また先ほどのように虐殺を行うつもりなのだろう。
それだけは許してはならない。麗俐は即座に武器をビームソードからレーザーガンへと組み換えていった。
飛び上がって警官たちに斬りかかろうとしたアレックスの背後から麗俐の放ったレーザー光線が直撃していくのが見えた。
アレックスは飛び掛かろうとする寸前に地面の上へと落ちていった。
警官たちは地面の上へと倒れ込んだアレックスの背中に向けてビームライフルの銃口を構えていった。アレックスは反応を見せなかった。
どうやら先ほどの一撃を受けて気絶してしまったらしい。警官の一人が銃を下ろし、アレックスの体を引っ張り上げたその時だ。
それまでしっかりと両目を閉じていたはずであるアレックスの両目が見開いていき、自身の体を引っ張り上げた警察官の手首を掴むと、そのまま背後へ回り、仕込み杖の刃を向けて、逆に自分を捕まえようとした警察官を人質にしたのだった。
麗俐も他の警察官たちも咄嗟に銃口を構えていったが、アレックスは大きな笑い声を上げ挑発するように言った。
まるっきりテレビや映画に登場する悪役のような喋り方だった。
「ハッハッハッハッ! お前らこいつが見えないのか?お前らが銃を撃てばこいつも死ぬんだぞ?それでもいいのかぁ!?」
アレックスがそう言い終わるのと同時に人質にされた警官が懇願するように仲間たちを見つめていった。
警官としても仲間から懇願するように見つめられてはビームライフルを下げるより他になかった。
麗俐も警官たちがアレックスから銃を逸らした姿を見て、自身も銃を下ろした。
それを見たアレックスは人質にした警官を引き摺りながらバギーの上に乗り込んだ。
そしてバギーが発着するのと同時に警官のホルスターから装備していたエネルギー銃を抜き取り、蹴飛ばして地面の上に転がっていった警官を用済みだとばかりにエネルギー線で撃ち殺したのだった。
けたたましい笑い声を上げた後にその場から立ち去っていくアレックスを睨みながら言った。
「な、なんて奴なの……あんなにあっさりと人を殺すなんて」
麗俐は殺された人物の名前も顔も知らなかった。ただ理不尽に殺されたことに対する怒りを募らせていた。
そんな麗俐の元に嬉しそうな顔を浮かべたアボットが現れた。
「助けてくれてありがとう。本当になんて言ったらいいのか」
麗俐はもちろん英語は分からなかった。言葉の中で分かったのはかろうじて「ありがとう」という単語だけだった。
それ故に返答も簡単なものだった。
「どういたしまして」
だが、その簡潔な一言は間違いなくアボットのハートを射抜いたに違いない。
アボットは嬉しそうな顔を浮かべながら麗俐の腕へと抱き付いていった。
ホバーバイクを運転するのは火星の中でも屈指の凶悪犯とされる『明日なき明日を撃つ者』の片割れ、アレックスである。
そして追われているのはアレックスによって誘拐され、ミダス社から捜索願が出されていた日本人の少女だった。
少女の背後には昨日の夕刻に姿を眩ませていたというアボットなる若い女性が両目を閉じ、まるで神にでも縋るかのような顔で日本人の少女の背中を強く握り締めていた。
彼女の取り乱した様子から察するに彼女も日本人の少女と同様アレックスに誘拐されて連れて行かれてしまったのだということが想像できた。
警官隊たちはビームライフルの他に特製の投網を用意してホバーバイクを拿捕する計画でいた。
その上バギーで二人を追い掛けているアレックスを逮捕する算段でいた。
警官隊たちはホバーバイクの姿が見えるのと同時にパトカーのボンネットから緑色の巨大な網を広げていった。
この時警官隊が広げた投網は日本の運動会において障害物競走において使用される巨大な網だった。
流石の麗俐といえども目の前から大量の網を投げ飛ばされてホバーバイクごと絡め取られてしまったとあっては逃げることも不可能であったらしい。
二人を乗せたホバーバイクは大量の網に囲まれたまま地面の上へと強制的に叩き付けられてしまうことになった。
