王立魔法学院の落第生〜王宮を追放されし、王女の双子の姉、その弱い力で世界を変える〜

アンジェロ岩井

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サラマンダー・パシュート編

骨までしゃぶる男

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どうも、話を聞くにつれて、彼女はこの国の貴族なる男に酷い目に遭わされていたそうだ。どうやら、あのレースでは本性を表さなかったらしいのだが、どうもこの国にも悪徳貴族はまだ隠れていたらしい。
あの陰惨な傷はその悪徳貴族に付けられたものらしい。
私は扉の向こうでピーターと彼女との会話を盗み聞きして知った。
話声が止み、ピーターから部屋から出ると、私の姿が見えた事に驚いていた。
「うわっ!お嬢様!そこにいらしたんですか!?」
「うわとは何よ。うわとは……」
私はピーターに盗み聞きした話を纏め、彼女に対しての最も対処な方法を話す。
「確かに、これは我々の手に負える事ではありません。警察に知らせた方が良さそうです」
「ええ、仮に警察がダメでも、妹に頼めばきっと、彼女にとっての最良の策を講じてくれるはずよ」
私はいざという時は妹を頼る事にした。彼女ならば、きっと適切な処置をしてくれるだろう。
今のうちに手紙を書いておいた方が良いかもしれない。
私が客間に向かおうとした時だ。一階から大きく玄関前の柵を揺らす音が聞こえた。
私とピーターはそれを聞いた瞬間に顔を見合わせる。万が一を考えると、あの音は恐らく、彼女を取り返しにきた追手とやらに違いない。
どうやら、昨日我が屋敷に土足で足を踏み入れようとした無礼者からこの場所を聞いたらしい。
私はピーターを連れ、一端は自室へと入り、ホルスターと拳銃を取り、玄関へと向かう。屋敷の門を開くと、柵の前には頭に山高帽を被り、高そうな絹のコートに金時計の鎖を見せびらかしている紳士風の男の姿が見えた。
男は私の姿が見えると、丁寧に頭を下げると、私に向かって笑い掛けた。
「初めまして、私、ノックス・ゴールディングと申します。実はですね。家の従業員がこちらに逃げたという報告を聞きましてね。ご迷惑をお掛けしていなければ良いのですが……」
「ご迷惑だなんてとんでもありませんわ。そんな事よりも、今日お尋ねした目的をお聞きしたいのですが……」
私の目は視線と険しくなっていく。どうやら、向こうも私や私の隣に立っているピーターが何を見たのかを悟ったらしい。
目の前の爬虫類の様な狡猾な目をした男は一瞬、獲物を睨む蛇のような顔を浮かべたが、直ぐにそれを引っ込め、柔和な人の良さそうな顔を浮かべた。
「あ、そうですね!今日、お尋ねした目的を語るのを忘れていましたよ!私とした事が、ハッハッハッ」
苦しい笑いを漏らした後に、目の前に浮かべている笑顔を絶やす事なく彼は質問を始めた。
「えーでは、今日お尋ねした目的なんですがね。この家に逃げ出した従業員を返して欲しいのです。代わりに、この事は無かったことにしてから」
随分と上から目線の物言いだ。私は不愉快な気分に陥り、露骨に嫌悪の視線を向けたが、目の前の男は気にする事なく話を続けていく。
「まぁ、よく考えてご覧なさい。ここであの娘を引き渡して、全てを無かった事にするか、全てを受け入れて私と私の背後に存在する強大なトカゲを敵に回すか……好きな方を選びなさい」
トカゲ。どうやら、この男は現在、王国の裏社会を牛耳りかけている『サラマンダー』の一員らしい。
『サラマンダー』ならば、丁度敵対している連中だ。今更、そんな警告など無意味だ。
私はキッパリとトカゲを敵に回すと答えてやる。
すると、目の前の男はクックッと笑い、
「そうですか、それは残念です。なら、耳を揃えて返してもらいましょうか!彼女の借金五千万王国ドルを!!」
五千万王国ドル。その様な大金を彼女は何に使ったのか。一晩、面倒を見た間柄であるのだが、彼女がそんな大金を借りるようにも思えない。
一体、何があってそんなに借金があるのだろう。
私が目の前の男にどうして、そんなに借金があるのかを問い掛けると、男は懐から一枚の紙を取り出し、私の前にそれをチラつかせる。
「ここにあるんだぜ、あの女が利子でこさえた借金がたんまりとなッ!」
私はそこに書かれた数字を見て、思わず目を見開いてしまう。額の大きさにではない。その金利の違法性にだ。
「何よ……これ!?たった五十王国ドルじゃあない!何があったら、七倍にまで膨れ上がるのよ!?」
「何って金利の問題に決まってんだろうがッ!いいか、お嬢ちゃん!世の中にはな、道理ってものがあるんだよ。分かるか?え?あんたは一度、家の女を勝手に取ったんだッ!なら、その女の代わりに金を払うのがこの世の理ってものだろうがッ!」
男の熱弁に対して返ってきたのは一笑。
私はその男の弁を笑い飛ばし、男を皮肉ってやる。悪徳金融会社の社長に道理も糞もあるものかと。
道理があれば、こんな違法な貸付はしない、と。
すると、目の前の男は眉間に青筋を立てて怒り出す。
「テメェ、クソガキが大人を舐めるのは楽しいか?今、テメェが笑い飛ばしたあの女の借金はそのご立派な乳を使っても稼ぎきれない額なんだぞ!」
下品。粗暴。これが目の前の男の本性に違いない。どんなに格好は紳士や金持ちらしく見せたとしても、所詮中身は金の魔力に溺れた薄汚いチンピラ なのだ。
この男がチンピラであるという証拠としては目の前で突き付けているピストルだろう。
どうやら、この男は銃で私を脅そうとしようとしているらしい。
つまり、この男が先に銃を抜いた事になる。隣にはピーターもいる。立派に正当防衛を証言してくれるだろう。
私は右手に持っていたホルスターから拳銃を取り出し、ホルスターを地面に放り投げてから、目の前で怒りで顔を引きつらせる男に拳銃を突き付ける。
「て、テメェ……そうか、オレを先に抜かせて……テメェが……」
「私にはそんなつもりは無かったわ。先に銃を抜いたのはあなたじゃあない。だから、私はこれを機にをしようと考えただけよ」
引き金に手を掛けるのは私の方が早いだろう。ここまで来た以上は迷う必要などない。
このまま人の生き血を啜るダニを始末するだけだ。
私が引き金を引き、この男を始末しようと考えた時だ。男はいいでしょうと呟いて背中を向ける。
だが、去る間際にもう一度、こちらの方向を振り向いて、
「ですが、必ず後悔する事になるますよ。我々は甘くない。一度獲物を狙うと食い付いて離さないんですから……」
「望むところよ。クソ野郎」
私はノックスなる男に罵声を投げ掛けてから、地面に落としたホルスターを拾い上げ、それを腰に巻いてそこに拳銃を仕舞って、ピーターを連れて屋敷へと戻っていく。
サラマンダーはこれからも、私を追い詰めようとしてくるだろう。
だが、構わない。私は今後の展開に備えて銃を磨く事にした。
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