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第三章『私がこの国に巣食う病原菌を排除してご覧にいれますわ!』
暗殺計画の準備はドレスを供えてからでよろしくて
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「ありがとうございます」
服飾店の店主は店頭に飾られたカーラのドレスを購入した二人組の男に対して丁寧な一礼を行う。
しかし、二人組の男は店主には一瞥もせずにそのまま城下町の外れを超えた街道との境に位置する墓地が立ち並ぶ丘の上へと向かっていく。
エドガーは丘の上に着くと、カーラによってその命を奪われた娘の前にドレスを供えたのである。
それから拳を強く握り締めながら墓前で改めて復讐を誓うのであった。
墓参りを終えたエドガーは振り返ることもせずに城下町へと戻っていく。
ドレスを買ってから何も言葉を発しないエドガーを見て、マグシーは心配になったのか、優しい声で慰めの言葉を掛けたのである。
「エドガーさん、大丈夫かい?」
「……平気だ。だが、間もなくカーラは死ぬ。おれの手で必ずあの害虫を駆除してやる」
エドガーの瞳には怒りの炎が宿っていた。それを見たマグシーは今回の駆除にはエドガーの威信のようなものが賭けられていることを察したのである。
マグシーは何も言わずに黙って、決意を固めた男の背中を追いかけていく。
丘から降り、城下町へと戻った二人は敵情視察の前に行う腹ごしらえとして酒場に寄ることにした。
酒場には大勢の人が詰め掛け、昼休憩の合間に食事や酒を楽しんでいた。
エドガーとマグシーの両名が酒を啜り、つまみを楽しんでいた時だ。不意に酒場の中心部で騒ぐ声が聞こえた。
二人が耳を澄ませて、その声を聞いてみると、どうも喧嘩が繰り広げられていたらしい。
傭兵と思われる柄の悪い男三人と職人と思われる二名の男が言い争っており、それが喧嘩へと発展したのだと思われる。傭兵と思われる男たちが平時で、平服の上に剣を下げているだけだというのも職人たちをのさばらせたのも一因だろう。
迷惑な話だ。エドガーが不快感を露わにしながら二人で酒を啜っていた時だ。
急に悲鳴の声が上がった。その悲鳴に反応した二人が中心部を見てみると、そこには傭兵の男たちが剣を抜いていた。
剣を相手にしては分が悪いと判断したのか、職人の男たちも必死に謝っていたのだが、傭兵たちは容赦しようとする気配を見せない。
必死に謝罪の言葉を述べる職人の男たちに向かって斬りかかろうとしていた。
これでは喧嘩というよりも一方的な弱い者虐めである。見てはいられない。
エドガーは剣を持って椅子の上から立ち上がり、傭兵の男を突き飛ばしたのである。突き飛ばされた傭兵の男は大袈裟な悲鳴を上げ、標的を職人たちからエドガーへと変えた。
「いってぇな。一体何をしやがる」
「黙れ、貴様らの横暴は見ていて反吐が出る。故にその肩を突き飛ばしてやったのだ」
「テメェ、おれが誰だかわかってんのか?」
傭兵の男は剣を振り上げてエドガーへと切り掛かっていく。エドガーはその剣を交わすと、傭兵の男の利き腕を持ち上げ、そのまま男を地面の上へと叩き落としたのである。
地面の上で訳がわからないという表情を浮かべた男を見下ろしながらエドガーは言った。
「……これは東洋のバリツという武術だ。東洋ではお前のような刃物を持った敵に対抗するために体を武器に戦う習慣があるのだ」
エドガーは倒れた男の腹に向かって靴の踵を直撃させ、悶絶させる。
その姿を見て、仲間の傭兵たちが悲鳴を上げていく。エドガーは悲鳴を上げた傭兵たちを剣のように鋭い目で睨みながら海の底で呟いたような低く冷たい声で、
