親父の再婚相手が俺の元カノだった件について

アンジェロ岩井

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プロポーズ、そして、婚約へ

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海沿いの街、そこで波の音を聞きながら、私と誠太郎さんは楽しく笑い合う。
ふと、何気なしに海を見ると、そこに何処までも続く水平線が見えた。

誠太郎さんは私に、缶入りのオレンジジュースを渡し、二人でそれを見つめていく。
誠太郎さんはそれを見ると、クスクスと笑って、

「この海は、地球が産まれた時から、あるんだよなぁ、多くの人々が、いや、多くの生き物がこれを見てきたんだと思うと、何か、思う事があるなぁ。今更何を言ってたんだと思うけどな」

と、感慨深そうに言った。そんな風に悪戯っぽく笑う、誠太郎さんがとても素敵に思えた。
そこで、一通りジュースを飲むと、海の近くにある個人経営の喫茶店へと向かう。

そこは、お爺さんの店主がおり、都会の喫茶店ではありえないような、犬も居た。
大きなセントバーナード。人懐っこい性格なのか、私に戯れて、近寄ってくる、犬の頭を撫でていく。

店主のお爺さんもお節介な人らしく、仕切りに私と誠太郎さんに色々と世話をやってくれた。
何処となく温かい喫茶店に、私は一生、ここに居たいと感じでいたらしく、暫くボーッとしている事に気付かされた。
誠太郎さんによって、肩を揺られ、私は現実の世界へと引き戻されていく。

現実に戻った、私は慌てて、ピザトーストと紅茶を、誠太郎さんはコーヒーとピラフを頼んだ。
お爺さんの出したピザトーストはチーズが垂れており、とても美味しかった。
誠太郎さんの頼んだ、ピラフも手作りの感が強い。都会のチェーン店では見られない見た目が面白い。

二人でゆっくりと食事を摂り、時に犬と戯れ、時に飲み物を口に付けながら、二人で他愛のない会話を交わしていく。
二人で会話を交わしていたら、いつの間にか、陽が沈んでいる事に気が付く。

窓から差し込む、陽の光に思わず見惚れていた。私がまたしても、惚けていると、誠太郎さんが私の手を取って、「帰ろう」と促す。
それに対し、私は黙って首を縦に動かす。
喫茶店を出た後は恋人らしく、肩を並べ、手を握って駅へと向かう。
そして、このまま二人で都会へと戻る筈……。

なのだが、今日ばかりはそうしたくはない。
私は誠太郎さんにもう一度だけ海を見たいとせがみ、彼を海へと連れて行く。
夕方の海は夕日が反射されていて、まるで、海自体が一つの芸術のように見える。

誠太郎さんもこの光景に見惚れている事に気が付く。
当分は帰ろうとは言わないだろう。だから、私は左手で、誠太郎さんの手を強く握り、右手でワンピースのポケットに隠していた指輪を取り出す。

「あのね、誠太郎さん!これを見てくれない!?」

誠太郎さんはそれを見て、言葉を失う。当然だろう。私が婚約指輪と思わしき、指輪を突き出しているのだから。

これを出せば、もう後には戻れない。私は二度と彼に会えないかもしれないという思いを抱えながら、この指輪を渡したのだ。
勇気を振り絞り、私はその後に続く言葉を口に出していく。

「お願いします!私と結婚してください!無茶なのは重々承知しています!けれども、本当にあなたが好きなの!」

だが、誠太郎さんは黙っている。黙って、水平線に沈みゆく夕陽を眺めている。
まだ足りないのだろうか。私は更に大きく声を振り上げて、

「あなたが求める事ならなんでもやる!待ち合わせにはあなたより早く来て、起きる時もあなたより早く起きる!毎日、美味しい朝食を用意するよ!それだけじゃあないよ!あなたが望むなら、東大にでも、ううん、ハーバードにだって行くよ!今から、猛勉強すれば、きっと行ける筈!それだけじゃあなく、私はあなたに生涯を尽くします!だから、だから、お願いします……ッ!私のッ!私の思いを受け取ってください!」

誠太郎さんは黙って海を見ていた。横から見上げるだけではその表情は分からない。
彼の決心は中々付かないらしい。黙って海を見つめているので、何も分からない。
その事が焦ったく感じてしまう。私の動脈が動く事に気が付く。

この後の彼からの返事で、私はどうなるのかは分からない。
私が意を決して、彼を見つめると、彼は困ったような顔を浮かべて、私に言った。

「すまない、少し考えさせてくれないか?この返事は後日でーー」

「駄目!この場で教えて!イエスなのか、ノーなのか!」

誠太郎さんはそれを聞いて、もう一度、視線を海へとやり、考え込む。
暫くの間、色々と考えていたらしく、唸る声が聞こえたが、すぐにこちらの方へと向き直って、両眼を大きく開けて、私の両手を強く握る。

「……本当にオレなんかでいいのか?オレは子持ちだし、既に四十は過ぎてる……そんな男と結ばれたらなんて知られたら、キミが親や友達になんで言われるかーー」

「親や友達なんて関係ない!私はあなたが好きなの!あなたと一緒になりたいんだよ……それっていけない事なのかな?」

誠太郎さんはそれを聞くと、黙って私の体を抱擁する。

「……いけない事なんかじゃないさ。オレもお前の事が好きだ」

「そ、それじゃあ!」

「あぁ、結婚しよう」

この日、私はもう死んでも良いと思った。
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