上 下
119 / 211
大統領の陰謀編

三人の次期部長候補

しおりを挟む
「次の賞金稼ぎ部の部長はこのオレだからな」
「いいや、オレだからッ!」
「何言ってんの!あたしだからッ!」
黒い髪の少しばかりハンサムな顔の男に同じく黒い髪だけれども、劇場の役者のように引き締まった筋肉を誇るハンサムな男とは対照的に太った体をしている男性。
それに、長い緑色の髪をかき上げる妖艶な風貌の女性。
この三人が次の賞金稼ぎ部の部長候補である。この中の誰かがアンダードーム・シティーに潜んでいる筈の怪物を駆除する気でいるのだ。
その様子を見て一年生一同は両手をくねらせて大きく溜息を吐く。
それはそうだろう。肝心の二年生がこの調子では部長達は大人しく帰る事など出来ないだろう。
ケネスは未だに部室の中で取れるかもしれない怪物の事を計算し、喚き合っている男女の姿に嫌気が差したのか、黙って懐からタバコを取り出して壁にもたれかかりながら吸っていく。
その表情はよく見えないのだが、どうやら今、ケネスが吸っている煙草はあまり美味しいとは言えないのかもしれない。
いや、本当ならば酒同様に煙草は美味しいのだろう。だが、今は状況も状況だ。自分達よりも年上の本来ならば、一番頼りにする筈の先輩がこうも醜く言い争っているのだから、煙草の味も美味しくなくなってしまうだろう。
やってんられないとばかりにマーティが賞金首として記された怪物の情報を入り口の前に放り投げた時だ。
運悪く扉が開き、引退寸前の部長と副部長が現れた。
部長は地面に落ちた賞金首の手配所の一番上の箇所を握り、両眉を大きく上げると握った手配所を左右に揺らしながら、
「おい、これを落としたのは誰だ?」
と、部室の中を見渡していく。すると、青覚めた顔のマーティに気が付くと引きつった笑顔を浮かべて彼の手を強く握って、
「どうやら、お前には引退の前に教えてやる事があるようだな。ちょっと来い」
マーティは悲痛な叫びを上げて部室から連れ去っていく。言い争いをしていた二年生を除いた全員がその様子を眺めていると、副部長が真剣な顔を浮かべて口論をしている二年生達の間に入り込む。
そして、一番目立っていた黒色の髪のイケメンの先輩の胸ぐらを掴んで、
「おいッ!お前らッ!そんなクソみたいな言い争いをしている場合か!?早く部活動をしろよッ!アンダードームの獣を捕まえるのが無理だったら、他の賞金首でも取ってきやがれッ!」
「何言ってんですか?副部長。そもそも、この獣が捕まるか撃ち殺されるまでは他の賞金首はーー」
「シティーの方の雑貨屋店で強盗事件が起きたんだよッ!それで店主から頼まれちまったんだッ!早く、そいつを追いやがれ!」
だが、部長候補に選ばれた男は現在はまだ副部長である男を逆に突き飛ばし、ホルスターから拳銃を抜いて、彼の頭に向かって銃を突き付ける。
銃を突き付けられても尚も凄んだ表情を浮かべる副部長に対し、ハンサムな男はヘラヘラとした笑顔を浮かべて、
「離してくださいよ。第一、そんなチンケな強盗犯なんて追ったってオレの懐に入る金は僅かなんだから。それに名前だって上がらない」
「その通りッ!リチャードソンの言う通りだッ!」
先程までの言い争っていた雰囲気とは何処とやら、太った体格の先輩は副部長の元へと近寄ると、リチャードソンと同様にホルスターから銃を引き抜き、その銃口を倒れた副部長に突き付けて笑っていた。それに同調して緑色の髪の女も現れて三人で倒れた副部長に銃口を突き付けていく。
部室内に殺伐した空気が流れていく。思えば、この三人はこれまで部活にはあまり顔を出さず、大事な戦闘でもあまり目立ちはしなかった人間だ。
そんな目立ちのしなかった人間だからこそ、いよいよ三年生のそれも抑えのきく二人が引退するとなるから強気になっているに違いない。
そして咄嗟の事に動く事が出来ずに、部室内の床の上に起き上がろうと手を付いていた副部長に銃を向けてその憂さを晴らしていたに違いない。
もう直ぐ居なくなるのだから、あの様な強気な態度を取れるのだろう。
私はジト目で部室から出ていく三人を睨んでいたのだが、副部長が立ち上がり、首を振って私に睨むのをやめるように指示を出す。
「言わせておけよ。これまで全く目立たなかったアホの癖にここぞとばかりに強気なのはあいつらの中で部長の地位に就けるってだけで強がってるだけだからな」
副部長はゆっくりと立ち上がると部室の前の扉を黙って親指で指差す。
私はケネスに来るように目配せし、部室の外へと向かう。
私はケネスの手を取りながら、早いペースで廊下を歩いていく。
ケネスは焦った様子を浮かべていたが、私の意図を察して口元を緩める。
二人で廊下を歩く中で満身創痍の様子のマーティと立腹した様子の部長とすれ違う。少し気の毒に思えたのだが、ああいう風に雑に手配書を扱ったので部長の逆鱗に触れたのも無理はない。
もし、あのタイミングで彼が扉に手配書を投げ出さなければ、恐らく部長の矛先はあの三人に向かっていた出ろあろうから、そう言った意味では気の毒であるのだが……。
そんな事を考えながら、私は校舎を降り、馬繋場で今日、登校のために乗ってきた馬でシティーの方で発生したという強盗を捕まえようと向かった所だ。
馬を優しく撫でている頭を二つ結びに結んだ小柄な少女を発見する。
どうして、少女がここにいるのだろう。
私が声を掛けようとした時だ。
その少女の方からこちらを向いて、
「あ、こんにちは~あたし、アーリー・シリウスって言うの。名前で呼んでくれたら、嬉しいな」
どうやら、この少女の名前はアーリーというらしい。
だが、何となく適当に名乗った名前のような気がするのはどうしてだろう。
私が心の内に痞えて取れない違和感のようなものを感じていると彼女は聞いてもいないのに自分の身の内を語り出していく。
彼女はニューロデムの方の魔法学院で大きなミスを犯してしまいこちらの方に両親と引っ越して来たらしい。
そして、この学院では劣等生として扱われている事を胸に付いた杖の描かれていない星形のバッジを見せてアピールしてくれた。
その後に彼女は寂しそうな顔を浮かべたのだが、馬繋場に繋がれている馬の頭を優しく撫でて、じゃれ合う。
私もケネスもその姿が微笑ましく感じたのか、つい互いに顔を見合わせて笑ってしまう。
しおりを挟む

処理中です...