「どうだ?まだやるか?先程の男のようになりたいのか?」
と、容赦なく問い掛けたのである。
そう言われれば傭兵たちも逃げるより他にない。倒れた仲間を放って傭兵たちは逃げ出す。
先程、エドガーに倒された男も仲間たちが逃げ出したのを見て、慌ててその場を立ち去っていく。
エドガーはそれを見て呆れたような溜息を吐き、席へと戻ろうとしたのだが、去る間際に職人の男たちから感謝の言葉を投げ掛けられた。
「あの、ありがとうございます!その、おれたちの命を救ってもらって……」
「勘違いするな。おれはあいつらが騒がしくしていたのが気に食わなかっただけだ」
エドガーはフンと鼻を鳴らす。席の上でそれを見ていたマグシーはクスクスと笑って、
「エドガーさんも素直じゃないんだから」
と、揶揄ったのである。その揶揄いに対してエドガーは何も言わずに酒を飲み干したのである。
酒を飲み終え、腹ごしらえを済ませた二人はカーラを探るために様々な場所を渡り歩いたのである。
そして、二人はカーラがこの時間では休日と呼ばれる日を除いて、とある診療所でレキシーという医者の手伝いをしていることを突き止めたのである。
二人は診療所の近くから診療所で働くカーラの姿を見つめていたのである。
そこで甲斐甲斐しく働くカーラの姿を見て、エドガーは胸が悪くなった。
カーラはエドガーにとって可愛い娘をなんの躊躇いもなく針で殺した悪魔のような女性なのだ。
だが、診療所でひたむきに医者を助け、患者一人ひとりと向き合うその姿は『悪魔』や『悪女』という名詞からはもっとも程遠く思えたのである。
どうして、もっとそれらしく振る舞ってくれない。どうして、善人を装おうとするのだ。エドガーはカーラのその態度を見て、レイラというメイドが語った『人面獣心』という蔑称はカーラに相応しい二つ名であるのだと確信していた。
エドガーは患者に向かって笑い掛けるカーラの姿を見て、咄嗟に舌を打ち、マグシーを連れて、近くにある茶店へと潜り込んだのである。
「カーラって奴が診療所で働いているのはわかってるんだ。どうする?エドガーさん」
「……患者を装って、あの人面獣心の息の根を止めてやろうかと考えたが、それは駄目だな」
「どうしてだい?」
「そんな手を使ってしまえば、おれはカーラと同じような人間になってしまう。駆除を行うのならばこの手で堂々と駆除してやりたいのだ」
「流石はエドガーさんだ。それでこそおれが惚れ込んだ男ってもんよ」
マグシーはエドガーの男らしさをそして、元騎士であることからその胸のうちに持っている高潔さを称賛した。
だが、仮にエドガーが患者に紛れてカーラを駆除するという方法をとっていたとしても、既に二度ほど同じ手を喰らっているので、カーラ、そしてその相棒であるレキシーには通じなかっただろう。
そう言った意味でもエドガーは幸運であったといってもよかった。
エドガーは茶を五杯ほどお代わりしてからマグシーに自身が考えた駆除の方法を語っていく。
駆除の方法としては単純なものであるが、これ以上はないという方法であった。
それは待ち伏せである。少しばかりの時間を置いて、標的であるカーラの生活パターンを分析し、尚且つあの医者が居ない瞬間を襲ってカーラを殺すという方法であった。
なぜ、一人になったところをというと、それは一人だけならばカーラを確実に仕留められるということと、無関係である医者を巻き込みたくないというエドガーからの配慮であった。
また、マグシーもこの駆除のトリと言えるこの部分に関わることは禁止された。
あくまでもエドガーは一対一でカーラを仕留めることに拘っているのだ。
夜の道を襲うというのは騎士にとってあるまじきことのように思われるが、それは自身が駆除人でもあり、騎士としての高潔さは持ちつつも駆除人として生きている彼の精神のようにも思えた。
