王立魔法学院の落第生〜王宮を追放されし、王女の双子の姉、その弱い力で世界を変える〜

アンジェロ岩井

文字の大きさ
146 / 211
エージェント・ブリタニアン編

決闘の末に起こった心境の変化は誰に益をもたらすか

しおりを挟む
私は無事にピーターの元に到着すると、彼から銃を受け取り、もう後数十歩で追い付くという距離にまで追い縋った彼に向かって銃口を向ける。
私に殴られた事により、相当に疲弊していると思われるあの男にもう避ける力ないと思われる。
銃口を向けられた後に微かに肩を震わせたのが良い証拠だろう。
もう一度、あの男はこの地面を油の海に変えるのだろうか、はたまた蟹に変えるのだろうか、或いはそのどちらもやりかねない。
だから、私はあの男が何かするよりも前に男の頭を撃ち抜く事に決めた。
あの男は先程、自分を殺した後にこの街で大規模な殺戮を起こそうとしていたのだ。そんな事は許される事ではない。
また、展開次第では先程と同じ事をしないとも限らない。
私は銃を構えてあの男が魔法を放つために右手か左手の掌を広げるのを待つ。
向こうが早いか私が早いかの勝負。一種の決闘だと言っても良いだろう。
王国の中に伝わる『決闘』はフェアだ。だから、私もあの男に一種のフェアな状態を集めた。
あの男が先に魔法で再度、この街に災害をもたらす方が早いか、それとも私の銃弾が男の頭を撃ち抜くのが早いか。
恐らく、向こうも分かっているのだろう。中々、魔法を放とうとしない。緊張の一瞬。思わず私の脳裏にあの男の魔法が発動した瞬間の光景が思い浮かぶ。
無数の蟹や油が街を覆い尽くす悪夢のような光景。
それを防がなくてはなるまい。私は意を決し、先に引き金を引く。
男はその瞬間に左手の掌を光らせてその手を地面へと向けていく。
男の魔法の発動が早いか、はたまた私の銃弾が男の頭を撃ち抜くのかは神のみぞ知る事だ。
私は固唾を飲んでその瞬間を見守る。もし、あの銃弾が男の眉間に直撃した後にこの世を去る前の最後の置き土産として発動したのなら、私たちには打つ手などない。
これから、家々から出て来るであろう人々は油や蟹に驚くに違いない。
油は誰かが街灯を揺らし、火を落としたり、或いは家から出て葉巻や煙草を吸って地面に落とさない限りは大丈夫であろうが、問題はあの男の繰り出す人喰い蟹。
あんなものが街を蔓延したとするのなら、街はパニックに陥ってしまうに違いない。
永遠とも思える時間が過ぎ去ったのはその後だった。男は銃弾を眉間に喰らって地面に勢いよく倒れていく。
悲鳴を上げる暇もない一瞬の時間。その間に存在したのは不安に苛まれた永遠とも言える時間。
私は足元を恐る恐る確認し、男が完全に地面の上で大の字になって死んでいる事と男の魔法の発動が間に合わずに絶命したという二つの事実を確認した。
私は唖然とした様子の武器屋の店主に武器を返し、疲れた表情で笑いを向ける愛しい執事に抱き付く。
そんなピーターは私の頭を優しく撫でていく。私は彼に抱き返され、彼の体から発せられる優しい匂いを鼻に収めていく。
と、そんな時だ。ピーターが咄嗟に私を背後に隠したのはどうしたのかと目の前を眺めると、そこにはティファニー嬢付きのメイドいや、帝国首席死刑執行官のジェーン・グラントが両手に料理用の果物ナイフを携えて現れた。
彼女は地面に倒れている男の死体を確認するとそのナイフをメイド服のポケットの中へと仕舞う。
まさか、ここで私を始末するつもりなのだろうか。彼女は私の目の前に足を進めていく。
私はあの男との戦いで完全に体力を奪われていた。ピーターもあの男から加えられた暴力でボロボロだ。
加えて、目の前の女は容易に戦える相手ではない。私は死を覚悟したのだが、彼女は私とピーターの間を潜り抜け、唖然とした様子の武器屋の店主の男に懐から茶色の財布を取り出し、そこから一枚の紙幣を取り出し、彼の手に手渡す。
状況が理解できずに目を白黒とさせている老齢の男に対し、彼女はメイドに相応しい人を魅了しそうな笑顔と物腰で彼女に接していく。
「ご主人……お嬢様が失礼致しましたわ。この王国ドルはお嬢様がご主人の使用なされた銃のレンタル料ですわ。どうぞ、お納めくださいまし」
彼女は丁寧に頭を下げ、私たちの元へとやって来る。顔に浮かべた表情といい従者に相応しいテキパキとした歩き方と良い彼女は本当に瀟洒な従者だ。
彼女は昨日に強盗の喉をかっき切った人物と同一人物とは思えない程の柔らかい笑顔を向けて、
「お嬢様、宿は取っておりますわ。警察への事情聴取は私が代わりに受けますから、お休みになられてはどうでしょうか?」
宿の場所を指差す彼女からは無言の圧力のようなものを感じた。恐らく、言葉の真意に含まれているのは暫く歩いて事情を聴くというものだろう。
彼女はそれから、ボロボロになったピーターを思ってか、はたまた逃げないように人質を取るつもりなのか。
いや、彼女の場合は絶対に後者だ。私が逃げないように人質を取りたいのだろう。
私が断ろうとする前に彼女は強引にピーターに肩を貸して宿へと私を連れて行く。
彼女の取った宿は港町の端にあるらしい。彼女は静かな口調で、
「先程は手荒な真似をして申し訳ございません。ウェンディ様。お嬢様のご学友にこのような事をする事は忍びありませんでしたが、どうしてもあなた様に聞いていただきたい事がございまして」
と、話を切り出していく。
何でも彼女はこの街の生物兵器の取り引きを阻止するために、昨晩のうちにここにやって来たのだという。
どうやら、あの暗い解散の後に彼女の相棒もといお嬢様が国から与えられたその取り引潰しを行う事を決めてここに来るのを決意したのだという。
それも、気まずさに耐え切れなかったのが理由だったらしい。
最も、あの男がここまで私たちを強引に拉致したお陰で私までもがここに来る羽目になってしまったのだが……。
そして、彼女はすべての理由を話し終えると、細めた両目で私を見つめて、
「お願いが御座います。あなた様はララミー・ブラザーズのために酷い目に遭わされたのですよね?ならば、それに対し報復をしたいとは思いませんか?」
確かに私は酷い目に遭わされたが、それだけでララミーを潰したいとは思わない。第一、ララミーを潰しても私には何の得もないが、彼女と彼女のかりそめの主人は仕事を成し遂げて利益を得る。
これではあまりにも一方的だ。そう思っていると、彼女は人差し指を掲げて、
「タダとは申しませんわ。もし、あなた様が我々に協力してくれるのなら、本国に懇願しましょう。あなた様を抹殺リストから外して欲しい、と」
この女性はもう自分の正体がバレていると感じたに違いない。そうでなければ、こんなにストレートに言う筈がない。
それに、私からピーターを奪って介助という名目で人質に取ったのもこの事が目的であったに違いない。
大方、私の力を欲したのだろう。あの戦いを物陰から見て……。
私は首を縦に振り、彼女の提案に乗る事にした。そうでなければ、ピーターは彼女に殺されてしまうであろうから。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える

ハーフのクロエ
ファンタジー
 夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。  主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます

天田れおぽん
ファンタジー
 ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。  ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。  サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める―――― ※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

処理中です...