王立魔法学院の落第生〜王宮を追放されし、王女の双子の姉、その弱い力で世界を変える〜

アンジェロ岩井

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サラマンダー・パシュート編

上品な女は最後に笑う

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私としては目の前の男がどんな魔法を使うのか推測できないのが辛い。どうして、奴らはあんな魔法を使用できるのだろうか。そもそも、次に飛ばされた時に私はどのように対峙すれば良いのだろう。
そんな事を考えていると、もう一度、私の目の前に怪物が現れた。
私は素早く左手の掌を広げて怪物を吸収する。このまま怪物を放出した相手にそのままぶつけてやろうかと思っていたのだが、やはり、あの空間に閉じ込められた時と同じで私の左手からは掠れるような煙が出るだけであった。
悔しくて思わず下唇を噛み締めた時だ。私の頭の中になぜかあの男が得体の知れない怪物に喰い殺される場面が鮮明に浮かんでいく。
勿論、今、あの男が繰り出した蛇状の怪物ではない。一つ目をしたこの世のものとは思えない顔に角を生やした巨人があの男を喰らう姿であった。
あの巨人は何というのだろうか。とにかく、分からないがその異形の怪物がレミーなる男を喰い殺す様は爽快であった。
とても気分が良くなった。
と、同時に私の頭の中に一つの考えが思い浮かぶ。
もしかしたら、あの男の魔法というのは“思い込み”で相手を死に至らしめる魔法なのではないか。
その考えを裏付けるものとしてはあの男が右腕から繰り出した怪物はフォー・カントリー・クロスレースの際にテロリストのクリストファーが繰り出した爆弾付きの怪物と同じであったからだ。
あの時のトラウマをあの男が魔法を使って私も気が付かないうちに抉り出し、それを魔法で再現していたとしたらどうだろう。
あり得る充分に可能な話だ。そして、あの竜の牙に噛まれたらあの牙で死に至らしめられてしまう、と思い込んでしまえばそのまま思い込んだ死に方のまま死んでしまうのではないか。
私はあの男の魔法とやらを理解したような気がする。
基礎魔法系統でいう所の幻覚魔法に相当する魔法だろう。
だが、頭では理解しても視覚は実際に怪物を映し出しているし、仮に魔法を吸収できたとしてもあの男の恐るものがない限りは不発に終わるか、或いは先程のように私が妙な妄想をするだけで終わってしまうだろう。
すると、またもや景色が赤く染まり、例の空間へと戻ってきてしまった事に気付かされてしまう。
「どうでしょうか?私の魔法の成果は?」
「この赤い空間はあなたの魔法ね?余裕がないのね。わざわざ異空間に私たちを連れて行くなんて」
私の指摘にアニーなる女口元を右手で隠して上品な笑い声を上げていく。
「オホホホ、冗談はおよしになって、余裕がないだなんて余裕があると思ったからこそ、わざわざ空間に招き入れませんでしたわ。それこそこいつで一発ですわ」
女は懐から二連式の強力な拳銃を取り出す。
「本当に余裕がなければ、あなたのお腹にこいつをぶっ放していましたわ!この銃弾は特殊ですから、腹などに食い込んだ場合は二日間は苦しむ事になるでしょうね」
陰湿な人間だ。勿論、今の技術で腹の中に食い込んだ銃弾を摘出するなんて技術は想像もできない。
もし、ここがピーターのいう前世の世界の通りだったのならば、例えあの女が体に鉛弾を食い込ませたとしても、直ぐにでも病院に運ばれてその手術を受けられたに違いない。
だが、今はその場所ではないのだ。あの弾丸を急所だけではなく、腹に喰らったとしても私の命は無いと言っても良いだろう。
加えて、ここは目の前でその拳銃を構える女が作り上げた異空間。
助けなど期待する方が無理だろう。それに、仮にあの女を倒したとしても思い込みの力を上手く使用するレミーなる男も立っている。
こちらは三人とは言え幾ら何でも不利だ。そんな事をこの場にいた全員が考えていたのか、互いに睨み合う五人の男女。
気が付けば銃を握る私の右手の掌の中に冷や汗が流れている事に気が付く。
恐らくだが、この勝負は早くに銃を抜くか魔法を使用した方が勝つだろう。
勿論、あの二人の魔法の腕を見越した上での考えだ。だが、私の中では先手を打った方が勝ちだという考えを固めていたのだ。
互いにそう考えたのか、互いに険しい視線をぶつけ合う。
緊張の一瞬。この状態がずっと続くのかと私は思ったのだが、目の前の例の男が蛇状の怪物を作り上げる事により、緊張の状態は終わりを告げた。
思い込みの力というのならば怖くはない。
私はあの得体の知れない怪物が迫る中、精神を研ぎ澄ませて目の前の男に向かって黙って引き金を引く。
男は私の弾が右胸に直撃するのと同時に弾を喰らった衝撃のために大きく地面へと倒れ込む。
その姿を見たアニーの動きが止まる。この隙を逃す手はない。
そんな私の意思を察したのか、何も言わずに背後に控えているケネスが目の前の女に向かって引き金を引く。
腹に銃弾を喰らったアニーは口から血を吐き呻き声を上げていく。
気が付けば周りの景色は元通りに戻り、私の目の前には階段を自分達の血で赤く染めた男女の死体が転がっていた。
それを見た私は邪魔者はもう居ないと判断し、ケネスとマーティの二人を連れて階段の上を登っていく。
私がこの二人のボスを突き止めるために階段に足を踏み入れた時だ。
それ以上を登ろうとする私の手首を既に死にかけとなった女が掴む。
彼女は少し意思を弱くすれば絶えてしまいそうな声で私に向かって言う。
「お気をつけなさいませ、この先に居るのは暗黒街の中心人物にして、王国の裏社会をほぼ牛耳ようとしている危険人物ですわよ。その実力は未知数……」
そこまで呟いた所で彼女は血反吐を吐いてしまう。彼女は慌てて口から溢れ出る血を右手で拭ったのだが、手が自分の血に染まっている事が信じられないのか、茫然自失といった表情で自分の手を眺めていた。
だが、直ぐに気を取り直すと、もう一度私の目を向いて、
「あの男の部下となり、これまで悪逆非道を働いてきた女が言うのも何ですが……必ず、あの男を殺してくださいね」
私は「言われなくても」と吐き捨てて階段を登っていく。
なぜだろう。あの女は自分で言う通り、あの男の部下で多くの悪事に加担してきた筈だ。それなのに、最後の最後で思う所があったのか、それとも本来はまともな性格だったのか。
とにかく、いかなる理由があったとしても死の間際に彼女は自分の愚かさに気が付き、改心したのは確かな事実であった。
私は彼女のためにも、そしてこの組織の存在により困る多くの人のためにも、この組織のボスを始末する事を決意しながら階段を登っていく。
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