婚約破棄された悪役令嬢の巻き返し!〜『血吸い姫』と呼ばれた少女は復讐のためにその刃を尖らせる〜

アンジェロ岩井

文字の大きさ
171 / 223
第四章『この私が狼の牙をへし折ってご覧にいれますわ』

残るアンブリッジ家の始末

しおりを挟む
「そんなことがあったのか」

ギークは感心したように言った。

「そう楽しそうに仰られておられますが、あの時は大変だったんですのよ」

カーラはあの晩のことを思い返し、苦笑していた。
あの日の晩、リチャードが平手打ちを行った直後、彼は雷が落ちたかとも言わんばかりの大きな声で兄妹を叱責していた。

「馬鹿者どもがッ!レキシー先生はお前たちの父親を少しでも助けようと懸命に努力しておられたのだぞッ!それを逆恨みして、命を狙うだなどと……恥を知れッ!恥をッ!」

リチャードはそれからもう一度その大きな手で二人の子どもの頬を勢いよく叩いたのであった。
子どもはあまりの痛さに悲鳴を上げて地面の上にのたうち回っていたが、リチャードはそれを見ても同情するどころか、冷たい視線で二人の子どもを見下ろしていた。

リチャードの視線からはこんな恩知らずなど死んでもいいと言わんばかりの確固たる意思のようなものが感じられた。
しかし、相手は子ども。これ以上リチャードが何かを起こしてしまえばリチャードに悪い評判が経ってしまう。

そればかりではない。二人からしても哀れな騎士の子どもに対して、これ以上酷い目に遭わせることなどはしたくなかったのだ。

「おやめくださいませ。リチャード先生!」

カーラがリチャードの腕を掴んだことによって、ようやく正気を取り戻したらしい。
だが、リチャードは謝罪をすることもなく、視線を背けていた。

リチャードからすれば自分自身の正義に従って、無礼な子どもを制裁しただけに過ぎない。
感謝こそされども咎められる筋合いなど一切ない。
そう言わんばかりに背中を向けていたので、カーラやレキシーも何も言えなかった。

代わりに殴られた衝撃で唖然とした表情を浮かべている二人の子どもの頭を優しく撫でていく。
二人の子どもは涙を流しながら、それを拒絶しようとしたが、父親が死んで以来の頭を撫でられるという行動によって、二人の子どもの中から復讐心という負の感情は消え、後には多くの子どもが持っている素直さというものが膨れ上がったのだろう。
二人はあろうことか、自分たちが殺そうとしていた相手に泣き縋っていくのだった。

レキシーもカーラもそんな二人を優しく慰めていた。
その後は未だに態度を悪くしているリチャードを説得し、二人を自宅にまで送り届けていくのだった。
二人からは送り届ける際に、もう二度と自分たちを襲わないという確証をもらっているのだからこれ以上二人から襲われてしまう心配もないだろう。

カーラとレキシーは安堵しながらお互いの顔を見つめ合う。その表情は暗闇でありながらもどこか輝いていたように見えた。
その後になって、リチャードと別れ、二人はそのまま駆除人ギルドへと足を運んだのだった。
駆除人ギルドでギークとヒューゴを呼ぶように収集し、クイントンから屋敷の図表を手に入れるように依頼したのであった。

ギルドマスターは翌日に二人を診療所にまで派遣することを約束したのだった。
それから昼休みの時間帯に二人が診療所を訪れ、ヒューゴは診療所の中でレキシーと、ギークは外の茶店でカーラと話すことになったのだ。

ここまでがその顛末である。改めて、考えれば長い夜だった。
カーラが一人激動の出来事が起きた夜のことを回顧していると、ギークが身を乗り出しながら問い掛けた。

「でさ、どうするの?」

「どうするのと仰られますと?」

「駆除の方法だよ。わざわざぼくたちを呼んだってことは用事があるんでしょ?」

「フフッ、流石はギークさんです」

カーラは目を矢のように細めて、口元を歪めて悪女のような笑みを浮かべながら考え上げた計画をギークに向かって語っていく。

計画としてはクイントンによってわざと開け放ちにされた裏口から二人で屋敷の中に潜入し、ドロシーを始末した後に当主であるウィルストンを拉致し、山奥の処刑場へと運ぶというものだ。この際のギークの役目は見張りの気絶である。ギークの長鞭の腕であるのならば屋敷の中にいる自分たちの駆除にとって不都合な見張りを気絶させられるだろうと計算した故での誘いであった。

