王立魔法学院の落第生〜王宮を追放されし、王女の双子の姉、その弱い力で世界を変える〜

アンジェロ岩井

文字の大きさ
117 / 211
大統領の陰謀編

スケアリー・モンスターズ計画

しおりを挟む
ニューロデム共和国。深夜。
川沿いのある街。陽が闇の中に沈み空を黒く染め上げる時間。
街の住人にとってはこの時間、空が黒く染まった時が一日の中でも最も、落ち着ける時間であった。
人々は夕食を食べ終えると散歩に出掛けたり、朝の朝刊を読んだりして過ごす。
なぜ、夕刊ではなく朝刊なのかと言われるとそれは朝が忙しいからに他ならない。それこそ目が回るくらい朝は忙しいので折角、届いた朝刊を夜に回すしか出来ないのだ。
だから、都会の人ならば朝知る筈の情報を夜に知り、その後はうるさい妻や子供の言葉に耳を貸す事なく眠ってしまいたい。これが、いわゆる夜の時間を新聞を読む事に充てる新聞組の本音であったに違いない。
では、夜の時間を散歩に充てる散歩組はというとどうだろう。散歩組は夕食を食べ終えて家を出るタイミングこそバラバラであるもののやはり、元来が狭い村であるためか、殆どの村人が散歩の最終コースと決めている筈の川原で顔を合わせてしまう。
やはり、狭いというのは不便なものだ。
そんな事を考えながら、村人の一人であり、川原の近くのとうもろこし畑の持ち主である端の欠けた麦わら帽子を被った中年の男、マーク・ブレイは目の前を流れていく川を眺め頬杖を突きながら、そんな事を考えていた。
他の全員が散歩の最終コースである川原に集まり、こっそりと持ち合った酒を飲んで盛り上がったりするのを他所にマークはずっと目の前の川を眺め続けていた。
川はいいな。誰にも何にも干渉される事なくずっと雄大な時の中を流れ続けているだろうな、と。
そんな事を考えていると不意に自分の人生が虚しくなってしまう事に気が付く。
雄大な川に比べれば、自分の人生など大したものではないだろう。
何度目かの溜息を川に落としていると突如、梟の鳴く声が聞こえて森の脇に生えていた森の中を垣間見る。
だが、そこに梟など存在しない。その上、マーク以外の人間の殆どが酒盛りに夢中になっているので聞こえなかったに違いない。
それに加えて、耳を済ませなければ聞こえない程の小さな声だ。もしかしたら、幻聴という類のものだったのかもしれない。
見間違いか思ってとマークが再び川へと視線を向けようとした時だ。
もう一度、梟の声が鳴り響く。今度は森全体に響き渡るような大きな声。
それを聞いた他の村人たちも一斉に森へと向き直り、そこに一体の梟が木の上に立っている事に気が付く。
成人男性の平均身長と争う程に高い身長、尖った耳に赤い目、ハサミのような形状の黒く塗られた爪。
何処をどう見ても不審者にしか見えない。
マークの悲鳴を皮切りに殆どの村人が一斉にその場から逃れようとしたのだが、梟の格好をした男は停まっていた木の上から飛び上がると逃げようとする男性たちの頭を剥いでいく。
頭を爪先で蹴破られた時点で絶命したも者、生きたまま頭を梟の男に突かれた者。それぞれ死に方は異なるのだが、誰も彼もたった一体の梟男の前に全滅したという。
だが、梟も一度襲った人間の調査までは出来なかったらしい。
襲われた村の男性陣の中に一人、逃げる男の死体に埋もれて隠れて助かっていたのだった。
その後、男は梟の形をした怪物が村を攻撃する場面をただ指を咥えて眺めていた。
燃える家々。泣き叫ぶ女子供の声。それらの全てに目を瞑り、耳を塞ぎ聞こえないフリをしていた。
結局、男は夜になるまでの時間を同じ村人の死体の下でやり過ごし、梟が飛び去るのを待って街まで全力で走っていく。
この男による梟男による事件は共和国内のみならず他の三大国家、果ては海の向こうの大陸にまで聞こえて有名になっていく。
勿論、これらの噂は大統領付きの秘書の手により、大統領の耳にも届いたのだが、大統領はその時、飲んでいた紅茶を受け取り皿の上に置くと静かに笑う。
「聞くが、きみはそんなものがいるとでも思っているのかな?大方、妄想だろう。まぁ、ミスター・ブレイは村を事故で失った可哀想な人間だ。国の方から補償くらいはしてやれ」
