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第一部『人界の秩序と魔界の理屈』
あの首吊りの音が消えた日から
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「では、これよりーーの死刑を執行する」
狭い独房の中に体育座りの格好でいた男はその言葉をどこか他人事のような思いで聞いていた。テレビや映画などで観るような場面にそれも張本人として携わっているということが信じられなかったのだ。
鉄の階段を一歩一歩ゆっくりと登っていく。昔の処刑に使われた処刑台に登るために登っていく階段であったのならば、この場面でギシギシとでも鳴り響いたに違いない。
だが、今の時代に聞こえてくるのはカツンカツンという味気のない音だ。
男は白装束の衣装のまま絞首台の上に立ち、首の周りに縄を巻き付けられていた。
目の前には拘置所の所長が腕を組みながら男を見つめていた。
「残念だが、ーーくん。法務大臣がキミの死刑執行の書類に印鑑を押した。残念だが、ここで終わりだ」
髭も生やしていない所長はまるで、漫画に登場する主人公の命を狙う刺客のような台詞を吐いたかと思うと、男を押さえていた看守たちに目配せを行い、男を絞首台の中央へと追いやっていく。絞首台の中央、それは床下にバツが記された処刑場の中心地。その上に乗るということはいつでもその命を償えるということを証明するのと等しかった。
男は覚悟を押し出される形でこの印の上に両足を乗せた。
背後にいた看守たちが男に向かって声を掛けた。
「最後に何か言い残す言葉はないか?」
「……何もない。強いていうのならばオレが死ぬことであの二人に対する贖罪になれば幸いだ」
「……そうか」
看守は首元に縄を巻きつけられた男を放置して執行台の元へと戻っていく。
執行台には三つの青いボタン。これを同時に押すことにより男はあの世へと旅立つことになる。
看守たちは息を呑んでから一斉に青いボタンを押していく。同時に絞首台から凄まじい音が鳴り響いていく。
絞首刑が執行された音だ。看守たちはそれを聞いて思わず目を逸らし、自分たちの被る帽子で顔を隠してその場を去っていった。
前世における最期の場面。それがコクラン・ネロスが毎晩のように見る悪夢の内容だった。既に自分が魔界に生を受けてから二百年も経つというのに未だに前世での業は消えないらしい。
コクランはゆっくりとベッドの上から体を起こすと、衣装箪笥に手を伸ばす。
灰色のスラックスを履き、白色のシャツを着て、その上に黒色のジャケットを羽織る。それから最後に帽子掛けに掛けていた黒色の帽子を被った。
コクランは自身の部屋の姿見で今の自分の姿を確認していく。姿見には立派な格好の上に尖った耳、尖った鼻、それから悍ましい白色の瞳に灰色の肌、そしてそんな顔や顔のパーツを守るかのように周りを覆う黒色の装甲を見て、コクランは思わず溜息を吐いた。
この悪魔のような姿こそが今の自分の姿なのだ。前の世界で罪を犯して死を賜った後に生まれ変わった醜い姿である。
コクランは相変わらずの醜悪な姿が鏡を見るたびに嫌になる。
大きな溜息を吐いてから背を向けて仕事場へと向かっていく。
コクランの仕事場は人界と魔界との境界とを繋ぐ境界線といってもよかった。
というのも、コクランの仕事場には多くの魔物や魔族、人間が毎日のように押し掛けて来るからだ。
今日も例外ではない。コクランの前に泣き腫らすような表情を浮かべたエルフの女性の姿が見えた。
年齢は中年あたりだろう。恐らく子供が恐ろしい出来事に巻き込まれたか何かかもしれない。
コクランは努力して自身の感情を押し殺し、真剣な表情を浮かべて中年の女性と向かい合った。
「それで、今日は何かあったんですか?」
「……実はですね。私の息子が人界へ行ってしまったんです」
また、このパターンか。呆れるほどに同じような事件ばかりが起き、コクランは辟易していたが、そのような顔を初対面の女性に向けるわけにはいかない。
コクランは先程と同様になんとか真剣な表情を作り出し、エルフの女性に向かい合う。
「それで、私にどうしろと?」
「私がお願いしたいのは目溢しです」
「目溢しですって?」
「息子は本当ならばそんなことができるような子ではないんです。悪い仲間に唆されて……恐らくそれで……お願いします」
「……尽力してみましょう」
コクランは大きな溜息を吐きながら答えた。涙を流しながらの訴えであったのでもう少し真剣に取り組んでもいいはずなのだが、彼にとってはお馴染みの懇願である。それ故真剣に答える気力が薄かったのだ。
