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エージェント・ブリタニアン編
早撃ちビリーの策略
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半ば反射的に飛び出す。それがどんな危険な事かはつくづく身に染みていた筈だ。だが、あの時の私は焦りにより、正常な判断を欠いていたのだ。だから、港に来るなり、あの男の胸ぐらを掴んだのだ。それが、あの二人の狙いだとも知らずに……。
私があの男の狙いに気が付いたのはあの男が大声で周囲の港で働く人々に向かって助けを叫んだ時だ。
「誰かァァァァァ~!!助けてくれ!オラァ、この女に殺されちまうよォォ~!!お、オレは覚えてるからな!お前が一年くらい前にオレの親分と仲間を殺した事実を!」
蛇顔の男の叫び声が聞こえるなり、港の方で夜の勤務についていた港の波止場前の下働きと思われる男女が私を取り囲む。
私は慌てて周囲を見渡し、私を囲む人間たちに賞金稼ぎ部の事とこの男の正体を述べようとしたのだが、蛇顔の男は被害者という顔を浮かべて周囲に訴え掛けていく。
「聞いてください!私の親分は確かに悪い事もしていましたッ!ですが、何も撃ち殺す必要はありませんでしたッ!あまりにも非道ッ!あまりにも醜悪な事です!そうですッ!皆様!この女は自分が取り入るためにーー」
「違います!この男の親分と手下はシティーで強盗事件を起こし、捕らえにきた私に向かって発砲したんです!危機を感じたから、撃ち返した、それだけなんです!」
私は男に被せるように主張したが、周りの人間たちは信用せずに私に憎悪の視線を、男に哀れみの視線を向けていく。
やられた。この男は私に功を焦らし、わざと先に掴ませてその後にこうして人を呼ぶ算段だったのだろう。
完全にやられた。私は思わず男を睨み付けたが、男は何も言わずに怯える振りをして〈早撃ち〉ビリーのズボンの裾の陰に隠れるばかりで、出てこようともしない。
だが、一人の漁師と思われる男が彼の手を取った事により、彼は涙を流しながらそこから出てきて、私を人差し指で突き刺し、ある事ない事を集まった住民たちに吹き込む。
私が賞金稼ぎ部に入れたのは教師に取り入ったからだとか、落ちこぼれの〈杖無し〉の癖に毎日、賞金首を捕まえるのは影武者がいるからだとか、そんな陰口のような事だ。
アンダードームシティーなら、この噂は一蹴されただろう。だが、ここは見知らぬ港町。
聞いているのは私と面識もないこの街の住人達。
あまりにも部が悪過ぎた。加えて、彼らの目に最初に映ったのは善良で更生したと思われる蛇顔の男の胸ぐらを私が掴む姿。
これでは住民の同情が集まるのは仕方がないだろう。
集まった住人達の中でこの港の下働きと思われる赤いシンプルなドレスを着た女性が私の前に飛び出し、私の頬を思いっきり叩く。
その衝撃のために私は思わずその場に倒れ込む。
だが、彼女は容赦なく私にもう一発のビンタを叩き込む。
私が彼女に叩かれた頬を撫でていると肝心の彼女が私の胸ぐらを掴み上げて、
「こいつは仲間を殺されたあの人の分だよッ!」
と、私の頬をもう一度叩く。彼女の背後にチラつくのは勝利を確信した微笑みを浮かべる蛇男の姿。
最初から、この計画を立てたのはこの男か、それとも〈早撃ち〉ビリーの方か今となっては分からない。
だが、どちらが立てたにしろ、この計画は上手くいっているのだ。
肝心の私が住人に完全に信用されずに、港の端で孤立しているのだから。
あの嫌らしい頬を私が受けたの同じ程度のビンタで叩いてやりたい。
そんな思いを込めてこの中年の婦人の背後で笑う蛇顔の男を睨んだのだが、また叩かれてしまう。
「なんだい?その目は!?あの人の大切な人を奪っておいてなんて態度だいッ!そんなに取り入られたかったのかい?性根の腐った〈杖無し〉がッ!」
その言葉に周囲の人間が同調していく。
〈杖無し〉から始まった私への罵声は人殺しだの賞金稼ぎ部の横暴だの保安委員の犬だのという声で塗り固められていく。
その声に押されたのか、はたまた殴り足りなかったのか、中年の婦人が五度めの平手打ちを私に繰り出そうとした時だ。
