王立魔法学院の落第生〜王宮を追放されし、王女の双子の姉、その弱い力で世界を変える〜

アンジェロ岩井

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大統領の陰謀編

フォー・カントリー・ダンスパーティー

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南北に連なる巨大大陸を支配する四大国家はその絶妙なバランスの上に成り立っていると言っても良いだろう。
四大国家はどの国も成立してから、先の王都の動乱に代表されるような衝突の危機こそあったものの、実際の戦争に至った事は建国以来無かった事だ。
勿論、外国が四大国家に野望を抱いた場合の四大国家の同盟による連合軍と外国の艦隊との対決の歴史は別だ。
四大国家が手を組んだ場合、外国に勝てる可能性は万に一つもなくなり、各地の海を知り尽くした各国の提督の元に外国の艦隊は次々と破られていく。
お陰で四大国家の動きは世界を動かすとさえ他の大陸の国からは言われているらしい。
勿論、四大国家の全てが戦争になった場合にはどの国も固唾を飲んで見守るに違いない。次の世界を握る国家が何処になるのかを。
そのような事にならないために開かれているのが『フォー・カントリー・ダンスパーティー』だ。
毎年開催されるレースとは異なり、この行事は五年に一回しか訪れず、そこで各国の首脳陣が集まり、交流を深めるのだという。
国王に続いて王族、貴族などの国の上流階級が一同に続く会合だ。その会合に欠席をするのは当然、外交儀礼に反するし、場合によっては不快に感じた他の国がよからぬ考えを欠席した国に与えかねない。
だからこそ、父はピーターの父である宮殿の執事を私の元に寄越したのだろう。
妹の代わりに瓜二つの顔を活かして会合に出席しろ、と。
老いたとしても鋭い視線で私を睨むマルトーだったが、私はもっと怖い男の目などいくらでも見てきている。
今更、そんなものでは動じない。萎縮するピーターにお茶のお代わりを要求してから、私はもう一度マルトーと向き合う。彼と話す時間ならばたっぷりとある。何せ、ここは二階の客間。
二脚の椅子にベッドしか無い手狭な部屋だが、階段をするのならばここで十分だろう。
と、そこで視線がピタリと見つめ合ってしまい彼の強い意思が瞳を通して私に伝わってきた。私は思わず肩を震わせていると、マルトーは不意に口を開いて、
「陛下はこう仰られています。『出来損ないの姉でも、せめて有望な妹と顔だけは似ているのだから、こんな時にだけは役に立て』と」
マルトーの意思は何なのだろうか。私を怒らせて会合に行かせる気なのだろうか。だとしたら、その作戦は失敗に終わったと言っても良いだろう。
私は両眉を上げて、
「残念だけれども、この件についてはお断りさせていただくわ。何せ、そろそろ冬休み前で焦っている事もあるし、何より、部活で次の部長を決めるための選挙があるのと、これも見つけないといけないし」
私はそう言って懐から一枚の手配書を取り出して机の上に置く。
マルトーが手配書を手に取り、眉を寄せるのと同時に私はこの特異な賞金首について語っていく。
この賞金首は厳密に言えば人間ではない。獣なのだ。とは言っても、深刻な獣害をもたらした狼や熊でもない。その正体は完全に闇に包まれているのだ。
その怪物は三週間前に国内のあちこちを荒らし回ったかと思うと、このシティーが気に入ったのか、ここに住み着いてしまったらしい。
その証拠が一週間前にシティーで起きた最初の事件の目撃者の証言だ。
その証言者によれば、怪物の姿形は牛と同じ大きさであり、広い胸部に格好良く曲がった尻尾があるという各地で見受けられた怪物の特徴と驚く程に一致していたのだ。
その怪物がシティー内に住む貴族の所有する家畜を食べていたので長銃を使用して追い払おうした所、怪物は目撃者の男が魔法を放つよりも前に、ナイフのように鋭く尖った真っ白な歯を飛ばし、男の肩に打撃を与えてから、去っていったのだという。
それが、このシティーを恐怖に包み込んでいるアンダードームの怪物事件の始まりだとも言えるだろう。
この事件以後は怪物の目撃情報がシティーのみに留まったから、新聞社からは自然とこう呼ばれるようになったのだ。
その後、怪物は襲う対象を大きく広げ、とうとう襲撃に女性や子供が加わってしまう。その結果をシティーも重く受け止めたのか、とうとう学院前の街でもアンダードームの怪物の正体が分かるまでは酒場や商店の営業時間が収縮され、学院もいわゆる〈杖無し〉のクラスの学生の安全を図ってか、下校時間が早められていく。
最も、魔法を持っていたとしても対処できるのかどうかは分からないのだが。
そのせいか、来年度の賞金稼ぎ部の部長はこの怪物を仕留めた二年生に一任されるらしい。生徒会や部活連、果てはその他の魔法を使える学校内の組織は怪物の討伐を次のトップ就任の条件に挙げているらしい。
最も、どの組織が怪物を先に仕留めるのかは分からないのだが。
と、私は自分が話す間にピーターが入れてくれた紅茶も飲まずに語り終えるとマルトーは難しい顔で机の上に視線を落として考え込む。
一体、何をしているのだろうか。すると、彼は真剣な顔を浮かべて、
「……実はですな。この事件に陛下が大きな関心を払っておりましてな」
「陛下が?またどうして?」
マルトーは真剣な顔で首を縦に動かして、
「ええ、実はですな、この怪物の噂を耳にされると、直ぐに拿捕して連れ出すように命令されたらしいのですよ。加えてその怪物がもし、会合の式典の日までに捕まえられたら、その者を必ず式典に捕まえていく……と」
どうやら、父はその怪物の事を余程、気に入ったらしい。まさか、ただ仕留めただけの人物を四大国家の首脳陣が集まる会合に連れて行くなんて……。
と、マルトーは私の考えが分かったのか同意するように苦笑してみせた。
「分かっておりまする。されども、陛下は言い出したら止まりませぬ故に……」
「父の事だものね。全く仕方がない人だわ」
マルトーは昔から、こんな風に胃を痛めつつも、私たち王族の面倒を見てくれていたらのだ。よく父の横暴に耐えていたものだ。
遠い過去の事を思い出して苦笑する。すると、目の前に座るマルトーも私につられて笑う。
だが、顔に笑顔が戻ったからと言っても交渉を緩める気はない。
マルトーは妹の代わりに会合に出るように命令を下し、私は学院内でのゴタゴタを理由に拒否しようとしていくために、話し合いは平行線を辿る一方だ。
二人で夢中になり、話し合っている中で何気なく懐の懐中時計を見てみると、時計の針は既に夜に遅く入った時間を指していた。
やむを得ずにマルトーは一度は帰ると告げたのだが、近いうちにまた訪れる事を告げ、表で待たせている馬車に乗って帰っていく。
恐らく、また来るだろう。その時こそ彼にひいては父に諦めさせなければならないだろう。
私は拳を握ってその事を決意した。
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