王立魔法学院の落第生〜王宮を追放されし、王女の双子の姉、その弱い力で世界を変える〜

アンジェロ岩井

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フォー・カントリー・クロスレース編

ニューローデム・パニック!前日譚

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エリアーナは落ち着かない様子で、ホテルの廊下を歩き回っていく。フローリング状の机の上にブーツの音が鳴り響く。
ここはニューローデム共和国の最初のチェックポイントのホテルであり、名前を隠したクリストファーとエリアーナはここに合流し、明日のレースに備えて部屋の中で食事を摂っていたのだが、先程、ホテルのボーイに頼んだ新聞に載っていた事件をを見てから彼女は様子を一変させ、あの調子でいるのだ。
ずっと落ち着かない調子だというのは良くない。クリストファーは恋人として何か言うべきだろうなのが、彼女の剣幕の前に彼は蛇に睨まれたカエルのように動けなくなってしまう。
先程から、彼が窓の側の椅子で両手の指を組み合わせて、その指を弄っているのもそのためだと言えるだろう。
だが、落ち着かない様子のエリアーナの様子も分からないではない。
最初のニューヨーシャー王国のエリオット王子を狙った時の計画では大切な同志をウェンディにより抹殺され、次のエリオット王子の誘拐計画は何処の馬の骨とも知らない犯罪者に横取りされた挙句に、それが発端となり、計画をウェンディに潰されてしまったのだから。
帝国での作戦はアランが計画し、実行したと自分もエリアーナも感じていたに違いない。
だが、その計画と言えば、計画に役立つと思って引き入れた男が土壇場で裏切り、アランを撃ち殺し、ウェンディに寝返った事により、おじゃんになってしまった。
レース開始始めには五人もいた同志は今や、自分と恋人であるクリストファーの二人のみなのである。
彼女は忙しなく扉を回りながら、地面へと爪を落としていく。
恐らく、彼女は爪を噛んでいるのだろう。彼の耳にも爪を噛む音が響いていく。
クリストファーが何と言って彼女を宥めようかと考えていると、彼女はエリアーナの元に現れて、右手の掌を広げる。
クリストファーはそれを見て、慌てて椅子から転げ落ち、その場から逃げ出そうとしたのだが、彼女は容赦する事なくそのまま右手の掌を広げて逃がさない。
クリストファーは助けを求めて言葉を発しようとしたのだが、肝心の言葉が口から出てこない。
いや、口ばかりではない。呼吸さえも出来なくなり、気が付けば、彼の前に広がる光景と言えば、あの世とこの世とを繋ぐ川とその前に広がる石ばかりの川原。
クリストファーは目の前の川と自分の立っている場所とを見て本当に死を覚悟した。川の前では既に死んだ筈の計画の同志が手を振って、彼を待ち構えていた。
彼が死んだ仲間を見て、悲鳴を上げようとした時だ。もう一度、彼の目の前の光景が一変し、意識が先程まで過ごしていたホテルの個室へと戻っている事に気が付く。
彼はエリアーナの膝の下に抱き抱えられていてそれだけは嬉しかったのだが、彼女が次に発した言葉を聞いて彼は思わずその場から逃げ出してしまいたくなる。
「いい、もうこうなれば、チマチマと裏から攻撃を仕掛けてなんてやってられないわ。こうなった以上は私達の正体を一般民衆にも明かして、ゴール地点に集まったVIPを狙うわ!」
「VIP」という言葉にクリストファーの表情に冷や汗が垂れたのを彼女は確認したが、構う事なく話を続けていく。
彼女の言うVIPに値するのは恐らく、皇帝や国王、大統領と言った人間だろう。
彼らを襲う事をクリストファーは否定しようとは思わない。彼らは一応は国民のトップに立つ人間なのだ。それ相応の覚悟は出来ているだろう。
だが、五人ならば狙えただろうが、今の人数はたったの二人だ。
クリストファーは中止を進言しようとしたが、先程のトラウマが頭の中に思い浮かび、彼女にはノーと言えなくなってしまう。
それに、もし死ぬとしても彼らを道連れにできるのならば、自分達の死ぬ意味はあるだろう。
クリストファーは膝枕の状態から起き上がると、彼女の体を強く抱き締めて言った。
「やろう!たった二人のテロを!そして、偉そうに椅子の上でふん反り返ってるあの連中を椅子から引き摺り下ろしてやろうぜ!」
その言葉に彼女は同意してもう一度恋人を強く抱き締める。
「ええ、その通りよ。あたしのクリス」
二人はその後に唇を重ね合う。
唇を重ね合わせる中で、エリアーナは自分と彼との出会いを思い出す。
エリアーナは元々は大学で王国の普通大学で政治学を学ぶ一学生に過ぎなかった。
彼女は図書館で大陸のある学者の学説に賛同し、国王制や皇帝制度のみならず、偽りの平等を掲げる共和国の打倒を考え、魔法の無い全ての人々が暮らせる世を大学に訴えて、いつの間にか支持者を増やしていた。
クリストファーはそんな中、彼女の元に集まった最初の同志であったのだ。
だから、彼女はクリストファーを愛称で呼び、彼を愛し、大学の自治と魔法の無い世界の実現、そして国王制の打倒を祖国で叫んだのだが、祖国はそんな彼女の要求を突っぱねたばかりか、彼女をテロリストとして認定し、徹底的な弾圧を加えたのだ。
最も、最初にテロ事件を起こしたのは彼女の同志であるので、そこから王国政府が反撃したと言っても過言ではないのだが……。
ともかく、エリアーナはテロリストのレッテルを貼られて、逃避行を続け、政府との戦いを続けるうちに同志の数を減らしていき、このレースの参入以前では五人にまで減ってしまっていたのだ。
もう、これ以上の失敗は許されないだろう。彼女は勇気を振り絞り、最後の手段に訴える事にしたのだ。
ここから、レース会場までの日程は二週間となっている。
そして、その日にレースに参加している全学生の五割もしくは六割ほどが終了した事になる。
当然、その後は故郷に帰り、課題を行いながら、旅の疲れを癒す人間もいるだろう。当然、それを迎えるための両親や親、兄弟の存在も。
最悪、VIPを人質に出来なくても、彼らを人質にテロを行うと宣言すれば、首脳部は混乱に陥る筈だ。
そんな事を考えていると、クリストファーが目の前にやって来て、彼女に向かってある事を尋ねた。
「エリィ、ぼく達のコードネームは何にする?」
「決まっているでしょう?我々は海の上のルークよ」
『海の上のルーク』最近、四大国家の中で爆発的な人気を誇っている大衆小説であり、海を漂う海賊ルークが悪逆非道な商人達から金を巻き上げて、貧乏人に配るという物語であり、恐らく、エリアーナは自分たちを大衆を助けるルークに、自分たちが助けるべき国民を商人達に見立てているのだろう。
クリストファーは興奮した様子で、彼女のコードネームを受け入れた。
「素晴らしい!素晴らしいよ!エリィ!ピッタリだッ!」
「お褒めに預かり光栄だわ。じゃあ、決起は一週間後だから、忘れないでね?」
エリアーナは満面の笑みで笑い掛けた。
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