王立魔法学院の落第生〜王宮を追放されし、王女の双子の姉、その弱い力で世界を変える〜

アンジェロ岩井

文字の大きさ
31 / 211
フォー・カントリー・クロスレース編

銃声から始まる二大大陸横断レース

しおりを挟む
会長の恐ろしさに怯えながらも、私はその日は外で必要なものを買い揃えていく事に決めた。馬の鞍に付ける寝袋に、キャンプの用意、食料品を入れるための大事な鞄。そこに財布やらナイフやら縄やら懐中時計やら寝る前に読むための長編のミステリー小説やら馬の汚れを拭くためのブラシなどの細々とした品々を詰め込む。
それらを詰めた鞄がキチリと私の肩に掛かっている事を確認すると、今度は大きな荷物を馬にくくり付け、そこに替の服やら下着やら、馬のために購入した人参などの餌を詰め込む。
どちらも一着ずつ、万が一の事もあろうが、それはポイントとして通過する各町で買えば良いだろう。
そのために、財布を持っているのだ。馬に必要なものを付けて、足りなくなったり、広大な大陸の何処かに荷物を落としたりすれば、途中の町で購入する。
素晴らしいシステムではないのだろうか。そんな事を考えながら、最後に夜の散歩をしようと外に出掛けていると、一人の長い金髪の女性に肩をぶつけてしまう。
「あ、すいません!怪我はありませんか?」
私が謝ると、肩をぶつけた女性はニッコリと笑って、
「平気です。失礼しましたね。前を見てなくて……」
目の前の女性は頭を下げて通り過ぎようとしたのだが、私の胸に付いている馬の形をしたバッジを見て目の色を変えた。
「もしかして!あなた、レースの参加者なの?」
「……ええ、そうですが……」
「なら、これも何かの縁だわ!自己紹介しておかなきゃ、私の名前はアイリーン。アイリーン・オールドマンと言います。以後お見知り置きを」
アイリーンなる可憐な女性は着ていた茜色のドレスの両裾を両手で持って丁寧に頭を下げる。
「あ、これはご丁寧にありがとうございます。私の名前はウェ……」
ここで私は本名を出すのを躊躇ってしまう。名前を言いかけて引っ込めてしまった私に対して、目の前の令嬢は首を傾げていたのだが、直ぐに私は笑顔を浮かべて、
「いえ、ウェンダー。ウェンダー・スピーサーです」
「ウェンダー?というと、あなたは男の子なの?着ている服も男の子の服だし」
「い、いえ、ウェンダーという男名は父が男の子が生まれるのだとばかり思っていて女の子の名前を考えていなかったから、この名前が付けられたらしいんです」
「そうなんだ。あなたも大変だね」
「ええ」
私は気不味くなってしまう。それに後ろめたさの様な感覚を味わってしまう。
自分が語ったのは当然ながら、嘘の経歴だ。だから、それで相手の同情を買ってしまうという問題があると、どうしてもそんな気分になってしまうものだろう。
私は明日の主賓演説を聞くために早く寝るという口実の元にその場を抜け出し、二日の宿として使用している町のホタルへとUターンする。
その日はあの人の良さそうな金髪の女性を騙した様な気がし、結局意識を失ったのは大分夜が更けてからの事だ。
私は翌日、ピーターに揺さぶられて、目を覚まし、夢から覚めた後には着替えるために、一度彼を部屋から追い出し、白色のネクジェから二日前に到着した時から着ていた男物の服へと着替えていく。
その後、私はピーターに勧められるまま一階のホテルのレストランで簡素な夕食を済ませて、食後の紅茶を啜ってからホテルの前に泊めている馬の手綱を引いて、町の中心部へと向かう。
この港町は六方向から入れる様に形成されており、それぞれの入り口に町並が揃っており、町の住民たちが町長の演説やら時たまに町を訪れる巡回の役人の話を聞いたり、年に一度のレースの最初の大事な演説を聞く時には町の出入り口から伸びている大きく開いた町の広場へと向かう。そして、その突き当たりの広場の奥には更に大きな道があり、漁師やら海を目的に訪れた観光客はここを訪れる事になっている。
私は昨日の晩に、ピーターからこの町の構造を聞かされた時には本当に最東端にある町なのだと思い知らされた。
私がその町の広場をに出ると、そこには大勢の生徒達が馬を連れて広場の中央に設置された演説台を眺めていた。
演説台の周りには各国の兵士達が並び、ここに各国の皇帝、国王、大統領が並ぶのだなと私は思い知らされた。
毎年の演説の順番は共和国、ウィンストン・セイライム王国、ニューヨーシャー王国、帝国の順番になるのだそうだ。
だが、開幕式には皇帝も国王も大統領も姿を見せない。あくまでも、広場を見通す高級ホテルの一室にて席を並べて見守っているのだそうだ。
最初に演説を行なったのは大東呂の補佐官の役割を担うジョン・ボルギーであった。ボソボソとした声とパッとしない顔であったので、演説台を降りて暫くすればこの場に集まった全員の記憶から消えそうな程だ。
加えて、次に登ったのが我が妹のシンディであったのならば、生徒の関心はそちらにいく事は間違い無いだろう。
生徒全員が私の妹を見つめている。私と妹は瓜二つの顔なので、やはり、仮面で顔を隠していたのは幸いだろう。
シンディは深く息を吸い込み、落ち着いてから演説を繰り出していく。
「みなさん、今日はお集まりいただきありがとうございます。本日から始まるフォー・カントリー・クロスレースが楽しく、そして公平フェアな勝負になる事を心の底から期待しています」
シンディが頭を下げると、周りの生徒達は美しい王女に向かって一気に手を叩いていく。
私も妹が自国の国民ならず他の国の国民からも称賛を得られている事はとても誇らしい。
それに、姉としても鼻が高い。あれが私の妹だと自慢できないのが悔しい所だ。
そんな事を考えていると、次にニューヨーシャー王国の祝辞係である王子が集まった人々に向かって言葉を向けていく。
ニューヨーシャー王国の王子はどうやら、男女の差やブスッとしたお世辞にもハンサムとは言えない顔という差もあるのだろうが、妹に比べればそこまでの人気は無い。
だが、最後に登場した皇太子の姿を見ると、私達は思わず息を呑んでしまう。
それこそ、男性陣も見惚れてしまう。それくらいの美しさを持つ皇太子だったのだ。
最も、外交上の問題か、他国は彼の所属する帝室を認めていない状況だが、みんなは便宜上、皇族と呼んでいるし、私だって皇太子と呼ぶ事に抵抗は無い。
そんな事を考えているうちに、皇太子は演説を終えたらしい。
皇太子が降りるのと同時に、私達は固まって班として纏められた後に、馬を連れて町の入り口に向かう様に指示を出される。
そして、各出入り口の前で馬に乗り、開幕の銃声が町の広場から上がったのならばスタートだ。
私の目的はここやゴールの町で妹を守る事なのだが、折角なのだから、優勝も狙ってはみたい。
そんな事を考えていると、レースのスタートを告げる銃の音が鳴り響く。
同時に私や他の参加者達は馬の手綱を引っ張り、馬と共に前へと駆けていく。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える

ハーフのクロエ
ファンタジー
 夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。  主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます

天田れおぽん
ファンタジー
 ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。  ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。  サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める―――― ※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

処理中です...