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賞金稼ぎ部(ハンティング・クラブ)編

学院奪還戦ーその①

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馬の尻に鞭を打って、必死に走らせていき、街を歩く中で私やケネスは不穏な噂を耳にしていく。
その噂というのが、学校を占領したテロリスト達があまりにも凶悪であり、政府に射撃教師を帝国へと引き渡そうしているのだが、その要求が認められるまでに次々と人質を取り分け、E~Gクラスまでの基礎魔法の使えない生徒達を重点的に撃ち殺しているという。
馬を走らせる中で私の口から「下衆」という言葉が溢れ落ちてしまう。
学校を占領した私設警察隊なる存在はたった一人を帝国の刑務所へと送るために、何人もの生徒を殺しているらしい。
だが、その中でも一番、私やケネスを憤慨させたのは学校を占領したリーダーが姿を見せないという事だろう。
私はそれを耳にした瞬間に、無意識のうちに唇を強く噛んでいる事に気が付く。
それもそうだろう。あれだけの事をしておきながら、自分は匿名であり続けるというのは卑劣極まりない。
手下や人質にさえ正体を明かさず、事件が終わった後には何事もなかったかのように過ごす。
こんな下劣な奴には負けられない。そう意気込んだ私は大急ぎで馬を飛ばし、学校の門の前へと辿り着く。
私とケネスの二人が予想外に早いタイミングで現れた事により、門番の二人の心の内には少なからず動揺を与えたらしい。彼らは慌てふためいた表情でホルスターから拳銃を抜こうとするが、私は彼らよりも落ち着いた様子で、それでも、彼らよりも早くホルスターから銃を抜き取り、彼らの額に向かって引き金を引いていく。
馬上からの銃撃により、彼らはなす術もなく地面に倒れていく。
私は二人が倒れたのを確認すると、ポケットから弾を取り出し、新たに回転式の拳銃に詰めていく。
それから、ケネスを手招きして、学院の中へと足を踏み入れる。
テロリストに占領された学校とは言っても、普段、私達が通っている学校であるのは庭の様子から見ても間違い無いだろう。レンガの道を歩く音が反響していく。
敵が聞いているかもしれないのに、無用心かもしれないが、私は腕には自信がある。少なくとも、右手に銃を握っている限りは突如、目の前や背後から現れたとしても、対処できるだろう。
そんな事を考えていると、目の前から人影が見えた。
私が銃口を向けると、人影は臆病な呻き声を上げて、退散しようとする。
なので、私はその人影に向かって、
「待って、私はテロリストじゃあないわ!あなたと同じこの学園の生徒よ!」
「同じ学園の生徒」という単語に安心したのだろう。目の前の人影は両肩を落として、肩の力を抜いてから、こちらを振り向く。
向けられた顔はあまりにも予想外な顔であった。私はてっきり、落第生やいわゆる〈杖無し〉に分類されないエリートクラスの生徒が外に抜け出して来たのかと思ったのだが、それは馬係のジャックの顔を見るなり、間違いだと思わされた。
思わず面食らった私を見て、ジャックは抗議の意味も込めて、私の体をポカスカと殴っていく。
「酷いじゃあないですか!いきなり、銃口を向けなくても!」
「ご、ごめんなさい。それよりも、どうしてあなたがここに?」
「あぁ、ぼくは馬繋場に出入りする馬係ですからね!抜け出そうと思えば、簡単に抜け出せるわけでして……」
私は納得と一言を口に出してから、彼を強く抱き締める。
「あ、あの、ウェンディさん……」
「良かったわ。あなたが無事で……大変だったでしょうに……」
ジャックは暫くの間、なぜか、頰を赤く染めながら、私の抱擁を受け止めていたが、暫くすると、私の腕を振り解いて、なぜか、耳を真っ赤に染め上げて、顔を両手で覆い下を向いて悶絶していた。
私は彼がどうしてそんな事をしたのかと、私は首を傾げたのだが、それ以上に不思議なのがケネスの態度だった。
どうして、彼は敵でも見るかのような険しい目で彼を睨んでいるのだろうか。
私が二人の態度を見て、色々と考えていたのだが、私の心の内が私に向かって呼び掛ける。
“早く、校舎に向かって人質を解放しなければならない”と。
私はそれまでの惚けた気持ちを首を激しく横に振る事により、追い払い、ケネスの手を取って正面の校舎へと向かう。
私とケネスは後者の中に侵入する事に成功し、捕らえられている人質を解放するべく、学校の物陰に隠れ、息を潜ませながら教室へと向かっていく。
悪いが、私と同じ落第生の方の校舎は後の方に回させてもらう。
正面からの位置は私達の校舎より、彼らの校舎の方が近いのだ。
学校を占領しているテロリストどもを外に出す事なく始末していけば、即座にエリート達を解放し、私達の仲間の元へと迎えるだろう。
だから、私とケネスが居るのはA~Cクラスまでのいわゆる〈杖有り〉〈マジシャンガンマン〉が日々、勉学に励む建物なのだ。
エリートが通う場所だけあって、私や他のクラスの皆が使用する場所とは雲泥の差であると言っても過言ではない。
校舎の中は今さっき磨いたばかりのように掃除が行き届いているし、壁は新品のレンガ。廊下も少し揺らしても揺れが響かないのではと思う程の分厚くて赤いカーペットが敷き詰められており、廊下の端には歴代の国王を表した銅像やらが立っており、学院というよりは家族のために用意された高価な屋敷のようだ。
銃を構え、銅像などの物陰に隠れて進む、私の横でケネスが舌を打ったのもそのためかもしれない。
とにかく、私とケネスは各クラスの教室を見て回り、どれだけの数がクラスを占領しているのかを把握していく。
とりわけ、A~Cクラス三学年の生徒を人質にするのだろうから、彼は大変強い魔術を秘めているのだと推測する。
私の推測が当たっていれば、彼らを相手にする時間などない。
なので、私は風よりも素早く、彼らを抹殺していく事に決めた。
だが、教室の生徒達の声やそれを制するテロリストの声が各教室から聞こえないのはどうしてであろうかと、そんな事を考えながら、銃の手入れをしている所にケネスが現れて、重要な事を私に耳打ちしていく。
「どうやら、この右端で勉学を学んでいるエリートどもは右端の、奥の教室に無理矢理、詰め込まれているらしいぞ、なんでも、突入の際に奴らが問答無用で銃を乱射して、エリートどもを魔法を使う暇さえないと脅させたらしい」
「なるほど、それに狭い所に詰め込まれていれば、魔法を使ってしまえば、仲間が巻き込まれてしまう可能性もあるからね。なるほど、じゃあ、魔法はあまり使えないと見ても良いのかもしれないわね」
私は勝利を確信したのか、口元の右端を吊り上げて言った。
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