婚約破棄された悪役令嬢の巻き返し!〜『血吸い姫』と呼ばれた少女は復讐のためにその刃を尖らせる〜

アンジェロ岩井

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第二章『王国を覆う影?ならば、この私が取り除かせていただきますわ』

第二王子暗殺指令

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荘厳な教会の中には礼拝堂が置かれ、その中には必ず祭壇が用意されているものである。教会の必須とも言える祭壇の上に置かれた供物として信者たちから捧げられた果物を貪る小男の姿が見えた。
この小男の名前こそイーサン。ネオドラビア教の戦士の一人であり、城下町の教会を任されるモラン大司教の忠実な手駒の一つでもある。
イーサンは夢中になって果物を食べていると、背後でわざと足音を立てていることに気が付いた。イーサンが慌てて振り返ると、そこにはいやらしい笑みを浮かべたモラン大司教の姿が見えた。

「おや、やけ食いとやらかい?」

「あぁ、あんたが一旦おれに離れてこいと言ったばかりにミーモリティの旦那が殺されちまった。クソッタレ、おれが付いていれば駆除人どもなんぞに殺させやしなかったのに」

「……いいや。ミーモリティはどのみち病で死んでいただろう。私には彼の命が長くないように思えた」

「だが、ミーモリティの奴らはともかくその娘さんまで殺されちまったからなぁ……なぁ、大司教様……娘を殺したあの町医者に復讐する機会をおれには与えてくれないかい?」

「……ならば、まずその暴食を絶て。戦士イーサンよ。暴食を続ければ体の中に含まれるプトネルマがそれに同調して体を蝕むぞ」

プトネルマというのはネオドラビアの神を信仰する人々が信奉する体の中に居座る生命エネルギーの名称である。
彼らによればプトネルマという生命エネルギーが動くことで人間の体が動き、プトネルマが体外からもたらす不純な力によって弱るというものであった。
それ故にプトネルマは暴食暴飲の他に毒などによっても弱るものであるとされ、ネオドラビア教の人々が信仰する人々が平気で口にする薬などもそれに値するものであるとされ、ネオドラビアの人々は外での治療を受けることを拒否し、教会内での治療を受けることを熱望していたのである。
治療にあたるネオドラビアの司祭たちは医学的な知識のない人々ばかりであり、大抵の治療がプトネルマについて記された大昔の医学書を片手に血液を抜くことばかりであった。
これは大昔の医学書に記されたれっきとした弱ったプトネルマを助けるための方法であったのだ。大昔の医学書によればプトネルマは熱によって弱り、その熱を作るための血液を体から出すことによってプトネルマを助けるというレキシーなどのしっかりとした医療法を知る人物であるのならば眉を顰めるような医療法であった。
そもそもプトネルマ医学自体太古の時代に提唱された医学であり、ネオドラビア教がその存在を発掘するまでは完全に忘れ去られた医学であったのだ。

歴史の中からも忘れ去られたようなプトネルマ医学を発掘したのは現在のネオドラビア教の大元である教皇であったとされ、教皇はこの医学の解読に熱心に努め、有志の力を借りてプトネルマ医学の本を現代語訳させることに成功したのである。
教団の解釈としては唯一の神である緑の鱗をしたドラゴンが人々が産まれる際にドラゴンが人々にプトネルマを与えたものだとしたのである。
流石の果物好きのイーサンも教団の権威の一つである『プトネルマ』の名前を出されれば白旗を上げるより他にない。
イーサンが果物を止める手をやめた時だ。祭壇へと続く扉が開かれて案内役の信者に引きつられた壮年の男が見えた。
壮年の男は祭壇に掲げられたドラゴンの絵の前で膝を突いて祈りを捧げた後でモラン大司教の名前を叫ぶ。
モラン大司教は叫び回る男の姿を見かねたのか、壮年の男に自らの名前を名乗り、謁見する権利を与えた。
壮年の男は膝を突いてモラン大司教に頭を垂れた。
モラン大司教は頭を上げるように指示を出し、壮年の男に頭を上げて頼み事をする権利を与えたのであった。
壮年の男はその言葉を聞いて頭を上げるとモラン大司教に向かって言った。

