美少女おにぎり

星島新吾

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1章後半 デビルサイド編

23.炭焼き職人

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 潜入して二週間が経った頃、リングが震えた。その瞬間、驚いてデポットリングを握りしめた。確かに震えている。無機質なリングの振動が、これほどまでに温かいものだとは思わなかった。
 魔王様から与えられた二カ月という猶予ゆうよは、次第に僕の焦りあせりへと変わっていった。未だにコボルトの食料問題に対して何の成果も上げられず、慣れない環境での潜入生活せんにゅうせいかつに疲れ、自分が何者なのかも見失いかけていた。
 端的たんてきに言うと、メンタルがやられていた。しかし、そんな自分を救うようにリングは震えたのだから、心が高揚こうようするのも無理はなかった。
「ちとトイレ行ってくらぁ」
かまの状態は問題ねえかー」
「問題ねえ。大丈夫だぁ」
 僕が木こりだと思っていた集団は、炭焼き職人の一団だったということが発覚し、僕はその一員として周りを真似ながら炭を作っていた。
「…一体何をしているのやら」
 魔王様からの着信がなければ、窯の前が自分の居場所だと勘違いしそうになるほど、炭づくりに熱中していた。炭づくりなんてやったことがないから、常にハラハラする展開が続いたが、イソマルトとして炭を作ったことがあるんだと自分に言い聞かせながら頑張った。
 それでも何度か失敗し、イソマルトではないのではと疑われることもあったが、なんとかアドリブで切り抜け、二週間、僕はまだ生きている。
「人気のない場所は…ッと―――」
 幸運だったのは、皆が前に炭焼き窯で炭を作ったのがしばらく前だったため、記憶に抜け穴があってもごまかせたことだ。しかし、それでもハラハラする中で楽しさを感じていたのは確かだ。
 そう思いながら、加工前の木材が三角に積み上げられた場所に腰を下ろした。
 ココなら誰も来ない。魔王様と会話をしても問題ないだろう。
「おーす、コチラおにぎり小僧ッス」
「任務は順調のようだな。木炭の需要はどうだ? 」
「上がってる見たいっすね。お頭に聞いたんで間違いないっす」
「やはりそうか……木炭を売りに人間の町に行くことは出来そうか? 」
 そう言えば一昨日そんな話があったっけな。
 何といっても森で生活する炭焼き職人が人の町に行ける数少ない期間だ。
 収入はいいが、如何せん炭焼き窯の前に拘束される仕事だから、こうして自由になれる期間は、皆事前に何をするかを前日までに決めて行動することになっている。
 今日も朝からその話で持ち切りだった。
「行けるっす―――何してくればイイっすか」
「木炭の需要が高まっているのは、人間たちが武具を求めているからだ。木炭を使えば鉄を溶かすことができるからな。それで、卿に頼みたいのはその人間達が貯蔵している武器の破壊だ。できそうか?」
 武器庫となると、敵地の奥深くまで行かなければならないだろう。難しい任務だが、それだけ魔王様が僕に期待してくださっているということでもある。必ずや、達成して見せる。
「ガッテン承知っス! いい報告期待してるっスよ」
 そう言って魔王様との通信は切った。
 次のご報告は仕事を終えた時だ。
 その日の昼頃から早速、木炭を荷車に乗せる作業が始まった。
 明日の朝にはいよいよ人間の町へ出発だ。
 ♢♢♢
 人間の町へは木炭を載せた亀のかごに入って行く。
 下で動くのは家畜化されたスターバック・タートル、通称戦亀せんきと呼ばれる魔物だ。全長約五メートルに全幅が二メートル半、全高は三メートルある大きな亀で、背中の星印が特徴だ。
 人間達が魔族の真似をするようになってから数が爆増し、今となっては、動物と言えば馬、魔物と言えば戦亀せんきと言われるまでにその数を増やした。
 この亀が運用される最大の利点は、圧倒的積載量あっとうてきせきさいりょうもさることながら、硬い皮膚を持つことによって多少の魔物であれば蹴散らすけちらすことが出来るという点にある。
「炭袋はもうこれで全部かー」
 ホクロの声が下から聞こえてくる。
 僕とショット三つ編み髭の男は木炭の入った袋の数を確認して、下に合図を送った。
「大丈夫だー! 出発しよう! 」
 戦亀せんきの上から木と縄で作った梯子はしごを垂らすと、続々と職人が搭乗とうじょうしてくる。
 お頭は当然一番前の席で足を延ばして座れるが、男連中は後ろでぎゅうぎゅうになって、積み荷のように籠の後ろに押し込められた。
 初めは広々と足を延ばせていたけれど、人が増えるにつれて体を捻って、籠から外に足を出すように座り直してやっと、外の景色を籠の外から楽しめる程度だ。
 なんだかこうおりのような籠に入れられると、これから奴隷として売られるようなみじめな気分になってくる。
 早く出発しないものか。
梯子はしごをたため! 真ん中の席! 」
 お頭の声が前から聞こえてくる。真ん中の席のヤツ一体何をしているんだ。
「おいイソマルト! 」
 前からホクロの声が聞こえてくる。
 だけど真ん中は僕じゃない。僕はショットと一緒の最後列だ。
「オラぁ一番後ろだろうがスカポンタン! 真ん中座ってんのはワッサーボーンの野郎だ」
 ワッサーボーンという男は、ホクロと仲のいい背の高いヒョロリとした男のことだ。
 木こりの癖に運動しても全く筋肉がつかない特殊体質で、食べる量も少ないんでみんな彼に重労働は任せない。
 以前お頭にログハウスから蹴りだされたのもコイツだ。
 そしてその隣に座っているのが、沈黙のアスパルテームだ。
 ボサボサの白い幽鬼のような髪をしていて、炭の臭いが体に沁みついている、風変りの代名詞ともいえる男だ。
 手入れもあまりするタイプではないから見た目は少し怖いが、だからと言って内面もそうかと言われれば、それはノーと言える。
 愛想笑いもするし、相槌あいづちうなずいたりもする。
 仕事は僕の次に遅いが、ホクロとワッサーボーンが喧嘩した時なんかは無言で間に入って仲裁をしたりもしてくれる。
 仕事が出来ない者同士で勝手に親近感を持っているぐらいには、彼はこの職場で僕の心の拠り所になっているフシがあった。
「……」
 アスパルテームは無言で自分の足元にあった梯子を回収すると、自分の足元にその梯子を置いた。
「いくぞォ! テメェら! 出発! アッ、しんッッッこう! 」
 お頭は胡坐あぐらをかいて前方を指さす。
 戦亀はズシッと人間の町へ一歩を踏み出した。
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