エルフとりわけその中でも若者は血気盛んな時期というのを利用され、他の魔族などに利用されやすい。
大くの例の中に含まれるエルフであるのならば気の毒なので、コクランとしてもできる限りは見逃してやりたい条件なのだが、相手が強力な魔法などを使って抵抗した場合などは母親の懇願が聞き入れられる確率は低くなってしまう。エルフという魔族の持つ特徴の性質上、どうしてもその場で倒さなくては対処ができないのだ。
コクランはそのことを思い返して大きな溜息を吐いた後にエルフの女性からその息子のことについて尋ねていく。
エルフの女性によれば彼女の息子は人界における二大大国の一国、ヴェストリア帝国にあるバッキンガードと呼ばれる港町に悪友たちと共に潜入したのだという。
コクランは帽子を深く被り、腰に長剣と拳銃を携えて人界へと向かう。
コクランが人界に向かった時には既にエルフの青年一人と三体のオークが好き放題に暴れていた時だった。
エルフの青年の魔法による後方支援があるのをいいことにオークたちは帝国の兵隊たちを相手に上手く立ち回り、兵隊たちを大きな棍棒で虐めていたところだった。
オークの棍棒が大きく振り上げたところだ。コクランが腰に下げていた革のガンベルトから拳銃を抜き、棍棒の先端を撃ち抜いていく。
途端に乾いた音が辺り一面に鳴り響いていき、集まった人たちを唖然とさせたていた。オークたちもエルフの青年も何が起きたのかが理解できずに固まっていた。
そのタイミングを逃すことなくコクランは淡々と告げた。
「魔界執行官だ。お前たちを人界の治安を乱し、人界における人々の生活を乱したという大罪によってこの場で処刑させてもらう」
「……魔界執行官だとふざけやがってッ! 」
その言葉に激昂したのかオークの一体が鼻息を鳴らしながら棍棒を振り翳しながらコクランの元へと向かっていく。
コクランはその姿を見ても顔色一つ変えることなく拳銃を構えたままオークの頭を撃ち抜く。
オークは銃弾を受けるとのぞけかえったかと思うと、そのまま地面の上へと倒れ込む。
その姿を見て周りの人々から悲鳴が湧きあがる。だが、コクランは眉一つ変えることなく銃の筒から出た白い煙に向かってフッと息を吐いて、集まった人々をさらに驚愕させていた。
「あ、そ、そんな……ガトーがッ! 」
「よくもガトーさんをッ! 」
エルフの青年は瞳に激しい炎を宿してコクランを睨んでいた。
狭い独房の中に体育座りの格好でいた男はその言葉をどこか他人事のような思いで聞いていた。テレビや映画などで観るような場面にそれも張本人として携わっているということが信じられなかったのだ。
鉄の階段を一歩一歩ゆっくりと登っていく。昔の処刑に使われた処刑台に登るために登っていく階段であったのならば、この場面でギシギシとでも鳴り響いたに違いない。
だが、今の時代に聞こえてくるのはカツンカツンという味気のない音だ。
男は白装束の衣装のまま絞首台の上に立ち、首の周りに縄を巻き付けられていた。
目の前には拘置所の所長が腕を組みながら男を見つめていた。
「残念だが、ーーくん。法務大臣がキミの死刑執行の書類に印鑑を押した。残念だが、ここで終わりだ」
髭も生やしていない所長はまるで、漫画に登場する主人公の命を狙う刺客のような台詞を吐いたかと思うと、男を押さえていた看守たちに目配せを行い、男を絞首台の中央へと追いやっていく。絞首台の中央、それは床下にバツが記された処刑場の中心地。その上に乗るということはいつでもその命を償えるということを証明するのと等しかった。
男は覚悟を押し出される形でこの印の上に両足を乗せた。
背後にいた看守たちが男に向かって声を掛けた。
「最後に何か言い残す言葉はないか?」
「……何もない。強いていうのならばオレが死ぬことであの二人に対する贖罪になれば幸いだ」
「……そうか」
看守は首元に縄を巻きつけられた男を放置して執行台の元へと戻っていく。
執行台には三つの青いボタン。これを同時に押すことにより男はあの世へと旅立つことになる。
看守たちは息を呑んでから一斉に青いボタンを押していく。同時に絞首台から凄まじい音が鳴り響いていく。
絞首刑が執行された音だ。看守たちはそれを聞いて思わず目を逸らし、自分たちの被る帽子で顔を隠してその場を去っていった。
前世における最期の場面。それがコクラン・ネロスが毎晩のように見る悪夢の内容だった。既に自分が魔界に生を受けてから二百年も経つというのに未だに前世での業は消えないらしい。
コクランはゆっくりとベッドの上から体を起こすと、衣装箪笥に手を伸ばす。