夜の港町に蒸気船の鳴る音と共に銃声が鳴り響く。
一度だけでは蒸気船にかき消されるかと思ったのか、その銃声は二度、三度と繰り返し空中へと放たれていく。
蒸気船が港から発着していくのと同時に、多くの人の視線が銃声をした方向へと向けられていく。
そこにはティファニー・シオングレイが銃口から白い煙を出しながらその場で立っていた。
銃を持っているためか、誰も彼女に言葉を交わさない。
彼女は波止場の端で取り囲まれている私の前に現れて、無言で私に立ち上がるように顎をしゃくり上げて指示を出す。
私は起き上がり、銃に怯える人々の前から立ち去ろうとしたのだが、それを蛇顔の男が止める。
「待てよ!その女はオレの兄貴をぶっ殺した憎い奴なんだッ!分かったんだったら、さっさと引き渡してくれよ!な?」
勿論、ティファニーは利用価値がある限りには私を引き渡しはしないだろう。いや、しないとは言い切れない。
何なら、このまま危険性を取り除くという誘惑に駆られ、考えを変えてあの男の元に私を突き出す可能性の方が高い。
何故なら、彼女の祖国にとってララミー・ブラザーズは敵だろうが、私も一旦リストから削除されているだけに過ぎず、彼女の祖国にとって敵である事実は変わらない。もし、あの蛇顔の男が私を始末したのなら、敵が敵を始末するという好条件なのだ。どうすれば良い。
ホルスターに拳銃は下げたままだが、住人に使えるとは思えない。ビリーが先に撃てば正当防衛が成立するかもしれない。だが、周りの住民が正当防衛ではないと主張すれば、私の立場は極めて不利なものになるだろう。
と、なれば、この場は彼女にとって私がまだ利があると見込み助けてくれる事を祈ったが、彼女は住人達に向かって振り向くと、
「ほぅ、ギャングの支配に怯えるだけの家畜どもが異性の良い事を言うじゃあない。でも、覚えといた方が良いよ。あんたらはその保安委員の犬の手からギャングに助けられようとしているって事を」
その言葉を聞いて住民達も黙り込む。だが、不思議な事にあの蛇顔の男もその側に突っ立っていた男も黙って突っ立っているだけだ。
だが、去り際にあの二人が見せたあの笑顔は負け惜しみどころか全ては計算と言わんばかりの笑み。
どういう事だろう。波止場から運ばれる潮風に当たりながら、私はその事を考えていた。
翌日、その考えが最悪なものになるとも知らずに。
私があの男の狙いに気が付いたのはあの男が大声で周囲の港で働く人々に向かって助けを叫んだ時だ。
「誰かァァァァァ~!!助けてくれ!オラァ、この女に殺されちまうよォォ~!!お、オレは覚えてるからな!お前が一年くらい前にオレの親分と仲間を殺した事実を!」
蛇顔の男の叫び声が聞こえるなり、港の方で夜の勤務についていた港の波止場前の下働きと思われる男女が私を取り囲む。
私は慌てて周囲を見渡し、私を囲む人間たちに賞金稼ぎ部の事とこの男の正体を述べようとしたのだが、蛇顔の男は被害者という顔を浮かべて周囲に訴え掛けていく。
「聞いてください!私の親分は確かに悪い事もしていましたッ!ですが、何も撃ち殺す必要はありませんでしたッ!あまりにも非道ッ!あまりにも醜悪な事です!そうですッ!皆様!この女は自分が取り入るためにーー」
「違います!この男の親分と手下はシティーで強盗事件を起こし、捕らえにきた私に向かって発砲したんです!危機を感じたから、撃ち返した、それだけなんです!」
私は男に被せるように主張したが、周りの人間たちは信用せずに私に憎悪の視線を、男に哀れみの視線を向けていく。
やられた。この男は私に功を焦らし、わざと先に掴ませてその後にこうして人を呼ぶ算段だったのだろう。
完全にやられた。私は思わず男を睨み付けたが、男は何も言わずに怯える振りをして〈早撃ち〉ビリーのズボンの裾の陰に隠れるばかりで、出てこようともしない。
だが、一人の漁師と思われる男が彼の手を取った事により、彼は涙を流しながらそこから出てきて、私を人差し指で突き刺し、ある事ない事を集まった住民たちに吹き込む。
私が賞金稼ぎ部に入れたのは教師に取り入ったからだとか、落ちこぼれの〈杖無し〉の癖に毎日、賞金首を捕まえるのは影武者がいるからだとか、そんな陰口のような事だ。