大統領は秘書を大統領執務室から追い出し、秘書が出て行くのと入れ違いに緑色のベルを鳴らす。
暫くして彼の前に一人の短い金髪に白衣に眼鏡という格好の魔法学者と呼ばれる男を呼び出す。
彼のみならず世界には魔法の研究部門が存在し、日夜、魔法と科学の研究とが同時に進められているのだ。
大統領は世の中の技術の発展に一役を買っている男を微笑を持って迎え入れる。
男はそんな大統領の態度に思わず萎縮し震えを起こしかけたものの、なんとか持ち直し、丁寧に頭を下げて、
「お呼びでしょうか?大統領……」
と、尋ねる。彼にとっての偉大な英雄である大統領は直接口で答える代わりに、顎を動かす。
白衣を着た研究者はもう一度頭を下げると、一枚の紙を取り出す。
大統領は男から手渡された紙を顎を撫でながら見つめて、紙の上から目を離すと、口元を緩めて、満足そうな表情を浮かべる。
「見事だ。確か、オウルマン梟男
と言ったな?」
「ええ、私が大統領に提出した書類の中のリストの書かれていた怪物の一体です。この怪物を作り上げるのには苦労しましたよ。黒魔術と呼ばれる闇魔法の本を研究し、幾重にも実験を重ねて……」
「見事だ。そのお礼とは言ってはなんだが、今度、魔法研究アカデミーの方には大統領勲章を与えようじゃあないか」
「勿体なきお言葉です」
白衣の男は丁寧に頭を下げてその場から下がっていこうとしたのだが、大統領はその場から出て行こうとする彼を呼び止めて、
「あぁ、待った。あの怪物は用意できているだろうな?」
大統領の問いに男は歩みを止め、もう一度、執務室の方へと向き直って、
「ええ、勿論です。大統領の御命令のままに……」
男は意味深に笑うと大統領執務室を去っていく。
大統領は彼の姿が見えなくなるのと同時に今度は青色のベルを鳴らす。
礼装をした男性が現れるのと同時に、大統領は机の上に存在する飲み終わったティーカップを片付けるように指示を出す。
大統領は執事の男が紅茶を片付けるのを見ながら、執務室でペンを取り、仕事に戻っていく。
だが、それでも彼の顔からは笑みが消えない。
自国を含む四大国家の全ての首脳が集まる会合会に彼の作り上げたモンスターを放つ『スケアリーモンスターズ計画』が成功さえすれば、やがて共和国は大陸を支配するだろう。会合の中で生き残る首脳は自分だけなのだから。
勿論、会合を襲う怪物が単独犯だという事を証明しなければならないのだが……。
だが、ストロンバーグ大統領には無関係だと主張するための確かな確信があった。
そう、あの村を襲ったオウルマンの存在である。
初めは事故死だと主張するのだが、やがて博士の作り出した他の怪物が各地を荒らし、そして会合で首脳陣を食い散らかした所でオウルマンが本物だと認めれば良いだろう。
要するに、あの事件とあの怪物とは世界に何処の国家ともゆかりのない怪物が現れているという証明を各国に広げるための必要な事だったという訳だ。
大統領はそのために死んだ国民の死を悲しみながらも、羽ペンを握り今日の執務を進めていく。
もう直ぐ行う予定の会合も大切であるのだが、大統領として普段の職務を行うのも重要だからだ。
自分は目の前の事に勝ち続けてこの場にいる。大統領はその事を自分に言い聞かせた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える

ハーフのクロエ
ファンタジー
 夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。  主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます

天田れおぽん
ファンタジー
 ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。  ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。  サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める―――― ※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

処理中です...