マグシーは改めて、エドガーという男の凄さに惚れ込んでしまう。
そして、彼の襲撃が上手くいくことを願ったのだが、彼の襲撃は思わぬところで阻止されてしまう。
準備のために茶店を出た二人の周りを間に合わせの鎧で武装した傭兵とその傭兵とは対照的に小綺麗な銀色の鎧兜を身に付けた兵士が囲んでいたのだ。その数は十五名ほどである。
中央に豪華な家紋を彫りつけた男たちとその指揮官と思われる兜に羽根をつけた老齢の男の姿があった。
事態の異変に気が付いた二人は慌てて互いに背中を預け、剣を手に取ったのだが、周りを取り囲んだ兵士たちは容赦なく槍を突き立ててその距離を縮めていく。
二人が生唾を飲み込んだ時だ。その中心にいた人物が少しばかり焦った様子の二人に向かって問い掛けた。
「お前たちか?昼頃にロバート卿がお雇いになられた兵士たちに暴行したというのは?」
「その通りだ。奴らが無作法なことをしたのでな。少し懲らしめたまでのことよ」
エドガーは周りを兵士たちに囲まれているものの、臆することなく堂々と言い放った。
「そうか、そのことに対してロバート卿はお怒りでな。貴様らを卿のお屋敷へと連行せよとのご命令だ」
「断ると言ったら?」
「この場で貴様らを処断する」
この場での処断。それは二人にとって自分たちの周りを囲む大勢の兵士たちを相手にするということを意味していた。
マグシーは生唾を飲み込んだが、エドガーは不適な笑みを浮かべていた。
それを見た羽根の付いた兜を被った指揮官が激昂した様子で尋ねた。
「何がおかしい!?」
「いやぁ、失敬、貴君らのやり方があまりにも横暴だと思ったのでな」
「横暴だと?我らが?」
「左様、そのようなやり方では人々はついてこないぞ。貴族だからといって何もかも罷り通ると思ったのならば大間違いだ」
エドガーは目の前の人物と過去の自分自身に対してその言葉を放っていた。
騎士の身分を放り出し、各地を旅している間にそのことを悟り、過去の自分がいかに酷い人間であったのかを知ったのだが、後の祭りであった。
だからこそ、彼の言葉には重みがあったといってもいい。
しかし、その言葉の意味を理解できない指揮官の男は侮辱されたととって、激昂し、二人の周りを囲んでいた男たちに向かって一斉に攻撃を仕掛けるように命じたのである。
二人はそのまま宙の上に飛び上がり、包囲網を脱すると、武装した兵士たちと斬り合いを始めていく。
その様子を見た人々は混乱状態に陥り、慌てて警備隊や自警団の事務所へと駆け込んでいく。
大勢の人々が頭の中を白くする中で、少しでも冷静な考えを持つ人はこう主張した。
「早く怪我人を手当てしないと!」
そして、その人に助言を与え、周りの人々に対して指針を示したのはこの近くに住む中年の男であった。
「な、なら、この近くに住んでいるレキシー先生に頼むんだッ!」
中年の男の言葉に従い、レキシーの診療所に人々が駆け込んでいく。
人々から事の顛末を聞いたレキシーは診察用の鞄を片手に、カーラに応急手当ての用意を持てるだけ持つように指示を出すと、激動が繰り広げられている場所に向かって駆け出したのである。
二人が駆け付けた時には指揮官やその部下である兵士たちは逃亡し、エドガーとマグシーの両名は傷を受けて弱っているところであった。
倒れていた傭兵や小綺麗な兵士たちは全て息絶えていたので、負傷者はエドガーとマグシーの二人だけだった。
この時、カーラがエドガーの正体を知らなかったのは運命の悪戯であったとしか言いようがない。
肩に傷を受けて弱っているエドガーに対して、カーラは包帯と塗り薬の準備をしながら、
「大丈夫ですの?」
と、優しい声で話し掛けたのであった。