アンダードームシティーなら、この噂は一蹴されただろう。だが、ここは見知らぬ港町。
聞いているのは私と面識もないこの街の住人達。
あまりにも部が悪過ぎた。加えて、彼らの目に最初に映ったのは善良で更生したと思われる蛇顔の男の胸ぐらを私が掴む姿。
これでは住民の同情が集まるのは仕方がないだろう。
集まった住人達の中でこの港の下働きと思われる赤いシンプルなドレスを着た女性が私の前に飛び出し、私の頬を思いっきり叩く。
その衝撃のために私は思わずその場に倒れ込む。
だが、彼女は容赦なく私にもう一発のビンタを叩き込む。
私が彼女に叩かれた頬を撫でていると肝心の彼女が私の胸ぐらを掴み上げて、
「こいつは仲間を殺されたあの人の分だよッ!」
と、私の頬をもう一度叩く。彼女の背後にチラつくのは勝利を確信した微笑みを浮かべる蛇男の姿。
最初から、この計画を立てたのはこの男か、それとも〈早撃ち〉ビリーの方か今となっては分からない。
だが、どちらが立てたにしろ、この計画は上手くいっているのだ。
肝心の私が住人に完全に信用されずに、港の端で孤立しているのだから。
あの嫌らしい頬を私が受けたの同じ程度のビンタで叩いてやりたい。
そんな思いを込めてこの中年の婦人の背後で笑う蛇顔の男を睨んだのだが、また叩かれてしまう。
「なんだい?その目は!?あの人の大切な人を奪っておいてなんて態度だいッ!そんなに取り入られたかったのかい?性根の腐った〈杖無し〉がッ!」
その言葉に周囲の人間が同調していく。
〈杖無し〉から始まった私への罵声は人殺しだの賞金稼ぎ部の横暴だの保安委員の犬だのという声で塗り固められていく。
その声に押されたのか、はたまた殴り足りなかったのか、中年の婦人が五度めの平手打ちを私に繰り出そうとした時だ。
夜の港町に蒸気船の鳴る音と共に銃声が鳴り響く。
一度だけでは蒸気船にかき消されるかと思ったのか、その銃声は二度、三度と繰り返し空中へと放たれていく。
蒸気船が港から発着していくのと同時に、多くの人の視線が銃声をした方向へと向けられていく。
そこにはティファニー・シオングレイが銃口から白い煙を出しながらその場で立っていた。
銃を持っているためか、誰も彼女に言葉を交わさない。
彼女は波止場の端で取り囲まれている私の前に現れて、無言で私に立ち上がるように顎をしゃくり上げて指示を出す。
私は起き上がり、銃に怯える人々の前から立ち去ろうとしたのだが、それを蛇顔の男が止める。
「待てよ!その女はオレの兄貴をぶっ殺した憎い奴なんだッ!分かったんだったら、さっさと引き渡してくれよ!な?」
勿論、ティファニーは利用価値がある限りには私を引き渡しはしないだろう。いや、しないとは言い切れない。
何なら、このまま危険性を取り除くという誘惑に駆られ、考えを変えてあの男の元に私を突き出す可能性の方が高い。
何故なら、彼女の祖国にとってララミー・ブラザーズは敵だろうが、私も一旦リストから削除されているだけに過ぎず、彼女の祖国にとって敵である事実は変わらない。もし、あの蛇顔の男が私を始末したのなら、敵が敵を始末するという好条件なのだ。どうすれば良い。
ホルスターに拳銃は下げたままだが、住人に使えるとは思えない。ビリーが先に撃てば正当防衛が成立するかもしれない。だが、周りの住民が正当防衛ではないと主張すれば、私の立場は極めて不利なものになるだろう。
と、なれば、この場は彼女にとって私がまだ利があると見込み助けてくれる事を祈ったが、彼女は住人達に向かって振り向くと、
「ほぅ、ギャングの支配に怯えるだけの家畜どもが異性の良い事を言うじゃあない。でも、覚えといた方が良いよ。あんたらはその保安委員の犬の手からギャングに助けられようとしているって事を」
その言葉を聞いて住民達も黙り込む。だが、不思議な事にあの蛇顔の男もその側に突っ立っていた男も黙って突っ立っているだけだ。
だが、去り際にあの二人が見せたあの笑顔は負け惜しみどころか全ては計算と言わんばかりの笑み。
どういう事だろう。波止場から運ばれる潮風に当たりながら、私はその事を考えていた。
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