親父の再婚相手が俺の元カノだった件について

アンジェロ岩井

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兄貴のコンサートは面白し、その後の家族会議は辛し

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「みんなー!ありがとう!今日はおれの所に来てくれると嬉しいよ!ありがとう!では、聴いてください!オレの歌を!」

長い茶髪の髪を風に靡かせた黒の革のつなぎを着た青年は遊園地の簡素な舞台の上に立ち、彼の持ち歌だという恋愛ソングを歌っていく。
それは兄と妹でありながらも、愛し合う二人の悲恋を描いた歌だ。最終的には、妹は自分よりも歳上の地主に略奪されてしまうという内容で終わってしまう。哀しい、哀しい歌である。

歌が終わるのと同時に、観客からは大きな拍手が沸き起こっていく。
幸樹は観客にこの歌は古事記において、兄でありながらも妹である衣通姫そととおりひめと通じ、その結果、伊予の国に流された悲運の皇子、木梨軽皇子きなしのかるのみこがモチーフになっているのだという。

だが、俺は知っている。この曲はそんな近親相姦的な危うい内容の曲ではないという事を。
曲の端々に見られた言葉は表向きは愛した女を取られた男のそれだが、裏を返せば、兄としては当然の事しか言っていない。

しかも、その歌の内容には何処にも『妹を愛している』という直背的な表現はない。
妹への親愛としての愛を歌う歌詞と妹を取られた怒りを表す歌詞ばかり。
しかも、取った相手は妹と三十位上も歳の離れた男。
ここから、容易に想像が付く。恐らく、モデルは親父と涼子の事なのだろう。

しかし、その歌の相手にも息子が居る事が表され、しかも、かなり悪質な人物として表現されている。
加えて、一応は表向きはヤバい歌詞なので、涼子の顔が微かに引き攣っていた。

「え?お兄ちゃんってそんな趣味があったの?え?嘘……」

いや、微かばかりではない。大分、引いていた。
恐らく、如月幸樹もとい勇気一つを友にしてあんな曲を作ったのだろうが、親父を批判はできたのだが、肝心の妹にはドン引きされているではないか。

その後に歌ったのは普通の恋愛の曲で、他に集まった人たちは大盛り上がりしていたのだが、涼子は始終引き攣った笑みを浮かべていた。
曲が終わると、彼は舞台から降りて、俺たちに近寄って来た。
幸樹さんは親父の側によると、親父に向かって告げた。

「久し振りだな。桐生サン」

「あぁ、そうだな。元気だったか?」

「へっ、よく言うぜ、このろーー」

「待った、兄さん、それ以上はダメだよ。コードに引っ掛かっちゃうからね」

「だ、なんのコードだよ!だが、とにかく、おれは認めんぞ!涼子はおれの大切な妹だからな!」

と、幸樹さんは力説していたのだが、そこにその肝心の妹が現れて最もな突っ込みを入れる。

「その大切な妹に向かって、あんな歌を聴かせるんだね。へぇ~」

と、最もな突っ込みを入れた。

「い、いや、誤解だ!今日はお前たちがここに来るって知らなくて……」

苦しい言い訳だ。あまりにも見苦しい。誰か、言い訳幸兵衛を連れて来てやれ。
俺は思わずそう思った。
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