初めのうちは訝しげな表情でカーラを見つめていたギークであったが、詳細な出来事を聞いていくうちに納得したような表情を浮かべて、最後には満足気な表情を浮かべながら自身が注文したお茶を啜っていく。

「では、当日……三日後の夜にギルドの前ですわ。遅れないようによろしくお願い致しますわ」

カーラは確認の問い掛けを怠らなかった。ギークは小さく首を傾げて答えた。
奇しくもこの時、診療所の中においては屋敷の脱出係を担当するレキシーとヒューゴの話し合いがまとまったところであった。
こうして、アンブリッジ伯爵家に対する駆除人たちの制裁は着実に進められていったのであった。

夜の闇を友とする駆除人たちが動くのは草木も眠るような遅い時間帯。空いているのは酒場やレストラン。それに歴代の国王から禁じられてはいれども人々の欲望を刺激する賭博場などの娯楽施設ばかりという頃合いだ。
ギルドの前に集まった四人はギルドマスターから貸し出された巨大な木箱が乗った人二人で押すような巨大な荷車である。

運送業者を装ったレキシーとヒューゴは木箱とカーラとギークの二人を乗せてアンブリッジ家の屋敷へと向かっていく。
冷たい夜風が優しく摩るように頬を撫で回す中で、実行役であるカーラとギークはランプの光のように二人の間を照らす月明かりだけを頼りにクイントンからギルドマスターを通して渡された二階建ての屋敷の図を頭の中に叩き込んでいた。

その際に二人は屋敷の裏口から侵入するという今日の日の経路をきちんと頭の中に入れていた。
貴族の屋敷というのは通常であるのなら裏口が付いており、眠る前に使用人や私兵たちによって厳重な戸締りを施されるというのが常になっているが、クイントンによって今夜ばかりは開いているのだ。

伯爵邸の近くに下ろされた二人は図を頼りに裏口を探していると、伯爵家の四方を囲む砦の弊のように高くて立派な弊の裏側に木製の扉が見えた。
ここから侵入するのが本日の計画となっている。
ここで、カーラは社交界で出会った際にアンブリッジ家の当主ウィルストンや歴代当主が用心深い性格であったことを思い出して、矛盾のような思いを抱えてしまうことになった。

用心深いのならば通常の貴族に倣って、裏口などというものは作らないのではないのだろうか、という純粋な疑問である。
しかし、この疑問を解決する唯一の結論があった。それはいかに用心深い伯爵家といえども表側に仕入れの業者などを招いたりすることには抵抗があるのだという思いだ。

はたまた、夜遊びの激しい伯爵家の長男と長女のために設けられたのかもしれない。或いはその両方だという可能性もある。
いずれにしろ、何らかの理由があり、裏口が設けられたのは本当にありがたいことである。こうして、裏口があることによって、駆除人仲間によって本来ならば閉まっているはずの厳重な裏口はあっさりと開き、カーラとギークの両名が屋敷の中へと忍び込むことができるのだから。

カーラは裏口から侵入し、足音を殺しながら屋敷を歩いていると、駆除人が夜の闇を共にするのは深い闇の中に紛れ込むという理由が改めて理解できた。夜の闇を友として厄介な駆除を成し遂げるためなのだ。

住み慣れた屋敷の中といえども夜であるのならば見回りを務める使用人たちや私兵が持っているのは蝋燭の光だけであるし、その蝋燭の光は目の前や足元を照らすだけの僅かな光であるに過ぎない。
お陰で、ギークは至極あっさりと見張りたちから意識を奪うことに成功していた。

長鞭を華麗に操る姿は曲芸を見ているかのようであった。鮮やかで隙がない。
ギークはこの街で駆除人になるよりも前は長鞭など操ったことはなかったはずであるが、そんなことは一切感じさせられなかった。