「まずは何も言わずにこちらをお受け取りください」

男は懐の中から均一の赤色をした宝石が中央に飾られている金の装飾が付いたモラン大司教に手渡すのであった。

「ありがとうございます。これは寄付金ということですかな?」

「その通りです。大司教様……ですが、代わりに教会の力を使って殺してもらいたい奴がいまして」

「その人物の名前は?」

「フィンです。フィン・クライン。この国における第二王子であり、現在は国王陛下から城下町の警備を言い渡されている男です」

その言葉を聞いてモラン大司教とイーサンの顔に微かな動揺の色が走った。
だが、すぐにイーサンは大きな声を立てて笑ったのであった。
イーサンが満足するまで笑い終えるとその男へと向き直った。

「面白いな。ちょうど戦いがなくて退屈していたところだったんだ。あんたの依頼を受けてやるよ」

「それはありがたい!私はちょうどその言葉を聞きたかったんだッ!」

壮年の男の顔が明るくなった。そして勢いのままにイーサンの両手を握り締めて礼の言葉を述べるが、イーサンはそれを乱暴に弾き、唖然としている壮年の男に向かって口元の端を吊り上げて言った。

「勘違いするなよ。おれはあんたのために殺しを引き受けたんじゃねぇ。おれは自分のために王子を殺すんだ。前におれが殺し損ねた駆除人の代わりにな」

「……駆除人だと?」

壮年の男が眉が吊り上がる。

「あぁ、金を貰って悪党を消す奴らの名称さ。おれが前にミーモリティの旦那から抹殺の依頼を受けたけどーー」

「面白そうだな?私にもっとそいつらのことを教えてくれんか?」

壮年の男が瞳が青白く光っていく。

「いやだね。名前も知らない奴に、おれの大事な情報を教えられるもんか」

「……ならば、私の名前を教えよう。ヘンダー・クリームウッズ。警備隊の隊長だ」

ヘンダーは自己紹介を終えると握手を求めて手を伸ばしたが、イーサンはその手を飛ばしてヘンダーに背中を向けた。
慌てて自身を呼び止めるヘンダーに向かってイーサンは不機嫌そうな態度を隠すこともなく振り返った。

「心配なさんな。隊長殿。おれはこの仕事をやり遂げてやるぜ。あんたの手助けなんてなしにな」

その様子にコケにされたのだと憤慨して一人祭壇の上でワナワナと震えるヘンダーを放ってイーサンは一人自室に戻り、得物と当面の資金を携えると一人で教会を抜け出し、城下町へと向かう。
城下町までは通常ならば馬車で通うのだが、イーサンは敢えて歩いていくことで教会との別れを噛み締めていたのだ。
その途中、教会と城下町との境目にある草木に挟まれた一本道で酔っ払っている二人組の男と肩をぶつけ合う。

「おい、テメェ!今わざとおれの肩にテメェの肩をぶつけやがっただろうがッ!」

「はて?なんのことやら」

「貴様ッ!惚けやがってッ!このがッ!」

『チビ』という単語にイーサンの眉がピクリと動く。今の言葉に怒りを感じたのである。どうしようもない怒りのような感情が湧き上がり、『チビ』という単語を言い放った男の胸ぐらを勢いよく掴み上げたのである。

「テメェ、誰に向かってモノを言ってるんだ?クソガキが」

だが、目の前の男はイーサンが危険な男であるということなどは知らない。
自分たちの腕前に自信があったことやイーサンが小柄であったことなどをひっくるめて謝るどころか挑発を行ったのである。

「クソガキだと?このチビ、自分が大人のつもりらしいぜ」

「はっ~、そりゃあ面白い。おい、おちびちゃん。自分の年齢がわかりまちゅか?」

若者の一人が揶揄う目的でイーサンの肌をパタパタと叩いていく。若者は夢中になってパタパタと叩いている最中に自身の手に何か温かいものが滴り落ちていることに気がつく。
不思議になって手で探っていくと、手に垂れていたのは喉から噴き出た血であった。
若者は大きな悲鳴を上げながら地面の上へと倒れ込む。それを見たもう一人の若者が慌ててその場から逃れようとしたのだが、イーサンが宙の上で弧を描いて見事な一回転を披露し、逃げようとする若者の前に立ち塞がったのである。
そして恐怖に怯える若者の喉を短刀で掻き切ったのである。
イーサンは短刀に付着した血を近くの草で拭き取り、その場を後にした。
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