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第三部 トゥー・ワールド・ウォーズ

アメリカのこれから

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その後にサウス・スターアイランドシティーにあるカヴァリエーレ・ファミリーのアパートの地下にある無機質な鼠色の壁と床の部屋でルイを問い詰めた時に、彼はどうやってフォードラゴンと一緒にこの世界に来たのかを白状した。
「実はこの装置を使いましてな……」
ルイは一つの小さな箱のような物を懐から取り出した。
「これは?」
ヴィトは予想外のものに目を細める。二つの世界を行き来するのならば、もっと大掛かりなものがでるのかと思っていたからだ。
ヴィトは思わず肩を落としてしまう。
「それよりも……その装置とやらはどうやって使うのかしら?」
ルーシーは無機質なコンクリートの壁にもたれながら尋ねた。
「うん……お答え致しましょう」
ルイは箱の前に付いてあるボタンのようなものをグルグルと回す。
すると、映画を写す時の映写機のような装置が出てきた。ただし、それよりはずっと小型であったが……。
「それから?」
ヴィトは相手を焦らすように聞く。
「次にこうやってですな……」
ルイは小さな映写機の後ろをゴソゴソと動かす。
それから、映写機が出る光は格段に増え、そこに今までヴィトもルーシーも見たことがない世界が映し出された。
「本当らしいな、あんたらの軍隊はここを通ってサウス・スターアイランドシティーを襲ったということか?」
ヴィトの問いかけにルイは懸命に首を縦に動かす。
「言葉に偽りはなさそうだ。それよりも、もういいよ、装置を止めてくれ」
ヴィトの言葉を聞き、ルイは装置をしまい始めた。
「つまり、オレらはあの壁に映し出されていたところに入れるって事か?」
ルイは「その通り」とヴィトの肩を叩く。
「それよりも、お主らのこれからが、わしは心配じゃ、今の世界で一番力を誇っているのは、ギシュタルリア帝国のエドワード・デューダレア……あの人物は只者ではない……野心家でな、今でこそ近隣諸国と同盟を結んでおるが、実はアーサー陛下がご存命の頃は、よく戦を仕掛けておった。世界を支配しようと考えておったようじゃ」
ルイの言葉に二人は思わず生唾を飲み込む。
「それだけではないぞ、別の世界も手に入れようとしておったらしいぞ」
その言葉にヴィトはピンときたようで、ルイに向かって手を上げている。
「何かね?」
ルイはヴィトの手に気づき、発言を許可した。
「オレが考えていた事なんだがな……何故ルカやトーマスはあんな力を持っていたんだ?」
ヴィトは眉をひそめながら呟く。ピンときたようで、ルーシーも続けて発言する。
「そうだわ !あいつの力を借りていたんだとすれば……」
「そう、マリアを手に入れるためにカヴァリエーレの敵対勢力に力を貸したんだろうな、『敵の敵は味方』というわけさ……」
「でも、ルカはマリアが来る前から、力を借りていたわ……あなたもマリアが来るまでのファミリーの戦況は分かってるでしょ?」
ヴィトは壁の隅をジッと見つめながら、マリアが来るまでのミラノリアとの抗争状態を思い出す。
あの時は本当に悲惨そのものだった。先代からは小物と言われた人物に散々苦しめられた。
それは一重にミラノリアが繰り出す未知の力が大きかった。ヴィトやルーシーは懸命に戦略を立てていったものの、次々と地域を奪い取られていく。
「我々にはどうしようもなかった……あんな力を使われてはな……」
ヴィトは拳を握りしめた。
「そうよね、でもわたし達は勝ったじゃない?最後まで諦めずに戦い続けたお陰じゃなくて?」
ルーシーの問いにヴィトは無言だった。
「まぁまぁ、ともかく……ワシとしては、マリア・ド・フランソワ王国の新たな状況を整理しなくてはならんから、そろそろ戻りたいのじゃが……」
ヴィトは「もう少しだけ待て」と冷徹な声で命令を下す。

共和党のアンドリュー・F・ペギーマン大統領はその日ニューヨークにて、演説を行っていた。
「親愛なるアメリカ合衆国市民の皆さま !わたしは、これまでに様々な政策を実行してまいりました !ですが、これだけは実行した事がありませんでした !」
ペギーマン大統領はその日の聴衆が耳を疑うような政策を発表した。
「わたしはここにアメリカのギャング撲滅運動を提唱致します !わたしは皆さまに問います !街の治安を守るのはギャングでしょうか?市民の安全を守るのはギャングなのでしょうか?市民の皆さまが友情と尊敬を誓うのはギャングやマフィアなのでしょうか?違いますッ!違いますッ!市民の皆さまの安全を守り、街の治安を維持し、友情と尊敬を集めるのは我々政府です !我々は昔か、残酷なインディアンやならず者から皆さまの生活を守ってきました !」
ペギーマンは更に続けて叫ぶ。
「我々はここに宣言致します !アメリカ合衆国政府はマフィア、ギャング並びに全合衆国の暴力団組織を壊滅させる事を宣言致します !!」
ペギーマンが拳を振り上げると、彼が何も言っていないにも関わらず、聴衆たちは拳を振り上げ国家への忠誠とペギーマンへの賛美の言葉を送る。
ペギーマンは聴衆の万歳の声を聞きながら、演説台を降りる。
「お見事な演説でしたよ、ペギーマン大統領」
出迎えたのは、秘書のジョージ・ノースマンであった。彼は比較的ハンサムとは言い難い年終えたペギーマンとは対照的に若くハンサムな政治家であった。
「ジョージ、キミの演説文も見事なものだな、まさかここまでマフィアやギャングを敵に回す文章を書くとは思わなかったよ」
「大統領閣下……あんな社会のゴミどもにビビり過ぎですよ、奴らは麻薬を売り、派遣サービスを行い、女を苦しめる人間の屑ばかりです。我々の政府の力でコミッションやら、ファミリーやらを全て武力で潰してやろうではありませんかッ!」
ペギーマンは目の前で拳を握りしめている男に少しの恐怖を覚えた。
今でこそ、アメリカは世界の警察を名乗り、ソビエトや中国を牽制しているが、この先はどうなるのだろうか。
いずれ、もっと大きな悲惨な戦争に足を踏み入れるのではないだろうか。
彼のような好戦的な人物によって……。
「確かにキミの言っていることは正しいが、やり過ぎはいかんよ、攻撃にはいずれ、報復で報われるよ、それは歴史が証明している」
ペギーマンは歴史の教科書で相手への攻撃や報復で滅亡した国家がいくつもあったのを思い出した。
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