王立魔法学院の落第生〜王宮を追放されし、王女の双子の姉、その弱い力で世界を変える〜

アンジェロ岩井

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フォー・カントリー・クロスレース編

序盤の展開

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最初のチェックポイントである学院の近くの子爵が治めるアーバートンの街までの距離は馬で一週間というものであり、そこに至るまでに参加者の二割が脱落するであろうとも言われていた。
なぜならば、
「背後を取ったぜ!このままオレの炎の魔法を受けてリタイアしな!なぁに、心配するなよ!銃さえあれば、生き物なんて簡単に狩れるしなッ!」
そう、魔法を持つ乗馬師達が同じく魔法を使える人間や使えない人間を相手に魔法で妨害を行うからである。
私の背後で、息巻いている赤い色のテンガンロンハットを被った男がその最たる例であると言っても良いだろう。
彼は炎を宿した右手の掌を私の馬に向けて、馬を焼いて私を脱落させようしていたのを知った。
だから、私は左手を光らせて彼の炎を吸収し、彼の炎を使って窮地に陥とさせていく。
炎を受けた男の愛馬は炎上し、危機を感じた男は慌てて馬の鞍の上から地面へと転がり込む。
土の地面の上で悶絶していたのだが、私は同情する事なく馬を前へと進めていく。
可哀想かもしれないが、もし、魔法を使えなければあそこで馬を失って倒れていたのは私の方だったのかもしれないのだ。こうして、私は何度も襲い掛かってくる他の選手と魔法を交えながら最初のチェックポイントであるアーバートンへと辿り着いたのだった。
どうやら、チェックポイントには既に何人かの男女が到着しており、人の良さそうな子爵の用意した屋外のテーブルに用意された肉料理を食べたり、ワインを飲んだりして楽しいひと時を過ごしていたらしい。
私は町の中心部で馬を馬の繋ぎ場に止めて、一週間の疲れを癒すべく、饗宴に興じる彼らに倣い、私も料理を口にしていく。
私はこの一週間、ずっとパンや野生動物の肉ばかりを口にして飢えを凌いできたのだから、まともな料理にあり付けたのはありがたい。
私は馬の手綱を引く時に、使用した馬用のグローブをポケットの中にしまうと、まともな食事にあり付いていく。
牛のステーキに、子豚の丸焼き、果てには七面鳥を丸ごと焼いた豪華な肉料理がテーブルの上に並んでいる他には、飲み物としてワインやらバーボンやらウィスキーやらが入ったグラスや瓶が所狭しと並んでいた。
きっと、子爵なりのおもてなしのつもりなのだろう。
私はその好意に甘えて、ステーキや子豚、七面鳥の丸焼きをつまみに酒を飲んでいくのだが、どうやら、この料理では満足できない人間もいたらしい。
私が美味しそうに焼かれたステーキをつまみにグラスの中に入った琥珀色のアルコールを楽しんでいた時だ。
子爵に向かってヒステリックに怒鳴る声が私の耳に響いていく。
気になった私が怒られている子爵の元へと向かって行くと、なんと、ニューヨーシャー王国の不細工な王子が立っていた。
そればかりではない。王子の取り巻きと思われる華麗なドレスに宝石で着飾った少女達が老齢の人の良さそうな子爵を取り囲んでいたのだ。
「本当ですわ。まさか、王子にいや、私の婚約者にこの様な食事を口に付けさせるなど、我が国ならば、万死に値する行為ですわ」
「……。お怒りはご最もなのですが、それが我が土地で取れる一番良い牛肉なのです。どうか、ご勘弁の程を……」
「本当になっていませんわ!私のエリオット様に何かあったらどうなさるおつもりでしたの!?」
「そうよ!あなた謝りなさい!」
王子の取り巻きと思われる二人の少女が交互に謝れと口に出していく。
最早見ていられない。私が抗議の言葉を口にするために、エリオット王子の元へと向かおうとした所だ。
その騒動を眺めていた学生達の間から、一人の男が現れる。
「お待ちを、王子……二日前に突如、馬車での参加をお決めになられたはいえ、あなた様もこのレースに参加されている人物だというのをお忘れになってはいけませんぞ」
「うるさい!第一、お前は何者だ。何の許可があって、オレの元に現れた」
男はその王子の抗議を無視して、懐から一枚の紙を取り出す。驚く事に、その紙にはお父様のいえ、陛下の家紋が押された紙が現れた。
「ウィンストン・セイライム王国近衛兵団の一員にして今レースにおける陛下の護衛役を承っております。コール・キャンディマンと申します。以後、お見知り置きを……」
たくましい体格の男、いや、コールは丁寧に王子に頭を下げてから、王子の非を改めて問いただそうとしたのだが、流石の王子も王の護衛役と事を構えては不味いと判断したのか、取り巻きの令嬢達を連れて宿へと向かう。
私がその男の格好良さに見惚れていると、その男はずっと自分を見つめていた仮面の女に気が付いたのだろう。
私の方に向かって、真っ白な歯を見せて、
「美しいお嬢さんレディ。どうです?あちらの方で私とステーキを食べませんか?」
思わず顔を赤面させる私の耳元で彼はそれこそ、周りの生徒に聞こえないような小さな声で囁く。
「ウェンディ王女……お話があります」
私はその言葉で、彼がこのレースに私が参加している事を掴んだらしい。
私を観衆の前から離し、土地の外れ、それこそ子爵の土地と先程、まで馬を走らせていた場所と殆ど変わらない位置に向かうと、彼は特徴的なブラウンの瞳で私の目を射抜いて、
「ウェンディ王女。ここで予定と違う事が起こりました。私共王国近衛兵団はあの過激派がやらかすのはゴールの場所だと推測したのですが、急遽、王子が参加する事となり、彼らの襲撃を予測するのが難しくなり、尚且つ王国領内を出るまでは私が密かに王子を護衛する事をお伝えに参りました」
「そうだったのね。でも、どうしてニューヨーシャーの王子がこのレースに参加したいなんて言い出したのかしら?」
私の問いにコールは暫く黙っていたのだが、重い憂鬱そうな表情を見せて、
「王女様もご覧になられましたよね?あの男の王女の取り巻きの姿を……恐らく、あの男は取り巻きと婚約者にいい格好をするために参加なされたのでしょう。何のリスクも無しに……」
忌々しそうに吐き捨てたコールはそれから、何かと王位継承権を剥奪され、王宮から追放されたとはいえ、未だに王族としての記録を残され、宮殿内では王女として扱われる私を引き合いに出し、隣の国の王子を点していく。
何でも、私が堂々と戦っているのに対し、王子は王家の家紋の描かれた馬車を走らせて、この二日間それぞれの競争者が戦う様子を余裕たっぷりに見ていた事や馬を使うのがルールであるのに、王族としての特権をひけらかし、馬車を使用している事が許せなかったらしい。
一通り私に愚痴を言い終え、冷静になったコールはもう一度頭を下げて、町へと戻っていく。
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