白き翼の天使が支配するーーanother story〜女神の力を受け継ぎし天使はいかにして世界の救済を図るかーー

アンジェロ岩井

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大魔術師編

夢を見るのは悪い事なのか?

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思い返せば母とそんなにいい思い出があっただろうか。
あの時は熱病にうなされた時のことを思い返し、母の愛に飢えていたように思えていたが、実際はそこまでではなかったような気がする。

母は父になされるがままであったし、私を庇ってもくれなかった。
あんなセンチメンタルな気分になるとは見慣れない世界に来て疲れていたのかもしれない。

私はタンプルの姿が消えるのを確認してから、三人の少年と少女に感謝の言葉を述べてから、首都を徒歩で離れ、森に到達したところで力を解放してミーティア王国へと帰還した。

孤児院の近くで力を解除して孤児院の中へと戻る。
見つかった私はノーブにたっぷりと絞られ、夕食抜きの刑を受けたものの、仔細はあまり問われずに済んだのだ。内心、ホッとしていた。

その後で私は部屋に戻り、自室のベッドの上に腰を掛ける。
夕食抜きの刑というのは正直なところかなり堪えるが、私はまだ我慢できる。
懐の中にはまだ手付かずのカステラが残っていたのだ。私はカステラを一口、口にして咀嚼していく。

卵の旨みとザラメの甘味が伝わり、舌の上でハーモニーを奏でていく。
このカステラは正直に言えば人生で最後のカステラになるであろうから私は味わって食べていた。
一口、一口をゆっくりと味わっていく。相変わらずカステラは私を幸せな気分に浸らせてくれたが、一日前に味わったような絶頂は味わえなかった。
舌の上に素晴らしい味わいだけは残るが、それだけである。

わけのわからない違和感に首を傾げながらカステラを食していた時だ。扉をノックする音が聞こえた。
私は慌てて頬張っていたカステラを飲み込み、残ったカステラを箱の中に押し込み、その箱をベッドの下に仕舞う。
口元を慌てて拭って、私はノックの音に答えた。
ノックの主はマリアだった。ティーもいる。
マリアは優しい笑顔を浮かべながら入ってきた。

「大変だったね。ハル」

「う、うん。色々あったからね」

「それでも理由くらい話してほしいかな?」

「……ごめんね。理由はまだ言えないんだ」

私は視線を落としながら言った。その姿を見て思うところがあったのか、マリアは何も言わなかった。代わりに懐から袋に入った丸パンを私に手渡す。

「お腹減ったでしょ?流石にスープは無理だったけど、パンだけでも持ってきてあげようと思ってね」

「あ、ありがとう」

この時の私の笑顔が引き攣っていたかどうかと問われれば自信はない。
ただ、マリアの真心が嬉しかったから満更作り笑顔というわけでもなかったことだけは覚えている。
私はマリアから丸パンを受け取り、それをゆっくりと口に含んでいく。

カステラを食べていなければもっと早く口に流し込めたかと思うと、少しだけ申し訳ない気持ちになった。
私がパンを食べ終えると、そのまま立ち去ろうとするマリアを呼び止めて、問い掛けた。

「そういえばマリア。ふと思ったんだけど、マリアの両親ってどんな人だったの?」

私の問い掛けにマリアは沈黙を守った。しかし、すぐにいつもと同じ明るい笑顔を浮かべて言った。

「ごめんね。小さい頃にここに引き取られたから詳しいことは覚えてないんだ」

そう答えるマリアだったが、その笑顔が微かではあるが曇ってしまったのを私は見逃さなかった。
謝罪を行い、教えたくれたことに関しての礼を述べた。彼女の表情から察するに相当に辛いことがあったのだろう。

悪いことを聞いてしまった。その後でティーにも聞こうかと考えたが、マリアへの質問を側で聞いていた彼女もあまりいい顔をしていなかったからその事を聞くつもりはなかった。

私は二人におやすみの挨拶をした後で私はカステラを齧りながら二人の境遇について考えていく。
二人の表情から察するに同じような家庭環境にあったのかもしれない。
同じような家庭環境にあったのだとすれば同情を禁じ得ない。

家庭環境を知りたいという思いもあるのだが、それ以上に人の家庭環境を詮索するのは野暮なものである。
ここは気に留めるだけにしておこう。その晩、私はそんな考えを抱いて寝付いた。

寝る前に余計な考えを抱いた罰であるのか、私は他の天使たちの動きでもなく、私自身の過去の記憶でもなく、誰か知らない人物の過去を第三者の視点から見つめていた。
幽霊のような状況で私は誰かの過去を見つめていたのだ。いいや、その表現は間違っている。私が見ている光景はマリアの記憶だった。彼女が誕生して二本の足で歩けるようになり、拙いながらも言葉を喋れるようになるまでの記憶だ。

私が元いた世界とは生まれた環境も時代背景も大きく異なるためか、彼女は幼い頃から野山に混じって遊び回っていた。
幸せそうな光景であった。
私がその姿を見て微笑ましさを感じていると、母親が山にまで現れて夕飯のために彼女を迎えに訪れた。
母親と手を繋いで帰るマリア。幸せそうな光景である。

だが、悲劇はこの平穏な日の三日後に訪れた。突然、彼女の母親が倒れたのだ。
床の上で娘と夫を残していくことに対して謝罪の言葉を述べながら息を引き取った。
マリアは母親を亡くしていたのだ。彼女が家庭環境を語らなかったのも無理はない。しかし、その後に彼女が家庭環境を語らなかった理由が判明した。

なんと、父親が母親の死後の一週間後に再婚したのだ。再婚相手はマリアの母親よりも美人で若い母親であった。
女性でありながらもやり手の豪商であり、彼女の父がそこで幹部職に就いており、それが縁となって以前から関係を続けていたのだとされている。

母親が生きているうちからである。信じられない。私は嫌悪感を感じながら彼女の父を睨んでいたが、幽霊の状態であるので彼にはなんの効果もない。
胸糞は悪いが、目を逸らしても大画面、四方八方から景色は続くので、やむを得ず続きを見ることにした。

その後も胸が悪くなるような光景が続いた。まだ幼年のマリアに家事を強制し、自身の娘の遊び道具にしていたのである。
おままごとの遊びで実際に泥を食べさせる光景などこちらが見ていて吐き気がしたほどだ。

地獄のような日々が続く中で、マリアはとうとう逃げ出した。耐えきれなくなったのだろう。
逃げ出す際に彼女は覚醒した。そう魔法の力にである。

彼女は自身に与えられた魔法を用いて追っ手を怯ませたのである。なにせ異形の力である。
商店の従業員や自警団の面々などひとたまりもないだろう。
その後にたまたま逃げた町の端でブレードと出会い、彼の家に引き取られたのだという。

そこで私は目を覚ました。あまり愉快ではない夢だ。
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