いじめられ勇者が世界を救う!?〜双子のいじめられっ子が転生した先で亡国の女王を助け、世界を救うと言うありふれた話〜

アンジェロ岩井

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第二部『救世主と悪魔達との玉座を巡る争い』

純粋なる騎士と邪悪なる魔道士

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北の国の侵攻による被害は年々増していくと言う。ある農民は税の軽減を求めて10年前に集団で当時の領主、オットー・フォン・ヴァイス・クロインツの元に押し寄せたと言う。
彼らの努力はヴァイス・クロインツの軍勢によって落とした卵を踏み潰すかのように簡単に潰されたが、事態を重く見た当時、15歳だった彼の一人娘のザビーネは父オットーに税の軽減を提言、また鎮圧にあたった兵士達に全ての責任を追わせ、民衆の前で首を跳ねさせる事によって彼女は自分の家に大衆の不安が集まっていくのを避けたのだった。
勿論、似た事件はシュヴァルツ・クロインツ家の領土でも当時のヴァレンシュタイン領に於いても発生した。
当時のヴァレンシュタイン家の若き領主、フリードリヒは事態を重く見て、北の国との戦争から帰還するなり、民衆に対し一年間の税の猶予を与え、ヨーゼフは息子カールとカールの腹心アドルフによって彼の父親が軍の力を借り、民衆達の強訴を弾圧する前に提言する事によって彼らは親衛隊を失わずに済む。
だが、この際にカールとアドルフは父親と意見を分かち合った弟のオットーと対立。以後、オットーがガラドリエル追悼戦にて戦死するまで両者の間の谷程も深い溝は埋まる事は無かったと言う。
近代史を勉強していた透明の盾を持つ剣士達ガラス・オブ・ソードのシルヴィア・ミラーは自分の関わった歴史のページに差し掛かる前に読んでいた本をパタンと閉じる。
シルヴィアは勉学を終えるのと同時に、ブレーメレの街の荒くれ者の兵士達の訓練を視察に出向く。
シルヴィアのような背の小さく幼い少女が彼らの訓練を視察する事には彼らにも抵抗があったと言う事なのだろう。最初は彼らは女王から派遣されたシルヴィアを軽く見ていたが、最初の鍛錬の際に最初の一撃で彼らの剣を跳ね飛ばした際にシルヴィアは正式に透明の盾を持つ剣士達ガラス・オブ・ソードの一員だと認められ、現在は市長の業務と騎士の業務と勉強に追われながら、忙しい一日を過ごしていた。
二ヶ月程前の女王の即位の式に立ち合えなかったとのは残念としか言いようがないが、彼女は心の中で仕方がないと割り切っていた。
シフヴィアが舗装のされていない荒れたレンガの道路の上を歩いていると、一人の目に十時の傷を負った兵士が一枚の手紙を携えて彼女の目の前に現れる。
「どうしたのだ?そのように慌てて」
「大変です!北の国との国境付近の見張りの兵士が北の国が侵攻しようとしているって……」
伝令の男の言葉にシルヴィアは両眉を眉間に寄せ、
「そんな馬鹿な、前回に北の国が攻めて来たのは9年前だ。少なくとも後一年は持つ筈だろう?」
「いいえ、実際にゴブリンとオーガとオークが重なり合った小隊が北の国との国境付近でウロウロとしていたと言う情報が……」
シルヴィアは顔を青くしていく。現在のプロイセン大陸は統一王朝としてヴァレンシュタイン王朝が誕生して間も無いのだ。もし、そんな時に北の国の軍隊が来た場合に法の整備や軍の統制が取れるのだろうか。
シルヴィアはそんな不安な考えを抱いたが、直ぐに首を横に振っていく。
自分の仕える女王にしてガラドリエル・フォン・ヴァレンシュタインは自分が元々仕えていた領主の土地を奪った卑劣なる人物なのだ。
彼女がこれくらいの対処が出来なくては困る。シルヴィアは心の中で出した結論をオブラートに包み込み、女王にその事を告げるように伝令を持ってきた男に伝えた。
男はブレーメレの街の広場から近くの馬小屋に停めてある自分の栗色の毛並みの体格の良い馬に飛び乗って、ヴァレンシュタイン領のある現在の女王の住む城へと向かっていく。
恐らく彼は不眠不休で馬を走らせる覚悟だろう。
シルヴィアは女王のために働く荒くれ者の騎士に悲しげな微笑みを向けていく。
普段は尖った表情ばかり見せる彼女にとって滅多に見せない慈悲の気持ちであったに違いない。
幼年の騎士は彼が去るのを見届けてから、再び荒くれ者の兵士達の訓練を眺めていた。





「まさか、たったの二ヶ月でこれ程の兵士の生成に成功するとは……流石は偉大なる魔道士の一人というべきだろうか」
北の国の夜の闇のように黒い鎧に身を包めた男はフレーゲルの功績を称えていた。
フレーゲルは北の国の王に向って大きく頭を下げて答えた。
「私の魔法は確実でございます。確実に魔物の子供を増やし、更にあなた様の使用するオークを利用し、新たにオーガと言う怪物を作る事にも成功致しました!何も恐れるものはありません!今こそ、プロイセン大陸を手中に収めましょう!」
フレーゲルの力強い言葉に北の国の王は表情こそ見せないが満足そうに首を縦に動かす。
「それに貴様は妙なものまで考案したな?確か、船に風の魔法をかけて自由自在に動くように考案した……何と言った?」
「飛行船ですッ!飛行船でございますッ!陛下ッ!陛下は私めの考案した飛行船にお座りいただき、地上にて陛下の軍勢がプロイセンを覆う際にあなた様はあの国の民どもが泣き叫ぶ様をご覧になられるのです!」
両手を大きく広げ、彼はまるで役者のように大袈裟に言ったが、黒色の尖った兜に身を固めた男は満足そうに頷く。
フレーゲルは前の世界の記憶を思い出していく。彼は戦争末期に抑留民を引き渡し、自らの地位を自分の敵の国の高官に結び付けた時の事を。
彼は前の世界で一人の真っ直ぐな将校を裏切った事も同時に思い返す。
彼はずっと自分の作戦に反対し、最後には自分に斬りかかろうとしたのを周りの兵士に命令して射殺に追い込んだ時の事を。
その時の悔しそうに死んでも死に切れないような視線で自分を睨む男の顔。
フレーゲルは前世の一世一代の作戦を成功させた時の自分と現在の自分の姿が重なって見えた。
あの時も上手くいったのだ。敵のトップを利用し、自分は敵の国で高官の地位を得た。今度もそうだ。彼は亜人や魔物を使役して玉座に座る自分の姿を思い描く。
彼にとってこちらの世界も前の世界と同様に薔薇色の未来が広がっているらしい。
フレーゲルは陰湿な笑いを浮かべたい気持ちを押し殺し、この世界の自分にとっての王に媚びていく。
頼まれれば靴でも舐めかねないような態度をしていたが、むしろそれが北の国の王の好感を得たらしい。
フレーゲルの威力は留まる事を知らないのだろう。
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