一方でエドガーはレイラから聞いた特徴から目の前で声を掛けている少女が何者であるのかを理解していた。
そう、彼女こそがカーラ。自身の娘を殺したエドガーにとっての仇であった。
エドガーは閉じようとした目を必死に開き、鋭く睨み付けていた。
服飾店の店主は店頭に飾られたカーラのドレスを購入した二人組の男に対して丁寧な一礼を行う。
しかし、二人組の男は店主には一瞥もせずにそのまま城下町の外れを超えた街道との境に位置する墓地が立ち並ぶ丘の上へと向かっていく。
エドガーは丘の上に着くと、カーラによってその命を奪われた娘の前にドレスを供えたのである。
それから拳を強く握り締めながら墓前で改めて復讐を誓うのであった。
墓参りを終えたエドガーは振り返ることもせずに城下町へと戻っていく。
ドレスを買ってから何も言葉を発しないエドガーを見て、マグシーは心配になったのか、優しい声で慰めの言葉を掛けたのである。
「エドガーさん、大丈夫かい?」
「……平気だ。だが、間もなくカーラは死ぬ。おれの手で必ずあの害虫を駆除してやる」
エドガーの瞳には怒りの炎が宿っていた。それを見たマグシーは今回の駆除にはエドガーの威信のようなものが賭けられていることを察したのである。
マグシーは何も言わずに黙って、決意を固めた男の背中を追いかけていく。
丘から降り、城下町へと戻った二人は敵情視察の前に行う腹ごしらえとして酒場に寄ることにした。
酒場には大勢の人が詰め掛け、昼休憩の合間に食事や酒を楽しんでいた。
エドガーとマグシーの両名が酒を啜り、つまみを楽しんでいた時だ。不意に酒場の中心部で騒ぐ声が聞こえた。
二人が耳を澄ませて、その声を聞いてみると、どうも喧嘩が繰り広げられていたらしい。
傭兵と思われる柄の悪い男三人と職人と思われる二名の男が言い争っており、それが喧嘩へと発展したのだと思われる。傭兵と思われる男たちが平時で、平服の上に剣を下げているだけだというのも職人たちをのさばらせたのも一因だろう。
迷惑な話だ。エドガーが不快感を露わにしながら二人で酒を啜っていた時だ。
急に悲鳴の声が上がった。その悲鳴に反応した二人が中心部を見てみると、そこには傭兵の男たちが剣を抜いていた。
剣を相手にしては分が悪いと判断したのか、職人の男たちも必死に謝っていたのだが、傭兵たちは容赦しようとする気配を見せない。
必死に謝罪の言葉を述べる職人の男たちに向かって斬りかかろうとしていた。
これでは喧嘩というよりも一方的な弱い者虐めである。見てはいられない。
エドガーは剣を持って椅子の上から立ち上がり、傭兵の男を突き飛ばしたのである。突き飛ばされた傭兵の男は大袈裟な悲鳴を上げ、標的を職人たちからエドガーへと変えた。
「いってぇな。一体何をしやがる」
「黙れ、貴様らの横暴は見ていて反吐が出る。故にその肩を突き飛ばしてやったのだ」
「テメェ、おれが誰だかわかってんのか?」
傭兵の男は剣を振り上げてエドガーへと切り掛かっていく。エドガーはその剣を交わすと、傭兵の男の利き腕を持ち上げ、そのまま男を地面の上へと叩き落としたのである。
地面の上で訳がわからないという表情を浮かべた男を見下ろしながらエドガーは言った。
「……これは東洋のバリツという武術だ。東洋ではお前のような刃物を持った敵に対抗するために体を武器に戦う習慣があるのだ」
エドガーは倒れた男の腹に向かって靴の踵を直撃させ、悶絶させる。
その姿を見て、仲間の傭兵たちが悲鳴を上げていく。エドガーは悲鳴を上げた傭兵たちを剣のように鋭い目で睨みながら海の底で呟いたような低く冷たい声で、
「どうだ?まだやるか?先程の男のようになりたいのか?」
と、容赦なく問い掛けたのである。
そう言われれば傭兵たちも逃げるより他にない。倒れた仲間を放って傭兵たちは逃げ出す。
