王立魔法学院の落第生〜王宮を追放されし、王女の双子の姉、その弱い力で世界を変える〜

アンジェロ岩井

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フォー・カントリー・クロスレース編

ファースト・アタック

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その晩、レースの参加者達は子爵の土地の中に存在する宿舎で夜を過ごす事になったのだが、私は正直、この時間になるまで何も起こらなかった事から、テロリストにあのエリオットなる無礼な王子が襲われる可能性もなくなるのではと思ってしまう。と、言うのも私が鞄の中に詰め込んだ懐中時計が十一時の針を指しても何も起こらなかったからだ。
その時間までは何も起こらなかったので、私は服を脱いで新品のシーツにくるまり、ウトウトとしていると
突如、扉の前で絹が裂けるような悲鳴が聞こえて来たために、私はベッドの上から飛び起き、服を着ると、鞄の上に置いていた銃とホルスターを取り、鞄から変装用の画面を取り出し、表へと向かう。
部屋の扉を開けた先では参加者と思われる赤い髪の少女が悲鳴を上げていた。
私が先程の悲鳴の理由を尋ねると、
「ば、化け物よ……このホテルに豚みたいに醜くて太った化け物が現れたのよォォォォ~!!!」
私は彼女の両肩を強く掴んで、
「待って!その化け物とやらは何処にいたの?」
彼女は人差し指を震わせて廊下の突き当たり、つまり、階段と私達の泊まる部屋との境目にいるという事だろうか。
私は彼女の指した方向を見つめたが、どうも、それらしき怪物は存在しない。
私が改めて尋ねようとすると、彼女は両手を震わせて、私の両肩を掴み返して、
「ち、違うのよォォォォ~!!!怪物が居るのはフロントよッ!今、怪物を倒しにあたしの彼が向かっているのよォォォォ~!!」
その言葉を聞いて、私は慌てて階段の下を降りていく。
階段を降りた先に存在していたのは、彼女の口が発した言葉に似つかわしい豚のように醜い男がそれに似合う邪悪で下品な笑顔を浮かべ、邪魔をする人間を殺していた。
私は階段の一段目の辺りで、男と制圧に向かったと思われる〈マジシャンガンマン〉の戦いを見たのだが、男はあまりにも一方的にそして、あまりにも残酷な方法で男を殺していく。
ようやく、一階に到着した私は一度、その残虐ぶりに目を逸らしてしまうものの、王女としてのプライドを奮い立たせて、震える手を気力で抑えて、醜悪な男に銃を突き付けて尋ねる。
「あなたッ!一体何をしたの!?答えなさい!?」
豚の怪物はこちらを振り向くと、口元の左端を大きく歪めて、見ている人間の背筋を冷やしそうな程の邪悪な笑顔を浮かべて私の方を振り向く。
「分からないのか?こいつらはオレの要求に従おうとしなかったんだ。だから、こんな奴らは死んで当然だよ」
男は人を殺したというのにまるで、虫でも殺したかのようにアッサリと告げた。
それから、もう一度醜悪な笑顔を見せて、
「さてと、お前は何をしに来たんだ?オレの妾になりに来たのか?それとも、ニューヨーシャー王国のエリオット王子の場所をわざわざオレに伝えに現れたのか?」
男は私に向かってそんな事を言ってから、威嚇の意味も込めて地面を叩く。
すると、地震でも起きたのかと思うくらいに揺れて、私は倒れてしまう。
咄嗟の事であり、バランスを保つ暇もない。幸いな事に銃を落とす事は無かったが、それを差し引いたとしてもあの揺れは危険過ぎた。賭けてもいい。あの地震が街の中で起きれば、確実に街の保安委員が駆け付けるだろう。
その様な凄まじい揺れをあの男は拳一つで起こしたのだ。
魔法を使える筈の何処かの学校の生徒が負けた理由が分かったような気がした。
それと同時に、私がここで逃げる訳にはいかない事も教えられた。
あの男は妹が言っていたような国の要人を狙うテロ組織の一員なのだ。
なので、ここで私が死んだり、引いたりしたとすれば直ぐに彼は二階へと上がり、泊まっている客を王子を出さなかったという理由で殺すに違いない。
次に、男は他のホテルを探し、同じ様な理由で殺戮を繰り返すのに違いない。
そして、エリオット王子の泊まっているホテルを探すまで殺戮を続けた後にはあの大きくて醜悪な体を使って、ゴール地点でテロを起こし、各国の代表を殺す事は銃の引き金を引けば、弾が発射されるのと同じくらい確実な事に相違ない。
私は銃を構えたものの、目の前の男に銃が効くのかを思案していく。
体格は天井の半分まであり、全身を筋肉に覆われている。
恐らく、基礎魔法、肉体強化に連なる魔法の一種なのだろう。
だが、それにしても男の身長と体格は異常とも表現できた。
だが、顔だけは変わらない。まさに豚の化け物だ。大きくてデカくて頑丈で、そのくせ顔は醜悪な騎士道物語や冒険物語に出てくる主人公の騎士や冒険好きの王子を阻む魔女の手下だ。
だが、怯むわけにはいかない。私は呼吸を整えていく。
それから、静かに引き金を引く。だが、覚悟を決めても大きな音は出るもので、銃声が一階の部屋に鳴り響く。目の前で銃口から白い煙が出ているのを確認したのだが、目の前の男は何処も痛くないとばかりに両手を動かし、私の前で笑ってみせる。
それから、ドシンドシンと体を揺らし、私の前に向かって来る。
やむを得ずに、私は決死の思いで、男の体をくぐり抜け、彼が両手の拳を握って潰す筈であった階段から難を逃れていく。
それから、私を殺し損ねた男の背中を狙って銃を放っていくのだが、男は相変わらず蚊でも止まっているのかと言わんばかりに笑い、私の元へと向かう。
そして、私の立っている位置に向かって拳を喰らわせたのだが、私は男の拳を飛び上がって避け、ついでに額に向かって引き金を引く。
銃弾は確かに命中した筈なのだが、男は意に返さない。
何という事なのだろう。男は頭蓋骨にも何か強化を施したのだろうか。
それとも、かつて人類が戦争に使用し、四大国家の初代の指導者達が身に付けていたという鎧。
あれに似たものを男は作り出しているのだろうか。効果は如何程なのだ。もし、男の任意で続けられたのだとしたら……。
私の頭の中に最悪の考えが思い浮かぶ。
あの男は幾らでもあの力を振るえるという事になるだろう。
だが、立ち止まって考える事は許されないらしい。
私の頭上に男の拳が迫り、私はやむを得ずに地面を転がって難を逃れる。
私は入り口に向かって走り出したのだが、凄まじいのは男の殴った跡だった。
男の拳はホテルのフローリングをいとも容易く粉砕し、ホテルのカウンターに至っては粉々に砕かれている。
恐らく、この時に男子生徒が異変に気が付いて外に飛び出したのだろう。
そんな事にも気が付かずに眠っていた自分を反省し、贖罪の意味も込めてこの男を必ずあの世へと送る事を決めた。
容赦をする気は一切無かった。
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