この時麗俐は専用のパワードスーツを身に纏っていない状況であるにも関わらず、身を挺してアボットを守り抜いた。
地面の上に倒された状態にあっても麗俐が背中をぶつけて守ったことによってアボットは無傷だった。
「よかった。無事みたいだね」
麗俐は背中をぶつけたこともあってアボットに対してどこか弱々しい笑顔を向けながら言った。
「ダメよ! あなた、しっかりして!早く逃げましょう!アレックスが襲ってくるから!」
アボットは自分の身を挺して守ってくれた少女を必死に励ましていた。
アボットは自分を助けてくれた外国人の少女を見捨てる気にはなれなかった。
麗俐もそのことが分かっていたからか、安心させるため優しい笑みをアボットに向けていた。
だが、麗俐は痛みからかその場から動くことができなかった。
そこに警官隊が慌てた顔を浮かべながらやってきた。
「おい、しっかりしろ!」
慌てて網を解除して二人をパトカーへと乗せようとした時だ。前方からバギーのけたたましい音が聞こえてきた。
どうやらアレックスが仕返しにきたのだろう。バギーを運転する傍らでブラスターを乱射している様子が見えた。
その際に麗俐を保護しようとしてくれた警官もブラスターによって頭部を撃ち殺されてしまう羽目になった。
頭が熱線によって吹き飛ばされてしまう姿は哀れの一言に尽きた。
麗俐は心の中で念仏を唱えてから暴走中も肌身離さずに持っていたカプセルを使い、自らの体に『エンプレスト』の装甲を纏わせていった。
仮面の女騎士ともいえる風貌へと姿を変えた麗俐は腰に下げていた武器を取り出し、レーザーガンを作り上げるとアレックスのブラスターに向かってレーザー光線を放っていった。
麗俐としてはここで決着を付けるつもりだった。そのため手始めにアレックスの手からブラスターを奪い取ったのだ。
麗俐の目論見は当たり、レーザー光線を受けたアレックスの手からはあっさりとブラスターが落ちていった。
それを見た麗俐はレーザーガンをアレックスへと向けたものの、アレックスは動じる姿を見せなかった。
文字通りその場から一歩も動かなかった。
かと思うと、黙ってバギーの上から降りていった。
その後で麗俐に視線を向けると、腰に下げていたもう一つの武器を取り出した。
それは黒い形をした立派なステッキであった。アレックスは道化師のようにステッキを右手でグルリと一回転させた後でステッキの鞘を外し、そこからレーザーの刃を剥き出しにしていった。
どうやらステッキは仕込み杖として使っていたらしい。ステッキを鞘として中にはビームソードを締まっていたのだろう。
麗俐が思わずアレックスの姿に畏れ多のいていると、アレックスがニヤニヤとした笑いを浮かべながら麗俐に向かって仕込み杖を振り上げて迫ってきた。
麗俐は慌てて武器をレーザーガンからビームソードへと組み換え、アレックスを迎え撃った。
アレックスの仕込み杖とビームソードとが激しくぶつかり合い、凄まじい音を立てていった。
同時にビームソード同士による壮絶な打ち合いが始まっていった。
ただ、戦いを有利に進めていたのはアレックスの方だった。アレックスがその証明だとばかりにミュージカル映画の楽しげなテーマを鼻で歌いながら仕込み杖を振っているのに対し、麗俐は攻撃を抑えるだけで精一杯だった。
アレックスの執拗な『突き』の動きにも参っていた。それはやはりアレックスがフェンシングの心得を使っているからだろう。日本の剣道にも『突き』はあるがあくまでも攻撃の一手段に過ぎない。
それに対してフェンシングは『突き』に重点を置いているので対照的だ。
剣道に重きを置いている人ならば初めはこの異種的な剣術を相手に苦労することは容易に予想できた。
だが、麗俐はメトロポリス社で剣道の鍛錬を受ける前は元の高校でフェンシング部に所属してそれなりの実績も収めていた。
そうした事情もあり、多少ならば心得もあり、凶悪犯が相手といえども多少ならば善戦できたはずだ。