先程、エドガーに倒された男も仲間たちが逃げ出したのを見て、慌ててその場を立ち去っていく。
エドガーはそれを見て呆れたような溜息を吐き、席へと戻ろうとしたのだが、去る間際に職人の男たちから感謝の言葉を投げ掛けられた。
「あの、ありがとうございます!その、おれたちの命を救ってもらって……」
「勘違いするな。おれはあいつらが騒がしくしていたのが気に食わなかっただけだ」
エドガーはフンと鼻を鳴らす。席の上でそれを見ていたマグシーはクスクスと笑って、
「エドガーさんも素直じゃないんだから」
と、揶揄ったのである。その揶揄いに対してエドガーは何も言わずに酒を飲み干したのである。
酒を飲み終え、腹ごしらえを済ませた二人はカーラを探るために様々な場所を渡り歩いたのである。
そして、二人はカーラがこの時間では休日と呼ばれる日を除いて、とある診療所でレキシーという医者の手伝いをしていることを突き止めたのである。
二人は診療所の近くから診療所で働くカーラの姿を見つめていたのである。
そこで甲斐甲斐しく働くカーラの姿を見て、エドガーは胸が悪くなった。
カーラはエドガーにとって可愛い娘をなんの躊躇いもなく針で殺した悪魔のような女性なのだ。
だが、診療所でひたむきに医者を助け、患者一人ひとりと向き合うその姿は『悪魔』や『悪女』という名詞からはもっとも程遠く思えたのである。
どうして、もっとそれらしく振る舞ってくれない。どうして、善人を装おうとするのだ。エドガーはカーラのその態度を見て、レイラというメイドが語った『人面獣心』という蔑称はカーラに相応しい二つ名であるのだと確信していた。
エドガーは患者に向かって笑い掛けるカーラの姿を見て、咄嗟に舌を打ち、マグシーを連れて、近くにある茶店へと潜り込んだのである。
「カーラって奴が診療所で働いているのはわかってるんだ。どうする?エドガーさん」
「……患者を装って、あの人面獣心の息の根を止めてやろうかと考えたが、それは駄目だな」
「どうしてだい?」
「そんな手を使ってしまえば、おれはカーラと同じような人間になってしまう。駆除を行うのならばこの手で堂々と駆除してやりたいのだ」
「流石はエドガーさんだ。それでこそおれが惚れ込んだ男ってもんよ」
マグシーはエドガーの男らしさをそして、元騎士であることからその胸のうちに持っている高潔さを称賛した。
だが、仮にエドガーが患者に紛れてカーラを駆除するという方法をとっていたとしても、既に二度ほど同じ手を喰らっているので、カーラ、そしてその相棒であるレキシーには通じなかっただろう。
そう言った意味でもエドガーは幸運であったといってもよかった。
エドガーは茶を五杯ほどお代わりしてからマグシーに自身が考えた駆除の方法を語っていく。
駆除の方法としては単純なものであるが、これ以上はないという方法であった。
それは待ち伏せである。少しばかりの時間を置いて、標的であるカーラの生活パターンを分析し、尚且つあの医者が居ない瞬間を襲ってカーラを殺すという方法であった。
なぜ、一人になったところをというと、それは一人だけならばカーラを確実に仕留められるということと、無関係である医者を巻き込みたくないというエドガーからの配慮であった。
また、マグシーもこの駆除のトリと言えるこの部分に関わることは禁止された。
あくまでもエドガーは一対一でカーラを仕留めることに拘っているのだ。
夜の道を襲うというのは騎士にとってあるまじきことのように思われるが、それは自身が駆除人でもあり、騎士としての高潔さは持ちつつも駆除人として生きている彼の精神のようにも思えた。
マグシーは改めて、エドガーという男の凄さに惚れ込んでしまう。
そして、彼の襲撃が上手くいくことを願ったのだが、彼の襲撃は思わぬところで阻止されてしまう。