灰色のスラックスを履き、白色のシャツを着て、その上に黒色のジャケットを羽織る。それから最後に帽子掛けに掛けていた黒色の帽子を被った。
コクランは自身の部屋の姿見で今の自分の姿を確認していく。姿見には立派な格好の上に尖った耳、尖った鼻、それから悍ましい白色の瞳に灰色の肌、そしてそんな顔や顔のパーツを守るかのように周りを覆う黒色の装甲を見て、コクランは思わず溜息を吐いた。
この悪魔のような姿こそが今の自分の姿なのだ。前の世界で罪を犯して死を賜った後に生まれ変わった醜い姿である。
コクランは相変わらずの醜悪な姿が鏡を見るたびに嫌になる。
大きな溜息を吐いてから背を向けて仕事場へと向かっていく。
コクランの仕事場は人界と魔界との境界とを繋ぐ境界線といってもよかった。
というのも、コクランの仕事場には多くの魔物や魔族、人間が毎日のように押し掛けて来るからだ。
今日も例外ではない。コクランの前に泣き腫らすような表情を浮かべたエルフの女性の姿が見えた。
年齢は中年あたりだろう。恐らく子供が恐ろしい出来事に巻き込まれたか何かかもしれない。
コクランは努力して自身の感情を押し殺し、真剣な表情を浮かべて中年の女性と向かい合った。
「それで、今日は何かあったんですか?」
「……実はですね。私の息子が人界へ行ってしまったんです」
また、このパターンか。呆れるほどに同じような事件ばかりが起き、コクランは辟易していたが、そのような顔を初対面の女性に向けるわけにはいかない。
コクランは先程と同様になんとか真剣な表情を作り出し、エルフの女性に向かい合う。
「それで、私にどうしろと?」
「私がお願いしたいのは目溢しです」
「目溢しですって?」
「息子は本当ならばそんなことができるような子ではないんです。悪い仲間に唆されて……恐らくそれで……お願いします」
「……尽力してみましょう」
コクランは大きな溜息を吐きながら答えた。涙を流しながらの訴えであったのでもう少し真剣に取り組んでもいいはずなのだが、彼にとってはお馴染みの懇願である。それ故真剣に答える気力が薄かったのだ。
エルフとりわけその中でも若者は血気盛んな時期というのを利用され、他の魔族などに利用されやすい。
大くの例の中に含まれるエルフであるのならば気の毒なので、コクランとしてもできる限りは見逃してやりたい条件なのだが、相手が強力な魔法などを使って抵抗した場合などは母親の懇願が聞き入れられる確率は低くなってしまう。エルフという魔族の持つ特徴の性質上、どうしてもその場で倒さなくては対処ができないのだ。
コクランはそのことを思い返して大きな溜息を吐いた後にエルフの女性からその息子のことについて尋ねていく。
エルフの女性によれば彼女の息子は人界における二大大国の一国、ヴェストリア帝国にあるバッキンガードと呼ばれる港町に悪友たちと共に潜入したのだという。
コクランは帽子を深く被り、腰に長剣と拳銃を携えて人界へと向かう。
コクランが人界に向かった時には既にエルフの青年一人と三体のオークが好き放題に暴れていた時だった。
エルフの青年の魔法による後方支援があるのをいいことにオークたちは帝国の兵隊たちを相手に上手く立ち回り、兵隊たちを大きな棍棒で虐めていたところだった。
オークの棍棒が大きく振り上げたところだ。コクランが腰に下げていた革のガンベルトから拳銃を抜き、棍棒の先端を撃ち抜いていく。
途端に乾いた音が辺り一面に鳴り響いていき、集まった人たちを唖然とさせたていた。オークたちもエルフの青年も何が起きたのかが理解できずに固まっていた。
そのタイミングを逃すことなくコクランは淡々と告げた。
「魔界執行官だ。お前たちを人界の治安を乱し、人界における人々の生活を乱したという大罪によってこの場で処刑させてもらう」
「……魔界執行官だとふざけやがってッ! 」
その言葉に激昂したのかオークの一体が鼻息を鳴らしながら棍棒を振り翳しながらコクランの元へと向かっていく。
コクランはその姿を見ても顔色一つ変えることなく拳銃を構えたままオークの頭を撃ち抜く。
オークは銃弾を受けるとのぞけかえったかと思うと、そのまま地面の上へと倒れ込む。
その姿を見て周りの人々から悲鳴が湧きあがる。だが、コクランは眉一つ変えることなく銃の筒から出た白い煙に向かってフッと息を吐いて、集まった人々をさらに驚愕させていた。
「あ、そ、そんな……ガトーがッ! 」
「よくもガトーさんをッ! 」
エルフの青年は瞳に激しい炎を宿してコクランを睨んでいた。
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