だが、今の麗俐からはかつての腕前はまるで感じられなかった。フェンシングの心構えなど忘れてしまったかのようになされるがままになってしまっている。
麗俐の体からフェンシングの腕が消えてしまったわけではなかった。
それ以上にアレックスの実戦における経験が麗俐の腕を大きく上回っているだけだったのだ。
アレックスはますます得意になっていった。けたたましい笑い声が響いていく中で麗俐は崖淵の状況にまで追い込まれていった。
麗俐が両目を閉じて己の身に迫りくる死というものを覚悟した時のことだ。
ビームライフルから放たれたと思われる熱線がアレックスの足元に撃ち抜かれた。
二人が同時に熱線の放たれた方向を見つめると、そこにはビームライフルを構えた警官隊の姿が見えた。
「動くなッ! お前を逮捕するッ!」
「チッ! ポリ公どもがッ!」
アレックスは麗俐の体を強く蹴り飛ばし、警官たちの元へと向かっていった。
ビームソードを振り回しながら警官たちを殺そうとしていた。
また先ほどのように虐殺を行うつもりなのだろう。
それだけは許してはならない。麗俐は即座に武器をビームソードからレーザーガンへと組み換えていった。
飛び上がって警官たちに斬りかかろうとしたアレックスの背後から麗俐の放ったレーザー光線が直撃していくのが見えた。
アレックスは飛び掛かろうとする寸前に地面の上へと落ちていった。
警官たちは地面の上へと倒れ込んだアレックスの背中に向けてビームライフルの銃口を構えていった。アレックスは反応を見せなかった。
どうやら先ほどの一撃を受けて気絶してしまったらしい。警官の一人が銃を下ろし、アレックスの体を引っ張り上げたその時だ。
それまでしっかりと両目を閉じていたはずであるアレックスの両目が見開いていき、自身の体を引っ張り上げた警察官の手首を掴むと、そのまま背後へ回り、仕込み杖の刃を向けて、逆に自分を捕まえようとした警察官を人質にしたのだった。
麗俐も他の警察官たちも咄嗟に銃口を構えていったが、アレックスは大きな笑い声を上げ挑発するように言った。
まるっきりテレビや映画に登場する悪役のような喋り方だった。
「ハッハッハッハッ! お前らこいつが見えないのか?お前らが銃を撃てばこいつも死ぬんだぞ?それでもいいのかぁ!?」
アレックスがそう言い終わるのと同時に人質にされた警官が懇願するように仲間たちを見つめていった。
警官としても仲間から懇願するように見つめられてはビームライフルを下げるより他になかった。
麗俐も警官たちがアレックスから銃を逸らした姿を見て、自身も銃を下ろした。
それを見たアレックスは人質にした警官を引き摺りながらバギーの上に乗り込んだ。
そしてバギーが発着するのと同時に警官のホルスターから装備していたエネルギー銃を抜き取り、蹴飛ばして地面の上に転がっていった警官を用済みだとばかりにエネルギー線で撃ち殺したのだった。
けたたましい笑い声を上げた後にその場から立ち去っていくアレックスを睨みながら言った。
「な、なんて奴なの……あんなにあっさりと人を殺すなんて」
麗俐は殺された人物の名前も顔も知らなかった。ただ理不尽に殺されたことに対する怒りを募らせていた。
そんな麗俐の元に嬉しそうな顔を浮かべたアボットが現れた。
「助けてくれてありがとう。本当になんて言ったらいいのか」
麗俐はもちろん英語は分からなかった。言葉の中で分かったのはかろうじて「ありがとう」という単語だけだった。
それ故に返答も簡単なものだった。
「どういたしまして」
だが、その簡潔な一言は間違いなくアボットのハートを射抜いたに違いない。
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※カクヨムでも連載しています
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