準備のために茶店を出た二人の周りを間に合わせの鎧で武装した傭兵とその傭兵とは対照的に小綺麗な銀色の鎧兜を身に付けた兵士が囲んでいたのだ。その数は十五名ほどである。
中央に豪華な家紋を彫りつけた男たちとその指揮官と思われる兜に羽根をつけた老齢の男の姿があった。
事態の異変に気が付いた二人は慌てて互いに背中を預け、剣を手に取ったのだが、周りを取り囲んだ兵士たちは容赦なく槍を突き立ててその距離を縮めていく。
二人が生唾を飲み込んだ時だ。その中心にいた人物が少しばかり焦った様子の二人に向かって問い掛けた。
「お前たちか?昼頃にロバート卿がお雇いになられた兵士たちに暴行したというのは?」
「その通りだ。奴らが無作法なことをしたのでな。少し懲らしめたまでのことよ」
エドガーは周りを兵士たちに囲まれているものの、臆することなく堂々と言い放った。
「そうか、そのことに対してロバート卿はお怒りでな。貴様らを卿のお屋敷へと連行せよとのご命令だ」
「断ると言ったら?」
「この場で貴様らを処断する」
この場での処断。それは二人にとって自分たちの周りを囲む大勢の兵士たちを相手にするということを意味していた。
マグシーは生唾を飲み込んだが、エドガーは不適な笑みを浮かべていた。
それを見た羽根の付いた兜を被った指揮官が激昂した様子で尋ねた。
「何がおかしい!?」
「いやぁ、失敬、貴君らのやり方があまりにも横暴だと思ったのでな」
「横暴だと?我らが?」
「左様、そのようなやり方では人々はついてこないぞ。貴族だからといって何もかも罷り通ると思ったのならば大間違いだ」
エドガーは目の前の人物と過去の自分自身に対してその言葉を放っていた。
騎士の身分を放り出し、各地を旅している間にそのことを悟り、過去の自分がいかに酷い人間であったのかを知ったのだが、後の祭りであった。
だからこそ、彼の言葉には重みがあったといってもいい。
しかし、その言葉の意味を理解できない指揮官の男は侮辱されたととって、激昂し、二人の周りを囲んでいた男たちに向かって一斉に攻撃を仕掛けるように命じたのである。
二人はそのまま宙の上に飛び上がり、包囲網を脱すると、武装した兵士たちと斬り合いを始めていく。
その様子を見た人々は混乱状態に陥り、慌てて警備隊や自警団の事務所へと駆け込んでいく。
大勢の人々が頭の中を白くする中で、少しでも冷静な考えを持つ人はこう主張した。
「早く怪我人を手当てしないと!」
そして、その人に助言を与え、周りの人々に対して指針を示したのはこの近くに住む中年の男であった。
「な、なら、この近くに住んでいるレキシー先生に頼むんだッ!」
中年の男の言葉に従い、レキシーの診療所に人々が駆け込んでいく。
人々から事の顛末を聞いたレキシーは診察用の鞄を片手に、カーラに応急手当ての用意を持てるだけ持つように指示を出すと、激動が繰り広げられている場所に向かって駆け出したのである。
二人が駆け付けた時には指揮官やその部下である兵士たちは逃亡し、エドガーとマグシーの両名は傷を受けて弱っているところであった。
倒れていた傭兵や小綺麗な兵士たちは全て息絶えていたので、負傷者はエドガーとマグシーの二人だけだった。
この時、カーラがエドガーの正体を知らなかったのは運命の悪戯であったとしか言いようがない。
肩に傷を受けて弱っているエドガーに対して、カーラは包帯と塗り薬の準備をしながら、
「大丈夫ですの?」
と、優しい声で話し掛けたのであった。
一方でエドガーはレイラから聞いた特徴から目の前で声を掛けている少女が何者であるのかを理解していた。
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