王立魔法学院の落第生〜王宮を追放されし、王女の双子の姉、その弱い力で世界を変える〜

アンジェロ岩井

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エージェント・ブリタニアン編

やがて、救世主となる

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「いいッ!一刻も早く私とピーターを解放しなさいッ!そうじゃあないとあなたの銃であなた自身が死ぬ羽目になるわよ!」
男は歯をギリギリと噛み締めながら、私を睨む。
が、直ぐにその恐ろしい瞳を引っ込め、次に嘲笑する時の相手を見下ろすような瞳を私に向ける。
「ハッ、銃を奪えたくらいでおれから自由を奪ったつもりか?おれが生きるか死ぬかはお前の手の中だと?そんな訳がないだろうッ!」
男は勢いよく立ち上がり、私が引き金を引くよりも前に私の拳銃を右手で握り、拳銃を砂へと変えていく。
次に私に向かって右手の掌を向けるのだが、私は自分の左手の掌を広げて男の魔法を奪う。
それから、扉に向かって男の魔法を放ち、扉を単なる酸素へと変えていく。
私は男の魔法を奪い取った時に男の使える魔法を確証した。男の魔法は有機物を無機物に、無機物を有機物へと変貌させる魔法だ。
この魔法で男は共和国内で成り上がっていったに決まっている。
私は再度、例の魔法を放とうとする男の魔法を吸収し、その魔法を男自身に向けていく。
男は身を横に交わし、私の攻撃を避けたのだが、私の放った魔法は空間の中の無機物を攻撃したためか、酸素が蟹などの有機物に変わっていき、男に襲い掛かっていく。
その隙を突いて、私はピーターの元へと駆け寄り、彼の肩を抱いて入り口へと向かって行く。
何とか外の世界に出る事に成功したのだが、ここは見知らぬ港町。
ここに来るまでの間はずっと馬車に閉じ込められ、到着するのと同時に馬車から降ろされてからは辺りを見回す暇もなく建物に閉じ込められたために、周囲の景色は一切分からなかったのだが、空に掛かる微かな暁の爽やかな薄明から察するに、現在の時刻は早朝らしい。
まぁ、分かった所でどうだという話に過ぎないのだが……。
しかし、何処に保安委員の屯する警察署があるのかは分からないというのは厄介だ。
闇雲に街の中を逃げたとしても男は即座に追い掛けてくるだろう。
私がそんな事を考えてピーターを支えながら、あのビルの右横を走っていると武器のマークが掲げられた看板とその看板を掲げようとする老齢の男の姿が見えた。
私はそのシャツにサスペンダーにズボンに護身用と思われる銃の入ったホルスターを下げた男に縋り付き、頭を下げながら銃を遣せとせがむ。
当然だが、その人は首を横に振って、
「ダメだよ。まだ店は開いていないんだ。もう少しで店が開くから、その時にーー」
「その時じゃあダメなの!お願いよ!お金は後で払うし、何なら倍の額を払っても構わないわ!だから、私に銃を一丁だけ渡して頂戴!」
「頂戴って言われても、店は本当に開いていなくて……」
その時だ。背後から例の男の姿が見える。目を大きく見開き、鼻息を荒くしている事から、彼は相当に怒っているらしい。
私は益々必死に頼み込む。
「お願いです!銃を売ってください!そうしなければ、あの男に殺されちゃう!」
「大袈裟だな。大方、あの男と痴話喧嘩でもして逃げてきたって事だろう?恋愛もいいが、その杖の無いバッジを見るに、キミはまだ学生じゃあないか、学生の本分は学問だ。そんな事に現を抜かしているから、キミは〈杖無し〉と呼ばれるんだ。困っているんなら、警察署の方に案内しよう。あっちだ」
真っ直ぐに目の前を指差す老齢の男から、私は胸元のバッジへと視線を映す。杖の描かれていないバッジ。落第生の象徴。クソ、こんな物がこんな所で足を引っ張るなんて!
私はこのバッジを地面に投げ捨てたい衝動に駆られた。
仕方がない。警察署の場所は分かった。後はここから逃げ出すだけだ。私が警察署へと駆け出そうとした時だ。
満身創痍だった筈のピーターが動き出し、鉄砲屋の店主から拳銃を奪う。
彼は突然の事に動揺する店主を放っておいて、私に拳銃を握らせる。
私は銃口を目の前から迫り来る男に向かって放つ。
が、男は私が銃を向けるのと同時にしゃがんだために事なき事を得たらしい。
同時に男は報復へと移る。男は地面の黒色の煉瓦に向かって左手の掌を向けて、煉瓦を油へと変えていく。
辺り一面が油へと変えられれば、迂闊に銃を放つ事などできない。
いや、銃を放っても影響は無いと聞くが、それでも銃弾が別の引火しそうな例えば街の周りに立っている街灯などに当たり、そこから火が落ちたらどうなるのだろう。
辺り一面が火の海となるのは必須だ。この街は業火に包まれ、生きた亡者の悲鳴で街が覆われるのは確実。
契約者のララミー・ブラザーズが居ようとも、怒りと恨みによって心を黒く染めたあの男は何の躊躇いもなく燃やしていくだろう。
油を煉瓦へと戻すにはあの男の魔法を奪い取り、私がこの油を煉瓦へと戻さなければならないだろう。
つまり、私がやるべき事はあの男との直接対峙。
私はピーターに銃を預け、あの男の元へと向かう。
そして、拳を構えて対峙した。男も私の姿を見るなり、拳を構える。
暫くの間、見えない火花を散らし合っていたのだが、戦いの火蓋を切ったのは私の拳。
初めて私の拳があの男の頬を打ち抜く。男は殴られて油の海と化した地面の上へと落ちていく。
私は起き上がるのを待ち、拳を喰らわせようとしたのだが、男は起き上がるのと同時に拳を振るう。
避ける事には成功したのだが、男の拳が空気を切り、その音が伝わったために私は思わず背筋が凍ってしまう。
あの男の拳が当たれば、私は即座に地面の上にノックアウトされてしまうだろう。そんな危機をひしひしと感じながら、あの男と拳を打ち合う。
ギリギリの所であの男の拳を両手で防ぎ、時たまにあの男の頬に拳を打ち込む。
こんな状況が暫くは続いたが、私もそろそろ疲弊してしまう。
男の拳により、私は脂の海のない場所へと吹き飛ばされてしまう。
倒れた私に対して男は最後の始末をするべく、右手の掌を私に向ける。
が、私は倒れいてほぼ閉じ掛けていた目蓋を開くのと同時に目をも見開き、男の魔法を奪う。
それから、油の海と化した中央の煉瓦を油の海へと戻していく。
二人とも、煉瓦では無い場所に居たためか足を絡め取られずに済む。
また、早朝という時間もあってか人も居なかった。
だから、私は躊躇なく魔法を使用したのだ。奴の魔法が私の奪い取った魔法で上書きされていく過程を彼は悔しそうな悲鳴を上げながら見つめていた。
そして、我を忘れて向かってくる男の顎を思いっきり殴り、男を怯ませて私は銃を預けたピーターの元へと向かう。
それを見た男は再度追い掛けて来る。
どうやら、この男とはここで決着を付けなければなるまい。
私はそう決意を決めた。
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