逞しいギークの腕によって、カーラはいつもよりも早く標的の部屋へと辿り着くことができた。
標的の部屋の隙間からはランプの灯りが漏れていた。恐らく、まだ起きているのだろう。

カーラは恐る恐る鍵穴から部屋を覗いてみると、そこには自室の中央に置かれている巨大な天蓋の付いたベッドの上で、自慢のコレクションだと思われる宝石を一つ一つ手に取って、楽しげな表情を浮かべているドロシーの姿が見えた。

それらの宝石は剥き出しのものもあれば、指輪として加工されたものあり、首飾りとして加工されたものもあった。
ピアスやイヤリングという形で加工されているものもあった。
いずれにしろ、高価なものだ。市井にいる人ならば一生を費やしても買えないような宝石ばかりが並べられていた。

「ふんふふふ~ん。やっぱり、一日の最後はこうして宝石を並べてみるに限るね。この宝石は誰にも渡さない。あたしだけのものさ」

ドロシーは父親にねだって買ってもらった宝石を眺め、それらの品々を一つ一つ丁寧に宝石箱へと戻すことで一日を終える予定となっていた。

だが、ドロシーの日課とも言える行動は執拗に扉を叩く音で妨害されてしまった。先程までお気に入りの宝石を並べて気分の良かったドロシーは眉間に皺を寄せ、不機嫌を露わにした様子で扉を開いた。
同時に自身の手から自慢の宝石が転げ落ちていたことに気が付いた。自慢の品である指輪や首飾りやピアスなどが片手から転げ落ちていく。

全身の力は抜けていくが、反対に集中力だけは増幅していた。
懸命に何が起きたのかを探っていた時だ。自身の眉間に針が突き刺さっていることに気が付いた。

どうして、針が突き刺さっているのだろうか。ドロシーが懸命に視線を泳がせていると、目の前にはかつて社交界で知らぬ者はいなかったプラフティー公爵家の令嬢カーラの姿が見えた。

カーラが両目を尖らせ、悪魔のような恐ろしい表情で自分を睨んでいたのだ。
ドロシーはそれからゆっくりと自分の眉間に刺さっている針を見返していく。
恐ろしい表情のカーラと眉間に突き刺さった針でドロシーは自分の身に何が起きたのかを理解した。
カーラによって針を突き刺されたのだ。

どうして針を突き刺されたのかはドロシーにも理解できなかった。
自分がカーラに対して恨みを作ったことなどがあったのだろうか。

ドロシーは両目を見開きながら口元をパクパクと動かし、カーラの胸ぐらを掴み上げ、何かを訴えかけようとしていたが、カーラは無情にも眉間に突き刺した針を引っ込めたのだった。
ヒュッと針を引き抜く音が聞こえたのと同時にドロシーは地面の上へと倒れ込む。

ドロシー・アンブリッジはこの瞬間にその命を終えることになった。
カーラは事切れたドロシーを一瞥し、完全に脈が止まったのを確認してから、父親であり当主のウィルストンの部屋へと向かう。

ウィルストンの部屋はドロシーの部屋よりもう一階上、すなわち屋敷の二階にあった。
屋敷の最上階、右端にあるこの屋敷の誰よりも高価な部屋だった。
鍵穴からその姿を覗いてみると、ウィルストンは部屋の中で難しそうな顔で盤を広げて、駒を動かして盤遊びに励んでいた。

拉致するのならば今の機会しかあるまい。カーラはギークに目配せをし、扉を鞭で叩かせた。
同時にウィルストンが激昂した様子で扉を開いて現れた。
ギークはこの瞬間を狙って、ウィルストンの首元に長鞭を巻き付け、死なない程度の威力で締め上げていく。

今仕留められてしまっては困る。ウィルストンはその悪事に相応しい報いを受けなくてはならないのだ。
カーラは締め上げられていくウィルストンを冷ややかな視線でじっと見つめながらどのような制裁を与えていくのかを考えていた。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。

蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。 これで、貴方も私も自由です。 ……だから、もういいですよね? 私も、自由にして……。 5年後。 私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、 親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、 今日も幸せに子育てをしています。 だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。 私のことは忘れて……。 これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。 はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛

タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】 田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発

ハーフのクロエ
ファンタジー
 アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

処理中です...